「跡部ー!宍戸が倒れた〜〜!」
「ハ?」


コートの向こうから向日に大声で叫ばれて、仕方ないのでとりあえず駆け寄ってみる。(一応部長として)


「また仮病じゃねえの?(不審)」

ここで自分が保健室にでも運んでやろうものなら、ここぞとばかりに保健室で襲って来るようなヤツなのだ、彼は。
明らかに熱があるであろう宍戸の赤い頬を見てもイマイチ信用出来ない。


「今日は違うみたいやな。…38度はあると見たわ」
忍足が宍戸の額に手を当てて言った。

「ふーん…」
それでもまだ信じ難くて宍戸を凝視していると、忍足が耳打ちして来た。


「お姫さん、保健室に運んでやらんでええの?」
「…お前にはコイツが姫に見えるのか?」
「景ちゃんが運ばへんかったらどうせ誰か運ぶことになるけどええの?」

忍足はニヤニヤと跡部の顔を覗き込んだ。


「…チッ」


すぐ戻って来るからお前仕切っとけ、と忍足に言い残して、跡部は宍戸を担ぎ上げた。


「…お姫様抱っこせえへんの?」
「アホか!」

忍足はなんや見たかったのに〜とか何とかブーブー文句を言っていたが、跡部はもう相手にしないことにしてテニスコートを後にした。







冥土の土産




「…失礼します」


ガラリとドアを開けたそこは誰もいないかった。
もう放課後だし生徒がいないのは判るけど…
ドアの前には『ただ今職員会議中』の札が掛かっていた。

「…ったくどいつもこいつも…」


イライラと宍戸をベッドに投げ捨ててそこら辺にあった体温計を手に取る。


「…宍戸、とりあえず熱計れ。仮病だったらブン殴るぞ。(まだ疑っている)」

宍戸は何が何だか判らないけどとりあえず折角ふたりっきりなのにフラフラして言葉も出て来ないことを悔しく思いつつ体温計を脇の下に入れた。



ピピピ…


すぐに無機質な電子音が鳴り響き、宍戸が取るより早く跡部がそれを抜き取った。



「…40度」
「…ええっ!?」

どうやら宍戸本人の方が驚いたようで、素っ頓狂な声を上げた。
跡部は静かにしろ、と目で制して、宍戸をベッドに寝かせた。


「自分の体の調子くらい自分で判るだろ。無理して部活に出るんじゃねえよ。他のやつらにも迷惑だろ。いい年して自己管理も出来ねえのかよ」
「…だって跡部に逢いたかったし」
「てめぇはそういう女みたいなことばっかり言ってるからアホだっつってんだよ」

跡部は溜息をついて、親は?と聞いた。
「…俺んち共働きだから夜まで誰もいねえよ」
「じゃあ部活終わったら俺んちの高級車で送ってやるから有難く思え。それまで大人しく寝てるんだな」


じゃあな、と言って保健室を去ろうとすると、宍戸にユニフォームの裾を掴まれて跡部は思いっきり前につんのめった。


「…何だよ!」
「…俺今まで38度以上出たことないんだ、もしかしたら死ぬかも」
「アホか!!」


宍戸はベッドから飛び起きて跡部の腕を掴んだ。


「…死ぬ前に言っとくけど、俺跡部のこと愛してるんだ」
「…寝てろっつってんだろ」

跡部は無言で宍戸をまたベッドに押し戻すと、その口唇を強引に塞いだ。



「…冥土の土産に教えといてやる」

「俺もお前のことを愛してるよ」


彼の耳元に小声で囁いて、今度こそとばかりにベッドを後にする。



「…ちょっと待って、跡部」
…が、またも宍戸に腕を掴まれた。

「…何だよ」
「冥土の土産がもっと欲しい」
「…もうねぇよ」
「…抱いて欲しい」
「…俺に風邪がうつるとか思わないわけ?」
「風邪じゃなくて不治の病かもよ?」
「…アホらし」


だいたい俺は部活中なんだけど、と言いかけたその口唇はあっさりと宍戸に塞がれた。

(さすが、40度あってもこの態度…)


「…おまえすっげー熱ィぜ。本当に死ぬんじゃねーの?」

跡部は笑って、宍戸のユニフォームのボタンに手をかけた。







***



もう誰もいないだろうと部室に入ると、むしろ3年レギュラーほぼ全員が揃っていた。


「…景ちゃーん」
忍足がしてやったりと声を掛けて来た。

「部長のクセにあれから帰って来なかったなんて!…何してたん?すぐ帰って来るーとかゆうといて…」

そんなことは、忍足だけじゃなく他のメンバーだって判っているはずなのに皆ニヤニヤしているだけで誰も跡部を助けようとはしない。
…と言うかむしろこうなることを期待して部室に残っていたのだろう。


「あんまり跡部苛めるなよ。しょーがないよ、宍戸はあんなんだし」
滝がたまりかねてフォロー(?)を入れた。


「…お前ら、まだ残ってるんだったら鍵閉めて帰れよ」

跡部はニヤニヤする部員たちは総無視して、備え付けの救急箱から風邪薬を取り出した。
ふたりぶんの鞄やら荷物やらを抱えて、そそくさと部室を出る。
そもそも薬と荷物を取りに来ただけなのだ。


「…跡部も、随分まいってるみたいだね」
「…」

滝の言葉に部員たちは思わず無言になった。









迎えを呼ぶ電話を切ってから、一言文句を言ってやろうと振り返ると、宍戸は今更寝てしまったらしく小さく寝息を立てていた。


(やることだけやっておいて…!ったく…とりあえず薬だけでも飲ませとくか)



カプセル状のそれを水と一緒に口に放り込んで、眠っている宍戸に口付ける。
眠っていて無防備なそれはあっさりと跡部の口唇を受け入れたので、そのまま水ごと奥に流し込んだ。


「チッ…手間かけさせやがって」



(…冥土の土産ね…)

―本当に冥土の土産なら、お前にやるものはあんなものじゃないよ。







***



目を開けると見慣れた自分のベッドだった。


(…アレ?)


跡部に抱かれた後の記憶がない。
どうやらやるだけやって寝てしまったようだ。
大方跡部が家まで送ってくれたのだろう。
自分と跡部は同じくらいの背丈に体重で、たぶん女を運ぶほど気軽にはいかなかったはずだけど、運んでくれたのは跡部なのかなぁ?お姫様抱っこで…とかアホなことを考えながら宍戸は身体を起こした。
頭はスッキリしていて、少なくとも熱は下がったようだ。


とりあえず空腹だったので(当たり前)リビングに下りると、夕飯の残りらしきものにラップがしてあった。
夜中に目を覚ました時のために母親が準備しておいてくれたのだろう。
有難くチンして食べながら、跡部のことを考えた。


(…俺のこと愛してるって、言ったよな…)



跡部がそんなことを言い出すことはまずない。(しかも愛してるって…!)
…記憶が確かなら初めて聞いたかも知れない。
親と一緒で、病気になれば跡部も優しくなるのだろうか。
アッサリ熱が下がってしまったことを残念に思いながら、長時間ほったらかしになっていた携帯を開いてみる。


コートのど真ん中で倒れただけあって今日のことは随分知れ渡っているらしく、3年レギュラーほぼ全員からメールが入っていた。
殆どは「良かったな!赤飯炊けよ!」とかふざけた内容のものばかりだったが(初めてじゃあるまいし…)、その中に混じって跡部からもメッセージが入っていた。



『…お大事に。』

たったそれだけだけど宍戸はとても感激して、起きてきた母親に不審がられた。
母親の話によると電話で跡部が詳しく説明してくれたようで、あの子はお金持ちなのに出来た子ねぇ、アンタも少しは見習いなさい、などと言っていたが宍戸はもはやうっとりして聞いていなかった。









「おはよう!」
「…何や、もう生き返ったんかいな」

呆れ顔の忍足にうん!と元気に返事をして、跡部のロッカーを確認すると流石にもう彼は来ていた。


「…アレ?うつらなかったんだ?」
「うつるようなことしたんか?」

本当に仮病だったんちゃうの〜?と言う忍足を尻目に、ちゃっちゃと着替えてコートにいる跡部のもとへ走る。


跡部は表情も変えないでなんだ、もういいのかよ、と言った。


「うん!ごめん、全然覚えてなくて。俺重かっただろ?」
「ああ。(キッパリ)保健室に運んだ時もお前のベッドに運んだ時も無理矢理ひきずって行ったんだよ。
 特に階段は地獄だったな。言っとくけどお姫様抱っこは物理的に無理があるからな」
「…パジャマ着せてくれたのも跡部?」
「…そーだけど」

勝手にタンス開けて悪かったな、と言われて、宍戸は全力で首を振った。


「それより、好きだって言われたような気がするんだけど…」
「熱で夢でも見たんじゃねぇの?」
「…あと、これも夢かな、何か寝てる時跡部にキスされて…そしたらラクになった気がするんだけど」
「…(…そりゃ、単に薬が効いただけだろ…)」
「保健室でヤったのは夢じゃないよな?」
「…それも夢じゃねえの?」
「…そう言われてみれば、跡部風邪がうつった形跡もないしな…」
「俺様はいつも鍛えてるからそうそう風邪うつったりしねえよ」
「…やっぱりヤったんだ」
「テメェが冥土の土産をくれとか何とか言って強請ったんだろうが!!」
「…そう言えば」

何かそんなことを言った気がする。


「でも本当に冥土の土産なら、跡部の命をくれって言うよ」
「…やんねーよ」

跡部はマジメな顔で言った。


「…とりあえず今度ぶっ倒れやがったら樺地に運ばせるからな。つーか最初からそうすれば良かった」
チッ、と跡部は舌打ちをした。

「…いいの?」
「何が」
「妬かない?」
「…アホか」



たぶん未来はずっと先で、自分はそうそう死んだりしないと思うけれど。
もし本当にそんなことがあったら彼は自分に何をくれるのだろう。
強請れば本当に命までくれそうなので、ほぼありえないけどもし死ぬ時に跡部がそばにいたら、冥土の土産を強請るのはやめようと思った。








「朝っぱらからラブラブやんなぁ…」
「忍足、あんなもの見てると馬鹿になるよ」
「滝って、結構キツイよな…」


向日がボソリと呟いた。
宍戸はお前ら、おそーいと大声で叫んで手をぶんぶんと振った。
3人は思わず溜息をついた。


「跡部はあれのどこがええんやろーなぁ?」
「…さぁ」
「宍戸は幸せそうだからいいんじゃねぇの?」
「…跡部は?」
「「……」」



太陽は今日も少年たちを平等に照らす。
宍戸は公衆の面前で跡部の頬に掠めるようなキスをしてから、怒る跡部には目もくれずに3人のもとへと走って来た。





「…長生きするよ、宍戸は」

滝がボソッと呟くと、他の2人も頷いた。




あほらしい小説ですいません。気には入ってるんですがw しかし相変わらずのラブさですね…_| ̄|○
べっこ、宍戸に甘すぎ…_| ̄|○(本当に)
つか最初はこれ、跡宍の初エッチで考えたネタだったんだよねw さすがにムリがあるんでこんな風になりましたがw
つか最初は面白がって書いてたんですが、今では忍足が跡部のこと景ちゃんって呼んでるのがもはや標準になりつつあります。ヤバッ!(本当に)
あー氷帝ドタバタ劇場だいすきだー(落ち着け)あのバカボンたちがだいすk(略)←またバカボン呼ばわりしてる…
滝は私の中では鋭いツッコミ担当w
つか背景、氷帝の校舎はもっと立派ですが生温かく流してください(´∀`)
何だよ何だよ!ボロくてこそ中学校、ジュニアハイスクールだよ!!(お前の出身中学と一緒にするな)