上に行きたいと思ったから立海大付属に入った。
どうして、いつからそういう願望があったのかは判らないけど、気がついたら上に行きたいと思っていた。
高いところに行きたかった。
野心だけはあった。





スカイハイ





「バカと煙は高いところが好きっていうけどね」
目の前の穏やかな人はクスリと笑って、木の上の切原を見つめた。


「そうなんスか?」
「昔の偉いひとが言ったんだって」
「何を根拠にスか?」
「俺もそれは知らない」


彼はまた穏やかに笑って、自分に向かって手を差し出した。
その手を取ってストンと地面に足を下ろす。
彼は強豪立海大付属の部長にはあるまじき優しい笑顔で、下りてきた自分の顔を覗き込んで、またニコリと笑った。




物心ついた時から負けず嫌いだった。
とりわけスポーツではその気持ちが強くなり、そのうち、自分のこの手で1番上まで上りつめないと気が済まないものが出来た。
―切原にとって、それがテニスだった。
小学生の時から誰よりも上手かったので、それに簡単に手が届くかと錯覚したこともあった。
まぁ勿論それは甘かったわけで、強豪立海大付属中テニス部に入った途端、先輩たちにボコボコにされた。(もちろん試合で)
上を目指す以上それは都合が良かったわけだけど。
憧れていた強豪テニス部で着々と確実に力をつけ、2年でレギュラーになった。
まだまだ上はあると思うから、時々練習をサボって木に登ったり公園の滑り台に上ったりする。
高いところにいると何となくそれが近くなったような気がするから気分がいい。


先輩たちはまた赤也はサボリか、とか呆れて言っていたけど、この綺麗な顔をした部長だけはいつも笑いながら自分のことを探しに来た。
やっぱりここにいたね、とか何とか言って必ず自分がいるところを見つける。
ふわふわと風が吹くように笑う、どうしてこんな穏やかな優しい人が天下の立海大付属の部長なのかと、頂上に君臨する人なのかと…
その笑顔を見ながらそんなことを思う。




「部長は、真田副部長よりも強いんスか?」
「真田と俺?そうだなぁ、いい勝負かなぁ」

彼は笑いながら曖昧なことを言った。



「部長はどうしてそんなに強くなったんスか?俺、立海に入るまでは立海の人ってみんな野望ギラギラの人ばっかかと思ってたっス」
「赤也は、何か野望があるの?」
「そりゃあもう、やるからには1番になりたいッスよ!」

幸村は赤也ならぜったいいちばんになれるよ、とか言ってまた微笑んだ。


「そうだなぁ…テニスが好きだったからかな。気がついたらここまで来てたってかんじ」
「そんなもんなんスか?」
「人にもよると思うけど」
「そうッスかねぇ…」
「赤也は木の上が好きなの?」

別に木の上じゃなくっても、高いところならどこでも好きッスと答えると、赤也らしいね、と言われた。


「やっぱ俺ってバカっぽいスか?」
「そんなんじゃなくって」

彼は笑いながら、でも少し真剣な眼差しで口を開いた。



「赤也は高いところ似合うよ。羽が生えてるんじゃないかと思うくらい」

そんなことを言われるとは思わなくて、思わずポカンと口を開けてしまった。
自分の方がよっぽど羽でも生えてるような顔をしているくせに。


「あ、悪魔の羽のことッスか?俺ってば小悪魔系って言われるし(笑)」
それならまぁ納得いくけど、と思いながら返事をする。


「うーんその辺の違いは判んないけど。赤也の翼ならいちばん上までいけると思うよ」
まるでその翼が見えているかのような口ぶりに、切原は何も答えられないで少し赤くなった。



ほんの少し高いところに上ったところで、空は遠くて。
どんなに近づいた気になっても、月も星も太陽も掴めないことくらい知っている。
でも自分は高いところに行くんだと、根拠のないその気持ちだけでここまで走って来た。
羽なんて無いって知ってるから、自分の足で走って来た。



飛行機雲が雲の間を縫うように伸びてゆく。
幸村は、赤也はいつだってどこかに飛んで行きそうだよ、と小さな声で言った。


「そんなの、部長の方がよっぽどどっか飛んで行きそうッスよ」
「…そうかなぁ」
「そうッスよ」



暫く無言が続いたあと、切原は思い出したように言った。


「…そう言えば練習に戻らなくっていいんスか?」
「サボってた赤也に言われたくないよ」

たまにはいいでしょ、とその綺麗な人は穏やかに笑った。
こんなに穏やかに優しく笑う人を、自分は他に知らない。




「ところで赤也はどうしていちばんになりたいの?」
「いやそこんとこは特に理由は無いですけど…たぶん性格だと思うッス」
「じゃあ赤也ももうすぐ真田みたいになるのかな(笑)」
「それはないと思う…っス…」

冗談だよ、と幸村は言って、赤也に向かってその白い手を伸ばした。


「折角だから部活の時間が終わるまで遠回りでもして帰ろっか?」
「部長、あとで真田副部長に殴られますよ?」
「いいよ、赤也は俺がかばってあげる」
「部長その細腰で副部長に殴られたら死にますよ、その時は俺が庇うッス!」

幸村は赤也だって細腰じゃない、と笑った。
透き通るようなその笑顔を見ていると、この人のために1番になりたいなとかそんなことを考える。
自分だけじゃなくって、この人のためにも。
この人が頂点であるということは、切原にとって何故かとても気持ちが良かった。
もし彼じゃなくて真田が部長だったら、自分は何としても彼に勝って(勝てないけど)その称号を奪いたいとか思ったかもしれない。



「…部長は負けた時とか悔しいッスか?」
「それなりにね」
「…じゃあ、空は遠いと思います?」

ぜんぜん前の質問とは関係ないその質問に、幸村は一瞬ポカンとしたけど、すぐに言った。



「…鳥じゃないんだから、空は遠くて当たり前だよ」
「…」
「でも人間には明らかにふたつのタイプがあって」
「…」
「地に根を張って生きるか、空を自由に飛びまわるか」
「…」
「赤也はどう見ても後者だよね」


幸村は風に髪の毛を靡かせて、世間話でもするようにそんなことを言った。



「…空を飛ぶってことはそれだけリスクが大きいってことなんだよ。落っこちて羽が折れて、もう二度と飛べなくなるかも知れないんだから」
「…」
「…でもその勇気がある人間にとっては、空は決して遠くないってこと」
「…」
「赤也は高いとこに行けるよ。そういう羽を持ってるから」


まるで幽霊でも見えてるみたいに、幸村は穏やかな目で、でもじっと赤也を見据えて言った。
正直な話、切原にはあまり意味が判らなかったのだけれど。


「…良く判んないけど、俺これからも頑張るッス!」

幸村はニコリと笑って、じゃあ遠回りして帰ろうか、と言った。
見上げた空はいつも通りとても遠かったけれど、何故だろう、屋根の上に乗ってる時みたいにそれにこの手が届く気がした。
世界が少し広くなったような気がしたのは、たぶん気のせいだと思うけれど。



差し出された手をそっと握ると、自分より少しだけ大きな幸村の手がきゅっと切原の手を握り返してくれた。

「部長…///」
「…いや?」

切原はぶんぶんと勢い良く頭を振った。



(…なんか、ヤバイ、かも)


今日も空は青くて太陽は眩しい。
自分の手を引くその綺麗な人の後ろ姿を見ながら、切原は胸がどきどきするその理由に気付かないフリをした。




結構気に入ってる話。
私なりに人生のテーマみたいなのをつめ込んでみました(どのへんが!?Σ(´∀` ))
このテーマ(何)を書くときはいつも松谷みよ子の「モモちゃんとアカネちゃん」という本を思い出します…(遠い目)
決して好きだったわけじゃなく、私は怖かったんですよあの本が…(あの本が怖いっていう人ぜんぜん見かけないけど…)
買って貰った当初(小学生くらい?)はあんまり意味すら判らなかったんですが、少し大きくなって意味が判ってからはもっと怖いでした。

「歩く木とそだつ木が、小さな植木ばちの中で、根っこがからまりあって、どっちも枯れそうになるところへきているんだよ。
もちろん、植木ばちの中で、おたがいよりそってそだつ木もあるし、大きくそだつ木に、つたがからまるように暮らしていくこともある。
だがねえ、歩く木というもんは悲しいもんだ。歩かないではいられないのさ。
・・・でもおまえさんは、やどり木にはなれない。だからしかたないのさ」


特に印象的なのはこの部分です。あ、言うまでもないですが離婚の話ですよ!w
検索かけるとこの部分が印象的だった人は数人いる模様。(数人かよ!Σ(´∀` ))
妹とふたりで教えのひとつとして恐れつつ崇め奉ってました(ふーん)ほんと思い出すだけで怖い……
まぁとにかく、これだけじゃなくって抽象化の仕方がハンパなくウチらの恐怖ツボ(謎)を突いてくるんですよ!
例えるならゼルダの伝説に良く出て来る人の顔した木(喋ることもある)って感じの怖さっていうか(意味不明)
人間が木になる系の怖さっていうか(意味不明)ああ、人間が木になるパターンはほんとうに勘弁して欲しい…(ガタガタ…)
昔からアニメとかでそのパターンがあると妹とふたりで木キター!木キター!って(以下省略)

あれ、何の話なんだったっけ…(…)
とりあえず、飛ぶタイプと根っこを張るタイプはあんまり相性良くないってことですね(適当まとめ)
つまり、わたしさえいなければ〜そのゆめをまもれるわ〜♪(Cocco)ってことですよ
赤也もゆっきーも越前も明らかに飛ぶタイプだからリョ赤も幸赤も相性はいいですね(´∀`)(それでいいんか?)
なんかモモちゃんとアカネちゃんに興奮して何言ってるのかわからなくなって来ました(帰って下さい)
とりあえず真田の扱いっていったい……_| ̄|○
ちなみに私も高いところが大好きなタイプです(バカまるだし)←誰も聞いてない