「これ、なんか嫌なんだよな」
ピロートークの真っ最中、一護は思い出したように手を伸ばして恋次の胸を撫でた。
「…コレ?て、隊章???」
例の―‥現世で不要な影響を及ぼさないように副隊長以上の力を制限(以下省略)というあの隊章だ。
つまり、こちらのこの自分の部屋で逢う時には必ず―恋次の胸にはこの刻印があるということになる。
「なんで?みんなやってるじゃねーか」
恋次は意味が判らないという風に自分の胸を見た。
「そうなんだけどよ。―ほら、形が白哉の桜じゃん」
「だってそれが六番隊の隊章なんだからしょーがねーだろ」
「だけどなんかさー、白哉の刻印みたいで。」
一護は思いっきり眉を顰めて、それを撫でた。
もっとも普段は目になど見えないものなのだが―こういうコトをして興奮した時なんかには薄ら見えたりするから、余計タチが悪い。
「なんかさー、刳り取ってやりてぇ、とか思う」
「別にいいけど、これ確か刳っても焼いても…限定解除の許可が下りない限り消えないはずだぜ?」
「あ、そ。ってよくねぇだろ!!ソコは引けよ!!!」
引くどころか、ぞっとするくらい嬉しそうに笑って―恋次は一護の首に腕を絡めた。
「心配すんな、隊長が男に興味あるとは思えないし。だいたいもし隊長が惚れるなら、俺よりはまだおまえの方だから」
「ハ???それはねーだろ!!!」
「いや俺よりはまだ有り得るって。―それより」
恋次はちょっと顔を上げて一護の口唇に口付けた。触れるだけの軽いキス。
「おまえ、そんなつまんねー嫉妬するような男だったんだな」
「…そう言うおまえはなんでそんなに嬉しそうなんだよ。つまんねー嫉妬だったらいつもしてるよ。たとえばこの髪とか打倒白哉!!って願掛けてんのかなーとか」
「いや、子供の時から長かっただけで…」
「この刺青とか打倒白哉!!って入れたのかなーとか…」
「…あ、ソレはあるかもな」
「―!!コノヤローこんなもんホントに焼いてやる!」
一護はそんなことを言って恋次に飛びかかると、首のところの刺青をぺろりと舐めたので―恋次はくすぐったそうに笑った。
狭いシングルベッドの上で大の男ふたりが暴れたのだから、ベッドは今にも壊れそうな音を立てて派手に軋んだ。
「おまえが嫌ならホントに焼こうか?」
「アホか!!おまえはホントにやりそーだからこえーんだよ!!」
一護は相手を大袈裟に抱き締めて、これはこれでエロいからいいんだよ、と耳元で囁いた。
「…あのさ。俺六番隊の副隊長になったのってルキアがこっちに来る直前なんだぜ?」
「…だから?」
「つまり、おまえも朽木隊長も付き合いの長さは殆ど変わんねーんだよ」
「ふーん…」
「ふーんとは何だ!!人がせっかくフォローしてるのに!!」
何のフォローだよ、と一護は思ったけれど、まぁ折角のふたりの時間をしょうもない言い合いで潰すのも何なので―恋次の長い髪を弄びながらどうしても言いたいことだけを口にした。
「―おまえ、ホントそういうとこ女みてーな言い訳するよな。」
「言い訳とはなんだ言い訳とは!!!俺がやましーことしてるみてーじゃねーか!!!」
(女みてーって部分はいいのか…)
「悪ィ悪ィ。…でもさ、可愛いって褒めてんだよ」
「ホントかよ!!!」
恋次は少し納得いかないような顔をしたけど、―まぁでも、とか言って笑った。
「―おまえに出逢ってから確かに女々しくはなったかもな」
「…」
むしろそれは前からだろ、と一護はツッコみたい気持ちでいっぱいになったけれどとりあえず黙っていた。
あの塔の前で戦った時―当時は事情なんかさっぱり知るわけもない自分にいきなり白哉には敵わないだとかビビッていただとか―吐き出すみたいにぶっちゃけ出したことを忘れたとは言わせない。(むしろ既に忘れていそうだが)
あの時ものすごく複雑な―何とも言えない妙な気持ちになったのを覚えているけど、今思うと既にあの時点で嫉妬していた気もする。
「…俺のせいかよ」
思わず遠い目になった一護にはさっぱり気付かないようで、恋次は髪を弄っていた一護の手を負けないくらいべたべた触りながらだって、と言った。
「おまえを好きになって抱かれてもいいと思うようになったんだからな。―女々しいだろ?」
「バカ…」
思いっきり抱きすくめて口唇を重ねると恋次はやっぱり凄く嬉しそうだった。
「―おまえに奪われてすげぇ幸せ」
「も、黙ってろ…それ以上言うともっかい犯すぞ」
いいぜ―とか言いかけたその口唇をもう一度奪って黙らせた。
まぁ、黙らせたところでこんなにキスばっかりしていてはどうせ我慢なんか出来なくなりそうな気はしたけれど。
初めてした時から血迷ったその口唇が本当にオンナノコみたいに―‥そんなにも簡単に愛の言葉を紡ぐから。
自分は嘘も付けなかったし我慢も出来なくて―カケラも残らないくらい蹂躙して奪い尽くしたつもりだった。
花を摘むみたいに奪って、毟り取るみたいに酷くして、―花弁を散らすみたいにボロボロになるまで。
男を抱くのは初めてで、色々良く判ってなくって、今よりずっとずっとヘタクソで―罪悪感に苛まれるくらい、優しくしてやれなかったのに。
―おまえはそれを幸せだと言ってくれるの?
「…ほんとに、俺で良かったか?」
「何だよ今さら。俺はおまえにぶった斬られたことすら誇りに思ってるぜ?…こんなこと言わせんなよ」
恋次は頬を染めて笑った。
自分に向かってしなやかに伸ばされた腕を受け取って、背中に回させる。―やっぱり我慢なんか出来そうにない。
「…愛してる、一護」
小さな声で囁かれたその睦言に俺も愛してる、と返して。
額にひとつキスを落としてから―また繋がりたい欲求に素直になることにした。
それなら俺も本当に肉も骨も血の一滴も残らないくらい―‥おまえを奪って啜って貪ってやるから覚悟しとけ。
―俺だけのカワイイ恋次。
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