帰り道、キラキラと夕日を反射する彼の髪の毛を見ていた。
みんなで帰る放課後、恒例みたいに立ち寄る公園。


バクラは、いつも自分の腕の中にいる時と同じようにケラケラと笑って、本田だの城之内だのとアホみたいに追いかけっこをしていた。

不自然に白いその髪の毛は、びっくりするくらい陽の光を通して、バクラの長い髪の毛はオレンジ色に見えた。
その淡いオレンジ色は、覚えてもいない故郷のことを思い出させる。
―遠く離れたエジプトの地。






終 焉 の 音





いつの間にか城之内が隣に座っていて、遊戯の顔を覗き込んでニヤニヤと笑った。

「遊戯ってばしんみりしちゃって何?恋でもしてンの?」
「…城之内くん」
「アハハ冗談冗談」


城之内はきゃたきゃたと笑って立ち上がると、あっという間に皆のところに戻って行った。

(…何しに来たんだ…)


「恋、ね…」



恋とか愛とか口にする気は更々ないけれど、彼の中でもとりわけその髪の毛が気に入っていた。
手触り良好な猫の毛みたいだし、外人と付き合ってるみたいで気分が良かった。
ただ髪の毛を触ると、彼はしっぽを掴まれた猫みたいに怒るので、ちゃんと触れることが出来るのは彼が完全に眠っている時くらいのものだ。
(勿論自分の隣で、という前提で)


『何ソレ?俺様は猫じゃねえし、外人でもねえよ。(元エジプト人だけど)だいたい気に入ってるところって他にあっていいんじゃねえの?
 カオとか、カラダとか、アソコとかさぁ。髪の毛しか取り柄ないみてーじゃん』


いつかそのことを口に出してやったら、バクラは不満げに自分の下でそう言った。(性格とは言わなかったあたり流石だと思う)
そりゃあカオもカラダもアソコも気に入っていないわけではない。
性格はともかく彼のカラダは最高と言って良かった。
あのか弱い(正確にはか弱そうな)獏良と共有してるとは思えなかった。
単に相性が良かっただけかも知れないけれど、とにかく自分はバクラを抱くことが気に入っていた。



でも月に導かれるように、星に囁かれるように、唯そうなるようにと―運命が手招きしていたのも嘘ではない…と思う。
運命なんて口にしたらきっと彼は笑うのだろうけれど。
―たぶん自分は彼を知っているのだろう。ずっとずっと前から―‥
あの陽に透ける髪を見たことがある気がするのは気のせいなんかじゃない。
でもこれはたぶん孤独感から来るただの感傷で、恋なんてものじゃないんだろう。
仮にこれが恋だとしたら―真夜中や真っ昼間にテレビでやってるドラマなんかよりもずっと悲惨で真っ暗で、
そこらの女か本田くんでも相手にした方がまだマシだった―と思わせるような結末になるに違いない。
そんなのはゴメンだった。




「王サマ、帰りボーっとしてたけどどうしたの?」
バクラはベッドサイドのペットボトルの飲料水をぐびぐびと飲みながら尋ねた。


「…別に」
「判った!俺サマに見とれてたんだな!」

照れるなよォ!とバクラはヒャハハハハといつものように笑った。
とんでもない笑い方だけど、それが彼の標準なのだから仕方がない。


「おめでてーな。なわけねーだろ」
そう言うとバクラはどうやらショックだったようで、ほんのちょっとだけシュンとしたカオをした。
駆け引きという言葉すら知らないのか、(デュエルはそこそこ出来るくせに)いつだって彼はしたい、だの、させろ、だの、ただ欲求を言うばっかりで、
恋愛なんかただの一度もしたことのない子供みたいだった。


(…これっぽっちのウソくらい見抜けよ…)

少し呆れてバクラの髪の毛に手をやる。
いつものようにそれは白い華奢な手にパシッ!とはねのけられた。
はねのけられてもはねのけられてもしてしまうクセみたいなものだ。


バクラは拗ねてしまったようで、クルリと反対側を向いて布団を頭までかぶった。

(あ〜あ…)


何だか本当に恋人同士のようで妙な気分になった。
こういう時は機嫌をとった方がいいんだろうか。


「バクラ、こっち向けよ。愛してるから」
「…」

無言で拒絶するその背中に抱きついて、更に言葉を紡ぐ。
「シカトすんなよ、バクラちゃ〜ん」


「…アンタ、趣味悪い」

とても嫌そうな顔をしながらもそもそと布団から出てきたバクラにキスをして、そうしてふたりはケタケタと笑った。







こんな日々がいつまでも続くわけないことは判っている。
どんなに毎日が穏やかに見えても
どんなに避けて通ろうとしても
たとえこの気持ちが愛とか恋とかいう名前だったとしても―‥


―時間が止まらない限りは絶対に終わりの時が来る。
それは予感というよりは確信だった。―だって俺には判るんだよ。
お前がそうやって笑うたび、こうやって身体を重ねるたびに
終焉の音が聞こえるから―‥




それでも。
遅かれ早かれその時が来たら、きっと自分のこの手で止めを刺せるだろうからそれも悪くないと思う。
何にも覚えていないけれど、それだけは直感なのか断言出来た。

お前は何度生まれ変わっても俺のもので、俺のこの手で殺される。
それはもしかしたらただの独占欲かも知れなかったけれどそんなことはどうでも良かった。



―他の誰かに殺られるよりはずっといい。
その髪の1本すら、他のやつにはやりたくなかった。




これも拍手に延々放置以下略
今まで書いた王バクの中では気に入ってる話です。
王サマもそれなりにバクラを愛していますが、あの頭の悪い子は気付いてもいません。


□追記
書いたのは04年の夏、か…?(…)
ありふれた話ですが今でも結構気に入ってる話です。
王サマ側からの話もっと書きたい。(はぁ)
050830



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