練習が終わった土曜日の夜。
たまたま街をブラブラしてたら、ゲームセンターの裏で数人の高校生(多分)に囲まれている切原を見つけた。
高校生は切原の胸倉を掴んで、ガムを噛みながらニヤニヤと言葉を並べ立てていた。
「切原ァ、お前例のビョーキ治ったんだって?」
「マジー?良かったなァ、でもアレがないお前なんて俺らに敵うわけねーんだよ」
切原も、決してケンカが弱いわけではないのだろうけれど、
如何せん多勢に無勢といったかんじで口唇から血を流して今にも人を殺しそうな目で彼らのことを睨んでいた。
―その目はもう赤くはなかったけれど。
昔だったら、この人はこのくらいの人数なんかものともしなかったのだろうか。
そんなことを考えながら、越前は溜息をついてその場に割り込んだ。
「…警察呼んだけど。」
携帯電話を手にポソリと言うと、高校生たちは突然の宣告に蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
(バカじゃん…)
空と君の間に
心の底から呆れながら彼らの後姿を見送ると、越前は座り込んでいる切原に手を伸ばした。
「…大丈夫?切原さん」
切原は伸ばされた越前の手をピシャリとはねのけて立ち上がった。
かわいくない、と越前は思った。
「…ところであれ、知り合い?」
「…さぁ。どーせまた知らないウチに喧嘩ふっかけてたんだろ」
確かにあの赤目モードがテニスだけに発揮されていたとは限らない。
闘争心の赴くままに挑発して、こんなことを繰り返していたのだろうか。
それはもう既に、切原自身にも判らないようだった。
俺ってば敵多いからさ、と切原は自嘲的に笑った。
何でもないように言ったけれど、彼の大きな瞳は今にも涙が零れそうに濡れていた。
そうして初めて、越前は彼が酷く震えていることに気付いた。
「…切原さん」
「もう用ないだろ。帰れよ」
「アンタに用があるの!」
腕を強く引き寄せると、切原はビクッと身体を震わせた。
強い言い方をしたせいか、その瞳からは一筋涙が零れ落ちた。
「―見んなよ…」
切原は蚊の鳴くような声で言った。
越前は何だかたまらなくなって、引き寄せられるように彼の涙を舐め取った。
切原は驚いて、大きな瞳を更に大きく見開いた。
「手当てしてあげるから。…俺ん家行こ」
切原の意思は無視して、越前は言葉を続けた。
実際は手当てなんていうほどには、切原は酷い怪我をしている様子もなかったのだけれど。
このまま放っておけなかった。
酷く体温の低いその指先にびっくりつつ、越前は彼の手を引いた。
***
「アンタ、良く怪我してるよね」
「…お前もだろ」
言い返す元気はあるんだな、と越前は少し安心した。
申し訳程度に使用した救急箱をパタンと閉じる。
「…切原さん、なにがそんなにこわいの」
「っ―怖くなんか」
「誰が見たってそう見えるよ」
「…俺は」
暫くして、切原はポソリと言った。
「何がそんなに悲しいんだろうな…」
「―自分のやったことに後悔なんてしてないのに」
その途端、重力に逆らえなくなった涙が、彼の瞳の堤防を突破して次々と零れだした。
越前は彼の大きな瞳から水滴が溢れては落ちるのをただ見ていたが、やがて口を開いた。
「…ねぇ、抱き締めてもいい?」
切原はびっくりして顔を上げた。
その拍子に瞳にたまった涙が一気に落ちてきらきらと宙を舞った。
越前は返事も聞かないで彼に手を伸ばした。
抱き締めると切原の身体はやっぱりがたがた震えていた。
「えち…」
彼が何か言いかけたので、問答無用で口唇を塞ぐ。
ただでさえ力の入っていなかった切原は越前を受け止めきれずに、ベッドに真後ろに押し倒される形になった。
―ボフッ
越前のベッドのスプリングが、ふたりぶんの体重を受け止めて思いっきり軋んだ。
「切原さん、俺何にもできないけど…」
口唇が勝手に言葉を紡いで、魔法みたいに止まらなかった。
「今だけ忘れさせてあげるくらいなら出来るよ…」
今度は何だかドラマのような言葉が出たけれど、今の彼なら気にしないだろう。
本当のことを言うと、彼がぼろぼろ泣いているのを見ていたらムラムラしてもう我慢出来なかっただけだけれど。
「…」
切原は涙で濡れた瞳を見開いてきょとんとした。
越前はそんな彼の肩に手を掛けるとまた口唇を塞いだ。
今度はただ触れるだけじゃなくて、強引に彼の口唇を割り開いてその口内まで侵入した。
「…もう判る、でしょ」
切原は何にも答えなかった。
でも拒みもしなかった。
それをいいことに、越前は彼のシャツに手を掛けた。
制服のボタンを全部外すと、真っ白な切原の肌が露わになった。
吸い寄せられるように鎖骨のあたりに口唇を落とす。
切原の身体がびくっと震えた。
今まで他人にそんな風にされたことなんかあるはずもないから当然なのだけれど、
よりによって今することはないのに、と越前は自分でも思ったがもう止められそうにもなかった。
「怖くないから…じっとしてて…」
どこか紙の上で見たような気がする月並みな台詞が口をついて出た。
切原は幻でも見るみたいに越前をじっと見たけれど、何にも言わないで瞳を閉じた。
越前はそんな彼の冷たい指に自分の指を絡めて、もういちど口唇を重ねた。
***
―ガバッ
「!」
うつらうつらと夢の中を彷徨っていた越前は、ふと前日のことを思い出して勢い良く飛び起きた。
反射的にきょろきょろと部屋の中を見回すと、目的の人物はすぐ隣で漫画を読んでいた。
「やっと起きたのかよ。ヒマだったから漫画勝手に読んでるし。」
「べ、別にいいけど…」
それはびっくりするくらいいつもの切原で(いつもの、と言えるくらい知っているわけじゃないけれど)、越前は拍子抜けした。
「起こしてくれれば良かったのに…」
「いや、俺も起きてから1時間くらいしか経ってないし」
「それにしてもアンタの方が先に起きるなんて…」
切原は、黙って部屋の時計を指差した。
針は午後3時過ぎを示していた。
「3時!!!!??????」
「いいじゃねえか、日曜だし」
(確かに、朝方までやってたのは覚えてるけど…)
どうやら初めてのセックスで自分は相当疲労していたようだ。
切原はこんな時間に起きるのはいつものことらしく落ち着き払っていた。
まぁそれを抜きにしても彼はすっかり頭が冷えたようで、昨日の今にも壊れそうな切原の姿はどこにも無かった。
「…切原さん、ゆーべ俺とやったことちゃんと覚えてる?」
越前は思わずこう尋ねてしまったほどだ。
「昨日の今日で忘れるわけねえだろ」
切原はちょっと頬を染めて言った。
「良かった、無かったことにされたのかと思った…」
「バーカ」
越前は彼の手から漫画を取り上げるとベッドの脇に置いた。
「あ、バカ、いいとこだったのに…」
越前は幾らでも貸してあげるから、と早口で言って彼に抱きついた。
「…切原さん、俺ヒキョーだった?あんな状態のアンタに付け込むみたいなことして…」
別に、と切原は言った。
「…べつに、そこまで正気じゃなかったわけじゃなかったんだからな」
「そこまでって…」
「…誰でも良かったわけじゃないってことだよ」
こんなこと言わせるなよ、と切原は言った。
「…うそ」
「失礼だな。誰でもいいように見えるのかよ」
「俺だったから、ってこと?」
「別にそこまでは言ってない」
「…俺じゃなかったら突き飛ばして逃げてた?」
「……多分。」
「「…」」
越前は頬を染めた切原の頬に口付けをすると、昨日言いそびれた言葉をそっと耳元で囁いた。
切原は少しだけ嬉しそうに笑って、俺も、と言った。
中島みゆきの例の歌がタイトルw 赤目モードの赤也は滅茶苦茶ケンカ強そうです。浅倉(龍騎)っぽくて(つーかむしろまんま?w)
それにしても、いちばん踏み込んではいけない道に思いっきり踏み込んだ感がバリバリです_| ̄|○
つーか私が小学生(多分)の時の歌だから今の子は知らないかも…w
知らない人は検索してみようw 家なき子のOPだったあたりが既に…_| ̄|○
ちなみに私がいちばんリョ赤っぽいと思うのは有名な「君が笑ってくれるなら僕は悪にでもなる」の部分ではなくて(そりゃそうだろ)
「君が荒んだ瞳で強がるのがとても痛い」の部分です。アハハヽ(゜∀。)ノ
色んな赤也を書いてみよう期間中だったのでいっちょアリガチ?なのも書いてみようと思って書いたんですが微妙でした(微妙も何も)
ま、キミにキスに引き続いてヘタレ小説第2弾ってかんじ(おいおい)
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