WaterMirror




 もしもいつか、万一機会があるのならば。
 夢も希望も無いけれどたったひとつだけ、祈るように決めていることがあった。

 それが果たせるのなら一護に憎まれても、この身がどうなっても構いやしないと思ってた。


 ―阿散井恋次をこの手で殺す。

 他の誰でもなくてこの自分が、この手で一護のいちばん大切なものを消してやるって。
 一護と何度交わっても―どんなに一護に愛されても、その気持ちだけは変わらないつもりだった。―つもり、だったのだ。


 もしもいつか、機会があるのなら―













「久しぶりだな」

 そう言って恋次は大きな手で自分の頭を撫でた。
 一護と違って出入りが自由でない彼は気まぐれに―‥本当に不定期にここにやってくる。
 二週間くらい間が空くこともあれば、三日くらい連続で来ることもあった。
 一護と一緒に眠っていて尚且つ‥一護とカラダの波長が合っている時に来る確率が高いよーな気がする、やっぱり一護とシンクロっつーかその辺の関係なんだろうなぁ…とか恋次は言っていた。
 そんな話を聞かされても今はもう―嫉妬する前に恋次に会えて嬉しい気持ちになってしまうけれど、まぁ認めたくないので気付かないフリをしていた。


「そーだな」

「…今日も元気そうで良かった」

 何だよそれ、と思っているうちに彼は自分を抱き寄せて腕の中に収めた。
 抱き締められると一護よりずっと大きい肩に妙にどきどきして、自分を誤魔かせなくなってしまう。
 ぎゅっと恋次の着物を掴んだら彼はそれが合図だとでもいうように、自分の顎を捉らえて口唇を重ねた。


「ぁっ―‥」

 堪らずに甘い声が洩れるけれど、恋次はぞっとするくらい甘い貪り方で意識が溶けそうになるくらい奥まで掻き回して来る。

 抱き締めたいと最初に言ったのは恋次だけれど、キスして欲しいと最初に強請ったのは自分の方だ。
 今のところ(辛うじて)身体の関係はないけれど、それから恋次は馬鹿のひとつ覚えのようにキスするようになった。
 あんまりキスされるとカラダが熱くなって―このまま抱かれたいという小さな願望が芽生えて、もうそろそろ抑え切れなくなりそうだった。
 彼にカラダを貫かれる甘い痛みを想像してしまいそうになるのを―もうずっと必死で堪えている。


「なぁ…」

 恋次は自分を抱き締めたまま耳元で囁いた。

「俺もう…我慢できねーんだけど…」

 ドキッとして恋次の顔を見上げると、彼も自分と同じ気持ちでいることは明白だった。


「―おまえが欲しいんだよ」

 ぐらぐら揺れる気持ちに追い打ちをかけるみたいに、その声は鼓膜の奥に響いた。
 何を揺れることがあるのかと思う―それ自体有り得ないことであるはずなのに。
 昔、あんまり彼に嫉妬して手首まで切ったことがあるというのに、なんというザマだろう。
 ―もっとも、恋次は傷を見ても平然としていて自殺未遂とかいう概念すら知らないようなのでわざわざそのことは言わなかった。
 本当は最初に傷を舐められた時に、それはおまえのためにやったんだと…自分はおまえのために死のうとしたことすらあるのだと―‥いっそ誇らしげに言ってやろうかと思ったのだけれど。
 恋次は顔に出るタイプだし、言ったら傷つくのは判っていたから言わなかった。


「恋次…」

 そんなことを考えながら恋次の背中に腕を回した。

「判ってる…。…でも、もーちょっとだけ待って…」


 欲しい、なんて言わなくていいからいっそ無理矢理奪って―犯してくれたらいいのにとかそんなことをぼんやり思った。
 合意を求められたら―多分永遠に断り続けてしまう。―自分のどこかが未だに彼に抱かれることを許さないから。
 ―本当は自分も、欲しくてたまらないくせに。


「…なんでおまえ、俺が欲しいって言ったら泣きそうなカオするんだ?」

 恋次は泣きそうな自分の瞳に優しくキスをして、きつく抱き締めた。








 初めて会ったのは庭のベッドの前だった。
 一護の瞳を通すのではなく、生まれて初めてこの自分の目で‥一護を奪った忌々しい男の顔を見た。
 寝ぼけていたのであまり覚えていないけれど、腰くらいまである赤い髪ですぐに判った。
 顔はそのものだったけれど、身体は思ったよりデカかったので驚きつつも―こんなチャンスが忘れた頃に訪れたことに感謝した。
 なのに殺す気満々で家に入れておいて―あっさり陥落して好きになってしまった。
 どうしてなんて知らない。理由なんかどうでもいい。今まで自分の知らなかった顔を見せられて、どうかしてしまったのかも知れない。
 まさか殺したいほど憎んでいた男をこんなに簡単に一護と同じくらい―‥愛してしまうなんて夢にも思わなかったから、完全に油断していた。
 まるで武器でも奪われたみたいに―これでもう自分は阿散井恋次を殺せない。それどころかメス猫みたいに彼を求めているなんて滑稽だった。

 一護に笑いかけるのと同じ顔で微笑んで―‥一護には逆らったこともないその腕で自分を強く抱き締めるから、その度にこちらは心臓が止まりそうになった。
 自分は一護の瞳でずっと見ていたから、知っているつもりだった。―恋次のことを全部。
 刺青なんか見てもいないのに着物の上から透視出来る勢いだし、恋次が初めて一護に抱かれた時のことだって昨日のことのように覚えているのに。
 殆ど悲鳴みたいな声を一晩中聞かされて、いつか―いつか絶対に殺してやろうって…泣きながら決めたのもあの日だった。


 あの憎しみも痛みも全部―この心が忘れてしまったというのならいっそそれでもいい。
 それならつまらない意地なんか全部捨てて―何事も無かったかのように彼の胸に飛び込みたいのに。








「―んっ…」

 今回も抱き合ってキスばかりしていたので―恋次が戻った後に火の着いたカラダを―‥自分で慰めなければならなかった。
 キスだけでこんなになるというのも可笑しいけれど―キスだけならもう一護より沢山交わしているような気すらして、それはそれで悲しかった。

 一護だけだと思ってた。ここに自分が生まれ落ちてから消えてなくなるまでの間ずっと―‥
 昔は一護以外の男に抱かれたこともあったけれど、こんな風に揺らいだことも惹かれたことも―ましてや愛したことなんて一度も無かった。
 絶対の自信はいちばん認めたくない相手に粉々に打ち砕かれて―‥泡になって消えてしまった。


「っあ…」

 抱きたいというのをわざわざ拒んでまで、こうして自分で処理しているなんて馬鹿だと思う。
 一護を呼ぶことだって出来るけれど―‥恋次のせいで熱くなったカラダを一護に抱かせるのも気が引けたのでそれはやめた。

 熱い体液ですっかりびしょ濡れになったそこに―‥少しくらい指を差し入れてもいいものだろうかと真剣に迷っていると頭上で声がした。


「…誰のこと考えてんだ?」

「―!!」

 目を閉じていたのでまったく気付かなかったけれど、いつから見ていたのだろうか―そこには一護がいた。


「―俺…じゃねぇよな…」

 一護は少しだけ切なげに言って、自分の腕を取ると濡れた指を舐めた。


「いち、ご…」

「もう見てらんねぇよ」

 一護は体液で着物が汚れるのも構わずに自分をきつく抱き締めた。


「…いつから見てた、んだ?」

「おまえが恋次、って呼んだ時から」

「っ―!?そ、そんな筈―‥」

「冗談だよ」

「…」

 何も言い訳の言葉が思い付かなくて黙っていると、一護は自分のカラダを軽々と抱き上げて歩き出すと広い浴室のドアを足で乱暴に開けた。
 一応ホテルを模してある家なので各部屋の小さなバスルームと、温泉のような大浴場が備わっていた。


「してやるよ、俺が」

「でもッ―」

「いいって。気にすんな。おまえは俺に甘やかされてればいいんだよ」

「いちご…」












 ひとしきり抱かれてようやく欲望が落ち着くと、一護が自分の髪を洗いながら言った。


「…そんなに我慢すんなよ」

「…してない。」

 自分でもそれはないだろうと思ったけれど、口唇が勝手にそう返事をした。


「おまえ、意外と意地っ張りだったんだな…」

「…」

「…でもさ、今日も本当に抱いて欲しかったのは俺にじゃなくて恋次にだろ?」

 愛する一護にそんなことを言われると流石に泣けてきた。


「いちごがッ―‥俺に他の男としろって言うなんて…」

 ボロボロと涙が零れてシャンプーが目に染みた。

「誰もしろなんて言ってねぇだろーが」

 一護は慌てて涙を拭ってくれたけれど、彼の指もシャンプーまみれなので余計に痛かった。


「俺はおまえを…誰にも渡したくねぇ。相手が誰でも―たとえ恋次でもそうだ」

「…」

「あんまり忘れてんなよ。何度も言っただろ、俺はおまえに惚れてるんだぜ?」

 一護は真剣な顔をして自分の口唇を塞いだ。シャンプーの味がして苦かった。


「さっき―‥俺がどんな気持ちになったと思う??もうあのまま目茶苦茶に抱いて恋次に惹かれたのなんて気の迷いでした、って言わせてやろうかと思った。―そもそも、恋次じゃなかったら殺してるとこだ」

「いちご…」

「おまえが恋次に抱かれるとこ想像するだけで…もう鍵でも掛けてどっかに閉じ込めて―恋次にも誰にも見せたくねぇって思ってる…」

 そんなに情熱的なことを立て続けに言われたことは無かったのでびっくりした。


「嫉妬してんだよ…判るか?」

 操られたように頷くと一護はシャワーで頭を洗い流して、後ろから抱き締めた。


「でも…おまえがあんなに欲しがってんの見たら…叶えてやりてぇって思うだろ…。俺は昔から…おまえの我侭は聞くしかねぇんだよ…」

 そうだっただろうか、とぼんやり思った。確かに最初に抱いてくれと嘘泣きして迫ったことは覚えているけれど。


「俺は…ずっとおまえと恋次を抱いてた。へーきな顔してふたりとヤってたんだ。おまえひとり罪悪感を感じる必要なんかねぇんだぜ?」

「それでも俺は…たとえいちごがそうじゃなくても、俺は…いちごだけの俺でいたい…って思ってるの、に…?」

「その気持ちだけで十分だよ」

 模範回答のような返事をされて少し笑った。
 一護に許可を得たかったわけじゃない。だけど嬉しくて幸せな気持ちになった。一護を選んで‥一護だけを見てきたのは間違いではないと思った。


「…ありがと、いちご。大好き。」

 濡れた身体に抱き着くと、優しくキスされた。


「あんなことするくらいなら俺を呼べよ。れっきとした彼氏がいるのにひとりでするなんて馬鹿馬鹿しいだろ」

「…判った。そうする」

「じゃあベッドで改めてするか」

「風呂に入った意味がまったくないじゃん…っていうかなんで風呂場に来たんだよ」

「いや…だっておまえぐちゃぐちゃに濡れまくってたからつい…反射的に…」

 妙に納得して笑ってしまった。

「ああ…なるほど…。まぁ、中途半端にシャンプーしかしてねぇからいいか…」

「俺も風呂に入ったら洗わないといけない気がして、とりあえずおまえの頭洗ってみたんだよな…」

「…」

「まぁ、…風呂には後で改めて入るってことで、な」

 濡れた身体に大きなバスタオルだけを巻き付けて、一護は自分を抱き上げた。


「いちご…前から思ってたんだけど、俺ひとりで歩けるよ。なにも女の子みたいに抱き上げなくても…」

 確かに初めてそうされた時は怪我をしていて弱っていたけれど。あの時は病人みたいなものだからだと思ってた。
 でもそれから傷が治っても、一護はいつでもこうして抱き上げて自分を運ぶのだ。


「甘やかされてればいいって言っただろ。俺がこうしたいんだからいいんだよ」

「そう?ならいいけど…」

 そういえば恋次もいつも抱き上げて自分を運ぶなぁとぼんやり思った。いったい彼等の目に自分はどんな風に映っているのだろう…。






「…あぁ、そういえば」

 ベッドで抱かれてから改めてもう一度風呂に入って、ようやくイチャイチャするだけの段階になってから、一護が思い出したように言った。


「俺、考えてみたら恋次に抱かれたことがあるわけじゃねぇからあいつのテクの方は判んねーんだよな」

 そういえば、一護は知らないのかとぼんやり思った。
 あの手がどんな風に自分に触れるのかとか、どんなに強く抱き締めるのかとか―‥そんなことを考えるとこれだけ一護に抱かれたというのにまだ興奮しそうになるので、淫らなものだと自分で呆れた。


「しかも恋次、男はおまえが初めてだろーし」

「え、マジで??」

 それはそれで悪くないと一瞬思ってしまった。


「おまえも受ける方に関しては殆どプロだから見る目厳しいと思うけど、まぁ恋次の性格上絶対酷くはしないだろうから心配すんな」

「…てかプロってなんだよ」

「だっておまえ、いつもこの俺に抱かれてるんだからな」

 確かに一護のセックスは上手い。
 十刃なんかにも上手いやつは沢山いたけれど、過去に寝た誰も一護に及ぶ男はいなかった。まぁ、こちらが一護に惚れているというのもあるけれど。


「へぇ…どんなに下手なのか興味出てきた。」

「早くも下手って決め付けんなよ。あんなんでもいちおー俺が心に決めたやつなんだから」

「それはちゃんと覚えてるって。一護からあいつを奪うつもりはねーよ」

「…どーだろ、おまえにその気がなくても恋次はおまえにメロメロだから、もしかしたら奪われるかもなぁ(笑)」

 一護は少し笑った。


「あのさ…もし恋次に抱かれても…、俺は…いちごだけのものだよな?」

 恐る恐る訊いてみると一護は自分の腰に腕を回して抱き寄せた。


「…馬鹿、当たり前だろ。誰が所有権まで譲るかよ」

 抱き締められたその腕の強さで―初めて、一護が嫉妬しているのだと肌で感じて鳥肌が立った。
 ほんの少しだけ優越感にも似た胸を刺す罪悪感で―‥生まれて初めて、この自分が一護を傷つけたのだと思った。昔、手首を切った時なんかよりもずっとリアルにそう感じた。



 でも、世界でいちばん―生まれ落ちたその瞬間からこんなにも愛している一護を傷つけてまで―
 それでも恋次に抱かれたい。―本気でそう思っていた。







↓例の如くあとがき反転↓(むしろ読まなくてry)
こ…これはすげぇ…(ゴクリ)いっそギャグ…いや何でもない。(…)
俺はこんなものが書ける女だったんか。。。むしろ感動したよ。。。(マジで)
城海時代の自分に見せ付けてやりたい………(何のために…)
いや、KIMITEの時はいつも書いてたけどwww(もうKIMITEはいいから)
っていうか全く同じシーンをKIMITEで描いたような記憶があるけどきっときのせい\(^o^)/
一対一じゃないって恐ろしい…!!!!!!((((゜Д゜;))))
もうこの私に限って、このチャンス(?)を逃したらこういうものを書く機会は生涯ない気がする…(いやマジで)
見事なまでの総受っぷりですよね。。。(もはや他人事)
ほんと、あ●ぎり夕も真っ青、みたいな…(たとえが古Σ(´∀` ))
一恋でなくてもいいっていうかいっそ無意味ってかんじだけど、まぁ一恋はいつも阿呆ほど書いてるのでいいかと。(よくねー)
だって一恋(または恋一)前提じゃないと屑帥テイストにならなかったんだもの!!(凄まじい捏造…)
まぁこれはもういっそ内なる虚が総受だということのみに重点をおいた話にしてやろうと私も覚悟を決めたのでそういうことで。
しかしここまで己の捏造した設定にのめりこめる自分スゴスwww\(^o^)/(…)
サリンさん…楽しそうでなにより…(虚ろ)
ちなみにこういうのは私がいちばん好きなアレというか、ヘタにエロとか書くのより楽しかったりするww
別に内なる虚が指を入れようか迷ってるシーンを書きたかったわけではない。(…)
風呂場の壁紙が欲しかったのに探しても見つからなかったから仕方なく自分の撮った写真を漁りまくりましたorz
ラブホの写真って私アホほど撮ってた記憶があるんだけど、何故か探してもロクにナカタ\(^o^)/
加工してたら何か昔のサスペンスゲーム(サターンあたり)の背景みたいな写真になるしさぁ。。。(そんなことはどうでもいい)
しかし、ようやく書きたいあたりに辿り着いて来たよ…。(疲労)
長い道のりだった…_| ̄|○(本当にな)
あ、お題1413の続きだよ。(今更Σ(´∀` ))
なんという不親切仕様www\(^o^)/こんなことならまとめればよかったwww(遅)
ちなみにここでぶった切る必要は別になかったんだけど、EROはEROで書きたかったので切りました。(…)
※屑帥テイスト…なんかこう一方的に恨んでるかんじ(てきとうすぎる…)(しかも今更すぎる解説…)
080528


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