「…あれ、日吉?」
「…慈郎さんッ!?」
突然背後から声をかけられて、思わず想い描く人の名前を口にしてしまった。
目の前の人物は、くすくすと露骨に笑った。
「…キミも判り易い子だよね」
「…滝さん」
子供扱いしないでください、と言うと滝はごめんごめんとまた笑った。
「…丁度良かった、慈郎さん知りませんか?」
「ジロー?…知らないけど。」
(そりゃそうだ…もし知ってるんだとしたら部長だ…)
さっきははぐらかされたけど。
…少なくとも、跡部は慈郎が泣いてたことを知っていたはずだ。
そうでなきゃあんなこと言うはずがない。
「…どこ行くんですか?こんな時間に」
「…んー‥ちょっとコンビニに…。日吉は?」
「ちょっと部長の家に…」
「跡部んち??なんで?ジローはいいの?」
「…俺が滅茶苦茶に捜すより、部長んち行った方が確実なんで」
「何それ 喧嘩でもしたの?」
滝はまたクスクスと笑った。
「携帯切られてるんでそうかも知れません」
いつになく必死な日吉の姿。
「日吉でも必死で追いかけたりするんだね〜‥」
「…?」
「だってさ、俺に色々言ってた時は宍戸を好きになるなとかそんなことばっかりで」
「…」
「一回も自分の欲求を言ったことなんか無かった」
「…言って欲しかったんですか?」
「まさか」
ケロッと滝が言う。
「そんなこと言われても困っただろうから」
「…はぁ…。素直ですね」
「まーね。日吉はジローと付き合ってるの?」
「…」
慈郎を滝のかわりにしていたつもりはない。
滝は滝、慈郎は慈郎。
だけど、きちんと付き合うということになったわけじゃないし、何より好きだとかそういうことを言ったことも言われたことも無かった。
(そりゃあそうだ…俺は滝先輩が好きだったんだから)
他に好きな人がいるのにそれ以外の人間と関係をもつなんて。
なりゆきでこうなったとはいえ、普通はあまりあって良いことではない。
「…付き合ってません。でも俺は慈郎さんを抱いてました」
「…どうして?」
「…どうしてでしょうね…アナタが振り向いてくれなかったからかな」
「キミに告白された覚えは無いよ。俺のせいにしないでよ」
そうですね、スイマセン、と言って日吉はちょっと笑った。
「…でも」
ただオレは、あのひとがかわいくて。
身体を重ねた理由なんか、他には思いつかなかった。
自分の名前を呼んで振り返るその仕草が。
ふわふわ花のように笑うその笑顔が。
―それだけ。
ティアドロップス Act.5
「…じゃあ、日吉」
「はい?」
「今俺がキスして欲しいって言ったらする?」
「…キスして欲しいんですか?」
「答えてよ」
滝にいきなり聞かれて、少しの沈黙を挟んで日吉は口を開いた。
「…しません」
「どうして?」
「…あのひとが泣くだろうから」
「…随分自惚れてるんだね」
「ええ」
日吉はにっこり笑った。
「…判り易いんですよ、慈郎さん」
「…」
「…泣かせたくない」
…もう遅いけど。
「まぁ、キミならそう言うと思ったけど」
滝は溜め息をついた。
「あれ、本気だったんですか?」
「なわけないでしょ!キミが本気でジローのこと好きなのか気になっただけだよ!」
ガッツーン。
その瞬間鈍い音がして、後頭部に何かとてつもない衝撃を覚えて思わず日吉はひっくり返った。
どうやら何か飛んできたようで、そしてそれはラケット(もちろんテニスの)であるらしく、滝がびっくりして飛んできた先を凝視すると、真っ赤な顔をしたジローが立っていた。
「信じられない!!」
遠目で良く見えないけれどどうやら彼は泣いているようで、声が掠れていた。
「…心配して探しに来るかと思ったのに!!」
いや、むしろその予想は当たってるんだよ、と滝は思ったけれど今自分がそんなことを言っても言い訳にしかならないので黙っていた。
日吉は頭を抑えながらがばっと起き上がると慈郎さん!!とか何とか叫んだ。
慈郎は両手で耳を押さえて聞きたくない!呼ばないで!!とか何とか叫び返した。
側に駆け寄って来た日吉に、慈郎は近寄らないで!とか何とか女の悲鳴みたいに叫んだ。
―‥絵に描いたような修羅場だった。
滝が逃げようかなーとかぼんやり思っていると、イキナリ誰かに手を引かれて電柱の後ろに連れて行かれた。
「ギャー!!!人さらい!!」
「…誰が人さらいだよ」
聞き慣れたその声は宍戸で、彼の後ろには眉を思いっきり顰めた跡部が立っていた。
(無理もないか、跡部ってばジローをめちゃくちゃ可愛がってたから…)
「何してんの、ふたりして」
とりあえず聞いてみると宍戸は何にも言わずに後ろの跡部を指差した。
「まぁこれまでの経緯は何となく判るよ…;」
「お前こそ何してんの?」
「俺は偶然日吉と逢って…そしたらジローが怒っちゃって…」
「…」
とりあえず今はふたりを見守るしかない、と3人は電柱の影に身を潜めて様子を窺う。
幸いふたりはお互いしか目に入っていないらしく、ギャラリーのことは気がついてもいないようだった。
「何だよ!日吉なんか滝が好きなくせに!!訴えてやるッッ!!」
慈郎は泣きながらそんなことをヒステリックに叫んでいた。
「何ソレ。そーなの?」
宍戸はニヤニヤしながら滝を小突いた。
「あー‥昔の話だよ…」
跡部は後ろでそうだ!訴えてやれ!!有能な弁護士を紹介してやる!とかぶつぶつ言っているようだったけれどとりあえず放っておいた。
「もういいもん!黙っておいてやろーと思ってたけど言ってやるもん!!」
慈郎はぼろぼろと涙をこぼして日吉に顔を向けた。
その涙を拭おうとして日吉は手を伸ばしたけれど、それは無残に慈郎にはたかれた。
「…俺…日吉のこと…」
キター!!とふたり(宍戸&滝)が思っていると、日吉は彼らしくもなく強引に慈郎の華奢な身体を抱き寄せると口唇を塞いだ。
「「…あ。」」
有無を言わせないそのキスはもう何も喋らせないとばかりに深いものであったらしく、ギャラリーの少年たちは息を飲んだ。
「日吉…あの野郎!!!俺のジローに舌入れやがっ…!!(血涙)」
跡部が泣きそうになりながらその口付けの余りの長さに毒づいた。
今にも釘バットでも持ち出して日吉を打ち殺しに行きそうな気配だったので、宍戸はうわぁ〜と彼にしがみついた。
「ちょ…滝も手伝ってくれよ!!跡部止めるの!」
「…なんで俺が…;」
ロクでもないことに巻き込まれてしまったなぁ、と思いながら滝が宍戸と一緒に跡部の足をしっかと掴んでいると、ふたりの長い口付けはようやく終わったらしく日吉が慈郎の口唇を開放したところだった。
「…俺が言いますから」
「…?」
日吉はもの凄く真剣な顔で慈郎を見据えて言った。
「…好きです、慈郎さん」
プロポーズでもしているようなその真剣な表情にギャラリーの少年たちは息を(以下略)
彼はいつも真剣な顔ではあるのだけれど、今はそれ以上の何かを感じさせられた。
「ごめんなさい、アナタをこんなに泣かせて…」
「…そんなの信じない!!」
だって日吉は滝が好きだって言ったじゃない、俺聞いたもん!と慈郎は泣きながら叫んだ。
泣き叫んでいるせいで慈郎の声は益々掠れて、遂に子供みたいにわんわん泣き出してしまった。
とりあえず他の誰よりも滝はいたたまれなくなって、跡部の足にしがみつきながら溜息をついた。
「信じてくれなくても構いません」
そんな慈郎を日吉は傍で見ていても判るくらいきつく抱き締めて、それでも好きです、アナタが好きですと繰り返した。
(すっげーの…)
あんな状況には縁のない宍戸も跡部の足にしがみつきながら溜息をついた。
(あんなこと言われてみてえよなぁ…)
しかし恋人の足を必死で押さえつけているような状況の彼には到底無理な話だった。
日吉は慈郎の涙を拭って(幸い今度ははたかれなかった)、本当です、少なくとも俺はそういう感情がないと同性を抱いたり出来ません、と言った。
「…じゃあ何でさっき滝といたのさ」
滝は益々いたたまれなくなって跡部の足にしがみつきながら(以下略)
「アナタを探してたらたまたま逢ったんですよ!」
「たまたまって…やっぱり信じない!」
「信じてください、俺は…(以下略)」
段々痴話ゲンカモードになって来たのでとりあえずギャラリーはひとまず安堵の溜息をついた。
「…じゃあ俺約束あるしそろそろ行くね…」
滝は一刻も早くこの場所から脱出したいと思い、そう告げるとあっさり走って逃げた。
「なー、何か無事まとまりそうだし俺たちも帰ろーぜ、跡部…」
跡部はハンカチをギリギリと噛み締めていたが、チッ、覚えてろよ日吉と捨て台詞を吐いて(日吉には聞こえていないが)踵を返した。
寝るのをガマンしてまで来たのに羨ましいロクでもないものを見てしまった、と宍戸はまた溜息をついた。
遅いやんか〜と半泣きの忍足を前に、実はかくかくじかじかなことがあったんだんだよ、と滝は虚ろな顔で説明した。
「何やソレ!俺も見たかったわ。呼んでくれてもええのに」
「宍戸と跡部もいたしさぁ…まあとにかく疲れたよ。もう帰りたい」
今来たばっかやんか!!と忍足はまた泣きそうになった。
「…冗談だけどさ。疲れたからもう寝る」
「何もしてないやんか!何しに来たんや!!」
「…寝に。」
「…」
泣きそうな忍足の頬にキスをして冗談だよ、と囁く。
(日吉のこと笑えないよな、俺も…)
…ちゃっかり本命作ってるんだから。
「…俺今日は帰るよ」
今日は跡部をそっとしておいた方が良いだろうと思って宍戸が小さな声で言うと跡部は益々不機嫌そうに彼を睨んだ。
「…なんで」
「お前キレてるしひとりになりたいだろ?」
「…」
跡部は返事もしないで宍戸の手を掴んだ。
(…帰るなってこと?)
聞いても答えないだろうと思ったので口には出さなかった。
「…なぁ跡部、もし俺が他のやつ好きになったって言ったらどうする?」
代わりに別のことを聞いた。
「…殺す」
そうだよな、と宍戸は笑った。
「…俺も(笑)」
「うわっ、慈郎さんもう10時ですよ!もう帰りましょう、ね?」
「…」
俺の家来るでしょ?と潤んだ大きな瞳を覗き込んで尋ねると、慈郎はコクンと頷いた。
「もう変なこと気にしないでいいんですよ」
日吉は彼の恋人の手を引いて言った。
「俺は慈郎さんが好きだし、慈郎さんも俺が好きだし、これは両想いで付き合ってるってことで、恋人同士ってことなんですから」
「…そうなの?」
「そうですよ!!!」
大体部長たちが恋人同士で自分たちがそうじゃないなんてそんなバカなことがあるわけありませんよ!!あんなカップルよりも全然ラブラブですよ!!初めてやったあの日でさえもあの人たちよりはラブラブですよ!!と日吉は勢い良く言った。
…それは確かにそうかも知れないと慈郎は思った。
「…泣いて損しちゃった」
慈郎は少し笑って、繋いだその手をすこし強く握った。
泣いてる顔も可愛いけど、やっぱり慈郎さんは笑った顔がいちばん可愛いなぁと日吉は呑気にそんなことを思った。
「…泣いたらお腹すいちゃったよ」
今日は何を作ってくれるの?と料理の得意な傍らの恋人に聞くと、日吉は何でも作りますよ、と笑った。
「玉子焼きが食べたいな…あと、日吉の得意な和食全般」
日吉はハイハイ、と笑って繋いだその手を強く握り返した。
<END>
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あなたたちは何年テニスをやっているんだ!!!(by手塚名言)
ラケットは投げるためのものじゃアリマセーン!!>ジロたん
てゆうかいつからこの小説は氷帝ドタバタ劇場(謎)に…_| ̄|○
でもこのドタバタ部分が、私がいちばん描きたかった部分なのですよ…(マジかよ)
つか無理矢理まとめた感が否めない_| ̄|○ 連載回数足りなかった少女漫画みたいw(少女漫画に失礼)
忍足と滝のくっつき方なんてまんまw むしろ何のために出てきたんだお前みたいなw(貴様のようなやつは海馬ファンに死んで謝れ)
遊戯王最終回の海馬みたいw
つかこんなみんなが偶然会うとかありえないから…。まぁ中学生だしみんな家が近いっていう無理矢理設定で。(待て)
まぁやっと完結して嬉しいですw お前たった5回に何ヶ月かけとんじゃ(゚Д゚)ゴルァ!!ってかんじ_| ̄|○
つか絶対5回で終わらせる!と詰め込んだのでこの回だけ長い…?まぁその点は別にいいか(オイ)
つか本当この小説はいったいいつからこんなギャグ小説に…(むしろお前の存在がギャグだよ)
なんか泣いてるジローが書きたくてこのタイトルをつけた気がするんだけど…
つーかHow toで言ってた、私が忍滝に走った理由…(忘れてなかったんか…)
滝を落とすための決め台詞(何)「俺じゃダメか?」(byジム←身内ネタ)
が、関西弁で「俺じゃあかん?」って言った方が何か良かったから。(まさかそれだけ!?Σ(゜Д゜;))
でも美男美女(違う)でお似合いだとおもうよ、忍滝は。(そんなバカな…)私忍滝本もってるし。(関係ない)
つか受が泣きながら告白しようとして、攻が焦って「俺が言うから…!」みたいなパターン(謎)は昔の私がもっとも好んだ(以下略)
今はぜんぜんそんなん好きじゃありませんがw(オイ)むしろ跡宍が好き(意味不明)
はぁこんだけ引っ張っといてこんなんでスイマセ…_| ̄|○(土下座)むしろ全てが矛盾しまくりでスイマセ…_| ̄|○(土下座)
日吉血迷って「ラブラブ」とか言ってるし…_| ̄|○ハハ…(渇笑)
まぁ日吉はぜったい料理得意だと思うけどね。鳳もね。(そこで鳳かよ!Σ(゜Д゜;))
2年生はふたりとも料理得意そう。気のせい?鳳はボンボンなので出来ないという説も同人界では有力ですがw
つか滝が宍戸のこと好きな設定はどこ行ったのかという疑問が残る(真顔)
まーその設定も悪くはないんだけどねー‥(何だコイツ)
やっぱ滝と宍戸は友達っていうか恋愛感情を持つことはありえないっていうか…(貴様まさかそれで済ます気かよ!Σ(゜Д゜;))
つかもう滝のことまで書いてる余裕無かった_| ̄|○(正直すぎ)ハハ…ダメなやつでスイマセ…(死ねお前)
てゆーかやっぱり宍滝とか滝宍とかあかんわ…(あかんと言われても)特に滝宍は泣いてしま(以下略)
つか滝はコンビニ行くとか言ってたくせに、実は忍足んとこ行くとこだったんかい!というか…
まあ跡宍とかと違って忍滝はコッソリ付き合ってるんですよ、コッソリ…。(何)
まァとりあえず、やっぱり連載は色々と良くないよ(結論)もうしません_| ̄|○(たぶん)
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