自分の愛しい人が、自分以外の誰かを好きなことくらいとっくに知っていた。
それでもいいから、アンタが誰を見ててもいいから、と言ったのは自分の方だ。
自分は強い人間だ。
好きな人が自分を好きじゃないからといってピーピー泣いているような同級生の女の子とは違う。
そんなことじゃ傷つかない絶対の自信があった。
だいたい、これから幾らでも振り向かせればいい。


―今まで自分が欲しいと思って手に入らなかったものは無いのだ。







like a mirror





「切原さん」

彼の学校の校門で呼び止めると、部活帰りの切原は一瞬驚いた顔をして、でもすぐ笑ってぱたぱたと自分のもとに走って来た。


「なんだよお前、こんなところまで」

付き合ってるってバレるだろ、と彼は小さな声で続けた。
バレてもいいよ、と越前は言った。


「迎えに来たの。悪い?」

悪くはねえけど、と彼は笑った。
切原の先輩たちが、ジロジロと自分たちを見ているのを尻目に、越前は彼の手を引いてずんずんと歩き出した。


「…オイ、越前」

切原がちょっと気まずそうな声を出したけど構っていられない。
遠距離恋愛というほどではないけれど、近いとは言えない距離。
会えるのが両方の休みが重なった時だけなんて嫌だった。





「…お前、部活は?」

適当に入ったファーストフード店。


「…サボった」
「…」
「だって会いたかったんだもん」
「…越前さー」


切原はコーラを飲み干すと、真顔で切り出した。

「子供らしくなくて可愛くないって思ってたけど、意外と子供らしいとこもあるんだなー」


(そうじゃないでしょ…)


自分はただ、彼が好きなだけなのに。
顔が見たくて、会いたくてたまらなかっただけなのに。
そばにいるだけでいいからと願ったのは自分のはずなのに、何だか胸がチクリとして、越前はその痛みに気付かないフリをした。


自分が傷つくなんてことはありえない。
傷つくはずなんてないのだ。





***




「ア…」


真っ暗な部屋に切原の掠れた声が響く。
その微かに赤くなった瞳に確かに自分が映っているのを見て、越前は少しだけホッっとするのを感じた。


(なに、焦ってるんだろ、俺…)



時間はたっぷりある。
これから先彼が自分を愛してくれる可能性は、決してゼロではない筈だ。
それなのに―‥



(俺…)



「…え、ちぜん」

途切れ途切れに自分の名前を呼ぶその口唇を塞いで、伸ばされる指先に自分のそれを絡める。
こうしている時だけは彼が自分のことだけを見てくれているような気がする。
自分のことだけ考えてくれている気がする。
それは紛れもなく気のせいというやつなのだけれど。



「…なに、辛気くさいカオしてん、だよ」

切原は掠れた声で少し笑った。


「…そう見える?」

誰のせいだと思ってるの、とか言いそうになって越前は口をつぐんだ。
そばにいるだけでいいからと言って口説き落としたのは自分の方で、そんなことを口にする権利はまだ自分にはない。


ああ、と言って切原は越前の背中に腕を回しながら少し笑った。


「お前の考えてることなら…鏡に映すみたいに―判るよ」
「へぇ、嬉しい」
「いっそずっとこうしてたらしあわせかもな…余計なこと忘れてさ」


そう言って切原はまた笑った。
―そんなこと、1mmだって思ってないくせに。
そう思いながらも越前は本当にそうなればいいのにと思わずにはいられなかった。





***



あーあ、明日も部活なのにな、と言ってベッドから飛び降りた切原の腕を掴むと、越前は無言で引き戻した。
自分よりかなり背の高い彼を強引に腕の中に収める。



「…なに?」
「…何でもないけど。もうちょっとだけ」


切原は少しだけ頬を染めて何だよ、と笑った。
こうしていると彼が自分のことを自分と同じように想ってくれているような錯覚すら覚えるのに。



「…切原さん、俺どんな風に見える?」
「え?」
「…切原さんから見て、俺どんな風に見える?」


切原は一瞬ポカンとしたけど、すぐに悟ったように笑った。



「…お前は俺とおんなじ」
「どゆこと?」
「お前は俺と同じ目ェしてる」
「…」
「―叶わない恋をしてる目だよ」
「…」



「言っただろ?」



「―鏡に映したみたいに判るって―‥」




そう言ってクスリ、と切原は笑った。



(やっぱり…)


越前は軽く絶望して、何にも言わないでそのまま彼を抱き締めた。



(…俺、傷ついてるんだ)



今までどんな階段も飛ぶように駆け上がって来た越前にとって、それは初めて味わった感情だった。
テニスで負けた時でさえ、そのうち勝つ絶対の自信があったから、こういう絶望的な気持ちを感じたことは無かったのに。



欲しいものは己の手で掴み取るようにと。
今まで自分が父親から教わって来たことはそのひとことに尽きた。
そうしてその通りに生きてきた。


でもどんなに手を伸ばしても手に入らないものは存在するのだということを。
越前は初めて悟ってしまって、涙が出そうになった。



「…越前」

切原は少し申し訳なさそうな顔をして、少しだけ涙の滲んだ越前の目の端にその白い指先を伸ばした。


「泣くなよ」
「泣いてない」
「…ウソつけ」
「切原さんだって良く泣いてるじゃない」
「…お前は泣くなよ」
「…何ソレ」
「…お前は強いコだろ」
「…何言ってんの」


何となく笑い合って、また口唇を重ねる。
これではまるで傷の舐め合いだ。
何をやっているのだろうとか思うけれど、今はそれでもいい。




「ねぇ切原さん、いっこだけ教えて」
「―なに」


「これから先期待してもいいの?」



切原は何にも答えないで、ただ少しだけ笑って越前の口唇を塞いだ。
重ねただけの軽い口付けが何故か酷く痛く感じて越前はそのまま彼を抱き締めた。








―傷つくつもりなんて無かったのに。




傷ついてる越前が書きたくて書いた話。
あの子今までロクに傷ついたことすらなさそうだから…(お前は越前を何だと)
まぁ何しろ中1だから全ては今からでしょ…。それにしても…あはは…中1か_| ̄|○
つーか越前と赤也はお互いの考えてることが判りそう。(アンタの気のせいだよ!)
どこまで闇海なんだw
ライバル同士
多分なんて、私にしては随分スタンダードなカプにハマったな…その割には流行ってないけどナー(禁句)
タイトルは鏡のように、というよりは鏡に映すみたいに、って意味で…(どっちにしてもそのまんまだよ!)
とりあえずリョ赤はもう…もう…(萌えすぎて呼吸困難なため以下略)