朝、目が覚めて妙な違和感を感じた。
(んー‥)
切原は寝起きが悪いので、まだはっきりと目も覚めない状態で毛布を抱えてゴロゴロと寝返りを打つ。
低く響く冷房の音がうっすらと耳に入った。
うーん、とか言いながら微かに瞳を開けると、目の前に1つ下の少年の顔。
(近ッッ!!!)
びっくりして飛び起きて、自分が何も身に着けていないことに気付く。
そうしてようやく、切原は昨夜行われたことを思い出した。
(えー‥‥‥?)
シーソーゲーム
「おじゃましましたーー」
帰り道の石ころを蹴っ飛ばして。
通い慣れた越前の家を後にする。
(セックスしちゃった……)
何だか夢みたいで記憶があやしいけれどしたことは間違いない。
こんなことになるなんてちっとも思わなかったけれど、越前に触れられるともうどうなってもいいような気になるんだから仕方がないと思う。
「切原さん、ちょっと待って」
出たばかりの彼の家から、ぱたぱたと越前が小走りで追いかけて来た。
「送ってくし」
(えーーーーーーーーー?)
「いいよ、駅すぐそこだし」
越前はいいから、と言って切原の手を引いた。
(…)
どうして、とか思いながらもその手を振り払うことは出来なくて、切原は越前の少し後ろを黙って歩いた。
恋どころか今までテニスばっかりで同級生たちと親しく付き合ったことすらなかったこの少年の辞書にその気持ちの名前はまだ無くて、切原はドキドキする自分の胸の音をただただ聞いていた。
「…ねぇ、嫌だった?」
「……ううん。」
「ほんとに?」
「…うん。」
(…なんでそんなこと聞くんだろ…)
いつもなら口に出して聞けるその一言は遂に言葉になることは無かった。
越前はくるりと後ろを振り返って、少し赤くなった切原の頬に口付けた。
はっとした切原が顔を上げると、そこはもう駅の前だった。
「…じゃあ、また電話するから」
越前は今度は軽く口唇にキスをして、そんなことを言って微笑んだ。
切原は真っ赤になってうん、とか言って、駆け足で丁度来た電車に飛び乗ると、手を振る越前に手を振り返して、でも彼の顔がまともに見れなくてすぐに目を反らした。
(…な、なんか……)
(…これ、明らかに友達じゃないよな)
(こういうのって、何て言うんだっけ…)
―キスは何回かした
夜の公園とか彼の家とか。
ふと会話が途切れた瞬間とか目が合った瞬間とか。
その時はおかしいけどあんまり変だとは思わなかった。
そんなことを思い出す暇もないくらい越前とのキスは気持ちが良くて。
最初はただ重ねただけだった口付けは段々お互いを貪る深いものになって。
気が付いたら一線を越えてしまっていたというか。
移り変わる景色を見ながら、車窓に手を添えて溜息をつく。
でも不思議と幸せな気分だった。
まるでずっとずっと欲しかったものをやっと手に入れたみたいに。
***
(切原さん、すっごい赤くなってた)
(そりゃそーか、抱いちゃったんだもん)
(…でもあの人も悪いよな、拒まないんだから)
頭をフル回転させて、いったいいつから歯車がズレたんだろう、とか考えてみる。
最初は、今まであんまりテニスもその他の趣味も合ってる人なんていなかったから、側にいるのが純粋に居心地が良くて楽しかった。
それまで試合中の鬼みたいな顔しか知らなかったから、いつもの夏の花みたいな笑顔にドキドキするようになって。
―それをちゃんとした言葉で表すならたぶん…恋というんだと思う。
あんまり無防備に笑うから、ついキスしてしまって。
その時突き放されでもすれば諦めたのだろうけれど、切原が嫌がらないのでその行為はどんどんエスカレートして、遂に身体を繋ぐことになった。
でも、流石に身体を求めたら拒まれると思っていたのだけど。
切原は拒まなかった。
あの大きな瞳をもっと見開いてびっくりした表情を見せただけで、逃げることはなかった。
そうして越前は1番欲しがっていたものをアッサリと手に入れたのだけど。
―けれど。
(…あ。)
いちばん大切なことを思い出して越前はピタリと足を止めた。
(好きって言いそびれた………)
***
次の日。
「…で?」
ひとつ年上の先輩は、物凄く不満げな表情で切原を覗き込んだ。
「だから、相談のって下さいよ。こんなこと言えるの丸井先輩しかいないッス!!」
丸井は、目の前のバリューセットだけではさも不満であると言いたげに、それならせめてマックシェイクはつけて欲しかったよねとか言ってバリバリと勢い良くポテトを口に運んだ。
ジュースとシェイクをいっぺんに飲む意味はあるのだろうかと切原は思ったが言わなかった。
「勘弁して下さいよ、金ないんスから」
「そっか、電車代に消えるもんね」
「そ、そんな嫌味ったらしい…」
ジャッカルとの放課後デートの予定を無視して無理矢理拉致して来たのでかなり機嫌が悪い。
だが流石にこんなことを2名以上に打ち明ける勇気は切原にはとても無かったのだから仕方がない。
本当なら幸村に相談したかったのだが、入院中の部長にこんな病状の悪化しそうな話を持ち出すのも悪いし、柳生と仁王は自分たちのことだけでいっぱいいっぱいだし、とにかく消去法で残ったのがこの丸井だったのだ。(真田は初めから圏外)
「…で、だから何?」
「だ、だからさっきも言ったじゃないスか…」
「ああ、そうだったね」
遂に越前とやっちゃったんだったね、と丸井は表情ひとつ変えないで言った。
「丸井先輩、声がでかい!!」
「…で、それが何なのさ」
何って言われても、と切原は言った。
「なんで越前がそんなことするのかなって…//」
「俺が知るかよ!!」
丸井は空になったポテトの容器を勢い良く切原に投げつけた。
切原はそれをひょいと避けると側にあったゴミ箱に入れた。
「とりあえずシェイク。シェイクがないともう日本語も喋れない」
「滅茶苦茶喋ってんじゃないスか…;」
仕方がないので、切原は溜息をついて財布を手に席を立った。
「何味がいいんスか?」
わーい、と丸井は無邪気に笑った。
「いちご(はぁと)」
「これで勘弁して下さいよ、マジで」
切原は自分もチョコ味を購入すると席に戻った。
「…で、赤也はどうしたいの?」
丸井はやっとまともに話をする気になったらしく、シェイクを手に切り出した。
「どうしたいって言われても…」
「あのねぇ」
ガキじゃないんだから、と丸井は言った。
「じゃあ赤也は越前のことが好きなの?」
「好き!?」
「恋してんの?」
「恋!!?」
うるさいよ、と丸井は言った。
「それが最低ラインだろーが!」
「さ、さいていライン…」
「じゃあ、抱かれてどう思った?」
「どうって……」
「痛かった?」
「まぁ…」
「気持ち良かった?」
「まぁ…」
ハッキリしろよ、と丸井は溜息をついた。
「…じゃあ、嫌だった?」
「…」
切原は暫く考えると、ふるふると横に首を振った。
「いやじゃ…なかったっス」
ふうん、と丸井はまた溜息をついた。
「で、俺はノロケを聞く為に拉致られたわけ?」
「そんなキレないで下さいよ」
だいたいノロケてないし、と切原は言ったが軽くスルーされた。
「…なんか、赤也は越前が好きッポイね。」
「えッ、そうなんスか!!?」
「自覚くらいしろよ…」
「そんな…」
「じゃあ真田に襲われたらどうする?」
「死ぬ気で逃げます(キッパリ)」
だろ?と丸井は言った。
「嫌じゃないってことは少なくとも何らかの好意を抱いているってことでしょ」
「なんらかのこうい…」
あーあ、こんなつまんない悩み相談でジャッカルとのデートが、と丸井は心底悲しそうに机に突っ伏した。
「だからこうして奢ってるじゃないスか」
「シェイクがオイシイことだけが救いだよ」
「…(この人シェイクが好きなんだな…;)」
「…で、越前は赤也のこと好きなの?」
「ええっーーー??」
「イチイチ驚くなよ…」
切原は蚊の鳴くような声で、そんなの知らないッス、と言った。
「ふーん。」
「そんなこと言われたことないし…//」
「ふーん。」
「見ててもわかんないし…//」
「…」
「それに俺アイツのヒザ狙ったりしたし…//」
「…」
「そう言われてみればなんでアイツがあんなに俺に優しくすんのかわかんない…//」
「…」
丸井はもういいよ、と心底疲れきった表情を浮かべた。
切原は一通りドギマギ(死語)した後、トイレ、とぱたぱたトイレに向かって行った。
プルルルル…
切原が席を立ったあと、机に置いたままの彼の携帯が鳴り出した。
サブディスプレイに「越前」という文字がくっきり見える。
(へーえ…)
丸井はちょっと考えてから躊躇いもせず通話ボタンを押した。
『…もしもし』
確かに聞いたことのある声が丸井の耳に響いた。
「もしもし、俺、赤也の先輩の丸井だけど」
『ああ…ガムの人』
越前はさして驚きもしないで返事をした。
『…で、切原さんは?』
「赤也なら今トイレだよ」
『…ふたりで何してんの?』
(うわ、こっわー‥)
「キミが心配するようなことは何にもしてないけど?」
『心配するようなことってどんなこと?』
「キミと赤也がゆうべしたみたいなこと」
『…』
「赤也ってば女の子みたいに動揺してキャアキャア言いながら俺に相談して来るんだよね。付き合ってるんだかそうじゃないんだかハッキリしてくんない?」
『…切原さんに伝えて。今からそっち行くって。』
「…え、なに、無視?」
―ブチッ。
電話はいともアッサリ切られた。
(…カッチーン☆)
「ありえねー、トイレ混み過ぎ」
その時切原がパタパタと戻って来た。
「…丸井先輩どうしたんスか?よりいっそう不機嫌ッスね」
「(お前のせいだよッ!!)……今越前から電話あったよ」
「えー?」
「何か、今からこっち来るとか言ってたけど」
「丸井先輩、出たんスか!?」
「ウン。」
「信じらんねー、呼んで下さいよー」
「(カッチーン☆)…」
もうこんなバカップルに付き合ってられるかと思いつつ、丸井は席を立った。
「丸井先輩、まだ話は終わってないッスよ!!」
「じゅーぶん終わったっちゅーの!」
「どこがっスか!」
「どこもかしこも!!!」
そうだろうと思ってたけど、今越前と喋ってみてハッキリ判ったよ、と丸井は言った。
「赤也は越前が好き!越前は赤也が好き!…OK?」
「え…?」
丸井は人差し指を立ててそれだけ言い捨てるとあーもう嫌だ、とか言いながら赤也を残して去っていった。
***
電車に揺られながら越前はぼんやりと先ほどの電話のことを思い出していた。
あの軽そうな赤毛の男の姿が思い出されて妙に腹が立つ。
(…これって嫉妬だよ、な、ぜったい)
(別に嫉妬するようなことはないんだろうけど)
(でも切原さん、無防備だから…)
(だいたい、あの人はまだ俺のものじゃないし)
(…好きって言ってないから)
電車に乗る前にメールで連絡しておいたので、駅に着くと改札でスタンバっていた切原がパタパタとこちらに駆けて来た。
「えちぜんっ…」
切原は越前の顔を見るなり、開口一番ごめん、電話出れなくて、と言った。
「いいよ。それよりどこも何ともない?」
「…え?」
「…だから、カラダ」
切原はボッと赤くなってうん、と小さな声で言った。
通い慣れた道を通って、切原の家まで直行する。
(さっきから何にも喋んないけどもしかして怒ってんのかな…)
丸井先輩とは何でもないから、とか言いかけたけれど、余りにも気のきかない言い訳なのでやめた。
切原の心に少しだけ冷たい風が吹く。
(大体なんで言い訳なんか…)
(誤解されたくないから…?)
(やっぱり俺丸井先輩の言ったとおり越前のこと好きなのかな…)
「…切原さん」
その時、越前がピタリ、と止まって言った。
切原もびっくりして立ち止まった。
「…手ェ繋いでもいい?」
「えっ…」
顔がボッと熱くなるのを感じつつ、うん、とか早口で言った。
「…俺、考えてみたら、いちども切原さんの気持ち確認したことなかったんだよね」
「え?」
「キスする時もしていいか聞かないで勝手にしちゃってたし」
「…」
「切原さんが拒まないから調子に乗っちゃって」
「…」
「…ごめんね」
切原はふるふると首を振った。
「…俺、全然嫌じゃなかったし」
「…ほんと?」
うん、と切原は勢い良く首を振った。
そうして、とりあえず言ってみようと大きく息を吸い込む。
「だって、俺たぶん越前のこと……」
頭に血が上る。
でもこれだけはちゃんと言わないと駄目だと思って必死で言葉を紡いだ。
「す…」
好きだから、と言いかけた言葉は越前の口唇に飲み込まれた。
何度も重ねた冷たい口唇。
一瞬言葉が途切れた隙を突いて、越前は図ったかのように口唇を開く。
「…好きだよ、切原さん」
「…ずっと言おうと思ってたんだけど。」
切原は大きな瞳を越前の方に向けて口唇を開いた。
「…ほんと??」
「うん。」
「…俺が言おうとしたのに」
越前は、俺が先に言いたかったの、と言って切原に手を伸ばした。
伸ばされた手に切原も躊躇いもせず右手を預ける。
ほんの少し絡めた指が酷く心地良かった。
「でも…どーして?」
「どうしてって?」
「俺、越前に好かれるようなこと何にもしてないのに」
嫌われるようなことはしたけど、と切原は小さな声で言った。
「…じゃあ切原さんは何で俺のこと好きなの?」
「俺は…理由は良く判んないけど」
越前に触れられるとドキドキするから、と切原は言った。
「俺も。切原さんに触れるとドキドキする」
「…」
「理由は判んないけどね」
そーゆうもんでしょ、と越前は笑った。
切原は何となく納得出来ないような顔をしたけれど、越前の笑顔を見てまた顔を赤くした。
「…越前が笑うとドキドキする」
「俺も切原さんが笑うとドキドキするよ」
「そういうこと?」
「そういうこと。」
「ふーん…」
「だいたい最初からおかしいと思ってたんだよね」
「何が?」
「だって運命的すぎじゃん、ガッコの校門でぶつかって転ぶなんて」
越前はきっぱり言い切って、きょとんとしている切原の頬にキスをした。
拍手に延々置いてた小説。凄まじい糖度ですね(唖然)赤也受け子すぎ!(ビビリ)
あーでもこんな話書いたことすっかり忘れてて不覚にも自分で書いたのに萌えてしまったよ'`,、('∀`)'`,、(リョ赤に飢えすぎ!)
とりあえずラブコメな話が書きたかったことは覚えてる。ブン太と赤也の絡みとかね。
だいたい何かこれりぼんの最終回とかでありそうな話…(貴様はりぼんをなんだと)
とりあえず、私は校門でぶつかって転んだことにこだわりすぎ!!何回ネタにしたら気が済むんだ…orz
つーか確かマックのサイトに行ってマックシェイクの種類を調べた記憶がある…
シェイク好きだけどジュースのが好きだからあんまり飲まないんで(どうでもいい)
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