「風呂沸いたぞ」
情事のあと浴場で湯加減を見ていた一護がロビーに虚を呼びに行くと、彼はほぼ全裸でぽろぽろ泣きながらテレビを見ていた。
庭のベッドから移動してきたのでタオルケットだけを頭からかぶったあられもない姿で、画面に釘付けになっている。
珍しいことでもないので特に驚きもせずにテレビに視線を映すと、低年齢向けのアニメーションが写っていた。
内容がどんなものでも―映画でもアニメでもドラマでもドキュメンタリーでも24時間テレビでも…ちょっとでも泣ける要素があればたいてい、この虚の涙腺はイチコロだった。
そういえば自分は、テレビを見て泣いたことなんかないなぁとふと思う。
移動からお風呂待ちだけの短い間しか見ていないのに、感動する要素があったのかは良く判らないけれど―そういえばこいつは自分が死神になってから生まれたから、考えてみたらまだほんの子供なんだよなぁと思った。
たとえるならたぶんまだ2、3歳くらいで―‥
しかも普通に人間世界で生きているわけではなくて、この自分の目を通してしか向こうの世界を知らないのだから。
「…お風呂湧きましたよ、」
―オヒメサマ、とか思わず言いかけたけれど、口唇はかろうじてその寸前で止まった。
そんなことを言ったら当分機嫌を直してくれないくらい激怒するのは目に見えている。
あぶねーあぶねー、とか思いながら人の話を聞いていない虚の両腕を後ろから持ち上げたら、ようやく自分に気付いた虚は透明な涙を浮かべた瞳でちらりとこちらを見て、またテレビに視線を戻した。
罪のないその横顔は―‥それでもどちらのものかも判らない体液で汚れてしまっているし、この華奢なカラダのナカにはまだ自分が出した欲望すら残っているというのに、こんな状態で涙を流せるそのギャップはたまんねぇな、と思う。…けれど。
無理矢理こちらを向かせて口唇を塞いだら、虚はきょとんとした。
「…いちご?」
「テレビはあと。とりあえず風呂からな」
両脚を抱えながらリモコンの電源ボタンを押すと当然画面は真っ暗になった。
「いちご、なに怒ってんの?」
「怒ってねえよ、ムラムラしてきただけで」
虚はウソ、と言って首に腕を回した。
泣くのが恥ずかしい、とかいう感情はまったくないようで、初めて抱いたときからいちばん多く見た表情はたぶん笑顔よりもずっと―泣き顔かも知れない。
それは愛を請う涙だったり、謝罪だったり、嬉し泣きだったり、カラダを繋ぐ時の生理的なものだったり―時には嘘泣きだったこともあったし、…最初は好きだと言うたびに泣かせたりもした。金色の瞳の淵がぶわっと涙で滲むその眺めはたまらなくて、どんなに泣かせても好きだと言い続けたのをおぼえている。
こっちも泣きたくなるくらい切ない夜もあったけれど、そういうのが全部―‥涙の代わりに笑顔に変わったのはいつのことだっただろうか。
「ほんとだっつーの。おまえがそんなえろい格好で泣いたりするからだよ。つか早く行くぞ、ソファーに垂れたらえらいことになるだろ」
「大丈夫、押さえてたから」
虚は平然と言った。
「おさっ…!?」
「ソファーのカバーまで洗濯したくねーからな。つーかいちごもたまには洗濯しろよ、シーツとかすげえめんどいんだからな。(干すのが)」
だからどこも汚れてないはずだけど、と言って舐めるようにソファーを見ている。
確かに努力(?)の甲斐あってどこも汚れてはいないようだが、だからって押さえるのもどうよ…とか思いながら、これ以上部屋が汚れないように急いで浴場に連行した。
「洗濯は嫁の仕事だろ?まぁ、いいこにしてたら洗濯でもなんでもしてやるよ」
「へぇ〜?」
虚が胡散臭げに返事をしたので、ばしゃんと湯舟に落としてやった。
「…なにすんだよ!!」
「気持ちいいだろ?ほら、カラダ洗ってやるから」
「いちごがそー言うときはシタイだけだからヤダ。どーせヘンなとこ触って俺をソノ気にさせよーってんだろ」
「したいだけとか人聞きの悪いこと言うなよ、ふつーに洗ってやることだってあるだろ!!…まぁ今日は当たってるよ。だからムラムラしてきたって言ったじゃん」
自分も湯舟に入って、虚の後ろから抱き締めた。ここは温泉のように広いのはいいけれど、その代わりにベッドの次にやりやすい場所でここで何度交わったか知れない。
「とりあえずさっきの出してやるよ」
「あーもー自分でできる!」
「こんなこと自分でできなくていいから」
「なにそれ…!」
非難の声を無視してつぷ、と中指を蕾に挿入した。
「―!ちょ…いきなり―」
「ほら、ナカが俺のでもうぐちゃぐちゃだぜ?」
「…やらしいこと言ったって流されねーから!!」
「強情だなおまえは。まぁそんなところが好きなんだけどな」
キスしながら水中から引き上げて立たせると、カラダの奥からナカのものがとろとろと虚の太腿を伝って流れ落ちて来た。
「―っ」
「中出しってあんまりやんないぶんたまにやるとエロいな〜」
「うるさっ…」
「我慢しないでいいから声出せよ」
「してないッ」
「嘘ばっか、乳首勃ってるぜ?」
空いている手で胸の先端をきゅっと軽く掴むと、力の抜けたそこからまた自分の欲の塊がドロリと流れて水面に落ちた。
「ぁっ…。…出したってどーせまた入れるくせに…」
「そう言うなよ、今度はナカには出さないから。」
「そーゆー問題じゃねぇだろ…」
そう言いながらも諦めたのか、内部を犯していない左手の指に自分の指を強引に絡めてきた。そういう仕種はとてもかわいいな、と思って黒い爪先にちゅ、とキスをする。
「あっ…いちご、もうイキそう…」
「そこは触ってねぇのに、エッチなカラダ…」
「るせーな、俺をこうしたのは誰だよ…」
「…それ、いいセリフ」
「前から思ってたけど…いちご、割とばかだよね」
「そーだよな、俺だよな。おまえをこんなカラダにしたのは…」
「人の話聞けよ。他に誰がいんの」
虚は呆れて言ったけれど、なんとなく嬉しくなって口唇を塞いだ。
独占欲の強い馬鹿な男だと自分でも思うけれど、自分自身だと認識しているせいなのか彼に対する独占欲は凄まじくて、なにもかも自分の手で教えて―すべて自分のものにしないと気が済まなかった。
「…愛してるよ」
深く口付けながら、目の前の金色の瞳が涙の膜で滲むのを見て―‥ようやく己が満足するのが判った。
―ああ、嫉妬してた。
キミのその金色の瞳が、自分のこと以外で涙を零すのがいやだと思うのは傲慢だろうか。
自分のためだけに泣いて、自分の腕の中だけで啼いて欲しい。―確かにそう思っている。
もちろんそんなこと現実的には不可能なのに、こんなつまらない嫉妬をするなんて本当にかなり手遅れだ。
「―愛してる。あいしてるよ…」
もういいよ、と言われるかな、と思ったけれど虚はちょっと笑って返事をした。
「…おれもあいしてる。いちご―‥」
「…で、なに怒ってたの」
中で暴れたせいですっかり減ってしまったお湯を溜めながら髪や身体を洗っていると、先に洗い終わった虚が湯舟の中から聞いた。
「まだ言ってたのかよ」
「だって幾らいちごの気持ち読めないっつったって、…もうさすがにそのくらいはわかるよ。気になるから言えよ」
「…しょーもないことなんだけど」
「いーよ」
「怒ってたってゆーか…おまえが俺以外のことでぼろぼろ泣くのちょっとヤだな〜って思ってたの。そんだけ。」
「…そういえばテレビ見て泣いたっけ。ヤったら内容忘れたけど。感動したのは覚えてんだけどな〜」
「おいっ!!」
「まぁ、そんなこと気にすんなよ。確かに俺はすぐ泣くけど、いちご以外のことはぶっちゃけすぐ忘れるし。」
「…恋次は?」
「‥‥‥。まぁ、それは置いといて。いーじゃん、さすがの俺も恋次ほどは泣かねぇよ」
「質問の答えになってねーよ。つーかどっちもどっちだろ」
「とにかく、いっつもいちごの腕の中で泣いてるからいいじゃん」
「そんなこと恥ずかしげもなく言えるよーな教育した覚えはねぇんだけどな〜」
頭からお湯をかぶって泡を流してから、虚の隣に沈むと彼は笑って―だって、と言った。
「いちごの教育って、教育じゃねぇじゃん。甘ったるいエッチと、甘ったるい言葉と、あとそれから…」
「…甘ったるくて悪かったな」
顔をくるりとこちらに向かせて軽く口付けた。そんなにも甘やかしたつもりはないが―結果的にそういうことになるんだろうか。
「で、いいこで抱かれたから洗濯してくれんの?」
「…今日の分はな。」
「干すとこまでだからな?」
「あー、はいはい…」
「ラッキー♪」
虚は本気で嬉しいようで白い腕を回して抱き着いてきた。
…まぁ、こんなことで主婦みたいに喜ぶようになってしまっても、少女のように涙を流すその純粋な部分は何年経ってもそのままでいて欲しいなぁ、―と上気した桃色の頬にキスしながらぼんやり思った。
情事のあと浴場で湯加減を見ていた一護がロビーに虚を呼びに行くと、彼はほぼ全裸でぽろぽろ泣きながらテレビを見ていた。
庭のベッドから移動してきたのでタオルケットだけを頭からかぶったあられもない姿で、画面に釘付けになっている。
珍しいことでもないので特に驚きもせずにテレビに視線を映すと、低年齢向けのアニメーションが写っていた。
内容がどんなものでも―映画でもアニメでもドラマでもドキュメンタリーでも24時間テレビでも…ちょっとでも泣ける要素があればたいてい、この虚の涙腺はイチコロだった。
そういえば自分は、テレビを見て泣いたことなんかないなぁとふと思う。
移動からお風呂待ちだけの短い間しか見ていないのに、感動する要素があったのかは良く判らないけれど―そういえばこいつは自分が死神になってから生まれたから、考えてみたらまだほんの子供なんだよなぁと思った。
たとえるならたぶんまだ2、3歳くらいで―‥
しかも普通に人間世界で生きているわけではなくて、この自分の目を通してしか向こうの世界を知らないのだから。
「…お風呂湧きましたよ、」
―オヒメサマ、とか思わず言いかけたけれど、口唇はかろうじてその寸前で止まった。
そんなことを言ったら当分機嫌を直してくれないくらい激怒するのは目に見えている。
あぶねーあぶねー、とか思いながら人の話を聞いていない虚の両腕を後ろから持ち上げたら、ようやく自分に気付いた虚は透明な涙を浮かべた瞳でちらりとこちらを見て、またテレビに視線を戻した。
罪のないその横顔は―‥それでもどちらのものかも判らない体液で汚れてしまっているし、この華奢なカラダのナカにはまだ自分が出した欲望すら残っているというのに、こんな状態で涙を流せるそのギャップはたまんねぇな、と思う。…けれど。
無理矢理こちらを向かせて口唇を塞いだら、虚はきょとんとした。
「…いちご?」
「テレビはあと。とりあえず風呂からな」
両脚を抱えながらリモコンの電源ボタンを押すと当然画面は真っ暗になった。
「いちご、なに怒ってんの?」
「怒ってねえよ、ムラムラしてきただけで」
虚はウソ、と言って首に腕を回した。
泣くのが恥ずかしい、とかいう感情はまったくないようで、初めて抱いたときからいちばん多く見た表情はたぶん笑顔よりもずっと―泣き顔かも知れない。
それは愛を請う涙だったり、謝罪だったり、嬉し泣きだったり、カラダを繋ぐ時の生理的なものだったり―時には嘘泣きだったこともあったし、…最初は好きだと言うたびに泣かせたりもした。金色の瞳の淵がぶわっと涙で滲むその眺めはたまらなくて、どんなに泣かせても好きだと言い続けたのをおぼえている。
こっちも泣きたくなるくらい切ない夜もあったけれど、そういうのが全部―‥涙の代わりに笑顔に変わったのはいつのことだっただろうか。
「ほんとだっつーの。おまえがそんなえろい格好で泣いたりするからだよ。つか早く行くぞ、ソファーに垂れたらえらいことになるだろ」
「大丈夫、押さえてたから」
虚は平然と言った。
「おさっ…!?」
「ソファーのカバーまで洗濯したくねーからな。つーかいちごもたまには洗濯しろよ、シーツとかすげえめんどいんだからな。(干すのが)」
だからどこも汚れてないはずだけど、と言って舐めるようにソファーを見ている。
確かに努力(?)の甲斐あってどこも汚れてはいないようだが、だからって押さえるのもどうよ…とか思いながら、これ以上部屋が汚れないように急いで浴場に連行した。
「洗濯は嫁の仕事だろ?まぁ、いいこにしてたら洗濯でもなんでもしてやるよ」
「へぇ〜?」
虚が胡散臭げに返事をしたので、ばしゃんと湯舟に落としてやった。
「…なにすんだよ!!」
「気持ちいいだろ?ほら、カラダ洗ってやるから」
「いちごがそー言うときはシタイだけだからヤダ。どーせヘンなとこ触って俺をソノ気にさせよーってんだろ」
「したいだけとか人聞きの悪いこと言うなよ、ふつーに洗ってやることだってあるだろ!!…まぁ今日は当たってるよ。だからムラムラしてきたって言ったじゃん」
自分も湯舟に入って、虚の後ろから抱き締めた。ここは温泉のように広いのはいいけれど、その代わりにベッドの次にやりやすい場所でここで何度交わったか知れない。
「とりあえずさっきの出してやるよ」
「あーもー自分でできる!」
「こんなこと自分でできなくていいから」
「なにそれ…!」
非難の声を無視してつぷ、と中指を蕾に挿入した。
「―!ちょ…いきなり―」
「ほら、ナカが俺のでもうぐちゃぐちゃだぜ?」
「…やらしいこと言ったって流されねーから!!」
「強情だなおまえは。まぁそんなところが好きなんだけどな」
キスしながら水中から引き上げて立たせると、カラダの奥からナカのものがとろとろと虚の太腿を伝って流れ落ちて来た。
「―っ」
「中出しってあんまりやんないぶんたまにやるとエロいな〜」
「うるさっ…」
「我慢しないでいいから声出せよ」
「してないッ」
「嘘ばっか、乳首勃ってるぜ?」
空いている手で胸の先端をきゅっと軽く掴むと、力の抜けたそこからまた自分の欲の塊がドロリと流れて水面に落ちた。
「ぁっ…。…出したってどーせまた入れるくせに…」
「そう言うなよ、今度はナカには出さないから。」
「そーゆー問題じゃねぇだろ…」
そう言いながらも諦めたのか、内部を犯していない左手の指に自分の指を強引に絡めてきた。そういう仕種はとてもかわいいな、と思って黒い爪先にちゅ、とキスをする。
「あっ…いちご、もうイキそう…」
「そこは触ってねぇのに、エッチなカラダ…」
「るせーな、俺をこうしたのは誰だよ…」
「…それ、いいセリフ」
「前から思ってたけど…いちご、割とばかだよね」
「そーだよな、俺だよな。おまえをこんなカラダにしたのは…」
「人の話聞けよ。他に誰がいんの」
虚は呆れて言ったけれど、なんとなく嬉しくなって口唇を塞いだ。
独占欲の強い馬鹿な男だと自分でも思うけれど、自分自身だと認識しているせいなのか彼に対する独占欲は凄まじくて、なにもかも自分の手で教えて―すべて自分のものにしないと気が済まなかった。
「…愛してるよ」
深く口付けながら、目の前の金色の瞳が涙の膜で滲むのを見て―‥ようやく己が満足するのが判った。
―ああ、嫉妬してた。
キミのその金色の瞳が、自分のこと以外で涙を零すのがいやだと思うのは傲慢だろうか。
自分のためだけに泣いて、自分の腕の中だけで啼いて欲しい。―確かにそう思っている。
もちろんそんなこと現実的には不可能なのに、こんなつまらない嫉妬をするなんて本当にかなり手遅れだ。
「―愛してる。あいしてるよ…」
もういいよ、と言われるかな、と思ったけれど虚はちょっと笑って返事をした。
「…おれもあいしてる。いちご―‥」
「…で、なに怒ってたの」
中で暴れたせいですっかり減ってしまったお湯を溜めながら髪や身体を洗っていると、先に洗い終わった虚が湯舟の中から聞いた。
「まだ言ってたのかよ」
「だって幾らいちごの気持ち読めないっつったって、…もうさすがにそのくらいはわかるよ。気になるから言えよ」
「…しょーもないことなんだけど」
「いーよ」
「怒ってたってゆーか…おまえが俺以外のことでぼろぼろ泣くのちょっとヤだな〜って思ってたの。そんだけ。」
「…そういえばテレビ見て泣いたっけ。ヤったら内容忘れたけど。感動したのは覚えてんだけどな〜」
「おいっ!!」
「まぁ、そんなこと気にすんなよ。確かに俺はすぐ泣くけど、いちご以外のことはぶっちゃけすぐ忘れるし。」
「…恋次は?」
「‥‥‥。まぁ、それは置いといて。いーじゃん、さすがの俺も恋次ほどは泣かねぇよ」
「質問の答えになってねーよ。つーかどっちもどっちだろ」
「とにかく、いっつもいちごの腕の中で泣いてるからいいじゃん」
「そんなこと恥ずかしげもなく言えるよーな教育した覚えはねぇんだけどな〜」
頭からお湯をかぶって泡を流してから、虚の隣に沈むと彼は笑って―だって、と言った。
「いちごの教育って、教育じゃねぇじゃん。甘ったるいエッチと、甘ったるい言葉と、あとそれから…」
「…甘ったるくて悪かったな」
顔をくるりとこちらに向かせて軽く口付けた。そんなにも甘やかしたつもりはないが―結果的にそういうことになるんだろうか。
「で、いいこで抱かれたから洗濯してくれんの?」
「…今日の分はな。」
「干すとこまでだからな?」
「あー、はいはい…」
「ラッキー♪」
虚は本気で嬉しいようで白い腕を回して抱き着いてきた。
…まぁ、こんなことで主婦みたいに喜ぶようになってしまっても、少女のように涙を流すその純粋な部分は何年経ってもそのままでいて欲しいなぁ、―と上気した桃色の頬にキスしながらぼんやり思った。