『赤也の元気なところが凄く好きだよ』
『赤也の笑顔を見てると元気になる気がする』




大好きな大好きな、この世で一番大切な人がこう言うから。
何があってもこの人の前だけでは笑顔でいようと決めた。
例えどんなことがあっても。
胸が切り裂かれるような痛みに襲われたとしても。
この愛しい人の前で自分が出来ることはこれくらいなのだ。






The Fear






風が頬に当るたびにそこがジンジンと鈍く痛んだ。
青学の越前リョーマに負けて真田に殴られた部分だ。
あの愛しい人が、この場にいなかったことに感謝する、と切原は思った。
もしかしたら、報告されてるかも知れないけど。
―考えたくなかった。


『負けないこと』
それは立海大付属の掟だった。
昔からそうだったけど、部長が病に侵されてからいっそうその掟は厳しくなった。
倒れた部長に勝利だけを届けてやりたい。
部の誰もがこう思っていたけれど、切原にとってその思いは他の誰よりも強かった。


―どうして。
理由は簡単だ。あの人が好きだから。
入学した時から憧れてた。
ふわふわと柔らかく笑うその笑顔に、一目惚れしたと言ってもいい。
なんてきれいで儚げな人なんだろうと思っていたら、本当に病気で倒れてしまった。
彼が入院する時、子供みたいにわんわん泣いたのを覚えてる。
もっともあの人の前では泣かなかったけど。
あの人が病に侵されていると知った時から決めてた。
―絶対に、あの人の前では泣かないって。



『…絶対に帰って来て下さいね』
『…赤也』
自分は相当深刻な顔をしていたのだろうか、幸村はくすくすと笑って頭を撫でてくれた。

『大丈夫だよ、死ぬわけじゃないし』
『…』
油断したら涙が零れそうなので口唇を噛み締めた。
幸村はそれに気付いたのか、口唇を優しく塞いでまた少し笑った。


『…俺はむしろ、赤也に悪い虫がつかないか心配だな』
『…バカなこと言わないで下さいよ、部長以外興味ないッス』
『本当?』
『本当ッス…』

貞操は守るッス、とかバカなことを口に出そうと顔を上げると、幸村は切原を抱き締めて言った。

『…赤也が元気にしてれば、俺も元気になるよ』
『…何スか、それ』
『赤也は笑ってる時がいちばん可愛いよ。元気が出る』


笑った顔が可愛いのはどっちだと思っているのだろう、と思ったけど。
大好きなこの人がそう言ってくれるなら、笑顔でいようと思った。







―でも。
負けてしまった。
確かに負ける悔しさなんて暫く忘れていたので、予想以上にショックだったけれど。
でもショックなのはそれだけじゃなくて。


「―無茶な試合をしたな。幸村が悲しむぞ」
後ろから追い討ちをかけてくる柳の言葉に涙が出て来た。
あの人がここにいなかったことを、本当に神様に感謝した。
こんなにみっともなくて無様で、それから卑怯な自分を見られたらとんでもないことだ。
それこそ嫌われてしまうだろう。


「…」
「…何も泣くことはないだろう」

柳はちょっと焦ったようにハンカチを差し出してくれた。
切原はそれを乱暴に受け取ると、強引に涙を止めた。
お礼も言わないでそれを柳に返し、自分のバッグを取ると逃げるようにコートを出た。

「オ、オイ赤也…!!」


急がないと面会時間が終わってしまう。
どうしても顔が見たかった。
逢いたかった。

怖くて怖くて―この恐怖が何から来るのか判らなかったけど。
今逢わないとどうにかなってしまいそうだった。




***




通い慣れた病院、受付も軽くスルーして一目散に幸村の病室に向かう。
もっとも病院なので早歩きだけど。
勢い余ってドアを強く開けすぎないようにしないと…
そんなことを考えながらドアノブに手をかける。


「…失礼します」


「赤也?」
いつもの笑顔が降って来て、凍りついた心が少しだけ溶けたような気がした。



「どうしたの?こんなギリギリに。」
「…部長の顔が見たくて」
「…フフ、嬉しいな」


幸村は優しく言った。
本当は真田のところに連絡が来た時、自分もそばにいたのでだいたい何があったのかは予想がつくけれど。
たぶんこの幼い恋人は知られたくないと思っているだろうと思ったので言わなかった。



「…部長」
「…なに?」
「…ごめんなさい」

涙が出て来るのを堪えるのが大変だったけれど、泣くことだけはしちゃいけないと思ったので我慢した。
この人は自分なんかよりもっと辛いんだ。
大会にも出れずにひとりで病気と闘っている。
それなのに自分はちょっと自信があるからって他校の1年生と試合して、しかもあんな卑怯な手まで使ったのに惨敗して…



「…ごめんなさい」

何に対して謝罪しているのか自分でも判らなかった。
負けちゃいけないと教えられたのに負けたことに対して?
それとも相手に怪我を負わせるようなプレイをしたことに対して?
それとも―‥


「赤也、おいで」
幸村は幼い恋人を優しく自分の元に呼び寄せると頭を撫でた。


「…赤也は判りやすいね」
「…え」
「俺はね、赤也が好きだよ」
「…」
「…それは、どんな赤也でも好きって意味」
「…」
「赤也が本当はとってもいい子って知ってるから、何にも心配することないよ。俺は赤也のこと何があっても好きだから」
「…部長、やっぱり知ってたんスか…」
「あ。」

幸村はしまった、という顔をして、切原はガックリと肩を落とした。
でも何があっても好きだと言われてだいぶほっとしたのも事実だ。


「…部長優しいッスね…」

自分はこんなにも自分が怖いのに。
―こんなに愛してるこの人がもしもいなくなってしまったら。
自分はいったいどうなってしまうんだろう?
この自分の中の悪魔は―‥


「…赤也はいい子だよ」
幸村は優しく頬を撫でた。
「…俺は知ってるよ」

「部長…」





―神様、怖くて怖くて死んでしまいそうです。
この恐怖が何から来るのか、本当は知っているけど。
知らないフリをしていないと本当に死んでしまいそうで。
切原は幸村の腕の中で彼のパジャマをきつく握り締めた。




「…じゃあ俺帰ります。そろそろ面会時間終わっちゃうし。また明日も来ますから!」
「…大丈夫?真田か誰か迎えに呼んであげようか?」
「何言ってるんスか!ひとりで帰りますよ!明日も絶対来るッス!」

悪い虫がつかないか心配だって言ったのは部長でしょ、と恋人の頬に軽くキスをして、切原は病室を飛び出した。







―泣いちゃいけない、絶対に。
例えどんなことがあっても。
胸が切り裂かれるような痛みに襲われたとしても。
先の見えないこの道がどんなに恐ろしくても。

―笑っていたい。


この愛しい人の前で自分が出来ることはこれくらいなのだ。






ヒィー!暗いよ!_| ̄|○
いっつも跡宍アホラブ話ばかり書いていたのにこの暗さ!どうよ!?(どうよ、と言われても…)
まぁチョタサカはそこそこ暗かったけど…でも幸赤は真に切ないというか何というか…(意味が判らん)
とりあえず、書いててあまりの幸赤の奥の深さにひとりで驚愕してました。跡宍とは比べ物にならな(ry
ビバ!幸赤!マイナーでもビバ!幸赤!!
つか可哀相な話を書いてしまいました…_| ̄|○(自らダメージ)
もう1人の自分(違)に怯える赤也たん…_| ̄|○
あれは二重人格なのか何なのか判らないんですが(オイ)、とりあえず二重人格な設定っぽく書いてみました。
赤也だって自分が怖いんじゃないかな、と思ったので…
だって普段はあんなに無邪気なのに…(滝のような涙)
だからって赤目赤也を否定するわけじゃないですよ!(力説)
私も幸村といっしょであの子がいい子だと判ってるので、どんな赤也でも好きです。(落ち着け)
つかそこに幸赤が絡むと、幸村を失う恐怖まで追加されるというとんでもない罠!
赤也たん…!!赤也たん…!!(落ち着け←2回目)
でも、ゆっきーが大事すぎてあんなプレイに出たと思うとそれはそれで萌え…(オイ)
つか幸赤はふたりともセンシティブすぎてとんでもないです… 跡宍とは比べ物になr(ry
本当のところアレが二重人格なのかとか、ゆっきーの病気は命に関わるものなのかとか色々謎が多すぎてアレなんですが_| ̄|○
幸赤の素晴らしさを世に少しでも布教するため頑張ります。(頑張らなくてヨシ)
まぁ皆自己設定で突っ走ってるし、私も自分設定で突っ走ろう(それ以上突っ走ってどうする)
つか柳さん何のために出したんだよ!くらいの勢いでスイマセ…!真田と迷ったんだけど…
どうも私は真田さんの言葉使いが受け付けないので(オイ)柳さんに出て来て頂きました
要は「
幸村が悲しむぞ」って言わせたかっただけ…(貴様は柳ファン&真田ファンに殺されろ)
つか散々言ってますがわたしのいちばんは跡宍です(もうそれは判ったから)

■追記
アニプリでは赤也たん2重人格はオフィシャル設定みたいですねー
赤也たん
本当にもう1人の自分に怯えてた(驚愕)
まさか本当にやってくれるとは思わなかったのでビックリ仰天(何)
痛々しいよーあかやたーんあかやたーん・゜・(ノД`)・゜・(黙れ)
やっぱり赤也たんは遊戯王で言う海馬だった(真顔)昔の私の血が騒ぐw
しかし原作ではどうなんでしょうね?原作では何かそういうのとは違う感じがするんだけど…
まぁつまりあれはマイ設定で突っ走れとアニプリ様が言ってるんですねっΣd(゚∀` )(言ってない)
あーあかやたんあかやたんあかやたん(黙ってください)