「おーさま…?」



 目を覚ましたのは、獏良ではなくバクラだった。
 彼が一体どれくらいの間眠っていたのか、海馬が出て行ってからずっとぼんやりしていたので全く判らない。この時間では(何時かはわからないわけだが)、校門のカギが閉められているかも知れないとかそんなことをうっすらと思ったが割とどうでも良かった。


 最近やたらと一緒にいるのは、(結局セックスしかすることはないわけだが)破滅の音がハッキリと聞こえ出したからだ。はじめはとても遠くて、なんとなく聞こえる程度だったそれは段々大きくなって、自分と彼の隙間を縫ってその微かな音を大音量で響かせる。


 ―要はただの予感だ。
 もう終わりだという予感。事が起こるという予感。もう時間がないという予感。


 自分と彼のどちらをいざなっているのかは知らないが、もはやそんなことはどちらでもいい。それより1日また1日と日々を繋ぎとめ引き伸ばして、もはや意味すらもない口付けを交わしては身体を繋いでいる様は自分で考えても滑稽だった。

 しかし、これより他に為す術はもう無いのだ。
 バカバカしいし情けないとも思うが、バクラにこうして触れることが出来なくなることがただ単純に嫌だった。













             lastsong






「しゃちょーは…?」



 バクラは目を擦ると子供みたいに聞いた。ふわふわの髪の毛が降りたその背中に大きな白い羽が見えた気がして遊戯は頭を振った。

 どうかしている、本当に。こんなのただの感傷だと判っているのにこの有様だとは。
 ―もう終わるんだとしても、それでも。この盗賊にこんなに傾倒していたなんて知りたくもなかったのだ。本当に。



「…とっくに帰ったぜ」

「ふぅん」


 気のない返事だけをして、バクラは座っている遊戯の膝に頭を乗せて、白い両腕を自分の腰に回した。とりあえず義務的に聞いてみただけで、相変わらず自分以外の人間にはたいして興味もないらしい。
 ―少し前までは、それがただ誇らしかった。



「…甘えんな」



 口唇は冷たくいつも通りの言葉を発したけれど、遊戯はもう振り解く気にはならなかった。むしろこのままずっとこうしていられたらどんなにいいだろうと、そんなことを少しでも思う自分が心底気持ち悪い。
 当のバクラは特に気にもしていないようで、それより王サマさぁ、とは続けた。



「さっきさぁ、しゃちょーがマジでその気になってオレを抱いたらどうするつもりだったんだよ」

「あんまり自惚れんな、海馬がやるんならお前よりオレに決まってるぜ」



 なにそれェ、とバクラは大袈裟に大きな声を出した。本当のところ海馬はどっちもお断りだと思っていたのだが、そんなことをこのふたりが知る由もない。




「…ちぇ、つめてーの」



 バクラがあからさまにシュンとしたその瞬間、遊戯は衝動的に彼を引きよせるとその顎を持ち上げて口唇を塞いだ。
 ―本当はそんなこと判らない。
 例えば自分の知らない古代の世界で、彼が誰と関係があったかなんて知るわけもないし、そもそも彼が自分以外の人間に好意を寄せているところなんて想像もつかなかった。
 愛されている絶対の自信があった。―今も昔も。この世界の中でただひとり。何百年経っても、何千年経っても。それがどんなに誇らしいかなんて、きっとバクラは一生知らないのだろうけれど。たとえ次の輪廻が訪れたとしても、一生。




「…だったら、どうだって言うんだ?」



 大きな瞳が戸惑うように揺れるのが判った。―嗚呼、そんな顔なんて見たくもない。
他のどんなことよりも―‥耳障りな高い声で呪いの言葉を囁かれるよりもずっとずっとずっと、自分の心臓を突き刺すから。

 ―傷ついた顔なんて見たくない。





「貴様はオレのものだって、他の誰と寝ても許さないって、そう言えば満足なのか…?」

「…つぅかそう言ってただろ。本田とヤったら死ぬほど殴ったくせに」

「…殴って欲しかったんだろ」




 流石に気丈なバクラは、殺されるかと思ったぜ、と言って挑むような瞳で遊戯を見た。―いっそ殺しておけば良かった、そんなことを思う。こんなことになるのなら、もっと早いうちに。



「…そう言う貴様は、オレが海馬とヤったら泣きわめいて怒ったよな」

「…そうだったっけ」

「…」



 まるで思い出話でもしているようだと遊戯はぼんやりと思った。本当は全然気付かなかったわけじゃない。こうなることは、出会った時からほぼ100%判っていたことで、それは特に怖いことでも何でもなかった。
 ―好きになるなんて思わなかったからだ。
 手を出したのは遊び半分、気の強いところとその美しい顔が気に入ったからだけれど。―むしろ。


 そ れ だ け だ っ た の に 。


 ―恋人ではなかったけれど、特定の相手ではあった。恋人と言えないこともなかったかもしれないけれど、どちらかと言えば愛人の方が近かった。








「…何の話だったっけ」


 バクラはぼんやりと言った。判っているくせに、と遊戯は思った。



「…」



 遊戯は何も言わないで、さっき塞いだ口唇をまた強引に塞いだ。こうすれば彼がいちばん喜ぶことを良く知っている。例えばどこぞのバカな女が、奪われることを心待ちにしているように、バクラは強引に求められることを酷く喜んだ。





「…お望み通り言ってやるよ…」





 自分の下で、その大きな瞳が自分を見上げているのを見て、遊戯は眩暈がした。
 例えば、顔がこんなに好みじゃなければ、愛したりしなかったんだろうか。
 最初に手を出したりしなければ。
 自分が彼の仇とかいうやつじゃなければ。
 その大きな瞳が自分のことで涙を流すのを見たりしなければ―‥?

 そんなキリの無いことが頭にちらついては、星が瞬くように消えていく。
 ―終わらせるのは他でもない自分なのに。自分のこの手で彼の命の糸を切ることになることくらい判っているのに。(そして彼がそれを望んでいることも)







「貴様はオレのものだ…」





「他の誰とやるのも許さない…」






 さっきと同じ台詞をなぞるように口にしてやると、バクラは予想通り酷く嬉しそうに笑った。





「…嬉しい」



「…もっと言って、王サマ。もっと聞きたい」









 ―こんなセリフがそんなにも欲しいと言うの?この自分の言葉をひとつたりとも、信じてすらいないくせに?








「…王サマ、好き」




「王サマだけが好き」





 娼婦のような赫い口唇が、少女のような拙い言葉を紡ぐ。破滅の音は彼の耳にも届いているのか、昔は嫌がらせとしか思えないような言い方しかしなかったくせに、最近のそれはやたら素直だ。多少なりとも既に狂っているのではないかと思えなくも無かった。(むしろそれは最初からかも知れないが)
 伸ばした白い腕を背中に回されて、遊戯は溜息をついてバクラの柔らかな髪の毛を撫でた。
 自分たちは確かに両想いというやつであるはずなのに、いったいどうしてこんなことになったんだろう。
 オレも好きだと、愛していると言えば何か変わるのだろうか?―否、言ったってどうせ彼は信じないのだろうけれど。






 ―それでも。


 その口唇が愛の言葉を紡ぐたびに、刃物で刺されたような、激痛とも呼べるある種突き抜けた幸福感が遊戯の背骨を駆け上がる。



 (―ああそうだ、貴様はそれでいい)



 永遠に自分だけに縛られて、永遠に自分だけを追い続け、永遠に自分だけを見つめて、永遠にこの自分に愛を乞えばいい。―朝も昼も夜も。明日も明後日もその次もずっとずっとずっと。その魂があの空の彼方に還ったとしても、次にどんな形で生まれ変わったとしても、それでも。






 ―そうすれば、オレも永遠にお前だけを愛してやるよ、多分。






残酷なショータイム
の続き(らしきもの)。タイトルがヒネリなくてすいませw
つか残酷な〜の海馬は当て馬以外の何ものでもなかったですね(今更何を)
つかあの話の続きがこのマジラヴっぷりってどうなの!?w
バの背中にナチュラルに羽が見えてる王サマって…!!(ありえな!)
時間軸で言うと、最後に闇バと逢った(千年パズル盗まれて以下略なあれw)直後あたりの話?かなぁ?(おい)
この話自体は残酷な〜を書いたときから出来てたくせに、だらだら長くなったり忙しかったりゲームしてたり仕事でキレてたり
係長以下略だったり
して完成がこんなに遅くなってしまたw(貴様)つか最近何書いても長くなる…(鬱)
何度も言うけど王バクはマジラブになった跡宍っていうか…(ひつこい)
バは殺される方だからいいとして(良くないよ!)好きな人を殺さなきゃいけない王サマも色々思うところがあったんだろうなぁ…という話。(なんか言い出した)

なんか私、同人誌はラブラブハッピー(…)な王バクばっかり出してるんですが、何か小説は暗いのが多いですねw(今気付いた)
次はもっとラブいやつをw
てかひたすら毎回同じテーマを延々と書き続けてるな、私…(…)気がつくといつも同じことを書いてるw(…)
つかバが相変わらず別人つうか…まぁいいや。(慣れた)(駄目じゃん!Σ(´∀` ))
まぁそもそも、係長に見込みのカケラすらない私はこんな小説書いてる場合じゃないんですけどね…(虚ろ)(係長はもういいから!)
つか背景は壁紙探すのが面倒だったので先月撮った桜の写真をてきとうに加工しました。(これ加工か!?)すごい重くてスイマセw(さいあく)

060510

ブラウザバックプリーズ