ただ陽の光を浴びる彼を見ているだけで良かったのはいつのことだったのだろう。




キッチン





「おはよ、日吉」
いつから見てたのだろう、目を開けた途端満面の笑顔で微笑まれて低血圧の日吉は気分が悪い。

「…」
「何食べたい?」
「…起きて早々食欲無い」

そう?と言って鳳は笑った。
でも何か作っておくから起きたら食べなよ、と言って彼は日吉の髪を撫でた。
ぱたぱたと小走りでキッチンに向かう後ろ姿を見て思わず溜息が出る。


「…」
このまま寝ていると、ゆうべ無理させてごめんね とか何とか言い出しそうな雰囲気だったので日吉は気だるい身体を起こした。
そこら辺にあるだろう自分のシャツを探して手を伸ばすと、あ、日吉のシャツ洗濯しちゃったよ、その辺のシャツでも着ててと慌てたような声がキッチンから上がった。


「…」

なんでアイツは余計なことばかりするんだろう、とか思いながら、仕方がないので洋服がパラパラとかかっているハンガーから適当に1枚Tシャツを引っこ抜いた。
こんな行為までしていて今さらどうかと思うけれど、シャツからほんの少し彼の香りがして嫌じゃないんだけど…何となくこう…複雑な気分になった。
潔くがばっとそれを頭から突っ込んでみると、やはり13センチという身長差は体格の違いをも生み出しているらしく、それは何と言うか…あえて言うなら彼パジャマというか…そんな状態だった。



「…日吉、出来たよ。タマゴ好きだよね?パンとゴハンどっちが好…」

キッチンから顔を出した鳳は日吉のその姿を一目見るなり、かわいい!とか何とか叫んで抱きついて来た。

「俺の服…てか乾燥機ねぇのかよ…」
「あるけど…でもずっとそのカッコでいて欲しいなぁ」
まだガンガン洗濯機回ってるし、と鳳は惜しそうに言った。

「…何がいいんだよ」
「えーだって…」
男なら普通はカノジョが自分の服を着てたら喜ぶもんなんだと鳳は熱弁を振るった後、まぁどこがいいかと言われたら下履いてないところかなぁと呟いた。

「…!」
無言で鳳の頭をブン殴ると慌ててズボンを履く日吉。


「…つーか俺はお前のカノジョじゃない」
「カレシでもないだろ?」
「…どっちかといえばまだその表現の方が正しい気もする」

そーかなぁ、と鳳は笑った。
まぁ何でもいいや、日吉なら。そう言って長い長い大きな手が自分を包み込んだ。



暖かい暖かい、春の日差しのように優しく。
いつだって彼はそうだった。
ただ見てるだった時も、こういう関係になってからもずっと。


そんな手で触れられるとどうしていいのか判らない。
思いっきり眉を顰めた日吉のその瞳の上に、鳳はひとつキスを落とした。


「…ねぇ日吉、俺のこと好き?」
「…」
ほんのり染まった頬にキスされて日吉は思わず顔を反らした。
けれどその態度が何よりも自分を好きだと証明しているようで鳳は満足げに笑って日吉の口唇を塞いだ。



「…俺、日吉がずっと俺のこと見てたの知ってたよ」
「…」
「だって俺もずっと日吉のこと見てたから」


鳳は微笑んだ。

「…もう黙れ、お前」
「好きだよ、日吉…」



呪いの呪文のようなその台詞を初めて聞いたのはいつだった?
初めてキスを交わしたのは?
一緒にベッドに入ることに違和感を覚えなくなって、耳慣れないその愛の言葉に慣れてしまったのはいったいいつからなんだろう。
見ているだけで良かったあの頃が酷く遠くに感じられた。
今ではもう、鬱陶しいあの言葉がないと生きられないくらいに侵されてしまった。
これはしあわせなことなのだろうか悲しむべきことなのだろうか、もうそれすら判らない。
でも少なくとも彼と過ごす時間はとても幸せなものであることに間違いなくて。
ただこの日々がずっと続くことを祈ってみたりする。




「…で、ゴハンとパンはどっちがいいんだったっけ?」
「…ゴハン。」

そうだと思った、と笑って鳳は炊飯器の蓋を開けた。




拍手んとこに置いてあった小説。チョタひよは書かないと言い張ってたくせにあっさり書いてしまった…
チョタひよマジで大好きなんです。(ふーん)でも私が書くと何かキモイっつーか何というか…。
ちなみにひよジロと全く同じような状況になってしまったので、同タイトル同シチュエーションでカプ違い、ということにしたのでした。(ふーん)
それにしても、攻日吉と受日吉のこの違いってどうよ!?私はどっちもいけますがw(死ねリバ女)