「ここで寝たら流石にマズイかな…」
身体も洗って、ボケーと湯船に浸かっていると眠気は勢いを増してふたりに襲いかかって来た。
「フロで寝たら死ぬって言うじゃん、あれってマジなのかな…」
「さぁ…」
「でも今日の夜寝る場所もなさそうだしなぁ…」
「うん…」
「あ、越前テメ言ってるそばから寝るんじゃねーよ」
「だってアンタの腕が気持ち良くて…」
切原は越前の肩をガクガクと揺さぶった。
浴槽の中で抱っこされていたのが気持ち良いらしい。
(この体勢でいるのが風呂も広々使えてふたりにとっていちばん効率がいいのだ)
「もしこのまま寝てふたりして死体で見つかったら悲惨だな(笑)」
「この状況じゃ流石に言い逃れ出来ないね」
「裸で抱き合ってんじゃなぁ…」
「それこそ心中だよ(笑)」
ちょっと笑い合ってまたキスをして。
時間がいったいどんな風に流れているのか、もうさっぱり判らない。見当もつかない。
1日2日ではなくてずっとこんな生活をしていたら、間違いなく狂ってしまうのだろう。
毎日毎日お互いだけを見て、お互いのことしか考えられなくなって―‥
…それはそれで幸せなことなのかも知れないけど。
「ホントに寝ちゃいそうだからもうちょっとゆっくりしたら出ようか?」
「そうだな、十分すぎるほど400円のもとは取ったし…」
「ああ、また外かぁ…外はイチャつけないから嫌いだよ」
「まだ足りねぇ?」
「足りないよ。…アンタが生きてる限りはね」
「何だよソレ(笑)」
「アンタが生きてこの世界に存在してる限り俺はアンタに欲情してるってこと。」
そんなセリフ恥ずかしげもなく言うなよ、と切原は頬を染めてプイと横を向いた。
別に照れるようなことでもないのにかわいいなぁ、と越前は思う。
「ホントのことだから別に恥ずかしくないもん」
「…こっちが恥ずかしいっちゅーの」
自分を抱く薄い爪の先にキスをして。
そのまま指を舐めると切原はくすぐったそうに笑った。
「…さっきの約束、守ってね」
「何だよ、ウソつくと思ってんのかよ」
「そうじゃないけど切原さん、『気まぐれでウソつき』(@ハンター)ってやつでしょ?」
切原は確かにそうだけど、と笑って、更に言葉を続けた。
「…でもお前にはウソつかねーよ」
「?」
「―つけねぇもん」
好きだから
愛してるから
―大切だから
カケオチごっこ 5
外に出るとあたりはだいぶ暗くなっていた。
夏に比べると陽が落ちるのが早くなりこのくらいの時間には急に薄ら寒くなる。
この銭湯?に客が集まるのはこれからの時間帯らしく、子供と手を繋いだ親子などの姿がポツポツと現れ出した。
「…風呂の後は気持ちいいなぁ」
切原は両手を伸ばした。
「これでベッドがあったら最高なのに」
このまま死んだように寝たいよ、と切原は笑った。
「ベッドあったらまたやると思うけど(笑)」
「…それもそーだな」
来た道を何往復も行ったり来たりして、次の目的地を考える。
薄暗い道は益々人通りが少なくなっていたので、ふたりは当然のように手を繋ぐ。
時計を見ると夕方6時すぎ。
通りかかった小さな公園では、家路を急ぐ子供たちが一斉にそれぞれの家に向かって帰り始めるところだった。
店ももうすぐ閉まる時間帯、お金もあんまりないし、ゲーセンやカラオケ屋などは年齢上早々に追い出されるだろうし(そもそもこの辺にはそんな娯楽施設もないようだが)、どっちにしろ他の選択肢はもう無いようだった。
とりあえずふたりはガラガラになったその場所に落ち着くことにした。
「ブランコ乗ろうぜ、越前」
あんなに激しく交わった後だというのにまるでそんなこと無かったかのように彼は元気だ。
疲れすら感じさせない動きで、跳ぶようにブランコに駆け寄る。
羽が生えてるみたいだ、とぼんやり越前は思った。
そんなこと流石に口にはしないけど。
菊丸や向日のアクロバティックプレイを見てもそんなこと思いもしなかったのに。
ふたりは久しく触れることも忘れていたブランコに腰を下ろした。
そもそも越前も切原も、本来こんなところで遊ぶべき年にはもうしっかりラケットを握っていたから、あまりこういうところで遊んだ記憶すらもない。
幼い頃のそれより格段に狭くなったブランコの上で、近くのコンビニで買った夕食代わりのパンやおにぎりを頬張る。
「…考えてみたらさ、デートってしたことなかったよね」
「仕方ねえだろ、『外じゃイチャつけない』んだからさ(笑)」
「…ホントにそうだよね」
「…考えてみたら男同士なんだよなぁ」
あんまり今まで考えもしなかったけど、とブランコをこぎながら切原は少ししんみりと笑った。
「…俺は大丈夫だよ」
「何が?」
「誰に何言われても、何されても。アンタのことアイシテルから平気。ちゃんとアンタのこと守ってあげる」
「その必要はねえと思うけど。俺は守られるほどヤワじゃねーよ(笑)」
「それは判ってるけどさ(笑)さっきも言ったけど、俺アンタの為なら全部捨てられるから」
「…俺もそうだけど」
切原は少し淋しそうに笑った。
「…でもお前、例えテニス捨てられたとしても、テニスしてないと死んじゃうだろ?」
そして、越前にとっては意外なことを口にした。
「…そんなことないと思う、けど」
少し考えて、越前は言った。
絶対にそんなことない、とは言い切れなかった。
「いーや、お前はテニスしてないと死んじゃうタイプ」
「…でも、それはアンタもでしょ?」
切原はブランコをこぐのをやめて越前を見た。
大きな黒い瞳がじっと自分を見つめている。
「…俺は、わかんない」
「…」
「今までずっとテニスでいちばんになることだけ考えて生きて来たから。それが無くなっちゃったら、なんて。」
「…」
「でも、ウチの部長が前言ってたんだ」
「なんて?」
「『翼を持つ者は、自分の意思とは無関係に、飛ぶことが義務づけられてる』―って」
「…?」
「つまり、羽のある生き物は飛ばないと死んじゃうんだって」
『…そりゃあ、そうだと思いますけど』
『例え話だよ』
切原がそう返事をしたら、幸村はそう言ってくすくすと笑った。
―その時は意味が判らなかったけれど。
例え、地に足をつけて生きることを望んでも。
その翼を切ったその先に待つのは死という名の破滅だけ。
翼を持つものは飛ばなければいけない。
自分がそれを望んでいなくても―‥
「…」
越前が何も言えずに黙って切原を見ていると、彼はふわふわと微笑んだ。
「…だからさ。俺は、テニスもお前も守ってみせるよ」
「…お前のテニスが好きだから」
ほんの少し呼吸を置いて、切原は少し淋しげな、でも真面目な顔で言った。
お前にずっとテニスをやってて欲しいから、と小さな声で続ける。
夕焼けに微かに照らされたその顔はいつもよりもずっと大人っぽく綺麗に見えた。
越前は思わずブランコを降りた。
「…アンタは強いね」
切原の頬に指を伸ばす。
冷たい風に晒されて、そこはかなり冷たかった。
「…お前ほどじゃねーよ」
切原は微笑んで、ブランコの鎖を引いた。
キィ、と少し軋んだ音が越前の耳に響く。
いつもいつも、自分よりも17センチも背の高い彼を見上げることの方が圧倒的に多いので、上から見下ろすといつもとは違う新鮮な気分になる。
だから越前はチャンスがあればすかさず彼の上から覗き込むクセがついていた。
「…お互い様でしょ」
越前はそう言って、その冷たい口唇にキスをした。
自分は切原を愛してるし、もしものことがあれば何もかも捨てて彼を選ぶ自信もある。
でも、テニスをやめたら死ぬだろうという切原の言葉に反論することは出来なかった。
アンタのことがテニスよりも大切だよ、とか、切原は決してそんな言葉を欲しがっていたわけではないのだろうけど、越前はウソでもそう言い切れなかった自分を悔しく思った。
カケオチというのは、相手以外の全てを捨てるということ―‥
それがたとえ、家族でも友達でもテニスでも、他のどんなに大切なものだったとしても。
安易に始めたこの遊びだけれど、切原も越前も本当にカケオチしてしまったかのような妙な気持ちに襲われていっそ執拗とも思えるほど熱情的に口唇を重ね続けた。
―それは単に自分たちに酔っていただけかも知れないけど。(だってその程度には子供だから)
「…そうだ」
キスが一段落して越前がまた隣のブランコに腰を下ろすと、思い出したように切原は言った。
「お前さ、俺と歩く時女の子の格好とかしたらいいじゃん」
「はぁ???」
「たぶん不自然じゃないぜ、手ェとか堂々と繋げるし」
「むしろ切原さんがやればいいんじゃない?」
「俺が女装してお前と並んだら滅茶苦茶不自然だろ」
「…結構似合うと思うけど」
「そういう問題じゃねえだろ(真顔)」
ま、どっちにしても知り合いがいるかも知れないトコじゃ出来ないから意味ないね、と越前は言った。
「…そか。知ってるやつのいるとこじゃ無意味か」
切原はきょとんとして笑った。
越前はさっきの会話を思い出して、もしもこの人が女の子だったら、大切に大切に、誰からも傷つけられないように必死に守ったんだろうな、とかそんなことを思った。
たまたまこの人はオトコで、誰からも守られる必要なんかないくらい強くて(あるいはそう見せているだけなのかも知れないけれど)、…でも。
「…切原さん」
越前は彼の名前を呼んだ。
「俺もアンタのテニス好きだよ」
「俺のー?」
切原はちょっと複雑な表情で笑った。
「散々ボールぶつけられたお前が言うなよ(笑)」
切原のそんな言葉は無視して、越前は言葉を続けた。
「…さっきアンタ、俺もテニスも守りたいって言ったけど、俺も同じ。」
「アンタがずっとテニスしていられるように、俺がアンタのこと守るから」
テニスをしてなかったらお前は死ぬだろうと切原は言った。
…確かにそうかも知れないけど。テニスをしてないと自分は―自分の心は死ぬかも知れないけど。
「切原さん、これだけは覚えてて」
「…何がいちばんとかそんなこと判んないけど、アンタがすごく大事だよ」
そう一気に言って、切原の大きな瞳を見た。
本当はあんまりこういうことを言うのは得意じゃないのだけれど。
切原はちょっと頬を赤く染めて笑った。
「…サンキュ」
出逢った頃、この人は自分しか信じないヒトだった。(むしろそれは自分もそうなのだけれど)
どんなに強く抱いてキスをして愛してると囁いたとしても、いつだってちょっと淋しそうに笑ってた。
「…愛してるよ」
続けざまに越前は言った。
「…うん」
切原は嬉しそうに頷いた。
もうあの頃みたいな淋しげな笑顔じゃない。
「…俺も愛してるよ」
「ホントに?」
「お前にはウソつけないって言ったじゃん」
切原はクスクスと笑って続けた。
「越前が好き」
「いちばん好き」
(続)
なんかイチャイチャ通り越してマジラブになってきましたね(薄ら笑い)
だって私の中のリョ赤が日に日にマジラブになっていくから…_| ̄|○
まぁ私がこの話でいちばん書きたかったのはこの辺だったんで…(ここが!?( Д) ゚ ゚)
ぜんぜん上手く書けなくてヘコミましたがね_| ̄|○ 時間もかかった_| ̄|○
翼がうんたらのところは、エフゼロか何かのアニメで誰かが言ってました(オイ)
翼があるものは飛ばないといけないそうで。空(まぁ総じて困難の意)に向かうことが義務づけられてるそうで。
私はうわぁーというかホントにそうだというか、翼ってのはそういう側面もあるのかと感動しました(知らん)
それにしても上手く書けな(ry こんなんで言きたいことが伝わるのか心配_| ̄|○
私は総じて哲学ポイのに弱いです(妙な部分に弱いんですね)
とりあえず越前も赤也もあの調子じゃテニスやめたら死ぬとおもう。
つか赤也も越前も自分しか信じないっぽい。
越前も赤也も初めて自分以外の人の言葉を信じたいとか思ってしまって動揺するがいいよ!(またそれか)
初めてテニス以外に大切なものが出来て恐れおののくがいいよ!(もうそれはいいから)
つか越前も赤也も攻撃的だからお互いのテニスには一目置いてそうです。
あー越前と赤也は鏡みたいで運命的だなー(うっふり…)←その話はもういい
つか時間の進み方が明らかに間違ってる気がするけど気のせいということで流してください(流せない)
どうでもいいけど、私は本当に羽が好きなやつですね(自分の判りやすさに呆れてうつむきながら)
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