「…ちご」
「いちご!!」
高い声に名を呼ばれてうっすらと瞼を開けると、大きな金色の瞳が見えた。
満月のような見事な金色のそれに張った透明な水の膜が今にも溢れて零れ落ちそうで―思わず心配になったことを覚えている。
「良かった、まだ生きてた…」
あたりは見覚えのある自分の精神世界で、何度か戦ったことのある一護自身の真っ白な虚が安心したようにちょっと笑った。
必死で揺さぶったのだろう、真っ白な指先(ツメは黒いけれど)が自分の血で真っ赤に濡れてしまって痛々しい。
(そうか、俺ウルキオラにボロボロにやられて…)
「死んじゃったかと思った…」
そんなことを言いながら血で濡れた手で構いもせずに涙を拭うものだから、白い頬はたちまち一護の血で染まってしまう。
慌ててよせよ、汚れるから…と手を引いてやると虚はなにが…?とまるで判っていないような瞳をこちらに向けた。
(…でけぇ目)
死にかけたというのに悠長にそんなことを思った。
「バカ、俺が死んだらおまえだって死んでるだろ?おまえが生きてるっつーことは、まだ俺も生きてるよ」
「そぅだけど…めっちゃ血ィ出てたし…」
その光景を思い出したのか、せっかく止まりかけた涙がまたぶわっと滲んでしまった。
「なに言ってんだよ、自分はあのときあんだけ斬っといて」
「…だって、いちごを斬っていいのは俺だけだもん」
虚は勝手なことを言ってぽろぽろと涙を零した。
かわいい独占欲だなぁとか内心苦笑しつつ、一護は自分の横にぺたんと座っている虚の腕を引き寄せた。
「…ちょっとだけ、霊力くれな?」
耳元で囁いて、ごく軽く口唇に触れる。
まったく同じ霊力を持っているから、触れたか触れないかくらいの軽いキスでもチカラのやり取りが可能だった。
ほんの少し―自由に動ける程度の力をいただいてすぐに口唇を離す。
軽く触れただけなのに虚の口唇は妙に甘く感じておかしかった。
「ごめんなさい、俺が弱いから…」
白い虚は長い睫毛を伏せて―ぎぅ、と自分の血だらけの着物を握り締めた。
あぁ、そんなに握ったらますます汚れるのに。まぁもうだいぶ汚してしまっているから今更だけど…。
「なに言ってんだよ。おまえが弱いわけねーだろ。俺がいちばん良く知ってるよ。俺がおまえのチカラほんの少ししか使えてねーだけ…」
「でも…」
「気にすんなって。それよりそんなにひっついたら汚れちまうぞ?おまえの死覇装真っ白なのに…」
両腕を自分から引き剥がしてやると虚はさも悲しそうに真っ直ぐ自分を見た。
(目がでかいだけじゃなくて睫毛も長ぇなぁ…)
「でも…死んでなくて良かった…」
虚はそんなかわいいことを言いながら惜しげもなく大粒の涙をポロポロと零した。そんなに泣いたらもったいないと一護は切実に思った。
―本能で戦えとかなんとかあんなに凶悪な顔をして迫ってきたくせに今は少女のように泣いている。
そうか、本能のままに生きているから本能のままに泣いているんだろうなぁ…と妙に納得した。…自分が泣いていることすら自覚しているのか謎ではあるが。
(かわいいなぁ…俺、こんなに睫毛長くねぇはずだけど…)
人間でも死神でも(本当は虚ですら)ないはずのこの子はなにから出来ているんだろうとぼんやり考えた。
自分の一部なのだからもちろんこの自分から出来ているのはずなのだけれど…それよりは砂糖かなにかでできていると言われた方がよほど納得するような子だった。
あぁ、だからこの子の口唇は甘かったのかもしれない。もしかしたらこの涙も甘いのかも―‥とか思わずばかなことを思って一護は頬を伝う涙をぺろりと舐めた。
もちろんそんなことは無かったけれど(普通にしょっぱかった)、白いこの子はびっくりしたように一護を見た。
「!?」
大きな瞳は自分をきょとんと見上げている。
「泣くなって。もったいねえ」
「なにが…」
「涙。しまっとけって。」
「…」
「…なぁ、もぅ霊力は取らねぇから、もっかいキスしてもいい?」
「…き、…なに?」
目をぱちくりさせている虚を見てようやく事情が飲み込めた。
(そか…さっき何されたか判ってねぇ…いや、知らないんだ)
たしかにこの子はまだ生まれたての赤ん坊みたいなものだろう。
何も知らないのにいきなりキスなんかして悪いことをしてしまった。
(まさかのファーストキス…)
でもそういうことを教えてやれるのはきっと自分しかいないし…いたとしても同じ場所に棲んでいる斬月だとか…まして表の世界で自分じゃない誰かと(その場合は必然的にこの自分の身体でということになるが)―‥なんて冗談じゃない、絶対に嫌…とどういうわけか強く思った。
いちおう自分は健全な高校生だから、同級生の女の子なんかを可愛いと思ったことは何度もある。
でもこの子のかわいさはそんなものとはそもそも次元が違った。―当然だ、だって本気で何も知らないんだから。その全身の色の通りに―ココロもカラダも透き通るほど真っ白で。
「…おまえさ、俺のこと好き?」
「―すキ?」
虚の口唇から零れ落ちた―なんの意味のこもらないただの二文字になってしまったその言葉を聞いて一護は途方に暮れた。
(これもわかんねーか…どうしようかな…)
現実の世界では自分の身体が放置されているということも忘れて一護は首を捻った。
「じゃあ俺のことどう思う?」
「どうって…いちごは俺の王さまでしょ?…今は血だらけだけど。」
「…。まぁ王も悪くねーけど…」
「?」
(口で言ってもわかんねーなら…)
とりあえずそっと手を伸ばして抱き寄せて―そのまま思い切って抱き締めてみた。血だらけの自分が抱き締めてはきれいなこの子が取り返しがつかないほど汚れるなぁ―とか小さな虚が完全に腕の中に収まってしまってから思った。
(俺って、こんなにちっこくて細かったっけ…)
「いちご…?」
虚は相変わらずなにをされているのか判っていないようだったけれど拒みはしなかった。しばらく抱いていると持て余した(と思われる)両腕をいかにも恐る恐る背中に回されたので、―とりあえずは受け入れられたらしい。
なんにも知らないせいか子猫みたいに人なつっこくて、今ならなんでも出来る気がした。…嫌われたくないからしないけど。
「こんなに汚れちまって、ごめんな…。風呂は?」
「そのへんのビルのどっかにはあるでしょ。このへんはみんな俺のうちみたいなもんだし」
「じゃあそのへんで洗…。いや、風呂入るか」
危うく洗ってやる…と言いかけて、慌てて言い直した。
洗ってやったりしたらうっかりそのまま襲ってしまいそうだったからだ。
「おまえ、ソレ着替えとかあるの?」
「卍解すれば新しいの出るよ」
「それもそうだな。じゃあ俺もそうしよ〜」
「でもいちご、怪我してんのに卍解とか出来んの?もっと霊力取ればいいのに…」
「だめ。そんなにおまえからもらえねーだろ。大丈夫だよ、血は止まってるから」
確かにこの子からもっと霊力を貰えば怪我くらいすぐ治るだろう。
でも幾ら自分の一部とはいえ、この子そのもののエネルギーをそんなに奪えない。この子がどんなに強い力を持っていて―自分がちょっとやそっと頂いたところでなんともないということが判っていても、だ。この白くて小さなカラダから力を奪う気にはなれなかった。
虚化は出来るだけ短く―そういう理由もあるのだ。
「…いちごにちょっと吸われたくらいじゃどうもないのに」
「そうゆう問題じゃねぇの」
案の定白い虚は不満げな顔でそんなことを言った。
「どぉせいちごは、俺のチカラなんか使いたくないんでしょ」
「…!」
なんにも知らないくせにそんなことは考えるのか、と逆に感心した。
「あのなぁ、こっちはおまえを心配してやってんのに…」
「いちごに心配されるほどじゃないよ。いいから正直に言えば?てめぇの邪悪なチカラなんか使いたくないって」
「…てめーそこまで言うんなら、お望み通り奪ってやるよ。ただし力じゃなくて別のものをな」
そう告げ終わらないうちに、虚の腕をぐいと引き寄せて口唇を塞いだ。―さっきみたいに軽く触れるだけじゃなくて普通に恋人同士がするみたいに思いっきり塞いだ。
小さな虚はとてもびっくりしたようで、蜂蜜色の瞳を見開いた。
「―!!」
「…もっと頂戴」
一度離してすぐにもう一度口付けると、桜色の口唇を割って無理矢理奥に侵入した。―さすがに相手も嫌がって暴れた…けれど、霊力ならともかく力ではその細腕で自分に敵うはずもない。
奥に逃げた舌を捕まえて絡めてやると、大きな瞳に涙が浮かんできた。―慣れていないのでまず息が出来ないらしい。やりすぎたなぁと反省して―でも反省しているなどとは気付かせないようにあえてゆっくり離してやった。口唇の端から零れた蜜を舐め取って、ちゅ、と額に軽くキスをする。
我ながら理性があると感心したが、まぁこんな子供(…のようなもの)が相手では理性的にならざるおえない。
「…な、に…今の…」
息を切らせた涙声で発せられた質問に、待ってましたとばかりに自信満々に答えてやる。
「これがキスだよ。かわいい子にするもの。」
「は、ぁ…??」
―正確に言えば微妙に(かなり?)違うが、好きな子に―とか言っても判らないだろうと思ったのでこう説明しておいた。
「ちょっとは判ったか?俺はおまえがかわいいから、おまえを消耗させるようなことはしたくないの」
虚はいまだに良く判らないような表情をしていたけど(まぁこんな説明で判るはずもないが)、さすがにもう反抗はしなかった。逆らってまたされてはたまったもんじゃないと思ったのだろう。
「でもいきなりして悪かったよ。これに懲りて俺のこと警戒しないでくれよな?」
頬を撫でてやると意外にも逃げたりはしなかった。
判っていない割には真っ白な頬を見事な桃色に染めて可愛らしい。
(…意外と脈あるなぁ…そりゃそうか、俺、こいつの王だもん…。こいつにとっては俺だけがセカイノスベテ、みたいな?)
(だいたい王とか以前に…俺なんだよなぁ…こんなにかわいいのに…。俺なんだったら…やっぱ俺のモノだよなぁ…)
「そんな拗ねんなよ、ほんと悪かったから。ほら、風呂探しに行こうぜ?」
ヤマシイことを色々考えていたら、白い虚が怪訝な目でこちらを見ていたので慌てて話を元に戻す。
移動しようと細い腰を抱え上げたら虚はまた驚いて暴れた。
「ちょ…!待ってよ、なんで抱っこすんの」
「おまえのファーストキスを奪ったお詫び。(抱っこは知ってんのか…)」
「何言ってんの?意味わかんな…ちょっと、いちご!」
…その後、どこぞやシャワールームでイチャイチャしたりえっちな気分になってたりしていたら、手を出す前にいつぞやのグリムジョー(井上付)に無理矢理現実に引き戻されました。(by一護)
「いちご!!」
高い声に名を呼ばれてうっすらと瞼を開けると、大きな金色の瞳が見えた。
満月のような見事な金色のそれに張った透明な水の膜が今にも溢れて零れ落ちそうで―思わず心配になったことを覚えている。
「良かった、まだ生きてた…」
あたりは見覚えのある自分の精神世界で、何度か戦ったことのある一護自身の真っ白な虚が安心したようにちょっと笑った。
必死で揺さぶったのだろう、真っ白な指先(ツメは黒いけれど)が自分の血で真っ赤に濡れてしまって痛々しい。
(そうか、俺ウルキオラにボロボロにやられて…)
「死んじゃったかと思った…」
そんなことを言いながら血で濡れた手で構いもせずに涙を拭うものだから、白い頬はたちまち一護の血で染まってしまう。
慌ててよせよ、汚れるから…と手を引いてやると虚はなにが…?とまるで判っていないような瞳をこちらに向けた。
(…でけぇ目)
死にかけたというのに悠長にそんなことを思った。
「バカ、俺が死んだらおまえだって死んでるだろ?おまえが生きてるっつーことは、まだ俺も生きてるよ」
「そぅだけど…めっちゃ血ィ出てたし…」
その光景を思い出したのか、せっかく止まりかけた涙がまたぶわっと滲んでしまった。
「なに言ってんだよ、自分はあのときあんだけ斬っといて」
「…だって、いちごを斬っていいのは俺だけだもん」
虚は勝手なことを言ってぽろぽろと涙を零した。
かわいい独占欲だなぁとか内心苦笑しつつ、一護は自分の横にぺたんと座っている虚の腕を引き寄せた。
「…ちょっとだけ、霊力くれな?」
耳元で囁いて、ごく軽く口唇に触れる。
まったく同じ霊力を持っているから、触れたか触れないかくらいの軽いキスでもチカラのやり取りが可能だった。
ほんの少し―自由に動ける程度の力をいただいてすぐに口唇を離す。
軽く触れただけなのに虚の口唇は妙に甘く感じておかしかった。
「ごめんなさい、俺が弱いから…」
白い虚は長い睫毛を伏せて―ぎぅ、と自分の血だらけの着物を握り締めた。
あぁ、そんなに握ったらますます汚れるのに。まぁもうだいぶ汚してしまっているから今更だけど…。
「なに言ってんだよ。おまえが弱いわけねーだろ。俺がいちばん良く知ってるよ。俺がおまえのチカラほんの少ししか使えてねーだけ…」
「でも…」
「気にすんなって。それよりそんなにひっついたら汚れちまうぞ?おまえの死覇装真っ白なのに…」
両腕を自分から引き剥がしてやると虚はさも悲しそうに真っ直ぐ自分を見た。
(目がでかいだけじゃなくて睫毛も長ぇなぁ…)
「でも…死んでなくて良かった…」
虚はそんなかわいいことを言いながら惜しげもなく大粒の涙をポロポロと零した。そんなに泣いたらもったいないと一護は切実に思った。
―本能で戦えとかなんとかあんなに凶悪な顔をして迫ってきたくせに今は少女のように泣いている。
そうか、本能のままに生きているから本能のままに泣いているんだろうなぁ…と妙に納得した。…自分が泣いていることすら自覚しているのか謎ではあるが。
(かわいいなぁ…俺、こんなに睫毛長くねぇはずだけど…)
人間でも死神でも(本当は虚ですら)ないはずのこの子はなにから出来ているんだろうとぼんやり考えた。
自分の一部なのだからもちろんこの自分から出来ているのはずなのだけれど…それよりは砂糖かなにかでできていると言われた方がよほど納得するような子だった。
あぁ、だからこの子の口唇は甘かったのかもしれない。もしかしたらこの涙も甘いのかも―‥とか思わずばかなことを思って一護は頬を伝う涙をぺろりと舐めた。
もちろんそんなことは無かったけれど(普通にしょっぱかった)、白いこの子はびっくりしたように一護を見た。
「!?」
大きな瞳は自分をきょとんと見上げている。
「泣くなって。もったいねえ」
「なにが…」
「涙。しまっとけって。」
「…」
「…なぁ、もぅ霊力は取らねぇから、もっかいキスしてもいい?」
「…き、…なに?」
目をぱちくりさせている虚を見てようやく事情が飲み込めた。
(そか…さっき何されたか判ってねぇ…いや、知らないんだ)
たしかにこの子はまだ生まれたての赤ん坊みたいなものだろう。
何も知らないのにいきなりキスなんかして悪いことをしてしまった。
(まさかのファーストキス…)
でもそういうことを教えてやれるのはきっと自分しかいないし…いたとしても同じ場所に棲んでいる斬月だとか…まして表の世界で自分じゃない誰かと(その場合は必然的にこの自分の身体でということになるが)―‥なんて冗談じゃない、絶対に嫌…とどういうわけか強く思った。
いちおう自分は健全な高校生だから、同級生の女の子なんかを可愛いと思ったことは何度もある。
でもこの子のかわいさはそんなものとはそもそも次元が違った。―当然だ、だって本気で何も知らないんだから。その全身の色の通りに―ココロもカラダも透き通るほど真っ白で。
「…おまえさ、俺のこと好き?」
「―すキ?」
虚の口唇から零れ落ちた―なんの意味のこもらないただの二文字になってしまったその言葉を聞いて一護は途方に暮れた。
(これもわかんねーか…どうしようかな…)
現実の世界では自分の身体が放置されているということも忘れて一護は首を捻った。
「じゃあ俺のことどう思う?」
「どうって…いちごは俺の王さまでしょ?…今は血だらけだけど。」
「…。まぁ王も悪くねーけど…」
「?」
(口で言ってもわかんねーなら…)
とりあえずそっと手を伸ばして抱き寄せて―そのまま思い切って抱き締めてみた。血だらけの自分が抱き締めてはきれいなこの子が取り返しがつかないほど汚れるなぁ―とか小さな虚が完全に腕の中に収まってしまってから思った。
(俺って、こんなにちっこくて細かったっけ…)
「いちご…?」
虚は相変わらずなにをされているのか判っていないようだったけれど拒みはしなかった。しばらく抱いていると持て余した(と思われる)両腕をいかにも恐る恐る背中に回されたので、―とりあえずは受け入れられたらしい。
なんにも知らないせいか子猫みたいに人なつっこくて、今ならなんでも出来る気がした。…嫌われたくないからしないけど。
「こんなに汚れちまって、ごめんな…。風呂は?」
「そのへんのビルのどっかにはあるでしょ。このへんはみんな俺のうちみたいなもんだし」
「じゃあそのへんで洗…。いや、風呂入るか」
危うく洗ってやる…と言いかけて、慌てて言い直した。
洗ってやったりしたらうっかりそのまま襲ってしまいそうだったからだ。
「おまえ、ソレ着替えとかあるの?」
「卍解すれば新しいの出るよ」
「それもそうだな。じゃあ俺もそうしよ〜」
「でもいちご、怪我してんのに卍解とか出来んの?もっと霊力取ればいいのに…」
「だめ。そんなにおまえからもらえねーだろ。大丈夫だよ、血は止まってるから」
確かにこの子からもっと霊力を貰えば怪我くらいすぐ治るだろう。
でも幾ら自分の一部とはいえ、この子そのもののエネルギーをそんなに奪えない。この子がどんなに強い力を持っていて―自分がちょっとやそっと頂いたところでなんともないということが判っていても、だ。この白くて小さなカラダから力を奪う気にはなれなかった。
虚化は出来るだけ短く―そういう理由もあるのだ。
「…いちごにちょっと吸われたくらいじゃどうもないのに」
「そうゆう問題じゃねぇの」
案の定白い虚は不満げな顔でそんなことを言った。
「どぉせいちごは、俺のチカラなんか使いたくないんでしょ」
「…!」
なんにも知らないくせにそんなことは考えるのか、と逆に感心した。
「あのなぁ、こっちはおまえを心配してやってんのに…」
「いちごに心配されるほどじゃないよ。いいから正直に言えば?てめぇの邪悪なチカラなんか使いたくないって」
「…てめーそこまで言うんなら、お望み通り奪ってやるよ。ただし力じゃなくて別のものをな」
そう告げ終わらないうちに、虚の腕をぐいと引き寄せて口唇を塞いだ。―さっきみたいに軽く触れるだけじゃなくて普通に恋人同士がするみたいに思いっきり塞いだ。
小さな虚はとてもびっくりしたようで、蜂蜜色の瞳を見開いた。
「―!!」
「…もっと頂戴」
一度離してすぐにもう一度口付けると、桜色の口唇を割って無理矢理奥に侵入した。―さすがに相手も嫌がって暴れた…けれど、霊力ならともかく力ではその細腕で自分に敵うはずもない。
奥に逃げた舌を捕まえて絡めてやると、大きな瞳に涙が浮かんできた。―慣れていないのでまず息が出来ないらしい。やりすぎたなぁと反省して―でも反省しているなどとは気付かせないようにあえてゆっくり離してやった。口唇の端から零れた蜜を舐め取って、ちゅ、と額に軽くキスをする。
我ながら理性があると感心したが、まぁこんな子供(…のようなもの)が相手では理性的にならざるおえない。
「…な、に…今の…」
息を切らせた涙声で発せられた質問に、待ってましたとばかりに自信満々に答えてやる。
「これがキスだよ。かわいい子にするもの。」
「は、ぁ…??」
―正確に言えば微妙に(かなり?)違うが、好きな子に―とか言っても判らないだろうと思ったのでこう説明しておいた。
「ちょっとは判ったか?俺はおまえがかわいいから、おまえを消耗させるようなことはしたくないの」
虚はいまだに良く判らないような表情をしていたけど(まぁこんな説明で判るはずもないが)、さすがにもう反抗はしなかった。逆らってまたされてはたまったもんじゃないと思ったのだろう。
「でもいきなりして悪かったよ。これに懲りて俺のこと警戒しないでくれよな?」
頬を撫でてやると意外にも逃げたりはしなかった。
判っていない割には真っ白な頬を見事な桃色に染めて可愛らしい。
(…意外と脈あるなぁ…そりゃそうか、俺、こいつの王だもん…。こいつにとっては俺だけがセカイノスベテ、みたいな?)
(だいたい王とか以前に…俺なんだよなぁ…こんなにかわいいのに…。俺なんだったら…やっぱ俺のモノだよなぁ…)
「そんな拗ねんなよ、ほんと悪かったから。ほら、風呂探しに行こうぜ?」
ヤマシイことを色々考えていたら、白い虚が怪訝な目でこちらを見ていたので慌てて話を元に戻す。
移動しようと細い腰を抱え上げたら虚はまた驚いて暴れた。
「ちょ…!待ってよ、なんで抱っこすんの」
「おまえのファーストキスを奪ったお詫び。(抱っこは知ってんのか…)」
「何言ってんの?意味わかんな…ちょっと、いちご!」
…その後、どこぞやシャワールームでイチャイチャしたりえっちな気分になってたりしていたら、手を出す前にいつぞやのグリムジョー(井上付)に無理矢理現実に引き戻されました。(by一護)