俺はお前なんかいなくたってやってけるんだよ!



―ある日ほんの些細なことでケンカをしてそんなことを口走ったのが原因で、それは決行されることとなった。





「…切原さん、じゃあ、試しに別れてみる?」


「…!」


「あ、ホントに別れるってのはナシね。ていうかアンタが俺と別れられるわけないデショ」


「…(…コイツ…)」


「一週間…じゃちょっと短いかな、そうだね二週間。メールも電話もナシね。勿論会うのも」


「あー上等だな。泣くなよ。」


「…そっちこそ」








お別れごっこ






最初の3日は驚くほど早く過ぎ去った。
朝起きて学校に行って、部活から帰って来て寝て、また朝が来て。


(…俺、もしかしてそんなにアイツにハマってなかったのかも)



そんなことをうっすらと考えるくらいで。
―雲行きが怪しくなって来たのは4日目を過ぎた頃。



「赤也チャン、あの青学の1年と別れたの?」

練習後の部室で、先輩の丸井にそう言われて、切原は慌てて能天気な先輩の口を両手で塞いだ。


「…丸井先輩!声でかいッス!」
「いいじゃない、皆知ってるよ〜」
「…」


それよりねぇ、別れたの?と丸井は繰り返した。


「…なんで」
「だってあのチビマメに迎えに来てたジャン。最近ぜんぜん見ないし」
「…そりゃあそうでしょ」
「なんで?」


切原は溜息をついて、いまお別れごっこしてるんス、と言った。

「何それ?」
「そのまんまッスよ。会わない、電話しない、メールしない。」
「エッチは?」
「…出来るわけないっしょ」
「なんでそんなことになったわけ?」
「…ケンカしてて成り行きで。」


すっげぇなー、と丸井は目を丸くした。

「俺たとえケンカしてても絶対にそんなん無理。ごめんあやまるからそれだけは勘弁して下さい(土下座)って泣きつくね」
「…(そりゃ、丸井先輩はそうでしょうよ)」
「つか越前もお前にそう言わせたかったんじゃねえの?」
「…(…そうなのか?)」
「あー二週間もエッチしないとかありえない!無理!!」
「…」


まぁせいぜい頑張れよ、とか言って丸井は帰って行った。(ジャッカルと共に)
切原は予定もなくてヒマなので部長の幸村の見舞いに行った後普通に帰宅した。
母親や姉にまで越前くんとケンカしたの?とか言われてちょっとヘコんだ。
確かに良く越前ちに泊まりに行っていたし、彼も同じくらい自分の家に泊まりに来ていたけれど。



(…確かにエッチはしたい、かも)


夜、ベッドに入ってそんなことを思う。



(…しょーがねぇ今日はひとりでするか…って何をオカズにすればいいんだろう)


(…越前?)


(…)



とてもひとりでする気にはならなくて、切原はそのまま瞳を閉じた。



(…このベッドこんなに広かったっけ)

(…)




『…そうだ、切原さん』

『どうしても会いたいって泣きつけばいつでも会ってあげるよ』

『授業中でも部活中でも夜中の12時でも飛んでくから』



そう言えばあの生意気な1年は別れ際にこんなことを言っていた。


(…ぜったい泣きついたりするもんか!!)


切原はもともと相当負けず嫌いな方なのでそんなギブアップみたいな真似は死んでもしたくなかった。
二週間後には平気な顔をして、平然と彼の前に立ちたい。


(…それにしても眠れねえなぁ。もしかして淋しいのかな)


何となく携帯電話を取り出して、受信メールを見てみる。
と言っても越前はそんなにマメにメールを打つ方じゃないし、甘いことを言うタイプでもないので、暫く会えなかった時(3日とか)のおはようとかおやすみの挨拶とか、予定を尋ねるメールとか、待ち合わせ場所の確認とか、そんなのばっかりだったけれど。
好きとかそんなことは、いっそ潔いほどに入っていなかった。


(…まぁ俺もアイツも、滅多に言わないし)

(…だいたいなんで俺が泣きつかないといけないんだよ)

(あっちが泣きつけばいいだろ、あっちが!)

(ああムカつく…)



そんなことを考えているうちにこの日は眠ってしまった。




***



そうして、一週間目の土曜日が来た。


(…や、やっと明日で半分…!(ゼェゼェ←息切れ))


その日の部活は午前中で終わり、いつもならそのまま越前と泊まりのフルコースだが今週はただひたすらヒマだ。(むしろ来週も)


(練習、午後まであれば良かったのに…)


赤也チャン、何とかもってるのは凄いけどやつれてるねぇ、と丸井が楽しそうにケラケラ笑っていたのが物凄く腹ただしい。
真田なんかは、練習に支障が出るくらいならさっさと仲直りしろ!とか言い始めるし。

(…べつにケンカしてるわけじゃないし。(こうなった原因はケンカだったけど)つーか副部長にだけは言われたくなかった_| ̄|○)


越前は何してるんだろう、とか思ってふと不安になる。
部活の連中と遊んでるのだろうか。
まさかとは思うけど浮気なんてしてたりして…


(―こんな淋しいの、俺だけなのかな)


今まで撮り溜めてたビデオでも消化するか、とか思うけど何を見ても頭に入らなそうなのでフテ寝することにした。
越前の夢なんか見ないことを祈るばかりだ。


(明日どーしよ…つーか来週もか_| ̄|○)








―そして、一方の越前。


(今日も電話来なかった…!)


携帯電話を前に顔を顰める。


(…ぜったい一週間のうちに電話来ると思ったんだけど)

(…俺がいないと泣いちゃうくらい淋しがりやのくせに…!!)

(…あの人ぜったいヤケになって我慢してるんだ、ぜったい)

(…泣き虫のくせに強がり)

(そいであのガムの人とかハゲの人とかオッサンとかヘタするとあの美人な部長と遊んでるんだ)

(…まさか浮気なんてしてないと思うけど)

(…だってあの人、俺にベタ惚れだし)

(…多分)

(…でも淋しがりやだから、今誘われたらふらふらついてくかも…!!)

(…いやいや、まさか)

(…一週間にしとけば良かったかな)



父親が、携帯を前に表情七変化をしている自分を見て、お前ついにフラれたのかーとか言ってケラケラ笑っている。(忌々しい)
サドの星の王子の不二なんかも、ケンカでもしたの?とか言いつつ妙に嬉しそうだった。
僕と裕太はケンカなんかしたこともないよ、とか意味不明な自慢までし始める始末だ。

(だいたい不二先輩たち、思いっきりケンカしてなかったっけ…)


不機嫌なオーラを思いっきり放っていたせいか、大石なんかは物凄く自分に気を使っていたし、
いつも無駄にひっついて来る菊丸なんかは別の星の第六感(シックスセンス)なのか半径5m以内に近寄ろうともしなかった。
桃城は自分に5日連続でマックを奢らされたのがよほど恐怖体験だったらしく、海堂と共に逃げるように帰ってしまったし。


(あー、ヒマ)

(でもぜったいメールなんかしてやるもんか!)

(せいぜい俺を想って淋しがって泣いてればいいんだ)



越前も切原以上に負けず嫌いなので当然ながら同じパターンで意地になる。


(…とりあえず、ヒマ)

(…とりあえず、明日どーしよ(黙))




***



そんなこんなで10日が過ぎた。



―きゅっ。

切原はカレンダーにバツをする。
彼氏とのデートを指折り数えて待っている女の子にでもなった気分で複雑だ。


(…あとは、今週末を何とか乗り切れば…。ゲームでもしてれば時間過ぎるし)


二週間が過ぎた後の待ち合わせ時間と場所は決めてある。
あともう少し我慢すれば、月曜日の放課後には会えるはずだ。


(…二週間音沙汰無しって、新しいプレイか?これ)

(ていうかたかだか10日でこの有様って…_| ̄|○)

(こんなんで、もしホントに別れたら俺どーなるんだろ…)


何となく嫌な予感が切原の頭を掠める。



『アンタが俺と別れられるわけないデショ』


そうなのかも知れない、と思う。


(俺の悪いとこは、依存しすぎるとこだな…)

(―越前が俺を甘やかすから悪いんだ)



あんなに優しく呼ぶから。
あんなに優しく触れるから。


オカしくなるのも仕方ない、と思う。
自分は悪くない、―多分。
軽く泣きたくなるくらい淋しくなって、切原は布団を頭まで被った。






***



―14日目、日曜日の夜。
越前はベッドの中で、明日はどんな顔で待ち合わせ場所に行こうかな、とか考えていた。



(泣いて目が腫れてたら笑ってやろー)

(…最初になんて言おうかな)

(淋しかった?とか?)

(俺のありがたみが判った?とか?)

(それとも、俺のこと考えてひとりでした?とか?)


どれもこれもぱっとしないなぁ、とか考えていると、イキナリ携帯電話が鳴った。


(…え!???)


もうすっかり諦めていて覗くことも忘れていたその携帯。
ディスプレイにはしっかり、「切原赤也」と出ていた。


(ウ、ソ…)


慌てて通話ボタンを押す。


『…よう、越前』

受話器の向こうからは懐かしい切原の声がした。
たった二週間聞いていなかっただけなのに、本当に酷く懐かしかった。


「…切原さん」

夢でも見てるみたいで、ぼんやりと恋人の名前を口にした。
やっぱりびっくりしてる、と切原は電話の向こうで少し笑った。


「なに、こんなすれすれでギブアップなわけ??」
『バーカ、時計見てみろよ』


(…?)


言われるままに越前が時計を覗き込むと、きっかり12時を過ぎたところだった。


『もうごっこはおしまいだろ?』
「…今の今まで連絡ひとつよこさなかったくせに」
『お前こそ』
「…」
『平気だったわけ?』
「…まさか!」

俺も、と切原は少し照れたように言った。


『…俺も淋しかったよ』
「…」
『すっげー会いたかった』
「…」


まさかそんな言葉を聞けるとは思わなかったので越前はクラクラした。
二週間必死で我慢した甲斐もあるというものだ。


「…俺も、切原さんとしたかったよ」

そっちかよ!と切原は笑った。


『まぁでも、俺もしたかったよ』
「…ひとりでした?」
『しよーと思ったけど、何かする気にもなんねーの(笑)』
「…俺も(笑)」


いいじゃん、今からすれば、と切原は言った。


「…え?」


『夜中の12時でも飛んできてくれるんじゃなったっけ?』


行く!!とか何とか越前は叫んで、両親に行き先を告げるのも忘れて家を飛び出した。
今だったら電車もまだある。
背中から父親がやっと仲直りしたのかーとか何とか言っていたような気がするけどもう気にもならない。




***



二週間ぶりに見る恋人は、いつもの駅の改札で自分を待っていた。
自分の姿を認めると、こっちを向いて少し笑った。

越前は思わず走って、人目も気にしないで彼にとびついた。
懐かしい感触に鳥肌が立つ。
切原のシャンプーの香りがふわり、と越前を包み込んだ。


「…アンタばかじゃないの、折れれば良かったのに」
「…お前こそ」
「俺が折れるわけないでしょ」
「俺も折れるわけねえだろ」
「「…」」


恥ずかしい抱擁を経て、とりあえず駅の外に出てから、軽く手を繋ぐ。


「「…」」

何となくふたりして無言になった。


越前は切原の手を引いて無理矢理かがませると、人通りが少ないのをいいことに背伸びして口唇を塞いだ。
当然ながら切原も拒まないので、暫くのあいだ懐かしい口付けを楽しむ。



「…久しぶり」
「ホントだな」
「…淋しかった?」

切原はコクンと頷いた。


「…浮気してない?」
「するわけねえだろ」
「良かった」


むしろお前のことばっかり考えてたよ、と切原は言った。

「判ってるよ、アンタ淋しがりやだもん」
「…うるせえな」


越前はクスクス笑って、繋いだ手の指を軽く彼のそれに絡める。
切原も笑って、越前の額にキスをした。



そうしている間に駅からそう遠くない切原の家に着いた。
寝静まったその家の階段を音もなく駆け上がり、飛び込むようにベッドに潜り込む。
やっと思う存分ひっつける環境を手に入れて、ふたりはここぞとばかりにべたべたべたべた(略)ひっついた。



「あーもう、ホントに良く我慢したよ」
「…全くだな」
「もうケンカしたとしてもこんなこと二度としたくない(キッパ)」
「お前が言い出したんだろ!」
「アンタに泣きながら会いたいって言わせたかっただけだよ(キッパ)」
「…(丸井先輩が言ってたこと微妙に当たってる!!Σ(゜Д゜;))」
「それは拝めなかったけど、まぁいいや(笑)」


越前は笑って、深く口付けながら切原のTシャツに手を掛けた。


「…好きだよ、切原さん」
「…俺も。」




***




「…それにしてもホント、禁断症状で死ぬかと思った。」
「俺も。新しいプレイか何かと思った。何か軽く泣きそうになったし。」
「こんなプレイ嫌だよ。つーか泣いて電話してほしかった(しつこい)」
「意地でもしねぇ(キッパ)」
「…切原さん、もうやり方忘れたんじゃない?」
「それはお前だろ」
「俺はアンタのイイところまで全部覚えてるよ。つーか今日はもう明日のこととか気にしないから。腰とか立たなくなっても知らないし。」
「…いいじゃん、明日はサボれば」
「…Σd(゜∀` )」




「赤也のやつ、来ないのう〜」
「やっと仲直りして徹夜でヤってるか、マジで別れて自殺したかどっちかじゃない?」
「…丸井くん!なんてことを!!Σ(゜Д゜;)」
「赤也は凄いのう。俺は柳生と一秒だって離れとーない(キッパ)」
「に、仁王く……///」
「俺も!俺もジャッカルと…!!」
「お、お前はそれ以上喋るな!!!」
「全員、恋愛ごときに右往左往されるなんぞたるんどるーー!」
「まだ蓮二をモノにも出来てない人に言われたくないよ(キッパ)」
「!!!!Σ(´∀` )」



「オチビ、今日休みにゃの?さてはやっと仲直り出来たのかにゃー?」
「…なんだ…もう?つまらないね(満面の笑み)」
「………((((゜Д゜;))))」





ああ、リョ赤を書いたなぁって初めて思った話。(今まで書いてたのはいったい…;)結構気に入ってます。
とりあえず、2週間くらい牛肉を食わないと禁断症状が出るあの感覚を思い出しながら書きました(だいなしだ!)
それと、給料日2週間くらい前の切羽詰ったあの気持ちを詰め込んで。(だいなしだ!←2回目)
つか背景余りにも関係ない画像ですね…_| ̄|○ いや願いを込める意で。(こじつけだ!Σ(´∀` ))
だって探すのめんどくさかったんだもん(死ね)
つかこの話は機会があればマンガにしたいです。(機会がない可能性200%)
ちなみにカケオチごっこの1で書くって言ってたのはこの話のことです(判ってるよ)