02:うそつきは、どっち?



 酷く寝苦しくて目が覚めた。
 腕も足も重りでも付けたみたいに重たくて力が入らない。―そういえば酷い手傷を負ったんだっけ、とか寝ぼけた頭でぼんやりと思い出して、強力なボンドでくっつけたみたいに開こうとしない目蓋を無理矢理開くと自分の部屋の天井が見えた。
 ボロボロになってこうしてここで目を覚ますのももう何十回目になるのだろうとかそんな悠長なことを考えながら、なんとなく不穏な霊圧を感じてちらりと横を見ると―見慣れた恋人がボロボロ泣いているのでギョッとした。



「恋次…なに泣いてんだよ…」

 泣くなどという可愛らしい表現はこの場合当て嵌まらないのではないかと思うくらいまさに滝のようにぼろぼろと涙を零している。


「…い、っち…ご…」

 彼は泣き腫らした真っ赤な瞳をして、途切れ途切れに自分の名前を呼んだ。


「なんだよ、…俺が死ぬかと思った??」

 怪我人の自分でも今の恋次よりはよっぽどマトモに喋れることに多少安心しつつ、苦笑しながら尋ねると恋次はぶんぶんと大袈裟に首を振った。

「…じゃあ、どうしたんだよ?」

 子供を宥めるみたいに聞いてやると恋次は震える声でだって、と言った。


「なんかいめ、だろうと…思って…」

「…何が?」

「一護が…大ケガすんの…」

 恋次の瞳からぱたりと一滴雫が落ちた。―そりゃあさっき自分もそれを考えたけれど。
 そう言えばいつもみんなバラバラになって戦うことが多かったので、こういう状況に陥ったことは何度もあったけれど、そういう時に彼が側にいたことはそんなに無かったんだっけ。
 カッコ悪いなぁとか、そんなことをぼんやり思った。


「一護はいつもこうやってボロボロになって…でもその度に立ち上がって最後には絶対勝つけど…だけど…いつかは…」

「…」

「こんなこと繰り返してたら…そのうち、一護が死んじゃう気がして…。俺の知らないうちに俺の知らないところで、一護が…死んだりしたら…って思ったら…」

 そんなことを言いながら更にボタボタと涙を零した。
 部屋の明かりを反射しながらきらきらと落ちていく雫がみるみるうちに数を増やして、膝の上で握り締めた恋次の手の甲を濡らしていく。
 抱き締めたいと切実に思った。彼には色々な面があるけれど―こういう女の子よりも脆いところは特に気に入っていた。


「それは…おまえも同じだろ…?」

 もっともそれすら今の一護には叶わぬ願いであったので、仕方なく同じことを聞き返すだけの毒にも薬にもならない返事をした。


「俺はおまえほど無茶はしねーよ!!無理だと思ったら逃げることもあるし…」

 案の定恋次はムキになって反論した。
 そんなことを言っても戦いなんて、無茶をしなかったら死なないとか逃げていれば死なないとかいうわけではなくて、誰がどうなるかなんて誰にも判らないだろと言いたかったけれど、今そんなことを言っても益々泣かせるだけだと思ったので一護は黙っていた。


「…そいや、みんなは?」

「…みんな無事。さっきまでここにいたんだけど…、俺が…泣いて、たら、みんなどっか行った」

「…」

 そりゃあそうだと一護は思った。でかい図体でこんなに泣かれては嫌でも気を使わざるおえないだろう。


「でも、とりあえず井上に治してもらわねーとなぁ…」

 話題を反らすみたいに一護がぼんやり言うとだめ!!!!!!と鋭く叫ばれてビクッとした。


「治ったらまた戦うだろ!!!」

「そりゃあ…」

「だったらもう治させない!!」

「あのなぁ…」

 どっかで聞いたセリフだ、と思いながらちょっと呆れていると、恋次は小さな声で続けた。


「…こわいんだよ」

「怖いって…俺が死ぬのがか?」

 恋次はこくんと頷いた。


「おまえが…いつか俺から離れる時が来るかも知れないってこともこわいし…嫌だけど…」

 俯いた恋次の口唇から搾り出すように言葉が紡がれる。


「でも同じくらい―いやそれよりもずっと…俺はおまえが死ぬのが怖いし、絶対嫌だ…」

「…どうして?」

「だって…おまえには幸せになって…ほしいから…」

 きゅっと涙を拭いて、真剣な顔で恋次は言った。


「俺と…幸せになるのはたぶん無理だろうから…ちゃんと、おまえの人生で…その…」

「…」

「とにかく…こんなところで戦って死ぬなんて許さねぇ。もともと…本当は代行のおまえを巻き込んじゃいけねーのに…おまえが強いからみんなすっかり頼っちまって…」

「…あのさ恋次、もし俺が戦わなかったり―ましてや戦いが無くなったりしたら俺たち、それこそいつ会えるかも判んねー生活になっちまうかもよ?それでもいいの?」

 戦いの中でしか触れ合えない―最初から判っていたことだけれど。


「良くねー‥けど、おまえが死ぬよりはマシだから我慢する…。おまえが死ぬくらいなら一生逢えなくたって我慢する…」

 恋次は潤んだ瞳でそんな思い詰めたことを言った。どうやら本気らしくぞっとするくらい真剣な目をしていたけれど、一護はわざとそれに気付かないフリをした。
 ―そんなカオで、そんな目をして、そんなことを言うの?
 自分はむしろ、彼に一生逢えないくらいなら死んだ方がマシだと思うけれど。


「…早く死んだ方がそのぶん早くおまえのとこに行けるかも知んねーぜ?」

「馬鹿なこと言うな!戦いなんかで死んで虚になったらどーすんだよ!」

 思わずさらりと不謹慎なことを口にしてしまったら、また恋次はムキになって怒った。
 虚になるのに何で死ぬかなんてあまり関係ないような気もしたけれど、まぁそのへんは今はどうでもいい。
 それよりもまず起き上がろうと試みたけれど―鋭利な刃物で刺されたような激痛が一護の胸に走る。


「ッ―‥」

「ちょ…無理すんな、おまえ肋骨折れてんだよ!!」

 恋次が慌てて自分の身体を支えたのをいいことに、一護はそのまま恋次に抱きついた。―支えにするにはもってこいだった。


「おまえを―‥幸せにしたいって思っちゃいけねぇのか?」


「―いちっ…」

 驚いたその口唇が自分の名前を紡ぐその前に―‥一護はそこに己のそれを重ねた。


「ごめんな、心配させて…でも、俺にはこれしかねぇから…」

「…」

「恋次が俺の幸せのこと考えてくれてるのは嬉しいけど、…俺は恋次と一緒に戦いたいし、恋次を護りたいし、…恋次を幸せにしたい。」

「いちご…」

「おまえ判ってる?俺が虚になる以前にてめーなんか死んじまったら、もう転生も出来ねーんだぜ?」

 恋次は首を振った。


「だって…俺は…もぅ十分生きたし…むしろおまえが10代で死ぬ方が問題だろ…」

「俺は恋次と幸せになりてーんだ。ひとりで生きても何の意味もねぇよ」

「「…」」


 堂々巡りの予感がしたので、もぅ面倒くさくなってきて一護はそのまま相手を狭いベッドの中に引きずり込んだ。


「いちごッ―!!」

 流石に学習して誤魔かされる―と思ったのか恋次は悲鳴みたいな声で叫んだ。


「ほんとに…ほんとにおまえに死んで欲しくないんだ…!!」

 そんなに必死な声で半分泣きながらそんなことを言われて、一護は思わず目眩がした。
 これだけでもう、彼の為に死んだっていい気がした。


「―もういいよ」

「一護!!!」

 今度こそ本当にまた泣き出しそうになった瞳にキスを落として抱き締めた―‥途端、渾身の力を込めて押し返された。


「き…今日は流されねぇからな!!!!一護が絶対死なないって誓うまで泣きわめいてや…」

「死なない」

 きっぱり言い切ってやると恋次は拍子抜けしたみたいに目を丸くした。


「…なんだよ急に。ついさっきまで言ってたことと矛盾してるじゃねーか!!!!」

「いや、今言い合いしながら気付いたけどよ。つまりはどっちも死ななきゃいいってだけの話だろ」

「だけっておまえ…。―まぁ、そーだけど。そんなにうまく…」

「うまくいくからおまえも誓え。約束しちまえばそんだけで気持ちが違ってくるだろ」

 そうか??とでも言いたげに怪訝な顔の恋次に、いいからと真っ直ぐ目を見て言い聞かせる。
 他愛ない彼は自分の真剣な顔にとてもとても弱くて―何度でも使えるその切り札は、百発百中のおまじないみたいに効かなかったことはないのだ。


「―いいか?俺は絶対死なない。無茶しても死なない。何回死にかけても死なない。…だからおまえも絶対に死ぬな」

「…死なないって、なんで言い切れるんだよ…」

 蚊の泣くような微かな声で茫然と呟いた恋次の瞳から、枯れることを知らない涙がぽろぽろと零れ落ちた。
 一護はそれを親指で拭ってやる。


「恋次を愛してるから死なない。おまえを幸せにしなきゃいけないから。」

「…」

「―だからおまえは俺と幸せになるために死なないって約束しろ」

「一護…」

 恋次は頬に触れた一護の腕をそっと掴んで、どこか諦めたみたいにふわりと微笑った。


「…判った。一護のために死なない。絶対死なない」


 一護はその返事を聞くと満足したように恋次の頬に残った涙の痕をペロリと舐めて―‥彼の着物に手を掛けた。
























「つか一護、なにげに気になってたんだけどケガは??」

 恋次がベッドの中で問い掛けると一護はあぁ…、と言った。


「なんかおまえを抱き締めたあたりではすでに治ってた…ぽい」

「ぽいって何だよ!!有りえねぇだろ!!」

「いやマジだって。つーかあんなケガでセックスとか無理だから治ってんのは間違いねーよ」

 恋次がぽかぁんとしていたら、まぁいいじゃねえか治ったんだから、と言って一護は笑った。良くない、と強く思ったけれど、もう面倒だったので口にするのはやめた。


「…それよりさっき気付いたけどよ。死神の時に死んだら俺もたぶんおまえらと条件同じだから、フツーに死んだうちには入んねーよな。尸魂界に行くのも転生も無理だろうな、多分。魂魄の消滅ってことでさ。虚になる心配とか無用だったつーか…まぁ、つまりどっちにしても死ねなかったんだな」

「そういえば…冷静になると俺も死神のくせにそんなこと気付かなかったけど。…まぁもう、おまえが死なないならどっちでもいい」

「そうだけど。でも最悪ふたりで輪廻の輪からすら―外れちまうのもいいかと思ってさ」

 そうしたらもう―永遠に一緒だ、とかそんなことを言って一護は微笑んだ。
 それは酷く甘美な誘惑に思えた。
 一護の幸福の為なら今すぐにだって消えられるとずっと思ってた。普通の人間と同じ幸せを彼に味わって欲しいと、本当にそう思っているのに。
 それでも彼が死神代行でなかったら、尸魂界がどうなっていたか判らないとかいうのも勿論あるけれど―それよりも絶対に彼には出会えなかったと思うと心底ぞっとした。
 本気で彼の幸せを願っていたのに―たぶん心のどこかで、一護が死神で良かったと思っていた。

 ―この手を離しさえしなければ、一護は絶対に自分と一緒に堕ちてくれる。そんなことくらい判っていた。
 どんな地獄でも、どんな闇の中でも、絶対に一護は自分を離さないだろう。
 だから絶対にいつかは、この手を離さなければいけないと思っていた。覚悟しているつもりだった。
 どれだけ一緒にいても、口唇を重ねている時でも、繋がっている最中でも―常にそう意識していなければ、離れられなくなってしまうから。その手が振り解けなくなるから。


「あんなに堂々と死なないとか誓ったくせに…ウソツキ」

「てめーなんかウソつきまくってたじゃねーか。…マ、どこがとは言わねーけど。」

「…」

 彼の腕の中でちょっと目を逸らしたら、一護は目敏く口付けてこちらを向かせた。


「生きても死んでも、どっちにしてももう絶対逃がさねぇ…。おまえはもう俺のものなんだよ」


 そんな殺し文句を吐かれたら今すぐにでもこの命を投げ出してしまいそうだと思ったけれど―とりあえず一護の背中に腕を回して、思いっきり抱きついた。














***



「うまくいったようだな井上!!(小声)」

「えへへ〜だって、恋次くんあんなに泣いてたのに黒崎くんがあんなケガじゃあ話も出来ないからカワイソウだと思って〜。ふたりの世界に入ってる間に治しちゃった〜(小声)」

「凄い説明口調だ井上!!しかしベッドの下に隠れておくとは考えたな!!(小声)」

「まぁ、気付かれずに黒崎くんを治せる場所ここしかないもんね〜。気付かれなすぎてちょっとムカ…ううんなんでもない!!(小声)」

「それよりも上がギシギシいい出した時は死ぬかと思ったぞ!!!!(小声)」

「でも朽木さん、こうなることは判ってたじゃない〜(小声)」

「それはそうだが、やつらの体重でこのベッドが潰れたら我々は確実に死ぬぞ。(真顔)」

「もちろんそうなったら私が朽木さんをまもる!!ベッドと乗ってる人間を吹っ飛ばしたら死なないよ〜!!(小声)」

「…そうか。ぶっちゃけ一護を治した意味がないが、その辺はどうでもいいか…(小声)」

「それより、出ていくタイミングを逃しちゃったよね朽木さん!(小声)」

「本当はやつらが眠っている最中にほふく前進で出て行く予定だったのだがな!我々も眠くなって寝てしまったからな!!この状況でな!!!(小声)」

「朽木さんも説明口調だよ!!(小声)」






こっこれは…!!!101回目のプロ・・・・・・・・・・
い…いやなんでもない。なんでもないんだ。なんでもないったら!!!(何も言ってないよ)
それよりこれはまじですごいwwこれはすごいよwwww
いよいよマジラブになってきたwww\(^o^)/(楽しそうだな)
相変わらずお題にかこつけ…いやなんでもない。
なんかもうどういう状況だよとかいつの話だよとかあばらいさんの言動とか(あ、これはいつもかww)(…)最後の織ルキとか、
ツッコミどころ満載とか通り越してallツッコミどころのような気がするけどいつも通り気にしない方向でヨロww
しかも織ルキに至っては前書いたネタとかぶ…あ、これもいつものことでしたww(きさま)
それにしても、最初はこのお題群って乙女チックすぎてなかなか強敵だって思ってたのに(最初に書いた07参照)、
今となってはぜんぜんそんなことないっていうか、むしろもっと乙女なお題でもいいくらいだぜ。(真顔)(…)
つーかあばらいさんまじで泣きすぎですよ。ここまで泣く受も久しぶりだ\(^o^)/(…)
でも、ワタシ間違ってない。(きっぱり)
080410


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