「―であるからして…この木の栽培方法は…」
たぶんこんなに長い時間白哉が話すのを聞いているのは生まれて初めてだ―と思う。
欠伸が出そうなくらい退屈な時間の中で、考えることと言ったらそれくらいしかない。あとは…今はいったい何時なんだ…、とか。
「なぁ、これいつまで続くんだ??」
一護は余りの退屈さに隣の机の恋次に小声で話しかけたが、彼はとっくに眠りの国へ旅立ってしまった後であった。
―畜生、自分だって死ぬほど眠いのに。
「授業中(?)は私語は慎め!!!隣も寝るんじゃない!!!」
白哉は容赦なく自分たちに向かって殺人チョークをお見舞いした。意識のある自分はかろうじて避けることに成功したが、爆睡していた恋次はその恐ろしい威力のチョークを額に食らったおかげで部屋の隅まで吹っ飛ばされる羽目になった。
まぁ、額から血を流しながらそれでもなお眠り続けている姿は立派だったけれど。
「ともかく!!!!!!!我が六番隊の隊章に模してある隊花は『椿』!!!!!!花言葉は『高潔な理性』!!!!!!!暗記するまで帰さぬ!!!!!!!」
白哉は黒板が砂になる勢いでバンバンと物凄い力で叩きながら、まさに烈火の如く怒っている。
いつも静かに怒っている姿しか見たことが無かったので、こんな一面もあったのかと一護はぼんやり思った。
「白哉、流石にソレはもう覚えたって」
「じゃあ『つばき』と漢字で書いてみろ!!!」
「…え。(汗)」←国語が得意な設定
「ほら見てみろ!!!ああぁ腹の立つ…」
―あぁ、どうしてこんなことになったんだったっけ??
話は数時間前に遡る。
現世から戻った恋次が隊舎に顔を出すと、白哉が隊章のバッチをせっせと磨いているところだった。
「たいちょーはほんとに桜が好きなんですねぇ」
「…何の話だ?」
さっきのことがあったので思わず口から出た言葉だったのだが、反面白哉は怪訝そうな顔をした。
「え、だってこれ桜ですよね????」
「―うちの隊花は『椿』だ。」
「…え。」
「…。」
そこまでなら(まだ)良かったのだが、馬鹿な恋次が更にもう一言付け足したために―すっかり白哉を怒らせることになってしまった。
「なーんだ、桜じゃなかったのか。それならあいつ喜ぶな〜」
「…なぜ桜じゃないと黒崎一護が喜ぶのだ?」
「え、なんで一護のことって判ったんスか??」
「…」
そんなの誰でも判るだろう…と呆れ果てた白哉の耳に信じられない言葉が飛び込んで来た。
「いや、あいつもこれ桜だと思ってたみたいで。さっきなんか隊長に嫉妬して大変だったんですよ〜」
「嫉妬…だと?この私に…?」
ハッ…余計なことを言ってしまった…と流石の恋次でも気付いた時には既に遅し。
こっそり上官の表情を窺ってみると、既に白哉は例の汚らわしいものでも見ているみたいな残忍で冷たい目をして―いつ卍解!とか言い出してもおかしくないくらいの殺気を放っていた。
「黒崎一護を連れて来い…」
「え…一護を??なんで…」
「―いいから早くしろ。やつに会う前に死にたいか」
「ヒィー!!判りました、今すぐ!!!」
慌てて現世にとんぼ返りした恋次は、眠っていた一護を無理矢理叩き起こすと何が何だかわけも判っていない彼を引きずって、また尸魂界に戻って来た。
ゼイゼイ言いながらふたりが六番隊隊舎に到着すると、分厚い植物事典だとか隊花大全だとかいう書物を抱えた白哉が待ち構えていて―‥徹夜で隊花の勉強(?)をさせられる羽目になったというわけだ。
「ともかく…」
バン!!!と白哉がすごい力で、どこから仕入れて来たのか謎な教卓を叩いたので―教卓の足は見事に3本ほど折れてしまった。
「きさまの勝手な勘違いでいちいち嫉妬されては非常に…」
「…非常に?」
「―不愉快だ。」
白哉はギン!!!と一護を睨み付けた。
確か恋次が白哉が気があるとするならまだおまえの方だ―とか言っていたけれど、とりあえずその可能性はないと一護は確信した。(勿論恋次でもないようだが)
「あれの上官というだけで私を恨まれても筋違いということだ。迷惑極まりない。判ったか?」
「別に恨んでねーけどさぁ…。―ほら、そーやってあれとか自分のものみたいに呼ぶから俺が妬くんだぜ?」
「黙れ莫迦者がァァァ!!!」
殺人チョーク第二波が飛んで来て慌てて頭を引っ込めた一護だったが、続けざまに放たれた第三波の嵐は流石に避けられず、額にグサリと突き刺さり―もちろん、恋次同様部屋の隅っこまで吹っ飛ばされることとなった。
派手な音を立てて壁に激突しているというのに、この修羅場でも平気でぐーすか眠っていられる恋次を素直に尊敬した。
「び、白哉…、他の隊員のみなさんに近所迷惑だからあんまり暴力は良くないんじゃないのカナ…?(棒読み)」
「黙れ。そうやってしょうもないことにいちいち嫉妬されるのが苛々するのだ…!!!」
「そんなこと言われても…。俺は恋次を愛してるんだから、いつもいちばん近くにいるやつに嫉妬してしまうのは当然だろ?」
「平気でアイシテルとか言うな!!だいたいいつ私がそいつのいちばん近くにいたのだ!!!身に覚えがないことを言うな!!!」
「まぁ落ち着けよ…。白哉がそんなにツッコミ気質だったなんて意外だな…」
「だいたい、恋次のやつも貴様に嫉妬されてモテる女みたく嬉しそうにヘラヘラして調子に乗んじゃねェェェェェェェ(#゜д゜)=○)゜Д)^^^^^^゜っていうか、まじイラッとする…!!!」
「おまえキャラが180度変わってるぞ…!?」
「うう…緋真…私はおまえだけを永遠に愛しているというのに…。よりによって恋次なんかに執着していると思われるのは耐えられぬ…」
「おーいそれが本音かよ!!!つか自分の嫁のことは平気で愛してるとか言ってるじゃねーか!!」
白哉は懐から亡き妻の写真など取り出してメソメソしていたが、未だ闘志は折れぬようで(教卓の足はとっくに折れているが)手に持っていた教本を引き千切る勢いで開いた。
「じゃあ次は百五拾三頁…」
「まだやんのかよ!!!」
「当然だ。だかその前に…」
「…前に??」
「とりあえずその馬鹿を起こせ!!貴様はともかく、そこの馬鹿は副隊長でありながら己の隊の隊花も知らなかったという愚か者だからな!!!!」
「あー、ハイハイ…」
まぁその意見はもっともだと思ったので、一護は隣で呑気に寝息を立てている恋次の肩をゆさゆさと揺さぶった。
「恋次、恋次。白哉せんせーがご立腹だぜ〜(棒読み)」
だが深夜であるせいかそれともこの修羅場から逃れたい本能なのか―爆睡している恋次が起きる気配はない。
「せんせー!!せんせーの授業が面白くない割には過激すぎるせいで阿散井くんが起きません!!」
「…貴様なら幾らでも起こせるだろうが。」
「―え」
「起こしてみせたらどうだ?―この私の前で。」
白哉は目をギラギラさせて、魔王みたいに言い放った。―完全に目が座っている。
「せんせー!!教室(?)でふしだらなことしてもいいんですか!?」
「…許可しよう」
白哉は見世物でも見るみたいに隅にあった椅子を持って来て、ちょこんと座ると足を組んだ。
一護の方も眠気の上に何だか腹まで空いてきて、だんだん頭に血が上って来た。そっちがその気なら―という気になってくる。
「―後悔すんなよ白哉」
思わず捨て台詞まで吐いて、一護は部屋の隅で丸まって眠っている恋次の側まで行った。
「…」
寝顔なんか見慣れているけれど―本当に馬鹿丸出しみたいな顔だなぁ、とか呑気に思った。
とりあえず乱れた髪を掻き分けて、先程の殺人チョークでついた額の傷をペロリと舐めてみた。恋次の血の味がして、ちょっと興奮した。―まぁ、この程度で起きるなんて思っちゃいない。
ちょっとだけ顎を持ち上げて―何の躊躇いもなく口唇を重ねた。―別に、愛してるのだからその気になんていつでもなれる。
(流石に、舌入れたら起きんだろ…)
無防備な口唇を割り開いて侵入する。ロケーションと第三者の存在で妙に高揚している自分に気付かないこともないが―とりあえず高潔な理性、という例の花言葉を思い出して理性のあるキスをしよう、と思った。
舌を絡めて、歯列をなぞって―‥溶けるくらい貪ったけど、一応理性は忘れずに。
AVの撮影ってこんな感じなのかなぁ、とかぼんやり思った。
「―ン…」
恋次の口からちょっと声が漏れたので、一護は口唇を離した。お互いの口唇を結ぶ透明な糸が明かりに照らされてチカチカと光っている。
「…起きた?」
「…ぃちご」
恋次はぼんやりと瞳を開けて、うわごとみたいに名前を呼んだ。
どう見ても目が覚めたってカオじゃないな…とか思った瞬間―思いっきり抱き着かれて、一護は目を白黒させた。
「―もっと」
(エェェェェェェーーーー!!!????)
「あはははは!!これはいい媚態だ!!」
白哉は明らかにカケラほども楽しいとは思っていない笑い方で大袈裟に高笑いをしたが、まったく彼の言う通りだった。
「ちょ…恋次、もぅヤバイって…!白哉が見てる…」
「いい台詞だなァ!黒崎一護!!!」
―これもその通りだった。
寝ぼけている恋次は人の気も知らずに、一護に拒否られてちょっと悲しげな顔をした。
(おいおい…そんなカオすんなよ…)
白哉に叩き込まれた高潔な理性という単語が、今にもガラガラと音を立てて崩れてしまいそうだ。
一護が必死にこの先どうするべきか考えていると―抱き着かれたカラダからふわり、といい香りがした。
何か妙に覚えがある、と思ったら自分の家のシャンプーの香りだということに気付いた。
―昨日、一緒にうちの風呂に入ったから。
今自分と恋次は同じ匂いがしているんだなぁ…とかそんなことを今更のように考えた瞬間、ぶちっと何かが切れる音がした。
―糸が切れる瞬間というのは大概、何でもない瞬間にやって来るものだ。
「…白哉」
「?」
「本物の媚態ってやつを見せてやるから…泡吹くんじゃねーぞ…」
「!?」
「????????」
目が覚めたらなんだかとんでもないことになっていた。
ここは多分、見慣れた自分の隊舎だと思うのだが―何だかそこら中ボロボロだ。戦争でも起きたのだろうか??
「てかなんで裸なんだ、俺…??」
自分のカラダの感じからして隣で眠っている一護に抱かれたのは間違いないと思うのだが、何ゆえそんな状況になるに至ったのかさっぱり判らない。
ましてや足の折れた教卓で白哉までが突っ伏して眠っているし。こちらはしっかり羽織まで着込んで乱れた様子もないが―まさかとは思うが参加したわけじゃないよな…と恋次の背中を嫌な汗が流れた。
あたりのボロボロの机やら椅子やら―何故だか部屋中に散乱しているチョークやらを見て、そういえば白哉の授業(?)を受けながら寝てしまったのだというところまでは思い出したが、その先の経緯が謎すぎる。
とりあえずそこら辺にあった着物を適当に羽織って、一護を揺すってみたが目を覚ます気配はない。恋次が呑気に眠っている間、一晩中ひとりで白哉と戦っていた(?)のだから当然なのだが―今の恋次がそんなことを知るわけもない。
仕方がないので恋人を起こすことを諦めて、教卓に突っ伏している白哉を起こすことにした。
「隊長、隊長〜」
ちょっと遠慮がちにゆさゆさ揺すっていると、白哉はぼんやりと目を開けた。
「あぁ…恋次か…」
「あの…何があったんですか…?」
まだ寝ぼけ眼の上官に恐る恐る聞いてみると、白哉はごしごし目を擦りながらうーん…とか言った。
「まぁ…うん、もう何も言うな。さすがに今回は私が大人げなかったということにしよう。うん。」
「??」
白哉は恋次の肩をぽんぽんと叩いた。
「まさか貴様があんなにいんら…ゴホンゴホン。しかも相手はぜつり…ゲホンゲホン。まぁさすがの私も途中で飽きて眠ってしまったのだ。」
「???」
「とにかく今回は私が悪かった。謝罪のしるしに我が屋敷に風呂と食事を用意してやるから、ゆっくりしていけ。寝床…寝床は自分の家があるだろーが!!今日明日は休みにしてやるから貴様の犬小屋で好きなだけイチャついていろ。このメス犬めが!!!」
「はぁ…(なんで最後の方キレてんだ…???)」
白哉はそれだけ言い棄てるとあっさり出て行ってしまい(まだ寝ぼけているのか足元はフラフラだったけれど)―恋次はとりあえず一護が起きるまでにこの部屋を片付けることにした。
この状態では誰か出て来た時にひったまげるだろうし、どうせ自分がやる羽目になりそうな気もするし。
「へぇ…なんか、大変だったんだな」
朽木邸の豪華な食事を貪りながら、恋次もようやく自分が眠っていた間の出来事をこと細かに聞くことが出来た。
「へぇじゃねーよ。なんかもう誰が悪いとかじゃなしに無茶苦茶で…いややっぱ悪いのはおまえだな。白哉も言ってたけど自分とこの隊花も知らなかったんだから」
「だって、あんなもんロクに使うことねーんだよ。ガッコで習ったような気もするけど、そんなん全部忘れてるし…」
「…」
せっせと隊舎を片付けて、
目を覚ました一護もちょっと手伝ってくれて、
さっきの白哉のことを話して、
言われた通り朽木邸に出向いて、
話は聞いているという屋敷の者に風呂という名の超豪華温泉に案内して貰って、
庶民として豪華温泉でハシャぎまくって(断っておくが別にやましいことはしていない)、
本当に用意されていた食事を有難く頂いて…←今ここ
「まぁでもまさか隊長の前でやってしまうとは…」
「おまえがシテって言ったんだよ!!(ちょっとウソ)」
「しょーがねーだろ寝ぼけてたんだから…」
「言い訳になんねーよ、バカ!!」
一護はぷりぷり怒っていたが、食事が余りにおいしいので段々冷静さを取り戻してきた。
「さすがにうまいけど…毒とか入ってねーよなコレ???」
「あはは、ありえる」
「…オイ。」
「でもほんとちょっと隊花を勘違いしたばっかりにエライ目に遭ったぜ」
「つーか、あのデザインが紛らわしいんだよ」
「冷静になってみると確かに桜じゃねーけど。ふつー桜だったら花びらがギザギザだもんな」
恋次は呑気に笑った。
まぁ考えようによっては豪華温泉と食事にありつけてオマケに休みまでもぎ取って(自分はいつも通りただのサボリだけれど)、これはこれで良かったのかも知れないが。
そんなことを考えながら隣の恋次を引き寄せてキスしようとしたら、ちょっと待って、とか止められた。
「ああ、ちょっとタンマ」
「―?」
「隊長がソレだけは自分ちでしろって」
「…あ、そ。じゃー早く食えよ。おまえなー、ゆーべ白哉がどんだけ鬼のようだったかも知らないで、ちゃんとゆうこと聞くんだな。俺のこともそうだけど、おまえのことなんかボロクソに言ってたぞ!?」
「隊長はいっつも鬼だろ。なんだよ〜もう妬かなくてもいいのに」
「…白哉の言ってた通りほんと嬉しそうでイラッとすんな、おまえ」
「だって、好きなやつに嫉妬されたら嬉しいだろ」
恋次はちょっとムスッとして上目遣いで一護を睨んだ。
「…あのな、俺も好きなやつにそんな目で見られたら我慢できないんだよ」
「だから俺も…好きなやつにそんなこと言われたら…」
「「…」」
結局、暫く見つめ合った末に口唇を重ね―
「…早く食ってとっとと帰れ莫迦共。」
後ろから突如響いて来た恐ろしい声に、ふたりは振り向くこともしないで光の速さで食事を終えるとお邪魔しました〜〜〜とか何とか叫びながら―全速力で白哉の家を飛び出した。
「あー、怖かった」
「だから言っただろ!!!」
ゼイゼイ言いながら白哉の屋敷が完全に見えなくなるところまで走って、ようやく一息ついた。
「…ところで何で、俺らふたりしてデコに怪我してんの??」
「だからほら、白哉がチョーク投げてさ…おまえは爆睡してて直撃だったし、俺は疲労困憊で避け切れなかったんだよ」
「…貫通しなくて良かったよなぁ」
「チョークだからな。…あれが千本桜だったらのーみそ貫通してオワリだったな」
考えてみるとこの3日間が怒涛のようだった。隊章なんかにここまで振り回されるとは。
しかも3日前くらいに枕元でしていた頭の悪い会話を思い出すと何ともバカバカしいことこの上ないが、まぁそんなことは忘れておこう。
「なんか疲れたなぁ…」
「ほんと。早く帰って寝ようぜ」
「なんか前もこんなことがあったような…」
「あれだよ、おまえが白哉んちの地下牢にブチ込まれた時。」
「…」
恋次はそういえば…、という感じの渋い顔をした。
「…なんか進歩ねぇなぁ、俺ら」
「進歩ないのはおまえだけだろ」
「なんだと!!馬鹿一護!!」
「ほんとのことだろーが」
「一護だって、疑いもせずに桜だって思ってただろ!!どっちもどっちだろーが!!」
判りやすく怒る恋次の腰を捕まえて、壁に押し付けるみたいにして抱き締めた。突然だったため恋次がぎょっとしたのが判って気分がいい。―本当に、もう3年以上も付き合っているというのに進歩がないというか…いつまでも可愛いというか。
「まぁ進歩がねーから、未だにこんなに惚れてるんじゃねーの??」
「いちご…」
(ほんと、他愛ねーやつ…)
そのままさっきお預けになっていたキスを交わして―‥更に首にも口唇を落とした。
「黒崎さん…ここ…往来なんですけど…」
「もー今更だろ。白哉にナニ見られたと思ってんの?おまえ。もー仕事どころじゃねーぜ、あー阿散井さん、ハズカシー!!!」
「…まぁ確かにソレを考えるともう今更誰に何見られてもいい気になるな…。でもホントにナニしたんだ?俺ぶっちゃけあんまり覚えてねーんだけど」
「家でゆっくり教えてやるよ、実演つきで」
一護は笑って恋次の手を引いた。なんだか成り行きもあるけど、これだけ頻繁に来ればもう流石に道も覚える。
住んでいる世界が違うせいでなかなか難しい部分もたくさんあったけれど、やっと普通の恋人同士みたいになって来たなぁ―とか悠長に思いながら、一護は繋いだ手の指を絡めた。
「―で、『椿』の花言葉は何だったっけ?」
「…こうけつなりせい?」
「…意味判ってんのかよ」
カタコトで言う恋次が可愛くて、一護はその額の傷にもういちどキスを落とした。
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