A folding umbrella




「…え?」

生徒用玄関から勢い良く外に出ようとしたら腕を掴んで思いっきり引き戻された。
そうしたら目と鼻の先の距離を大粒の雨が通過して。
ザーザーと聞こえるそれは紛れもなく雨の音で、ようやく宍戸は跡部が止めてくれたことに気付いた。
いつから降っていたのか、それはだいぶ激しく降っているようだった。


「ホイホイ飛び出すんじゃねーよ」

跡部は眉を顰めて宍戸の腕を放した。


(車に轢かれるわけじゃないのに…)
別に濡れることくらいどうってことないのに、と宍戸は何となく嬉しかった。



「いつからこんなに降ってたんだろ?俺傘無いよ」
「…5限にはもう降ってた」
「ぜんぜん気付かなかった」

お前は注意力散漫なんだよ、だいたい午後から降水確率90%だっただろ、と跡部は言った。

「天気予報なんかいちいちチェックしてねえよ」
「…そうだろうな、お前は」
それだけ答えて、跡部は鞄の中から上品な仕草で折り畳み傘を取り出すと手早く広げた。

「…早く入れ」
「え?」

心臓がドキンと鳴った。


「…それって相合傘?」
跡部はもっと眉を顰めて、嫌なら濡れて帰れ、と踵を返した。
「…待って、入る入る」

勿論嫌なわけはなくただ男同士で相合傘なんてあまり見かけないので恥ずかしかっただけだけど。
置いていかれるのも嫌なので宍戸は小走りで跡部の傘に入った。
女生徒がそんなふたりを見てクスクス笑った。
顔に血が上る。


「…赤くなんなよ。余計怪しいだろ」
「…だって」

道を歩く時そんな必要以上にくっついたことなんかないし、手さえ滅多に繋がないのに。
こんな至近距離で、少し顔を上げたら跡部の長い睫毛が見えて…なんて。
(うわ…)
少女のようにドキドキと動悸がするのを抑えられない。


「…駄目だ、ドキドキするから無理!!」
「…何照れてるんだよ」
「だって俺たち、やる時以外くっついたりしないじゃん!」

宍戸はそれだけ言って逃げるようにそばにあったガレージに入った。
仕方なく跡部も後を追う。
傘をたたんで水気を切ると、たいした距離もなかったのにそれは酷く濡れていて、雨はすっかりどしゃぶりみたいになっていることに気付いた。


「…この雨でふたりで傘に入ってたらどうせ濡れるな」
そう言って、宍戸の隣に腰を下ろす。

(…なんでこんなバカに付き合ってるんだろう)


今までの跡部だったら、ひとりでさっさと帰っていたに違いない。
部活を引退して、今までよりも放課後の時間が自由になって。
一緒にいる時間が少し増えた。
そうしてようやく自分たちは恋人同士になった。
いつか絶対にそうなると意味もなく確信だけはしていたけれど。
それは予想からすれば酷く遅かったような気がしなくもない。


「…跡部はドキドキしないの?」

宍戸がボソっと口を開いた。
確かに自分たちは、ベッドの上でしか抱き合ったりだとかそういう類のことはしないし、手だって滅多に繋がない。


「…しねーことはないけど」

思わず真面目に答えた。
しないわけはない。
いつだったか、そんなに昔ではないと思うけど、まだこんな関係になっていない頃に今みたいにふたりで雨宿りしたことがあった。
あの時も今も、本当は心臓がばくばくして死にそうだったのだけれど。
上辺だけでも繕って、冷静にしてなきゃやってられないじゃないか。
ただでさえそれが出来ないやつが隣にいて困ってるのに、自分が冷静にしてなかったらどうなるかなんて、余り考えたくない。


「―いつだったかな、いつかもこうやって一緒に雨宿りしたよな」

宍戸も同じことを考えていたらしくぼんやりと口を開いた。


「お前いっつも樺地にべったりで、たまに1人かと思えば自家用車が迎えに来るし…」
「…」
「俺必死だったんだ。お前を手に入れようとして…」
「…」
「でもいざふたりっきりになったらキンチョーして何にも言えずに傘だけ押し付けて帰ったりして…」
「…俺様はあの傘で優雅に帰らせてもらったぜ」


跡部はしれっと答えた。

「だいたいお前だって自信があったんだろ?」
「…何の?」
「俺様に愛されてるって」
「…」
「あの時だって、煽るだけ煽ってたもんな」


何が何にも言えずに、だ。
おかげでこっちは必死でガマンしてたってのに。


「…カマかけてみたんだよ」

宍戸は頬を染めてそっぽを向いた。
こういうところは可愛いな、と悔しいけど本気で思う。
跡部は吸い寄せられるようにそこにかかった黒髪を掬い上げて、掠るような微かなキスをした。

「…!????」


宍戸はびっくりしてその大きな目を見開いた。
あの時はどうにか我慢したけど。
今はもう我慢する理由なんかないのだ。


「…跡部、やべぇよ、こんなところで…」
宍戸は潤んだ瞳でAV女優のようなこと(注:跡部の勘違い)をのたまった。
「…別にここでやるなんて言ってねえだろ」

ほっぺにチューしただけでえらい誤解だ。


「なぁんだ」
宍戸はちょっと残念そうに言った。
じゃあ、せめてちゃんとチューくらいしようぜ、と言って宍戸は跡部の首に手を回した。
こういうことは照れもしないくせに、傘にふたりで入っただけで照れるなんて…

釈然としない跡部をよそに、宍戸はためらいもせず跡部の口唇を自分のそれで塞いだので、跡部もそれに応えて口唇を開いた。
こういう関係になってからいったい何回キスしたのか、もう覚えていない。


「んっ―‥」
存分に跡部の口内をなぞってから宍戸はようやく口唇を放して、跡部の口の端から零れた液体を細い指で拭った。


「へへっ、跡部エロ顔ーv」


(…どっちが)

やらしい声出しやがって、と思う。
さっきみたいな瞳で見つめられるたびに、そんな声を聞くたびに。
本当はこっちだって理性が飛びそうなのだ。



「…跡部」

うわごとみたいに自分の名前を呼んで、宍戸は跡部の背中に腕を回した。
頭の芯がくらくらして、何かの術にかかったみたいに跡部はそのまま恋人の身体を抱き締めた。
折れるくらい強くこの身体を抱き締めてみたいとずっとずっと思ってた。



「…宍戸」
「…?」
「あの時も今も、俺は結構必死で我慢してんだ」
「…あんまりそうは見えないけど」
「見えないようにしてんだよ!」

だからあんまり煽るな、と小さな声で言った。


「…跡部、俺のこと好き?」
「…ああ」
「…抱きたい?」
「…ああ」

質問はそれだけか?と跡部は聞いた。
うん、と宍戸が答えると跡部は軽くその口唇を塞いでから、宍戸の身体を解放した。


「だったら、さっさと帰ってヤるぞ」
「…雨、まだ凄いぜ?」
「濡れたってシャワー浴びるからいいだろ」
「いや、そうじゃなくて…」


そういうわけで結局ギクシャクしながら相合傘して帰った。
勿論2人とも全身ずぶ濡れになったのは言うまでもない。








「そう言えばあの時はちゃんと傘持ってたんだな、お前」
「いや、たまたま鞄に入れっぱなしだっただけ…」
「…そんなことだろうと思ったけど」




気付いてくれた人がいるのか謎ですが、無色世界 無音世界の続きだったりします(w
雨が降ってたので唐突に続きが書きたくなって(唐突すぎ)
壁紙もいっしょにしてみました(どうでもいい)
つかべっこ樺地にべったりとか言われてる…_| ̄|○ 
だって原作見てるとべったりとしか思えな(むしろ事実べったりだろ)
宍戸も鳳にべったりとかいう案は却下。(真顔)
あのふたりがプライベートまでベッタリだなんて、断じて私は思いません(オイ)
だいたい男のくせにベッタリとかありえない(オイオイ)
そういう意味でもやっぱり跡宍跡ってすごい萌えだと思います(意味不明) あのビミョーな距離感というか…
つか男の子が相合傘してるのって見たことない…ような(自信なし)
それにしても見事なくらいテーマも何もない小説ですねw まぁ跡宍だし(あんた跡宍を何だと)
意味も何もない割には長いような気も_| ̄|○
だいたいベッドの上でしかくっついたりしてないと言いつつベッドじゃないところで十分いろいろしてるじゃないかと小1時間(矛盾)
まぁ跡宍だし(何でもかんでもそれで済ますな)
てゆーか宍戸の方が跡部に舌入れてますがスルーで(待て)
あの子は積極的な子ですから(w)マグロが好きな私ですが、宍戸はマグロにあらず(除く初体験)
タイトルは英語で「折り畳み傘」 そのまんまでスマソ_| ̄|○
無色世界 無音世界の続きってことだけで書いたんで、微妙に設定が違ったりしますがまあスルーで(もういいから)