―どうか見ないでください。

















「…黒崎ハいないようだナ」


 久しぶりに、ソコソコ腕の立つ虚の相手をしていた。
 ザコばかりを相手にしていては退屈で退屈でたまらない。―たまにはこういうこともなければ。
 風にさらわれて飛んで行きそうな崖の淵すれすれに立っていて、崖の下は深すぎてどうなっているのかもさっぱり判らない。当然一歩でも足を踏み外したら死ぬなぁ…、なんて考えたらぞくぞくした。
 慣れた一護の精神世界とはいえ、彼の一部にすぎない自分はその奥深くまで知ることはないし(多分一護本人でも知らないと思うけれど)、そんなところに迷い込んだらたぶん生きて帰れないことくらい判っている。
 遠くにぼんやりと自分の家の尖った屋根が見えるのが判った。随分遠くまで来たなぁ―なんて悠長なことを思った。


 それにしても、さすがにもうどんな虚でも自分と一護の区別くらいはつくようだ。
 一護と間違われるのもきらいじゃないけど、かつて自分で拒絶したその名前で呼ばれることには抵抗があるので、別人だと思われているならその方が良い。


 思わずキョロキョロとあたりを見渡して、確かに一護がいなくてその霊圧もないのを確認してしまった。ホッと胸を撫で下ろす。

 別にいいのだけれど、戦っているときに一護がいるとやりにくいったらないのだ。(一護本人と戦っている場合はそんなことないけど)
 ちょっとぎょっとするくらい心配そうな目で見られたり、もしくは熱い目で見られたり、ケガでもしてないかとか言ってカラダをエッチな方法でしつこく調べられたり、そうでなかったら一晩中離してもらえなかったり…。
 こんなことを言うのもなんだけれど、あれで優しくなかったらDV夫みたいなものだ。
 まぁ、一護をあんなにしたのは全部自分だし束縛されるのも好きだからいいのだけれど。あれでDVでも別に構わなかったと思う。



「へへへ、一護はいないよ。どこにも。残念…ううん、ラッキーかな。えへへ。」

「…?」

 自分でも気持ちが悪い喋り方だ、と思ったけれど変なことを考えていたのだから仕方がない。
 まぁ冷静になるとどうせたぶん斬月はどこかで見ているのだろうけれど―まぁそこはどうでもいい。
 背中の斬月を引き抜いて、えい、と構えた。


「どーぞ、どっからでも」

「…知ってる、貴様」

「え?」

「黒崎が命ヨリ大切ニしている…もうひとりの黒崎…」


 ―えっソウダッタノ!!????MA★JIで!!???と内心動揺した。
 命より大切にされた記憶なんかないけれど、思わず斬月を握る手から力が抜ける。



「きゃあ、ちょっとタンマ」

 そんなことを言っても当然相手は待ったりしてくれないけれど、ドキドキして逃げ回ってしまった。勿論捕まるようなヘマはしないけれど、方向を考えずに飛び回っていたら家の方角に戻ってしまって慌てて方向転換する。



「…それ、誰から聞いたの?…いち、ご???」

 そんなわけないのにドキドキしながら上目遣いで聞いたら、相手の虚は心底ウザそうな顔をして睨みつけた。
 黒崎一護はコイツのどこがいいのだろうか―‥とかどう見てもそんなことを考えているような顔だった。


「えー‥じゃあウワサとかになってるのかな。まいったな、テヘヘ。」

「…」

 ボケボケしていたらシュッ、と音もなく虚の触手が伸びてきて―例の如く巻かれるようなヘマはしなかったけれど(もはや言い訳がましいが)、微妙に避けきれずに死覇装を掠めて中身を傷つけた。
 たいした傷ではないけれど、肩口から真っ赤な血が流れて白い着物を赤く染める。


「ぎゃあ!!!血ィ出た!!!」

「…」

「どーしてくれんの、ケガなんかしたらどんだけ一護がうるさいか…」

「…」

「あーもーどーしよ。肩じゃ隠しようがねえなァ…」


 過保護な一護がそれこそぎゃあぎゃあ騒ぐのは目に見えている。
 もちろん自分は傷を治したりとか―そんな奇怪な技は心得ていない。この世界を好きに弄れるとかいうのは単にココが一護の精神世界だからで、自分に出来るのは所詮目の前の敵を斬り刻むことだけだ。
 自分はもともと一護の攻撃性の結晶みたいなもので―本来ならそのためだけに、生まれたはずだった。



「黒崎が命ヨリ大切にしているトイウノハ本当だったラシイな…」

 また触手が何本も伸びてきたので、それは斬月でちゃっちゃと切断した。
 もしかして相手は触手プレイとかいうのを狙っているのだろうか―と思わず真剣に考えた。
 無いとは思うけれど、そんなことをされたらそれこそ一護は激怒なんてレベルではないだろう。考えただけでも恐ろしい。自分に怒るのならまだいいけれど、相手を殺す―とかわざわざ物騒なことを宣言しているくらいだからなにをするかわからない。



「噂通り美シイ金の目…」

「そう?べつにおれは目の色なんかどうでもいいけど。」

「命より大切ニしている貴様ノ―‥その金色ノ瞳を抉り出して、黒崎に見せてやったら何て言ウかな…」

「えええっっっ!!??」

 触手プレイ通り越してそこまで考えていたのか、と思わず感心した。
 一瞬真剣にう〜ん、と考えてはみたものの、想像もつかなかった。むしろ考えたくないような気もする。


「…まぁ、たぶん怒る、とは思うけど。それじゃ済まないかな、藍染みたいになったらどーしよ…」

「いや待てよ、でも俺が死んだら自分も死ぬとか言ってたからそうでもないのかな…本気か知らないけど…」

「まぁ、どっちにしてもロクなことにはならないとおもう。」


 うん、と納得して、ようやくヤル気になってきて斬月を握り締めた。
 目を抉る、とまで言われたら興奮してしまうじゃないか。


 瞳を閉じると構えた白い斬月から―黒い霊力が放出される。身震いするような―ぞくぞくと背中を走る感覚が久しぶりで素直に楽しかった。―ああ、どうせ戦うのならこうでなくっちゃ…とか思う。ケガひとつしないのも正直つまらない。
 真っ白な刀から空を覆わんばかりの邪気が噴き出したものだから、さすがに相手も驚いたようだ。
 一護が見ていたのではとてもここまでは出来ない。



「…なにびっくりしてんの?」

 相手があからさまに怯えているのが楽しいなぁ、なんて思った。


「―化け物だぜ、おれ。でないと金色の眼なんて…ありえないだろ?」

「ッ―!」



 ―蝶々のようだと一護は言ったけれど、そんなものじゃない。


 自分は一護のナカの―悪意の塊みたいなものだ。
 白いのは外見だけで、中身はぜんぶ―なにか黒いもので出来てる。
 いつか羽化してこのカラダを突き破って出てくるのは一護の言う白い羽根なんかじゃなくて、なにかもっと恐ろしいものに違いない。


 ―こんなカラダのどこに一護が執着しているのか知らない。
 あんなに必死になってまで助けてくれたのか知らない。
 だから、一護と愛し合ったのはたぶん何かの手違いだ。
 どれだけキスをして―どんなにきつく抱き締められても間違えたりしない。大丈夫、ちゃんとわかっている。
 自分は王である一護の血となり肉となるために生まれた―言うならば生まれながらの生贄だ。
 このチカラもこのカラダもみんなみんな―‥一護のためだけに存在している。そんなこと生まれた時から本能のように知っていることだ。
 一護がどんなに愛してくれても―その事実は変わりないし、覚悟してる。

 …まちがえたりしない。


 まぁ、そう考えるとある意味彼に抱かれているのは間違っていないのかな、とちょっとおかしい。





 そんなことを考えながらトン…、と高く飛んで、白い刀に禍々しい霊力を溜めてぽーんと投げた。
 崖が崩れて消え去るくらいの威力を地上に放り投げたので、地震のような轟音と共に相手は当然跡形も残らずに灰と化してしまった。
 遊んでないで最初からそうしろよ―、ともし一護が見ていたらそう言っただろう。





 ふわりと地面に降りたら、いつの間にか背後にいた斬月が溜息をついて言った。


「―時間がかかりすぎだ。一護が見てる時は早々に済ませるくせにな」

「なんか色々言われたからさ〜。いいじゃん、たまには楽しませろよ」

「…」

「あ、一護には秘密にしててよ。恋次はともかく」

「…何て言うつもりだ」

 それ、と斬月は肩の傷を指した。


「んー、料理しようとしたら包丁が吹っ飛んで…とかどうだろ?」

「…それでは、別の意味の料理だ」

 まぁどっちにしろそんなことを言ったって、一護が信じるわけもないけれど。


「でもヘンなところじゃなくてまだ良かったよ。これで内股とかだったらさすがに怖いな」

「…」

「それとも斬月がやったー!!とか言ってもいい?」

「やめろ。殺される。…とりあえず、あまり一護を刺激するようなことはするな」

「…なんで?」

「そのくらい判るだろう。『命より大切に』…されているのだからな」

「…斬月からも、そう見えるの?」

 ちょっと真剣に聞いたら斬月は頷いた。


「―誰が見ても見えるだろうな」

「…」

「自覚しろ。―おまえたちのためだ」

「…なにを?」



「…愛されていることをだ」



 ここまで言わせるな、と斬月は大きな溜息をついて、フッと消えてしまった。




 ―あいされている。


 あの女神のような―降り注ぐ陽の光のような一護に。
 この醜い化け物のおれが。


 ―あいされてる。


























 そのあと、やって来た一護にやっぱりさんざん問い詰められた。
 一護の前では絶対にベッドの上でハダカになるわけだから、どうやったってバレないはずがないのだ。
 当然あんな言い訳が通じるはずもなくて、結局本当のことを言うはめになった。斬月に口止めまでした意味がまるでない。


「ケガひとつするな―とは言わねぇけどさ、やっぱり自分は大事にしろよ」

「してなくないよ。」

「ウソつけ。ボケッとさえしてなければおまえならこんな傷できねぇだろ?」

 あーあ、全部お見通しだ。


「…だってそいつ、おまえの金の瞳をエグっていちごに見せたらなんて言うかなぁ…とかスゴイこと言うから、つい。興奮しちゃって。」

 微妙に怪我をした時とはズレているが、まあ似たようなものなのでそう言った。


「そんなこと言われたのか?」

 一護がぎょっとして言ったのでこくりと頷いた。


「興奮したの?目をエグられることに?それともそうなった時の俺の様子を想像して?どっち?」

 一護は自分を抱え上げて瞳を覗き込むと真顔で聞いた。


「…両方、かも。」

 正直に言ったら、一護は自分の瞼にキスをした。


「そんなことされたら、俺なにするかわかんないぜ?ちゃんと覚えとけよ」

「…」

「ほんと危ないことすんなよ?どんだけ心配だと思ってんだ」

 やっぱりDV夫くらいしつこく一護は言って、肩口の傷を舐めた。かすり傷なので痛くもないし一週間もすれば消えてしまうだろうけれど、一護が痛そうな顔をしているので申し訳ない気持ちになった。
 これが自覚しろということか…、と斬月の言葉を思い出した。


「ごめん。気をつける」

「あやまんなくてもいーよ。でも…」

「…」

「―おまえがなんかされたら―おれマジでなにするかわかんねぇから。」


 一護は思いつめたような真摯な声で―もういちどそう言った。
 こんな邪悪なチカラの結晶でしかない自分に夢中になって、ばかだなぁ―とか思うけれど。
 ぎゅっと抱き締められながら―それでも、一護の前ではきれいな自分でいたい、とか気持ちの悪いことを考えていることに気付いて―そうかこれが愛というやつか、と初めて痛みを知った子供のように実感した。


「…いちご、」

「なに?」

「…好き」


 背中に腕を回して、久しぶりに自分からそう言った。
 一護は軽く口唇に触れるだけのキスをして―俺も好きだよ、とか小さな声で言った。


「ほんとに…本当におれが好き?」

「なんど言っても変わんねぇなおまえは…。でもなんどでも言ってやるよ」

「…」

「―あいしてるよ」

「いち…」

「…しぬほどあいしてる。」


 もういちど口唇を塞がれて、ナカを犯すように掻き回される。


「あ、っ」

「もうわかんないとは言わせねーぜ…?」


 一護の低い声はこのカラダを侵すように浸透して―自分がなにかきれいなものにでも生まれ変わったような気すらした。笑える錯覚だけれど―これもたぶん愛というやつが成せる技だ。



「愛してる―‥」


















 だからもしもいつか、

 この背中を突き破ってなにか恐ろしいものが生えてきても。



 ―どうか見ないでください。








↓だいなしなのであとがき反転↓(むしろ読まないことを推奨)
紋白蝶の続編的なかんじで。(てきとう)
二面性が書きたかったような記憶があるけど、(きさま赤也の時も言ってたよソレ)
なんかオノレの脳内だけでひとりで盛り上がりすぎてもはやあんまりオボエテマセン\(^o^)/(…)
まぁ内なる虚はあれだ、ハウル的な!\(^o^)/(ハゲシク間違ってる気もするが…)
しかしこいつら病的ですいませんww(病的なのは貴様の頭)
完全に狂ってるwwww(私が)
でも気合だけは入ってるところがオモシロイ!!\(^o^)/(え、これ気合入ってるんだ)
いやむしろ内容はともかく、愛だけは篭ってるところは素直にすごい。(いつもは篭ってないんか。。。)(正直ないね
久しぶりにPCで書いたけど、やっぱ携帯で書いた方が出来がいいような気がするナァ…(どっちでもいいよ)
最初は黒崎さんがいないのをいいことに魔女っこ(!?)みたいにハッスルする内なる虚を書こうと思ってたのに、なんかどこかでズレた。
それにしても病的だな…。(無言)
とりあえず蝶の壁紙を探す作業がいちばん大変だったということをここに記しておきます。(真顔)
最初は蛾で探したんですがさすがになかったwww\(^o^)/
こんなことなら実家にいたあの(すごい)蛾の写真がんばればよかった。。。。_| ̄|○(飛んでるからむりです)

080910


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