次の日、日吉と顔を合わせたくないのでわざと遅くまで練習をしていた慈郎が部室に戻ると、ロッカーの横のソファーで宍戸が寝ていた。
彼は髪の毛を解いて(結んだままでは寝にくかったのだろう)、シャツの前ボタン全開でついでに足も広げまくって爆睡していた。
その上凄まじい格好で寝ているものだから、恐らく昨晩ついたものだと思われる情事の痕跡までバッチリ見えていた。
むしろいっそ自慢しているんじゃないかと思うくらいバッチリ見えていた。


…昨日の跡部の話を思い出すけれど、とてもじゃないけど可愛いとは思えなかった。




ティアドロップス     Act.3





腹が立つので起こすことにした。
いつも誰かに起こしてもらっているのは慈郎の方なので、人を起こすことは極めて珍しかった。


「…宍戸、宍戸」
肩をゆざぶったくらいじゃ起きそうにも無かった。

「こんなところで、そんな格好で寝てたら風邪引くよ」
「…ん…ジロー?」
彼はほんの少し目を開けたけれどまたすぐに閉じた。

「いや…大丈夫、寝かせてくれ…」
「家で寝なよ、絶対風邪引くって…もう閉める時間だし…」


いや、大丈夫、の一点張りで彼が枕代わりのクッションを離そうとしないので、慈郎は机の上に無造作に置いてあったハサミを手に取った。
それを宍戸の頭の上にかざすと、途端に彼は飛び起きた。

「…」

どうやら彼がその長い髪の毛を自慢にしている、という話はデマではないようだった。




「お前がこんな遅くまで練習してるなんて珍しいなー」
いつも誰より早く帰るのに、と言って宍戸は笑った。
バラバラになった髪の毛をまた後ろできゅっと括って、全開のボタンを締めるその姿はどう見ても同級生の男でしかなくて、何度も言うようだけれど可愛いとは思えなかった。


「…何だよ」
慈郎の視線に気付いた彼は不審そうに言った。
「…別に。跡部が宍戸のこと可愛いって言ってたから、どこが可愛いんだろうと思って」
慈郎は本当のことを言った。

宍戸はへぇーと言って笑った。
何だかちょっと嬉しそうなあたりが気持ち悪いと慈郎は思った。

「俺はアイツの方がよっぽど美人だと思うんだけどなー」

受けるのは宍戸の方なんだから、跡部が美人だとかそうでないとかいうことはあまり関係ないのでは、と思ったけれど黙っていた。
と言うか、確かに跡部は綺麗な顔をしているけれど、それを迷いもせず美人と言える宍戸もなかなかのものだと思う。
ある意味お似合いなふたりだった。



「…だいたい、可愛いとか言うんだったらお前の方がよっぽど可愛いよなーv」
どうやら慈郎に言っているらしかった。
「…そう?」
そーだよ、と宍戸は言い切った。

「ちっちゃいし髪の毛ふわふわだし猫みたいだし」

どうせチビだの何だの言うんだろうと思っていたらまさにその通りのことを言われて慈郎はちょっと頭に来た。
それから日吉のことを思い出した。
まさに丁度同じことを言って慈郎に手を出した日吉。

(―別にいいけど…)

自分が勝手に好きになったんだから…



「…宍戸、跡が丸見えだよ」
腹が立ったので一言言ってやった。
宍戸は、いいじゃん、と言って襟をちょっと直した。
自慢しているというか、気にしていないらしい。


部室の時計を見ると、8時を回ったところだった。
もう帰ろう。
そう思って鞄を手に取るとその手を宍戸に掴まれて、慈郎はびっくりして振り返った。


「…何?」
「…そういうお前だって跡ついてるぜ、ここんとこ。」
宍戸はたいして驚きもしないで首元を指した。


「…」
宍戸に渡された鏡(何故彼は鏡なんか持ち歩いているのだろう)を覗き込むと、確かに首元に赤みを帯びた跡がちょこんとついていた。
普段は髪の毛に隠れて見えない部分だった。


「…(見えないとこにつけるのがすきなんだ、日吉は…)」
「何だよー、相手は誰だよー?俺の知ってるやつ??」

宍戸は中学生らしく興味津々といったかんじで慈郎の肩を叩いた。
知ってるも何も…


「…別に誰でもいいじゃん、それより跡部には言わないでね」
「え〜?」
宍戸は不満そうに言った。
このバカな男はともかく、跡部に知られたら色々言われて面倒なことになる。





ガラッ。


その時、不意に部室のドアが開いた。

「心配するな」


聞き慣れた声が慈郎の耳を襲う。
予想通り、そこには日誌を抱えた跡部が立っていた。


「既に聞いた」

慈郎は眩暈がした。












「…で、相手は誰なんだ?」
「…」

何度聞かれても口を割らない慈郎は跡部の家にまで連れてこられた。
帰ると言ったのに跡部は慈郎の家に電話を入れて、自分の家に泊まるということにしてしまった。
俺も行くと言ってきかなかった宍戸は跡部のベッドに放置されて、気がついたらまた寝ている。



「…親じゃあるまいし、なんで跡部に言わなきゃいけないのさ。」
「言えないってことは、やましいことがあるんだな」


カチーン。
本当に親のような物言いに流石の慈郎も腹が立ってきた。


「…あのな、ジロー」

跡部は言い聞かせるように言った。

「別に俺はお前が好きで付き合ってるんなら何にも言わないし…」


………。


「…もん」
「…え?」
「…付き合ってないもん!!!!!!!!!」


広い跡部の屋敷中に響き渡るくらい大きな声で叫ぶと、慈郎は呆気にとられた跡部を無視して部屋を飛び出した。
小さい頃から良く来ているこの家で迷ったりしない。

「…」

跡部が呆然としていると、玄関でおじゃましましたーと言う慈郎の声が聞こえて来た。












「跡部のバカ…!」
半泣きで家から飛び出して来たけど、跡部が追って来る気配はなかった。

(跡部なんか、勝手に宍戸とヨロシクやってればいいんだ…!!趣味悪すぎ!!)


最初っから付き合ってること前提で話をされた。
そりゃあそうかも知れないけど、やってるんだったら付き合ってるって思うかもしれないけれど、でも自分たちは付き合ってなんかない。
愛も恋も証拠も、そこには何にもない。

跡部と宍戸とは違う。



悲しくて悔しくて涙が出て来た。
早く帰ろうと自分の家に向かうけれど、そういえば跡部の家に泊まるなんてことになっていたことを思い出す。

泣きながら携帯を取り出すと、震える手でそれを開く。
指が勝手に日吉の携帯番号を探しているけどもういい。


『慈郎さん…?どうしたんですか?』

コール1回で出る律儀な彼。


「…逢いたい」


口が自分のものじゃなくなったみたいに、勝手に言葉を紡ぐ。



『…慈郎さん、泣いてるんですか?』

ふるふると首を振ったけど、電話越しの彼に見えるはずもなかった。

『今何処にいるんですか?迎えに行きます』


そう言うと思った。
絶対にそう言うと思った。


優しいから。日吉は優しいから。
電話越しで泣かれたりしたら、ほうっておけない。
それが誰だったとしても。―勿論自分じゃなくても。


うん、と頷きそうになって、慌てて慈郎は電話を切った。

本当は抱きしめて欲しかったけど。気が狂うくらい強く抱きしめて欲しかったけど。
今甘えてしまったら失くすのが益々辛くなる。
どうせ近い将来失くしてしまうのなら、今断ち切っておいた方がいいに決まってる。



(…日吉、もう終わりだよ)




(…滝の代わりはもう出来ない)










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何なんでしょうね、この話は(知らない)
つーかただひよジロのところだけを書くんだったらわざわざ連載なんかしなくても、たぶん1回で書けたんだろうけど、
何とゆーか私は跡宍と絡ませて楽しみたかったみたいですね(あんただけ楽しまれても…)
つかそういう筋道なんですよ、私の中のひよジロが!!(はいはい)
跡宍と絡むのを避けては通れない!!(はいはい)
つか、私は跡宍が好きなのか嫌いなのか謎な書き方をしてるけど、ああいう跡宍(謎)が好きなんで…。
何か読み返すと、私は宍戸が可愛くないと強調するのに命をかけてるみたいですね。(跡宍のくせに…)
ジローに趣味悪すぎと言われている跡部っていったい…むしろ宍戸っていったい…
いやでもこういう跡宍が好きなんで(以下略)
まぁいちばん趣味が悪いのは榊太郎(43)を本気で愛してる鳳長太郎氏(13)
つか20.5巻のおかげで氷帝部室内が判って良かったですw
ソファがあって良かった!幾ら宍戸でも床に寝てるのもねー(あんた宍戸をいったい何だと思ってるんだ)
あんまり期待してなかったのに、予想以上に役に立っている20.5巻w
とりあえず宍戸の中学生らしいバカぶりを強調しておきました(彩霖さんは跡宍が大好きです)
それだけでは何なので髪を自慢にしてるあたりも強調しておきました(彩霖さんは跡宍が大好きです)
つーか跡宍と絡ませたばっかりに、ジロたん総受小説みたいになってるけど(汗)、断じて!断じて違うので!!
彩霖さん総受大嫌いだから!!相当嫌いだから!
まージロたんは可愛いから、こういう扱いはむしろ常識でしょう。(そうなの!?Σ(゜Д゜;))
可愛い男子は男子にも人気があるからな…(ホモという意味でなく)
あー中学生いいですねー(何を妄想してたんだこいつ…)
ま、予想通り全4回で終わりそうです。と言ってもまだ書き終わってないので不明だけど(おい)
あー楽しいですねー(もう貴様のようなやつは死ね)
そうそう、忍滝はいったいどこに出てくるのかって、最後の方にちょこっと出てくるのを予定しております(ふざけんな!)
ちなみに予定は未定です(貴様のようなやつは死…以下略)