―この村の中でもお前ほど才能がある子はいないよ―
繰り返し繰り返し、告げられた言葉だけが思い出と呼べるもの。
―お前に盗めないものなんかないよ、バクラ―
大きくなった時、お前はきっと盗賊王になるだろう、と。
髪を優しく撫でられてはこう告げられた。
それは口癖だった。
もう顔も覚えていない両親の。
事実、自分に盗めないものは無かった。
両親の言った通り、悪知恵の才能だけはあったらしい。
考えてみたらこの両親の言葉はあまり誉めているとは思えないが、まぁ誉め言葉として記憶しておくことにする。
―でも、結果的に言えばあれは嘘だった。
だってあの頃いちばん欲しがっていたものは手に入らなかったのだから。
雑 音 と 残 像
「…ラ!バクラ!!」
叩き起こされて目を開けると、遊戯が自分を覗き込んでいた。
「何だよ王サマァ…寝かせろよ」
「もうすぐ城之内くんたちが来るんだよ。俺はデッキ組まなきゃいけないし、悪いが帰るかもしくは獏良と変わってくれ」
「ゲェ?何ソレ。つれねーの」
まぁでもアイツらとつるむ気はねぇし、じゃあ俺サマ帰って寝るわ、とバクラは言った。
その辺に散らばっている自分の服を拾い上げて適当に着込むとガラリと窓を開ける。
よいしょっと、とバクラは大げさに窓を跨いだ。
「…いつも思うが玄関から帰れねぇのか?」
「玄関って苦手なんだよ」
「そりゃあそうだと思うが…(盗賊的に)」
じゃあな、と言ってそそくさと1階に飛び降りようとすると、そばにいた遊戯がチョイチョイと人差し指で合図した。
「?」
首を傾げて遊戯を見ると、彼はその顎を引き寄せると触れるだけの軽いキスをしてバクラの耳元で囁いた。
「―じゃあな、ハニー。」
バクラもニヤリと笑って返した。
「愛してるぜ、ダーリン」
遺言みたいに言い残してひらりと飛び降りる。
尋常じゃない運動神経だ。通報されたらどうする気なのだろう。
ひらりと舞った銀色の髪の毛の残像が見えるようで、遊戯は頭を振った。
―冗談じゃない。
***
別に、良くあることだ。
あんなのは、いつもの言葉遊び。
スキ、アイシテル、ソバニイタイ―‥
全部情事を盛り上げる為の道具にすぎない。
熱に浮かされたみたいにそんな台詞を口走っても、断じて本気で言っていたわけではないとここに誓う。
時計を見るとまだ朝の7時前だった。
冬は明るくなるのが遅い。
ようやく東の空がオレンジ色に輝き出したばかりのようで、バクラは記憶の片隅に残る遠い故郷を思った。
―本当は、盗めなかったというのとは少し違う。
盗もうとしなかったという方が正しい。
今でも時々ふっと思う。
全部忘れて、全部捨てて、自分と逃げて欲しいと言ったら、彼はどうしたんだろうって―‥
当然そんなこと言うつもりも無かったし実際口にしたことも無かったけど。
それでも時々思う。
―言ってたら何か変わってた?
こんな―‥最初から終わりが見えてる関係は何か変わってた?
勿論、あの時の彼が自分の国や民を捨てられるわけがない。
99.9%拒否されただろう。
―それでも。
(…キミは意外と繊細だね)
頭の中に、もうひとりの自分の声が響いた。
「ンだよ、聞いてやがったのかよ」
(キミがあんまり不憫だからさ)
にっこりと笑う宿主の顔が目に浮かぶ。
(…今だったら、遊戯くんも首を縦に振るかもよ?)
今だったら、なんて。
今もあの時も似たようなものだ。
彼は相変わらず光にばかり囲まれていて、あんなに近くにいても自分とはこんなにも遠い。
その距離はどんなに肌を重ねたって縮まるどころか、逆に遠ざかる気さえする―‥
「…俺様は、今回も言うつもりはねえよ」
どうして?と頭の中の獏良が問いかけた。
「…いちど敵と決めたものは、最後まで敵にしておきてえんだよ」
(…それって)
(少しは自信があるってこと?)
獏良は嫌味ったらしくクスクスと笑った。
「嬉しそうだな、宿主」
だって愉しいもの、と獏良は笑う。
(キミたちはロミオとジュリエットみたいだねw)
「…明らかに違うだろ」
似たようなものだよ、と彼は言った。
だいたいお前の身体だろ、とバクラが言うとさんざん遊戯くんに抱かせておいて今更気遣うの?と言われ何も言い返せなかった。
(…キミはあんまり賢くないね)
(ボクだったら欲しいものはどんな手を使ってでも手に入れるけど)
おっかねえの、とバクラは言った。
「盗賊には盗賊なりの美学ってもんがあんだよ」
(フーン…ま、好きにすれば。あーあ、キミと一緒にいられるのもあと少しかぁ)
「…早くも殺すんじゃねーよ」
首にぶらさげたリングがシンと鎮まって、獏良の声はしなくなった。
切り裂くような冷たい風が自分の頬を通り過ぎる。
今は共有しているこの身体とももうすぐ別れることになるだろう。
昔の身体より多少貧弱だけれど、まぁ使い勝手は良かったと思う。
バクラはちょっと振り返って遊戯の家の方を見た。
―それでも今回も盗むつもりはない。
「…俺サマも、ちょっとは成長したんでね」
「もうアンタなんか欲しくない」
―欲しいものなんか、無いよ。
あるのは風化した感情だけで、もうそんなもの何にも無くなってしまった。
涙が出るのはカワイソウな自分に酔ってるだけで、別にアンタのせいじゃない。
(…素直じゃないだけなんだよ、キミは)
宿主の声がしつこく聞こえた気がするけど聞かなかったことにする。
どうせ自分が素直になったところで気色悪いだけで、何にも変わりはしないだろう。
―欲しいものなんか、もう何にも無いよ。
ヒー!バクラが泣いてる…!!(ガタガタガタ…)
私が書くとバクラたままでもが少女のようで…_| ̄|○ マ、気にしません(しろよ)
これも最後の一文を書きたいがために作った話なので苦しいですな。
まぁ生温かい笑顔で流して以下略
これはもうカウントダウンハイパー!みたいな状態の時の話ってことで(勝手に)
どーでもいいけど私遊戯の宿命の敵って海馬だと思ってたけど、むしろバクラだったね!(喜)
わーいわーいわーい(鬼の首を取ったように)
それにしても了ちゃん(亮ちゃんにあらず)が絡むと禿萌え(そんな言葉は無い)ですが何か。
欲しいものを欲しいと言えない子は大好きです(バクラ、鳳その他←鳳もか)
欲しいものを欲しいって言う子も大好きですが(宍戸、ブン太その他)
とりあえずいつも通り捏造しまくりでスイマセ。
クルエルナは盗賊村なんだから、村ぐるみ(?)で盗賊特訓(超謎)とかしてるはずだよね。ヒヨウ戦記のように…(まだ言ってる)
バクラたんはクルエルナの申し子だから…ああハァハァハァハァ(もういい)
□追記
04年の夏頃に書いた…と思う。
幾らテニスの片手間でやってたからってこんなヘタレ小説を拍手に延々と放置していた自分凄い(真顔)
最初はまだマシなのに勿体ない…。(貧乏性)
つかあんなありふれた最後の一文を何ゆえ使いたかったのかと1年前の自分を小一時間問い詰めたい(そこまで)
とりあえずクルエルナの申し子なバの人(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ
050830
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