「こりゃ、今日も無理だな…」
長いこと一護に会っていない気がする。
何かと立て込んだ任務が続いたおかげでデスクワークが全く出来なかったのだ。当然のように事務処理が山の如く溜まってしまい、暫く徹夜でこなさなければならなかった。
―と言っても実はまだ三日目かそこらなのだが、一護に会えなかったその三日間は拷問のように長くて辛すぎて、恋次はすっかりまいってしまった。
初めて結ばれたその日から―何だかんだと理由をつけて足しげく通って(たまに通われて)彼とカラダを繋いで一緒に眠ることにすっかり慣れて―‥慣れすぎてしまっていた。
結ばれるまではキスしただけで一週間は浮かれて幸せに過ごせたというのに、贅沢になったものだと頭の隅の方で思った。
三日目の夜、余りの眠気に負けてこっそりうたた寝していたら、一護の夢なんて見てしまって―何だか急に悲しくなってベソベソ泣いていたら、隊舎の隣の部屋で作業していた白哉がガラリと扉を開けて低い声で呟いた。
「…恋次、五月蝿い。」
この隊長ももちろん例に漏れず徹夜で―白い肌には気の毒なくらいクマが出来ていた。
「…すいま、せん。」
まぁ確かに自分が悪いと思ったので、涙を拭くことも忘れて素直に謝った。彼も全く眠っていないのに真夜中に自分の泣き声なんか聞かされたら、そりゃあ神経を逆撫でされるだろう。
白哉はハァ、と溜息をついて部屋の隅にあった椅子に座った。
「貴様…ちょっと会えないくらいでその有様では、今後はいったいどうするつもりなのだ?」
白哉はいきなり核心を突いた質問をした。
「さぁ…」
恋次がやる気のない返事をすると、白哉はあからさまに眉を顰めた。
確かに三日やそこら会えないくらいでこの有様では今後必ず起こるであろうあらゆる困難に―打ち勝てるとはとても思えない。それくらいは幾ら恋次でも判った。―白哉がそのことを言っているのだということも。
「…別に、副隊長は貴様でなくても良い。代わりは幾らでもいる」
いつもながらさらりと酷いことを言われたけれど、慣れているので特に気にならなかった。
「だから貴様が死刑になろうが追放されようが駆け落ちしようが心中しようが―私は一向に構わん。…だが構わんなりに気になるから聞いているのだ。少しは私が納得するような返事をしてみたらどうだ」
「そりゃあどうも…」
変な心配の仕方だなぁ、とか思って恋次はこっそり笑った。
「でもホントに、間抜けなまでに何にも考えてないんですよね…。今も一護と会えなくて淋しいな〜って思ってたらうっかり涙が…」
「…」
「…いや、一護はちょっとは考えてるのかも知れないけど。俺は…もう一護がそばにいてくれるだけで…他のことはあんまり…」
恋次がそう言うと白哉はもぅ何も言う気がしない、という顔をした。
「…もう良い。仕方あるまい、これからいいものを持ってきてやるから貴様は私の分もやるのだ。判ったな?」
「え!?いいものも何もさすがに二人分は無理…ちょっと隊長ーー!!??」
涙も引っ込むほど青くなった恋次はあっさり無視して、白哉はさっさと扉を閉めて出て行ってしまった。
恋次も慌てて追いかけよう―としたが、白哉の神懸かった瞬歩の前ではいったいどちらの方角に行ったのかすらさっぱり判らない始末だった。
―コンコン…
いきなり仕事が倍になってもう半分仕上げることを諦めてしまい、こうなったら一護の妄想でもしていようと恋次が机に突っ伏しているとノックの音が響いた。
白哉が帰ってきた―わけではなくて、入って来たのはルキアだった。
「兄様、お夜食の差し入れをお持ち致しましたよ〜現世のキムチ雑炊ですよ〜‥あれ??恋次、兄様はどうした??」
「良く判んねぇけどどっか行った。…それよりてめぇ、隊長だけかよ!!俺には何もねーのかよ!」
「あぁ、もちろんあるぞ。おまえはきっと一護に会えなくて淋しがっていると思ってな!!!ホラ、私自ら一護の画を描いてきてやったぞ!!!」
「…。」
ルキアが誇らしげに広げた画用紙にはウサギだか一護だかウサギだか―いやもう一護だということにしておこう、そんな感じのパステル画の一護(?)が描かれていた。
「…なんかもういっそこれでもいい気がして来るな。サンキュ、ルキア…机の前に貼っとくわ…」
(つ、突っ込まんのか…それよりコイツ目が赤いけどまさか三日やそこらで泣いておったのではあるまいな…)
さすがのルキアもヒイていると、また扉がガラリと開いて白哉が帰って来た。
「あ、兄様―」
「隊長―!?どこ行ってたんですか、こんなの絶対ひとりでは無理ですって―‥」
そんな泣き言を吐きながら振り返った瞬間―白哉が小脇に抱えているものを見て恋次は目を丸くした。
それはまさに夢にまで見た一護だった。―これが幻影か何かでないのなら。
でも白哉にまるで荷物か何かみたいに抱えられている一護を見た途端―‥喜ぶより先に一瞬嫉妬した自分に正直呆れてしまったけど。
「…よぉ、恋次。ひったまげたぜ、仕事忙しいのは聞いてたけどよ、いきなり白哉がうちに来て、ちょっと一緒に来い!!なんて言うから…」
「兄様、さすがです…!この短時間で現世まで往復とは…」
ルキアの言う通りこんな短時間でどうやって往復したんだとかそんなことをちらっと考えたけれど―それも一護の前ではどうでもいいことだった。
「ホラ、土産はこれだ。これで二人分やれるな?恋次??」
「はっ…はい!!!三人分でも四人分でも余裕です!!!」
「…。(莫迦だ…)」
「じゃあ私はコレを食したら帰って寝るから、朝までに死んでも仕上げるように」
白哉はルキアの持って来たキムチ雑炊を上品にかき込みながら平然と言った。
…夜食の意味がまったく無くなっているがいいのだろうか。
「…いちおう、先に言っておくが。」
部屋を出る寸前、白哉がちらりと振り返って言った。
「貴様らが裁かれる時が来ても…私はどうしてやることも出来んし―してやる気もない。夢中になるのも悪くはないが―‥その分失ったらどんなに痛いか、貴様らはふたりとも知っているはずであろう?肝に命じて、少しは真面目に考えるのだな」
「「…」」
ちなみに私もだからな!!―とか言いながらルキアはちょこちょこと白哉の後をついて出て行った。
「…ルキアのやつ…人のこと言えない身分のくせに何言ってるんだ…」
「まぁ…井上は白哉に気に入られてるからな…。知ってるか、ルキアを俺やおまえに渡すよりは余程いい…とか言ったらしいぜ」
「マジで…!?ひ、ひでぇ…」
「…まぁでも白哉なりに心配してくれてるんだろうなぁ。なんか意外だけど」
一護は少し笑って恋次の座っている椅子を強引にシェアして、隣にちょこんと座った。
「それより恋次、ぴーぴー泣いてたそうじゃねぇか」
白哉はそんなことまで話したのだろうか、一護はニヤニヤしながら言った。
「…しょーがねぇだろ、こんなに会わなかったの初めてなんだから」
本当のことなので正直に言った。こんなに―とか言った後でたった三日だということを思い出したけれどまぁ気にしないことにした。
「…ほんとにおまえ、女の子みたい」
一護は妙に嬉しそうに笑って、恋次の額にキスをした。それからの机の上の書類の山に視線を移すとその量の多さに眉を顰めた。
「これ…白哉のぶんまで合わせて〆切いつ?」
「聞いてただろ、明日の朝だよ」
「…それって物理的に可能なわけ?」
「さっきまで絶対無理だと思ってたけど。今なら全然余裕な気がする」
「それ錯覚だろ!!つまり無理ってことじゃねえか!!!…まぁいいや、出来るとこなら俺も手伝うし」
一護は恋次の顔を引き寄せると軽く口付けた。
「…つまり早くやりたいなら早く上げろってことで頑張ろーぜ」
「あんまり煽んなよ、仕事に集中出来なくなるだろ…」
「だって会えなかったのは俺も同じなんだから、言っとくけどこっちだってすげぇ我慢してんだぜ?」
一護は手を伸ばして着物の上から恋次の腿を何ともイヤラシイ触れ方で撫で上げた。
「なぁ、害がなさそうなこのへん触っててもいいか?いっそ触られてる方が作業が進むんじゃね?」
「んなわけねーだろ、馬鹿なこと言うな!!つーかてめぇ、手伝うんじゃないのか!!」
慌てて一護の手を退かそうとするけれど、一護の指に絡め取られてしまい余計興奮するだけだった。
全身が性感帯になってしまったみたいに―服の上から脚を触られているだけで息が上がってしまうとは情けないけれど―まぁ愛してしまっているのでそれも仕方がなかった。
「害にならねーわけねぇだろ…おまえが触ればどこでも感じて…欲しくて堪らなくなるんだから…」
「恋次…ちょ…ほんと我慢出来なくなるようなこと言うなよ…」
一護はそのまま恋次の身体を抱き締めて―また口唇を塞いだ。恋次ももう抵抗する気もなくなってそのまま一護の舌を受け入れた。
いつも―‥最初からそうなのだけれど―彼に触れられるともう全てがどうなってもいいような気持ちになる。
「―ぁ…いち…ご…」
「あ〜もう我慢出来そうにねぇ…」
一護の手が恋次の帯に掛かったその時。
「―言い忘れていたのだが。」
突然入口の扉が開いてさっき帰った白哉が顔を覗かせたので、ふたりはびっくりして離れることも忘れて固まってしまった。
「ここは隊舎だから、決して汚すんじゃないぞ。仕事を終わらせた後ならば朽木家の豪華寝室(浴室付き)を提供してやらんでもないがな。きさまらのような凡人には一生かかってもお目にかかれないような凄い部屋だからいい思い出になるぞ。…まぁ、興味がないなら構わんが」
「「マ、マジデスカーーー!!???」」
白哉はそれだけ言うと何事も無かったかのようにまた去って行った。
仕方なく一護は驚いた拍子に解いてしまった恋次の腰紐を元通りに結んでやった。
「白哉のやつ正気か?つーかそんな豪華寝室を汚してもいいんか???俺らの体液を涅あたりに売り飛ばすつもりじゃあ…」
「怖すぎること言うなよ…いくら涅隊長でも俺達の体液には興味ねぇだろ…」
「まぁ豪華ラブホ…じゃなかった白哉んちのことはとにかく、エッチはご褒美ってことにして…とりあえずこっちを片付けるか…」
「うんもう早くやりたいからテキトーでいいや」
「オイオイ…」
一護は部屋の隅にあった椅子を持ってきて、恋次の反対側に座った。
「そーだ、今から仕事終わるまでやりたいって言うの禁止な。あと触るのも。破ったやつは500円または500環罰金」
「別にいいけど…」
一護はいつも大人びていて自分は説き伏せられてばかりなので、たまにこういう子供っぽいところを見せられると可愛いなあと思う。
「でも俺おまえに見とれちゃって結局仕事進まないかもなぁ」
「おいおい…まぁ確かに、考えてみたら恋次と向かい合って机に座る機会なんてないもんな…これはこれで興奮…いや何でもない。」
「もー仕事終わるまで触れないんだからな、これは死ぬ気でやらないと…」
「そーそー、やりたいことは忘れて…あ。」
「そこの箱に500円入れとけよ。心配すんな、これは俺らの将来の為に貯めとくことにするから!!」
「ホントかよ…なんかお年玉を預かる親みたいな台詞だな…」
罰金効果で作業が半分くらい進んだ頃、恋次はそういえば…と思って顔を上げた。
「なぁ一護、隊長…おまえにも何か言った?」
ああ…、と一護は言った。
「言ったよ、どうするつもりなのかって。―恋次の方は何も考えていないそうだが兄はどうなのだって。なんか、彼女の親父みたいな台詞だな〜って思った」
「…で、おまえは何て答えたんだ?」
「まぁ俺もどうするとかハッキリ決めてるわけじゃないし深く考えてもねぇけど…。でも一生かけて幸せにするぜ、って言った」
「へ、へぇ…」
なんだか急に恥ずかしくなって恋次は一護の顔が真っ直ぐ見れなくなった。
「…なに照れてるんだよ今更。」
「だって…そんなこと言われたら恥ずかしいだろ!!」
「恥ずかしいっておまえ…ホント忘れた頃に可愛いこと言うなよ」
「あーほら仕事!仕事!!」
そうして夜が明ける頃―最後の方はもはや何を書いているのか判らない状態で、何とか作業は終了した。
箱の中にも円と環の入り交じった硬貨がこんもりと積もっている。(※途中で色々と…脱線したため)
「ああ〜やっと終わった〜‥」
一護は椅子を蹴り飛ばして立ち上がるとバンザイをした。
「スゲェ…ホントに終わった。まぁ最後の方は終わったと言える状態なのか謎だが…」
恋次は書類を纏めると隣の部屋の白哉の机の上にどさっと置いた。
「徹夜続きですげぇ眠いのにエッチしたすぎてそれどころじゃないってのがすげぇよな…早くおまえにメチャクチャにされてぇ…」
寝惚けているのと性欲が混ざって、恋次は無茶苦茶なことを言って一護に抱き着いた。
「お〜、大胆だな。心配しなくても泣くまでメチャクチャにしてやるよ」
一護も馬鹿な恋人を抱き締めてその口唇にキスをした。
「…で、どうするよ?ここじゃあ出来ねぇし…。ラブホ…じゃなかった、白哉んち行ってみる?」
「何かの罠のよーな気もしなくもねぇが…気になるのは気になるな…」
「まぁ…罠だったら…最悪見るだけでも…」
ところで―、と一護は机の横に貼ってある画用紙を指差した。
「さっきから気になってたんだけど…コレって何?」
「ああ、ルキアが描いたおまえ。(キッパリ)」
「俺か!?これ、俺なのか!!???」
そうして興味本位で白哉の家を訪ねた庶民約二名は、その絵にも描けない豪華寝室に目玉を飛び出させた挙句―結局目の前に「すごい」ベッドがあるその状況ゆえに移動するのが面倒になって、存分に―そこを利用することになった。
交わっては眠ってを繰り返していたため二日ほどそこに閉じ篭る羽目になり、フラフラになって部屋を出るとバッタリ会ったルキアに「恋次妊娠したんじゃないのか?」とかニヤニヤ聞かれたけれど、一護は酷く真面目な顔で「いや、避妊してるから」と返答してルキアを唖然とさせた。
恋次は、ツッコむ気力がなかったのでとりあえず黙っていた。
―二週間後、女性死神協会会議室にて。
「ちょっと!ちょっとみんな大変!!"朽木隊長って恋人いないのカナ?"大作戦で例の部屋に仕掛けといた隠しカメラにすごいもんが映ってたんだって!!!」
「ハァ?すごいもの??」
「やちる、ちょっと再生してみて!!」
「はぁ〜い!!」
やちるがビデオの再生ボタンを押すとそこには勿論―‥
「い、一護と恋次…??なんでこいつらが朽木隊長んちでヤってんの??」
「金でも積まれたんですかねぇ…?」
「朽木隊長が金を積むメリットがまったくない!!」
「ギャー!!!七緒さんが倒れたーーーーー!!!!!!」
「七緒はこーゆーのダメなのよねぇ…私は結構好きなんだけど」
「あ、あたしも…(ドキドキ)」
「いっちーたち、裸で密着して何してるの〜??」
「や、やちる…ベタなこと聞かなくていいから…てかあんたまさか判ってて聞いてるんじゃあ…」
「それよりも不快だから早く止めろ!!!私は夜一様の裸にしか興味はない!!ましてや男同士なんて言語道断だ!!!」
「「「「…(このレズ野郎…)…」」」」
「まぁこれはこれで…いい売り物になるかも…ねぇ…??とりあえずDVDに焼きまくって売りましょー!!一枚4,800環くらいかな…」
「あ、あたし買います!!」
「わ、私も…」
「マァ、表紙は私が描いてやらんでもないぞ」
「「「「…(おまえが描いたら売れねぇよ!!!)…」」」」
―そうして、尸魂界にはふたりの無修正DVDが出回ったとか、何とか。
長いこと一護に会っていない気がする。
何かと立て込んだ任務が続いたおかげでデスクワークが全く出来なかったのだ。当然のように事務処理が山の如く溜まってしまい、暫く徹夜でこなさなければならなかった。
―と言っても実はまだ三日目かそこらなのだが、一護に会えなかったその三日間は拷問のように長くて辛すぎて、恋次はすっかりまいってしまった。
初めて結ばれたその日から―何だかんだと理由をつけて足しげく通って(たまに通われて)彼とカラダを繋いで一緒に眠ることにすっかり慣れて―‥慣れすぎてしまっていた。
結ばれるまではキスしただけで一週間は浮かれて幸せに過ごせたというのに、贅沢になったものだと頭の隅の方で思った。
三日目の夜、余りの眠気に負けてこっそりうたた寝していたら、一護の夢なんて見てしまって―何だか急に悲しくなってベソベソ泣いていたら、隊舎の隣の部屋で作業していた白哉がガラリと扉を開けて低い声で呟いた。
「…恋次、五月蝿い。」
この隊長ももちろん例に漏れず徹夜で―白い肌には気の毒なくらいクマが出来ていた。
「…すいま、せん。」
まぁ確かに自分が悪いと思ったので、涙を拭くことも忘れて素直に謝った。彼も全く眠っていないのに真夜中に自分の泣き声なんか聞かされたら、そりゃあ神経を逆撫でされるだろう。
白哉はハァ、と溜息をついて部屋の隅にあった椅子に座った。
「貴様…ちょっと会えないくらいでその有様では、今後はいったいどうするつもりなのだ?」
白哉はいきなり核心を突いた質問をした。
「さぁ…」
恋次がやる気のない返事をすると、白哉はあからさまに眉を顰めた。
確かに三日やそこら会えないくらいでこの有様では今後必ず起こるであろうあらゆる困難に―打ち勝てるとはとても思えない。それくらいは幾ら恋次でも判った。―白哉がそのことを言っているのだということも。
「…別に、副隊長は貴様でなくても良い。代わりは幾らでもいる」
いつもながらさらりと酷いことを言われたけれど、慣れているので特に気にならなかった。
「だから貴様が死刑になろうが追放されようが駆け落ちしようが心中しようが―私は一向に構わん。…だが構わんなりに気になるから聞いているのだ。少しは私が納得するような返事をしてみたらどうだ」
「そりゃあどうも…」
変な心配の仕方だなぁ、とか思って恋次はこっそり笑った。
「でもホントに、間抜けなまでに何にも考えてないんですよね…。今も一護と会えなくて淋しいな〜って思ってたらうっかり涙が…」
「…」
「…いや、一護はちょっとは考えてるのかも知れないけど。俺は…もう一護がそばにいてくれるだけで…他のことはあんまり…」
恋次がそう言うと白哉はもぅ何も言う気がしない、という顔をした。
「…もう良い。仕方あるまい、これからいいものを持ってきてやるから貴様は私の分もやるのだ。判ったな?」
「え!?いいものも何もさすがに二人分は無理…ちょっと隊長ーー!!??」
涙も引っ込むほど青くなった恋次はあっさり無視して、白哉はさっさと扉を閉めて出て行ってしまった。
恋次も慌てて追いかけよう―としたが、白哉の神懸かった瞬歩の前ではいったいどちらの方角に行ったのかすらさっぱり判らない始末だった。
―コンコン…
いきなり仕事が倍になってもう半分仕上げることを諦めてしまい、こうなったら一護の妄想でもしていようと恋次が机に突っ伏しているとノックの音が響いた。
白哉が帰ってきた―わけではなくて、入って来たのはルキアだった。
「兄様、お夜食の差し入れをお持ち致しましたよ〜現世のキムチ雑炊ですよ〜‥あれ??恋次、兄様はどうした??」
「良く判んねぇけどどっか行った。…それよりてめぇ、隊長だけかよ!!俺には何もねーのかよ!」
「あぁ、もちろんあるぞ。おまえはきっと一護に会えなくて淋しがっていると思ってな!!!ホラ、私自ら一護の画を描いてきてやったぞ!!!」
「…。」
ルキアが誇らしげに広げた画用紙にはウサギだか一護だかウサギだか―いやもう一護だということにしておこう、そんな感じのパステル画の一護(?)が描かれていた。
「…なんかもういっそこれでもいい気がして来るな。サンキュ、ルキア…机の前に貼っとくわ…」
(つ、突っ込まんのか…それよりコイツ目が赤いけどまさか三日やそこらで泣いておったのではあるまいな…)
さすがのルキアもヒイていると、また扉がガラリと開いて白哉が帰って来た。
「あ、兄様―」
「隊長―!?どこ行ってたんですか、こんなの絶対ひとりでは無理ですって―‥」
そんな泣き言を吐きながら振り返った瞬間―白哉が小脇に抱えているものを見て恋次は目を丸くした。
それはまさに夢にまで見た一護だった。―これが幻影か何かでないのなら。
でも白哉にまるで荷物か何かみたいに抱えられている一護を見た途端―‥喜ぶより先に一瞬嫉妬した自分に正直呆れてしまったけど。
「…よぉ、恋次。ひったまげたぜ、仕事忙しいのは聞いてたけどよ、いきなり白哉がうちに来て、ちょっと一緒に来い!!なんて言うから…」
「兄様、さすがです…!この短時間で現世まで往復とは…」
ルキアの言う通りこんな短時間でどうやって往復したんだとかそんなことをちらっと考えたけれど―それも一護の前ではどうでもいいことだった。
「ホラ、土産はこれだ。これで二人分やれるな?恋次??」
「はっ…はい!!!三人分でも四人分でも余裕です!!!」
「…。(莫迦だ…)」
「じゃあ私はコレを食したら帰って寝るから、朝までに死んでも仕上げるように」
白哉はルキアの持って来たキムチ雑炊を上品にかき込みながら平然と言った。
…夜食の意味がまったく無くなっているがいいのだろうか。
「…いちおう、先に言っておくが。」
部屋を出る寸前、白哉がちらりと振り返って言った。
「貴様らが裁かれる時が来ても…私はどうしてやることも出来んし―してやる気もない。夢中になるのも悪くはないが―‥その分失ったらどんなに痛いか、貴様らはふたりとも知っているはずであろう?肝に命じて、少しは真面目に考えるのだな」
「「…」」
ちなみに私もだからな!!―とか言いながらルキアはちょこちょこと白哉の後をついて出て行った。
「…ルキアのやつ…人のこと言えない身分のくせに何言ってるんだ…」
「まぁ…井上は白哉に気に入られてるからな…。知ってるか、ルキアを俺やおまえに渡すよりは余程いい…とか言ったらしいぜ」
「マジで…!?ひ、ひでぇ…」
「…まぁでも白哉なりに心配してくれてるんだろうなぁ。なんか意外だけど」
一護は少し笑って恋次の座っている椅子を強引にシェアして、隣にちょこんと座った。
「それより恋次、ぴーぴー泣いてたそうじゃねぇか」
白哉はそんなことまで話したのだろうか、一護はニヤニヤしながら言った。
「…しょーがねぇだろ、こんなに会わなかったの初めてなんだから」
本当のことなので正直に言った。こんなに―とか言った後でたった三日だということを思い出したけれどまぁ気にしないことにした。
「…ほんとにおまえ、女の子みたい」
一護は妙に嬉しそうに笑って、恋次の額にキスをした。それからの机の上の書類の山に視線を移すとその量の多さに眉を顰めた。
「これ…白哉のぶんまで合わせて〆切いつ?」
「聞いてただろ、明日の朝だよ」
「…それって物理的に可能なわけ?」
「さっきまで絶対無理だと思ってたけど。今なら全然余裕な気がする」
「それ錯覚だろ!!つまり無理ってことじゃねえか!!!…まぁいいや、出来るとこなら俺も手伝うし」
一護は恋次の顔を引き寄せると軽く口付けた。
「…つまり早くやりたいなら早く上げろってことで頑張ろーぜ」
「あんまり煽んなよ、仕事に集中出来なくなるだろ…」
「だって会えなかったのは俺も同じなんだから、言っとくけどこっちだってすげぇ我慢してんだぜ?」
一護は手を伸ばして着物の上から恋次の腿を何ともイヤラシイ触れ方で撫で上げた。
「なぁ、害がなさそうなこのへん触っててもいいか?いっそ触られてる方が作業が進むんじゃね?」
「んなわけねーだろ、馬鹿なこと言うな!!つーかてめぇ、手伝うんじゃないのか!!」
慌てて一護の手を退かそうとするけれど、一護の指に絡め取られてしまい余計興奮するだけだった。
全身が性感帯になってしまったみたいに―服の上から脚を触られているだけで息が上がってしまうとは情けないけれど―まぁ愛してしまっているのでそれも仕方がなかった。
「害にならねーわけねぇだろ…おまえが触ればどこでも感じて…欲しくて堪らなくなるんだから…」
「恋次…ちょ…ほんと我慢出来なくなるようなこと言うなよ…」
一護はそのまま恋次の身体を抱き締めて―また口唇を塞いだ。恋次ももう抵抗する気もなくなってそのまま一護の舌を受け入れた。
いつも―‥最初からそうなのだけれど―彼に触れられるともう全てがどうなってもいいような気持ちになる。
「―ぁ…いち…ご…」
「あ〜もう我慢出来そうにねぇ…」
一護の手が恋次の帯に掛かったその時。
「―言い忘れていたのだが。」
突然入口の扉が開いてさっき帰った白哉が顔を覗かせたので、ふたりはびっくりして離れることも忘れて固まってしまった。
「ここは隊舎だから、決して汚すんじゃないぞ。仕事を終わらせた後ならば朽木家の豪華寝室(浴室付き)を提供してやらんでもないがな。きさまらのような凡人には一生かかってもお目にかかれないような凄い部屋だからいい思い出になるぞ。…まぁ、興味がないなら構わんが」
「「マ、マジデスカーーー!!???」」
白哉はそれだけ言うと何事も無かったかのようにまた去って行った。
仕方なく一護は驚いた拍子に解いてしまった恋次の腰紐を元通りに結んでやった。
「白哉のやつ正気か?つーかそんな豪華寝室を汚してもいいんか???俺らの体液を涅あたりに売り飛ばすつもりじゃあ…」
「怖すぎること言うなよ…いくら涅隊長でも俺達の体液には興味ねぇだろ…」
「まぁ豪華ラブホ…じゃなかった白哉んちのことはとにかく、エッチはご褒美ってことにして…とりあえずこっちを片付けるか…」
「うんもう早くやりたいからテキトーでいいや」
「オイオイ…」
一護は部屋の隅にあった椅子を持ってきて、恋次の反対側に座った。
「そーだ、今から仕事終わるまでやりたいって言うの禁止な。あと触るのも。破ったやつは500円または500環罰金」
「別にいいけど…」
一護はいつも大人びていて自分は説き伏せられてばかりなので、たまにこういう子供っぽいところを見せられると可愛いなあと思う。
「でも俺おまえに見とれちゃって結局仕事進まないかもなぁ」
「おいおい…まぁ確かに、考えてみたら恋次と向かい合って机に座る機会なんてないもんな…これはこれで興奮…いや何でもない。」
「もー仕事終わるまで触れないんだからな、これは死ぬ気でやらないと…」
「そーそー、やりたいことは忘れて…あ。」
「そこの箱に500円入れとけよ。心配すんな、これは俺らの将来の為に貯めとくことにするから!!」
「ホントかよ…なんかお年玉を預かる親みたいな台詞だな…」
罰金効果で作業が半分くらい進んだ頃、恋次はそういえば…と思って顔を上げた。
「なぁ一護、隊長…おまえにも何か言った?」
ああ…、と一護は言った。
「言ったよ、どうするつもりなのかって。―恋次の方は何も考えていないそうだが兄はどうなのだって。なんか、彼女の親父みたいな台詞だな〜って思った」
「…で、おまえは何て答えたんだ?」
「まぁ俺もどうするとかハッキリ決めてるわけじゃないし深く考えてもねぇけど…。でも一生かけて幸せにするぜ、って言った」
「へ、へぇ…」
なんだか急に恥ずかしくなって恋次は一護の顔が真っ直ぐ見れなくなった。
「…なに照れてるんだよ今更。」
「だって…そんなこと言われたら恥ずかしいだろ!!」
「恥ずかしいっておまえ…ホント忘れた頃に可愛いこと言うなよ」
「あーほら仕事!仕事!!」
そうして夜が明ける頃―最後の方はもはや何を書いているのか判らない状態で、何とか作業は終了した。
箱の中にも円と環の入り交じった硬貨がこんもりと積もっている。(※途中で色々と…脱線したため)
「ああ〜やっと終わった〜‥」
一護は椅子を蹴り飛ばして立ち上がるとバンザイをした。
「スゲェ…ホントに終わった。まぁ最後の方は終わったと言える状態なのか謎だが…」
恋次は書類を纏めると隣の部屋の白哉の机の上にどさっと置いた。
「徹夜続きですげぇ眠いのにエッチしたすぎてそれどころじゃないってのがすげぇよな…早くおまえにメチャクチャにされてぇ…」
寝惚けているのと性欲が混ざって、恋次は無茶苦茶なことを言って一護に抱き着いた。
「お〜、大胆だな。心配しなくても泣くまでメチャクチャにしてやるよ」
一護も馬鹿な恋人を抱き締めてその口唇にキスをした。
「…で、どうするよ?ここじゃあ出来ねぇし…。ラブホ…じゃなかった、白哉んち行ってみる?」
「何かの罠のよーな気もしなくもねぇが…気になるのは気になるな…」
「まぁ…罠だったら…最悪見るだけでも…」
ところで―、と一護は机の横に貼ってある画用紙を指差した。
「さっきから気になってたんだけど…コレって何?」
「ああ、ルキアが描いたおまえ。(キッパリ)」
「俺か!?これ、俺なのか!!???」
そうして興味本位で白哉の家を訪ねた庶民約二名は、その絵にも描けない豪華寝室に目玉を飛び出させた挙句―結局目の前に「すごい」ベッドがあるその状況ゆえに移動するのが面倒になって、存分に―そこを利用することになった。
交わっては眠ってを繰り返していたため二日ほどそこに閉じ篭る羽目になり、フラフラになって部屋を出るとバッタリ会ったルキアに「恋次妊娠したんじゃないのか?」とかニヤニヤ聞かれたけれど、一護は酷く真面目な顔で「いや、避妊してるから」と返答してルキアを唖然とさせた。
恋次は、ツッコむ気力がなかったのでとりあえず黙っていた。
―二週間後、女性死神協会会議室にて。
「ちょっと!ちょっとみんな大変!!"朽木隊長って恋人いないのカナ?"大作戦で例の部屋に仕掛けといた隠しカメラにすごいもんが映ってたんだって!!!」
「ハァ?すごいもの??」
「やちる、ちょっと再生してみて!!」
「はぁ〜い!!」
やちるがビデオの再生ボタンを押すとそこには勿論―‥
「い、一護と恋次…??なんでこいつらが朽木隊長んちでヤってんの??」
「金でも積まれたんですかねぇ…?」
「朽木隊長が金を積むメリットがまったくない!!」
「ギャー!!!七緒さんが倒れたーーーーー!!!!!!」
「七緒はこーゆーのダメなのよねぇ…私は結構好きなんだけど」
「あ、あたしも…(ドキドキ)」
「いっちーたち、裸で密着して何してるの〜??」
「や、やちる…ベタなこと聞かなくていいから…てかあんたまさか判ってて聞いてるんじゃあ…」
「それよりも不快だから早く止めろ!!!私は夜一様の裸にしか興味はない!!ましてや男同士なんて言語道断だ!!!」
「「「「…(このレズ野郎…)…」」」」
「まぁこれはこれで…いい売り物になるかも…ねぇ…??とりあえずDVDに焼きまくって売りましょー!!一枚4,800環くらいかな…」
「あ、あたし買います!!」
「わ、私も…」
「マァ、表紙は私が描いてやらんでもないぞ」
「「「「…(おまえが描いたら売れねぇよ!!!)…」」」」
―そうして、尸魂界にはふたりの無修正DVDが出回ったとか、何とか。