例えば、恋人の寝顔とか見ててもの凄くムラムラしたりなんかして。 そういう時どうするかって、相手を起こす以外のことは思いつかなかったわけで。 髪の長い猫 「…跡部、ねぇ跡部」 しつこく揺さぶっていると、恋人はもの凄く嫌そうにビックリするくらい長い睫毛の下から青い瞳を開いた。 「…んだよ」 鬱陶しそうなその表情ですらも酷くきれいだと思う。 眉間に皺を寄せているのはいつものことで、その大きな瞳は半分くらいしか開いていなかったけれど。 それでも宍戸は言った。 「…どうしよう、ヤりたい」 跡部ははぁ?と言って宍戸を見返した。 「…何を?」 聞かなくても判るようなことを聞いてみる。 この程度の意地悪はいつものことだ。 「…セックスに決まってんだろ」 宍戸も恥ずかしげもなく言う。 「…こんな早朝からか?」 「したいもんはしたい」 「…生憎だが俺はもう少し寝たい。したいなら1人でやれ」 ええー?と宍戸は情けない声を出した。 「すぐそこにお前がいるのになんで1人でやんないといけねえんだよ」 …お前が動きたくないんだったら俺がヤるけど?? 勿論俺が突っ込むって意味だぜ、と宍戸は未だに叶っていないその夢をさりげなく切り出したけれど軽くスルーされた。 「1人でやれよ、見ててやるから」 「眠いんじゃなかったのかよ。だいたいそういうのはちょっと…」 だいたい、自分の指じゃ意味ないし、と小さな声で付け足すと跡部は笑った。 「…じゃあ俺様の指を使っても構わねえぜ?」 「…え」 「俺の指使っていいから、自分で入れてみろよ」 ポカーン…(宍戸の心境) 「…何で最初からそこ限定なんだよ!!前は無視かよ!!」 「前でも後ろでも構わんぞ」 「…跡部、もしかして寝惚けてる??」 「あーん?誰に向かってモノ言ってんだよ」 (…絶対寝惚けてる) 「ホラよ」 跡部は白くて細くて綺麗な指を、その美しさに反した乱暴な仕草で宍戸の顔の前に突き出した。 「いつも俺がどんな風にするか覚えてるだろ?」 宍戸は断じてそんなことするかと思ってはいたのだけれど、跡部の白くて細い指を目前で見ているうちに、口論してるウチに治まったはずの先ほどの興奮が蘇って来て、魔法にでもかかったみたいにその人差し指の先をぺろりと舐めた。 「…覚えてねぇよ」 「嘘つけ」 思い切って第一関節くらいまで口に含むと跡部が結局やるんじゃねえか、とニヤリと笑った。 「…俺はともかく、お前こんなんでキモチイイの?」 「ま、お前にしゃぶられるよりはイイかな」 お前ヘタクソだし、と跡部はしらっと言った。 うう、悔しい。こうなったら絶対にその気にさせてやる。と宍戸は思った。 下を脱いで、自らの唾液で濡れたその指を下半身に持って来る。 跡部はまたニヤリと笑った。 「…好きなとこ触っていいんだぜ?自分のいいとこくらい判るだろ?」 「…」 いつも勝手に触られて舐められてあんあん言ってただけなので、自分で触るとなると妙に緊張して、初めて自慰をする子供みたいにおずおずとそれに触れた。 自分でしてるのにその手が跡部のものだというだけでいつもの3倍は興奮する。 このまま触ってたらものの数分でイってしまうと思い、濡れた恋人の指を後ろの方に持って行った。 跡部はと言えば顔色も変えずにジロジロ露骨に局部を見ている。 こういうのを視姦というのだろうか。 「…すげー濡れてる」 「…お前の指だからだろ」 小さな声で返事はしたものの、恥ずかしくてもう跡部の顔が見れない。 目が合わないように下を向いて、指先をそこにあてがう。 「…そーいやお前、いっつも1人でやるときそこ使うの?」 「女じゃあるまいし、使うわけないだろ!」 宍戸は半泣きで答えた。 入れるという行為は妙に勇気がいる。 女のひとりエッチというのはこんな気分なんだろうか? そこにそろそろと跡部の人差し指を入れると、そこが指の侵入を歓迎していやらしくヒクついたのが判った。 (う、っわ……) 「…熱ィな」 跡部は相変わらず顔色も変えないで、すげー興奮してるだろ、とか何とか言った。 宍戸は勢い良く首を振った。 ヤバイ。 指1本入れただけでイきそうだ。ありえない。 「そうじゃないだろ宍戸?」 跡部は低い声で恋人の耳元に囁いた。 「…お前のイイところはここだろ?」 そう言って彼は内部の指先をほんの少しだけ動かした。 「…やッ…動かす…な」 「やっぱりすげー感じてるだろ」 跡部は楽しそうにくすくすと笑った。 宍戸はゼイゼイ息を切らせて言った。 「…跡部って、もっとノーマルなやつだと思ってたけ、ど」 「俺様のどこがノーマルじゃねえんだよ」 「…こんなことで喜ぶとは思わなかったし」 「…別に喜んでねえよ」 「ずいぶん楽し…そうだけど」 まぁお前らしいけどな、と言って宍戸は指をもう1本入れた。 (…もう恥も外聞もないってかんじだな) 「ッ…あぁ…ッ おまっ…本当にこんなの見てて…楽しいの?」 快感に素直なところは嫌いじゃない。 良くも悪くもあらゆることに対してコイツは貪欲だ。 そういうところは気が合っているのかも知れない。 「…どうだろうな」 「何、だよッそれっ…」 とか何とか言ってる間に彼はアッサリ達してしまい、白い液体が跡部の手にパタパタと落ちた。 「はっ…あ…」 「…入れて欲しい?」 「…入れてくれんの?」 「バッカ。ここまでしたんだから自分で入れろよ」 ホラ、と跡部は宍戸に向かって両手を広げた。 宍戸は促されるまま跡部に抱きついた。 「…はぁ、俺もう眠いよ」 「…ハ???」 「イったら満足したし」 「お前が1回で満足するわけねーだろ。つかとりあえずこっちの責任を取れ」 跡部は急に焦って宍戸の肩をガクガクと揺らした。 宍戸は少し上を向いてそんな跡部の頬にキスをした。 「…へー、やっぱり興奮したんだ?」 「…」 「俺がお前の指で感じてるの見て感じてたんだ?」 しょうがねえなぁ、跡部は、と宍戸はごそごそと彼のベルトを手早く外した。 「口でしてやろーか?」 「必要ねーよ。ホラ、早く入れろ」 「…ったく、結局俺が入れるのかよ」 腰を浮かせてそれをゆっくりと自分の中に埋めてゆく。 跡部の熱が直に伝わって宍戸は悲鳴をあげた。 「…や、っぱり指とは違う、な(笑)」 「ったりめーだろ…」 跡部は宍戸の口唇を塞ぐと深く口付けた。 「ホラ、動けよ」 「だっ、て…」 両足がガクガクと震えてとても持ちそうにない。 仕方がないので跡部は腰に手を添えて軽く揺さぶってやる。 「やあっ…動かすッ…な!」 「イヤ」 「…てめッ…そんな…目で見ンな…よ、愉しいか?」 跡部の手に合わせてぎこちなく動く宍戸がちょっと上から跡部に抗議する。 彼は何にも答えないで宍戸の上着のボタンを乱暴に外すと、露わになった突起に舌を這わせた。 「…っ!跡部!」 「お前ここも好きだろ?」 「…動いてる時くらい邪魔すんな、よ…!」 跡部はその意見を無視して、そこに軽く歯を立てる。 宍戸の身体がビクンと跳ねた。 「あとべ!!」 「…黙ってろ」 情事の時やたら黙らせようとするのは彼の癖だ。 そんなに主導権を握りたいのなら、最初から素直に抱いてくれれば良かったのに。 そんなことを宍戸が考えていると、跡部はまどろっこしくなったらしく、乱暴に彼を押し倒すと下から突き上げた。 「…やっぱりこの体勢がいちばんいいな」 お前を制圧してる感じが、と跡部はニヤリと笑って言った。 「じ、ゃあ最初からそうしろ…よ…」 俺も楽だし、と続ける。 「さっきは本当に気分じゃなかったんだよ。つーか眠かった」 「それは悪かった、な…」 「まぁお前のショーを見て目も覚めたよ(笑)」 跡部は笑いながら宍戸の口唇を塞いだ。 次に目を覚ましたら昼過ぎだった。 こうなるから嫌だったんだよ、と思いながら隣を見ると、いつもにも増して疲れたらしい宍戸はまだ目覚める様子もなくぐっすりと眠っていた。 (…フロでも入ろ) 宍戸の長い髪をちょっとだけ指で玩んで、跡部はベッドから出た。 彼と付き合ってると疲れるけど、もしかしてあらゆるところが気に入っているのかも知れない。 死んだように眠る宍戸の頬にキスをひとつ落として、跡部はバスルームのドアを開けた。 大きな鏡に映る、さっき宍戸に爪を立てられてついた背中の傷が目についた。 (…万年発情期の猫みたいだけどな…)
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