あかや、と呼ぶ声に瞳を開けると目の前に大好きな人の顔があった。



「おはよう」

その人はニッコリ笑うと朝の挨拶をした。



「ぶ、ちょ…」

寝惚けて事態が飲み込めない。

(なんでこの人と俺が同じベッドにいるんだっけ…)



フフ、と幸村は笑った。

「心配しなくても、何にもしてないよ」

(…いや、そうじゃなくって…)



「赤也が帰りたくないって言うからさ♪」
「!?」


ガバッと飛び起きると、見慣れた病院の四角い部屋だった。

(…病院!?)








guilty




(それじゃ俺、一晩中病院に…!!??)

そう言えば昨日、帰りたくないと恋人に泣きついた…ような記憶がある。
夜になって1人で家路に着くのが淋しくてたまらなくて。
泣いたってどうにもならないと、もう十分すぎるくらい判っていたのに、恋人があんまり自分を甘やかすものだからつい甘えてしまった。
幸村は黙って自分を抱き締めていてくれたのだけど。


(…俺あのまま寝ちゃった!?)



「バババババレなかったんスか?」
「まさか」

幸村はケロリと言った。


「『可愛い弟さんねー』ってさ」
「…そんな…制服着てたのに」
「ベッドの中じゃバレないでしょ」

幸村はにこにこと言った。
確かに弟ということなら、帰りたくないと泣きついても不自然じゃないけど…



「そうそう、赤也の家には俺が責任持って連絡入れといたから心配することないよ」
「…ごめんなさい迷惑かけて」
「いいよ、久しぶりに赤也と一晩過ごせて嬉しかったし」

ここが病院じゃなかったらあんなことやこんなことが出来たのになーと幸村は小さな声で耳打ちをした。
切原は顔を赤くして幸村を見た。



「ホントごめんなさい…俺…我侭ばっかで…」
「赤也が甘えてくれるの嬉しいよ。俺ろくに恋人らしいことしてあげられないまま入院することになっちゃったからさ」


幸村は、まだベッドの上で赤くなったままの切原にキスをした。
そうしてその耳元で囁く。


「…赤也、言っとくけど俺は毎日キミを帰したくないと思ってるんだよ?」
「…ぶちょー‥」
「幾らでも甘えなさい。これは命令」

幸村は微笑んで小首を傾げた。
切原はコクンと頷いて、幸村にしがみついた。



「…ぶちょー、今何時スか?」
「…7時半。もうすぐ朝練が始まるね」
「家帰ってるヒマはないから直接行くッス」

切原は名残惜しそうに、彼の口唇にキスをすると、ベッドから飛び降りた。
また放課後来るッス、と言ってドアノブに手を掛ける。



「…部長」

「愛してるッス」

「…うん、俺も」


いつもの返事を聞き終えてから、切原はぱたんとドアを閉めた。
いつもいつも、ドアを閉めるこの瞬間がいちばん痛い。
痛くて痛くて、その痛みに押し潰されそうになるから、走って病院を出る。
一度も振り返らないようにする。
もう病院が見えなくなるくらいのところまで全力疾走して、そこでやっといちどだけ振り返って、泣きたくなるのをこらえて前に足を進める。
彼が入院してから、涙なんか枯れ果てたんじゃないかと思うくらい泣いたのにまだ出るなんて。




『嫌ッス…』
『帰りたくない…』


(…俺ってガキ)

あんな風に訴えるのはもう何回目だろう。
1分1秒でも離れていたくないなんて。
まるでテレビドラマの中の惨めなオンナにでもなったような気分だ。


(…かっこ悪)




「赤也ちゃん、朝帰り?」
部室のドアを開けると、幸村と同じ年の先輩が朝っぱらからガムを噛みながらニヤニヤと切原に声を掛けた。


(…なんでバレてんだろ)


「昨日みんなでチョコ食べてた時に汚してた制服のシャツがそのまんまですよ、旦那」
丸井はニヤニヤと切原に耳打ちした。


(…げッ)

(…俺こんなんで部長に泣きついて…_| ̄|○)



「それよか病院に泊まったの?いい度胸だなー、お前」
「…まぁ、気がついたら泊まってたっていうか…」
「ギャー!赤也ちゃんのエッチー!!」

丸井は嬉しそうに切原の背中をバンバンと叩いてシャツを脱いだ。

(…そういう意味じゃないんだけど)



「そういう先輩こそ、跡が丸見えッスよ」
「俺は別に隠してないもんッ♪」
「…そうスか」
「ジャッカルとの愛の痕跡、うらやましかろー!!」
丸井は大声でそう言ってワッハッハと笑った。


(…ぜんぜん)


1人で騒ぐ丸井を置いて部室に出ると、ジャッカルが部室の前で凍り付いていた。
どうやら丸井の大声が聞こえていたらしい。


「てめっ…!何恥ずかしいこと言ってんだよ!!」
「あー、ジャッカルゥ〜v」

おはよー、今日も愛してるよーとか何とか言って丸井はジャッカルに飛びついた。



(…やっぱり、ちょっと羨ましいかも)


じゃれる2人を遠い目で見ながら、そんなことを思う。
ついこのあいだまで、自分もあんな風に恋人に毎日毎日うざいくらいじゃれついていた。
本当についこの前のことなのに、3年くらい昔のことのような気がする。


コートに行くといつもの通り1番乗りで来ていた真田がちらりと自分を見た。
おはよう、とか何とかいつも通りの朝の挨拶の後で、彼はおもむろに切原に尋ねた。


「幸村は元気か?」
「…副部長だって、お見舞いに行ってるじゃないスか」
「お前ほど毎日は行っていないからな」
「…元気…だと思うッス」
「…むしろお前の方が元気がないみたいだな」
「…そんなことないッスよ」

しょぼんとした切原を見て、真田は溜息をついて唐突に話し始めた。



「幸村はお前のことが世界でいちばん大切なんだと言っていた」
「…え」
「昔、忠告したことがある。お前は危険かも知れないとな」

危険とは、勿論そういう意味だろう。
切原の胸がズキンと痛んだ。



「…でも幸村は笑って取り合わなかったよ」
「…」
「俺は、知らないフリをするのは赤也にとって良くないと言ったんだが…」
「…」
「『それでも俺は世界でいちばん大切なあの子を守りたいんだよ』と…」
「…」
「幸村はお前が傷つくことが嫌だったんだろうな…」


真田は少しは元気が出たか?と言って切原の頭をポンと叩いた。

「…まぁ、お前が困難を乗り越えた今だから言える話だ」



しかし、目の前の切原は元気になるどころかぼろぼろと滝のように涙を零していた。


「あ、赤也…!!??」

「あーあ、弦一郎、泣かせたね」

柳がニヤニヤ笑いながらこちらに歩いて来た。


「…いやあのこれは…!!」



「副部長…」

切原は酷く小さな声で言った。


「こんな俺なんかをそんなに大事にしてくれたから…部長は病気になんかなっちゃったんスかね…?」
「…な…何を言ってるんだ」
「時々思うんです…これは罰かも知れないって…」
「…」
「神様も酷いッス…罰なら俺に与えてくれれば良かったのに…」



―だって怖いんです
淋しくて怖くてたまらない

―ねぇ部長、アナタもそうですか?



切原は溜めていたものを吐き出すようにわんわん泣いた。
昨日も幸村のところで泣いたし、これはまさしく情緒不安定というやつだろう。

柳はそういう考え方は良くないな、と言って切原の頭を優しく撫でた。


「変なとこ1人で背負い込むのは赤也の悪いクセだな」
「そうですよ、切原くん。幸村くんもキミがそんな風に考えてるなんて知ったら悲しみますよ」
「気持ちは判るけど、子供じゃないんだからピーピー泣くなよ」

いつの間にか周りに先輩たちが集まっていた。


(うう…恥ずかしい…)


柳生がポケットから取り出したハンカチで切原の涙を拭ってくれた。

「いつでも相談に乗りますから、ひとりで妙なことを考えるのはおやめなさい」
「だめだめ、柳生に相談すると説教されるよ」
「丸井くんっ!」
「言えとるのぅ」
「仁王くんまでっ!」




「…何を言っても慰めにしかならんだろうからハッキリ言うが」

真田は真面目な顔で(いつも真面目な顔だけど)、涙を拭う切原に言った。


「…淋しかったら淋しいと幸村に直接言え。不安なことは直接言え。あいつが死んでしまうのかと思うくらい怖いなら…それも直接幸村に言え」

「…お前の不安を消せるのはあいつしかいない」


切原はコクンと頷いた。
いつもこの副部長の言うことに素直に従う気になれないのだが、今日ばっかりは正論だと思った。










「…てなことがあったんですよ」

言われた通り今日あったことを一通り話すと、幸村はベッドの上でケラケラ笑った。

「…ちょっと、真面目に聞いて下さいよ」
「だって真田が面白くて…」
「もう、みんな真剣に俺を慰めてくれたんスよ!」
「ごめんごめん…ああ苦しい」


幸村は切原を自分の腕の中に引き寄せると、道理で赤也の目が腫れてるわけだ、と言った。


「…昨日の夜から泣きっぱなしッスから」

切原は流石に泣き疲れたッス、と言った。



「赤也、俺の病気が自分のせいだって本気で思ってるの?」
「…少し」

切原は正直に答えた。


「バカだなぁ」
「だって…」
「赤也、これからする話はただの例え話だけど」
「…」
「もし仮に、本当にこれが赤也のせいだったとして」
「…」
「それでも俺はこの病気にかかったのが赤也じゃなかったことを神様に感謝するよ」
「…俺は!!」

切原は少し声を荒げた。
ハッとここが病院だということを思い出し、少し声のトーンを下げて呟くように言葉を紡ぐ。


「…たとえ俺のせいじゃなかったとしても」
「…」
「代われるもんなら今すぐにでも部長と代わりたいッス」
「…」
「部長が痛いのは…自分が痛いよりもっと痛いから」



他の誰かの痛みがこんなに自分を苛むなんて。
この人を好きになるまでは考えたこともなかった。
愛しい人がこんな四角い部屋のベッドにいるというだけで―‥
毎日毎晩、引き裂かれそうなくらい心が痛い。




「赤也…」

「―真田に聞いたんでしょ?」

「俺は赤也のことが世界でいちばん大切なんだよ?」

「俺は…」

「俺のせいで赤也が毎日こんなに泣いてるってだけで死にそうに心が痛いよ」



幸村はいつになく真剣な顔をして、背骨が折れそうなくらい強く切原を抱き締めた。
こんなに痛いんならいっそひとつに溶けてしまって何もかも共有してしまいたい、とか思うけどそんなことは不可能だということも知っている。
切原は幸村の背中に腕を回してぼんやりそんなことを思った。





―だって怖いんです
淋しくて怖くてたまらない


―ねぇ部長、アナタもそうですか?





アニプリ見た直後に書いたんでマジラヴテイストでアレですね…_| ̄|○(マジラヴすぎ!)
確か次こそラブいのを書くとか何とか…_| ̄|○ いや、ラブいのはあの拍手に載せたやつ…あれで書いたよ!(必死)
つか最初これも拍手に載せる用に書いたんですが…何か暗くて拍手向きじゃないと思って…_| ̄|○(暗)
王バクも暗いけど、これは王バクとは違う暗さというか…。(何)
とりあえず何度も言うけど真田→幸村ですよ。(もうそれはいいから)でも外見通り大人なあの子ははじめから身を引いているというか…(ノД`)
ていうかこの小説むしろ赤也総受に見えるという罠_| ̄|○(鬱)
あの赤也を慰めてるところは、上から柳・柳生・ブン太ですよ。ジャッカルは気の利いたことは言えないのでああいう時は黙っているタイプです。(ふーん)

ま、それは置いといて。病院って泊まれるんだったっけ?確か家族とかは泊まれた気がするんだけど…
幼稚園の時2週間くらい入院したことがあるんですが、幼すぎて全然覚えてません。
あ、夜トイレが怖かったことは覚えてる。確か点滴のパックを引きずって行った!(お前は糖尿かよ!)何の点滴だったのかは不明…そもそも何で入院してたのか不明。
たぶん栄養失調気味だったんだと…(戦時中かよ!)幼稚園までゴハンを食べない子供だったのでw
しかしそれ以降食べるという楽しみを覚え、食べることに異常な執着を見せる人間に成長。(最悪な成長ぶり)だからクイナと結婚したいと(ry
でも家族がいなくて淋しかったとかそういうのは全然無かったなぁ…むしろ快適に過ごしていた気すらする。あ、あと凄くヒマだった…。そして注射に恐ろしく怯えていた。
それから、
救急車の中でヤクルト飲んでたとか、そういうどうでもいいことは覚えてるんだけど…(危機感なさすぎ!)
ていうか、救急車の中でまで私にヤクルト飲ませようとしたやつは誰だよ!(確か、ばあちゃんだった気が…)
あと、私が入院したその日に、1人で(正確には誰かついてたと思うけどその頃父親家にいなかったんで誰がついてたのか謎)家に取り残されて淋しかったのか知らんけど、
妹までいきなり熱を出して私のいる病院に急遽運ばれて来たんだよね…(どんな姉妹だよ!)
私が5歳くらいだから、妹たぶん2歳くらい…?(そんな気の遠くなるような昔の話をされても_| ̄|○)
その時幼い私は本気で私の熱が妹に移ってしまったんじゃなかろーかと泣きたいくらい切なくなったんですが、今思うとなんかいっそ萌えですねハハッ(ぜんぜん!!!!Σ(゜Д゜;))
確かその日妹とベッドをシェアしてたので、たぶんこの小説のようなことも可能だと思って書いたわけですが。(それでも中3と中2じゃ無理ありすぎ!!)
まぁこんな風に、自分が病気になった時とかは、やっぱり普通に考えてあんまり痛い覚えないんだよね。
むしろママンが入院した時(240時間の孤独のあとがき参照)や妹がいきなり運ばれて来た時のが悲しかったというか…(遠い目)
やっぱ子供も大人も、人間って自分の大事な人が痛い方がずっと痛いんだよね。(何故そんなにマジになってるんですかS霖さん)
そういう話が書きたかったんですけど、何か色々詰め込みすぎて不発。
♪会えない時の胸騒ぎ〜世界中で〜これほどに〜自分以外のあの人を〜大切に想うなんて〜
あの人の痛みが判る 離れている時ほど〜♪(by globe/SWEET PAIN)
自分以外のあの人…(*´Д`)'`ァ'`ァ(今日のS霖さんはいつもにもまして狂っております)まんま幸赤だよこの歌…

とりあえず赤也たんはぜったいに罪悪感に苛まれていると思うよ!
なんせもうひとりのボク(違)に怯えてるくらいだから…(遠い目)
ああ、赤也たん…!!なんて痛々しい…・゜・(ノД`)・゜・
(*´Д`)'`ァ'`ァ、もう萌えが止まらない…。もう萌えすぎて何がなんだか…(だめだ、この人)
そいやマリクは反省してたけど、海馬の辞書には反省という文字はないようなので、やっぱり赤也たんは海馬というよりはマリクだね…(そこんところはどうでもいいから)
とりあえず私はもうだめぽ…。赤也たん奥が深すぎてあたいの稚拙な腕では全然書けません…_| ̄|○
早くゆっきーが退院しないかな…(遠い目)なんか私まで暗くなってきたのでこのへんで。(阿呆か)

何かタイトルが果てしなく合ってなかったので変えちゃいましたw(オイ)てへ☆(てへじゃねえよ)
ギルティ…有罪の。まんまですね。でもaloneよりはマシ。(真顔)
恋はギルティという天テレの歌を思い出す…(天テレ嫌いのくせに)♪恋が罪ならばあたしギルティ〜♪(確かこんな歌だったような)