「ふう…」
ひととおりの荷物をバッグに詰め終わってから溜息をつく。
明日からの入院に備えて、とりあえず必要なものだけを詰め込んだところだ。
どれくらいの入院になるのか判らないのでとりあえず持って行くのは着替えと洗面道具くらいしかない。
「はぁ…」
別に嘆いたってしょうがないけれど、最後の最後で大会に出れないなんて思いもしなかった。
まぁ死ななかった(今のところ)だけでもヨシとしよう。
自分はわりかしプラス思考な方だ。(と思う)
クヨクヨしないで治すことに専念しよう!と顔を上げると、1階から母親が自分を呼ぶ声が聞こえた。
「精市〜お友達が来てるわよ〜」
(友達…?)
真田か柳かな、と思いながら降りて行くと、玄関に見慣れたくるくるのくせっ毛が見えた。
「…赤也。」
決戦前夜
「スイマセンいきなり来たりして…」
切原はいつになく神妙な表情で、膝の上に置いた両手をきゅっと握り締めた。
「いいよいいよ」
笑って紅茶を差し出すと、切原はペコリと頭を下げてそれを受け取った。
(何だろ、いつもの赤也らしくないな…)
「部長」
切原は詰めかけのバッグをチラリと見てから意を決したように顔を上げた。
「…俺…べつにヘンなこととか考えてるわけじゃないけど、…だけど。」
切原はそこまで言ってきゅっと口唇を結んだ。
(ヘンなこと…?????)
「ヘンなことって何?」
「え、えとそれは…」
「俺が死ぬかもとか??」(ズバッ)
「えっ…ま、まさかそんな…(何もそんなハッキリ…)」
「…けど、言うなら今日しかないと思って来ました…ス」
(?)
(言う…?)
(何だろ、俺なんかしたっけ)
(それとも赤也が何かしたのかなぁ)
(なんか真剣な顔してるしそうなのかも…)
(フフ…俺は赤也がしたことは全部知ってるってのにね)
(この前の練習試合の時抜け出してお菓子買いに行ったことも)
(その前の試合をすっぽかして青学で油売ってたことも)
(それからあんなことやこんなことも…(何))
(部長の入院前ににわざわざ懺悔しに来るなんてカワイイなぁ)
切原はその白い頬をみるみる赤くさせて、自分の顔をじっと見つめた。
思わずその腕を引き寄せて自分の胸に納めたくなって、ふるふると幸村が頭を振った瞬間、切原は蚊の鳴くような声で、それでもハッキリとこう言った。
「俺…俺部長のこと好きッス…」
(え)
言われたことの意味が判った瞬間、幸村はあまりにも可笑しくてケタケタと声を上げて笑った。
「な、なんで笑うんスか!!」
「い、いやだってそんなこと知ってるし」
「え…」
「気付かれてないとでも思ってたの?」
あーこれだから赤也は可愛いよ、と思ってさっき出しかけた手をもういちど出してその後輩を引き寄せた。
「じゃあ俺が赤也のこと好きなのも気付いてない?」
「…そ、それは………」
切原はボソボソと言いにくそうに、部長判りやすいし、と続けた。
「赤也も相当判りやすいよ。でもわざわざ告白しに来てくれたんだ、赤也ってばv」
もー!!と言ってグリグリと抱き締めると、切原はちょっと待ってください、とその腕を振り解いて強く握り締めると、もう一度幸村の前に向き直った。
「こ…ココまではまだ第一段階ッス!!」
(だいいちだんかい…???)
(なんだろ…)
(変身でもするのかな…?)
(幻の赤目…??)←まだ見たことない人
(もしかして赤也ってばサディスティック星から来た王子…??)
(でも赤也はサドのフリしたマゾだって俺は知ってるよ…フフ)
「…お、俺も78%くらいの確率でりょうおもいだって思ってたッス…」
「だ…だから」
「その…」
「だから…その…」
「『私を食べてv』ってこと?」
ブーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
幸村が真顔で尋ねると切原は盛大に口に運んだ紅茶を噴いた。
「ぶぶぶぶぶぶちょ…!!!!」
「話の展開からしてそれしかないかなぁって(真顔)」(←さっきまでサディスティック星のこととか考えていたくせに)
言いながら切原の口の紅茶をティッシュで拭いてやる。
「…そうッス」
切原はもう観念しました、と言った感じで小さな声で肯定の言葉を口にした。
「…ほんとは、晴れて退院した後に言おうと思ったんスけど」
「…」
「…でも、もう1秒も待てない」
「いーーーち。」
「…部長」
俺は真剣なんスよ、と言ったその口唇を塞ぐ。
「俺も真剣だよ」
「そうスか?あんまりそうは見えないけど…(汗)」
「ちなみに医者にセックスするな、とは言われてないよ」
「…そ、りゃ、そう、でしょ…」
そのまま黙って押し倒すと切原のカラダがビクッと震えた。
「…ぶちょ…」
声も震えている。
それでも構わずにふわふわのくせっ毛に指を差し入れて尋ねた。
「…コワイの?赤也?」
「そ、んなことな―‥」
うそ、と言って彼のシャツの下に指を侵入させる。
「ッ―‥」
切原は覚悟を決めたようにぎゅっときつく目を閉じた。
その様があんまり可愛くて、幸村はまた声を上げて笑った。
「!??」
「赤也、怖いことを我慢しなくていいんだよ」
「別に…怖くなんか」
「ウソばっか」
幸村は笑いながら切原を抱き締めた。
「ムリしないでいいんだってば。心配しなくても赤也のことは絶対俺が食べてあげるから」
「…でも、部長、明日から病院だし」
「病院でも出来なくはないデショ」
「…(この人って……_| ̄|○)」
顔を真っ赤にしてむくれる後輩を抱き締めたまま幸村は尋ねた。
「赤也、ホントに本気で俺に抱かれたいって思ってる?」
「…も、勿論ッス」
「駄目だよ、ウソついちゃ」
「ウソなんか…」
「俺は赤也がウソついてるときは判るの」
「…」
「赤也は男の子なんだから、抱かれたいなんて本気で思ったりしないでしょ?
どうせ俺たちは遅かれ早かれそうなる時が来るんだから、焦んなくていいんだよ」
「(良く判らない理論……)」
それでも口でこの部長に勝てるわけがないので、切原ははぁ、とか小さな声で言った。
幸村は満足したように笑って、切原の耳元で囁いた。
「…とりあえず、告白の返事をさせて貰おうかな」
「…さっき聞きましたけど」
「ハッキリとは言ってないでしょ」
幸村は酷く小さな声で、それでも切原にはしっかり聞こえるように言った。
「―俺も赤也のことが好きだよ」
切原はまだ少し不満げだったけれど、それでもあの夏の花みたいに笑って、幸村の背中に手を回した。
―そんな僕達の決戦前夜。
ギャグテイストの幸赤。結構気に入ってます。
ゆっきーはこういう人です。(断言)
サディスティック星ネタは誰もが使ってるけど銀魂から。
ちなみにマゾヒステック星の姫なのは私です(どのツラ下げて姫だよお前)
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