「…つまんねー」 それは予想以上につまらない内容で。 ベッドに寝転んで見ていたのもあって、ビデオの中の女優が悲鳴のような声を上げながらもう何度目なのか判らない絶頂を迎える頃にはすっかり眠くなってしまった。 「…跡部ぇ、トイレ貸して」 「眠みーし、テキトーに抜いて寝るわ」 バター犬ポチ 欠伸混じりにそう宣言すると、隣で顔を顰めていた跡部は、更にその整った顔を顰めるとゲンコツのグーで宍戸の頭をぼかっと殴った。 「…何すんだよ!!」 「俺はこんな下らないものは見たくないと言った筈だ!貴様が一緒に見ようって言ったんだぞ!!」 「だって、お前がAVみたことねぇって言うから」 「てめぇがやってるとこ以外バカバカ飛ばすからストーリーが判らなかっただろうが!!」 「AVにストーリーも何もねぇだろ、皆飛ばすっちゅーの!」 「挙句人んちのトイレで抜いて寝るだぁ?!ふざけんな!」 跡部は乱暴に宍戸を引き寄せると軽くキスをして、抜きたいなら今すぐ抜いてやるよ、と耳元で囁いた。 宍戸はくすぐったそうに笑ってうーん、と言った。 「別にさ、俺がお前んちのトイレでイこうがお前のベッドでイこうが一緒だと思わねぇ?」 「…何だそれは」 「すげー眠ィの。お前と今ヤったら、少なくとも1時間は寝れねぇだろ?その点トイレで抜けば10分で…」 2回目のゲンコツが飛んできて、最後まで言葉を紡ぐことはかなわなかった。 「そんなに眠いならそのまま寝ろ!永眠してろ!」 「…それでもいいんだけど中途半端に興奮しちゃったからなぁ」 「…貴様ァ」 まぁ、でも と言って宍戸は笑った。 跡部の腕に自分のそれを回す。 「…お前にぎゅーってされて眠るのも悪くないけどな。エッチしなくてもすげー幸せ」 「…」 返事をしなかったらそれを肯定と受け取ったのか、宍戸はちょっと目をこすって瞳を閉じた。(本当に寝てしまうつもりらしい) その仕草が可愛いと思う。 「…寝かせない」 いきなり自分の方を向かせて再び口唇を塞ぐ跡部に、宍戸は眠そうな瞳を向けてキョトンとしたけれどすぐ笑った。 「何だよー、お前眉毛ひとつ動かさなかったくせに何げに興奮してたの?」 「……」 なぁんだ、お前も意外と俗っぽいとこあるんだなーとか言いながら宍戸は嬉しそうに跡部の腰に手を回した。 バカ言え。 あんな下品なビデオで興奮なんかするか。 俺が興奮したのは…… …言わないけど。 「…眠いんじゃなかったけ」 結局いつもの行為を繰り返したあとで。 跡部がシビアに声をかけると、宍戸はお前が寝かせないって言ったんだろー、とちょっとふくれた。 「まぁもー寝るよ、スッキリしたし」 「…」 「やっぱ俺たちにはこんなの要らないなー何の参考にもならないもんなー」 宍戸はビデオデッキからテープを取り出すと、ちょっと肩をすくめた。 「当然だろうが。今度持って来ても我が家のビデオデッキには入れさせてやらん」 「何かエロいなーv そのセリフーv」 「…」 それにしても面白くなかったな〜、と言って宍戸はビデオのケースを放り投げた。 面白くもないも何も、お前結合時以外は飛ばしまくって殆ど見てねぇだろ、と思ったけど黙っていた。 「タイトルが面白そうだったから借りて来たんだけどさぁ〜」 やっぱマニア向きだったな〜忍足だったらこういうの好きかな〜でも滝に実践したら余りにも可哀相だから回すのやめとこー、とか何とか宍戸は早口でまくしたてた。 跡部は彼の投げたビデオのケースを拾い上げるとそこに書かれた文字に目を落とした。 ”バター犬ポチ” …そういえば、犬が出て来た気がする、と跡部はぼんやり思った。
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