手に入れるのは簡単だった。
彼はいつも、余りにも優しくて寛容だったからだ。

出逢った時から、今まで。
いつでも笑って名前を呼んで、どんなことだって笑って許してくれた。

好きだと言った時も。
そのすべてが欲しい、と言った時も。
―彼の夢を捨てていっしょに来て欲しい、と言った時さえも。




『いいよ。』



そう、いつだって。








Judgment




―キーン。

酷く昔、いつも聞いていた金属音がツナの耳に響く。


(…バットの音…)


単純に時間だけで言えば。
酷く なんてつけるほど、昔の話じゃない。
せいぜい数年とか…たぶんせいぜい5、6年くらい前のことだろうに、とても懐かしい。
昔はとてもこの音を聞くのが好きだった。
試合があれば必ず見に行って、みんなで彼の家でご飯を食べて帰ったっけ。
でも今は胸が痛い。
―あれ、は。
自分が彼から奪ったものだから。




窓に掛かった深い緑のカーテンを開けると、広い広いファミリーの庭で、部下たちと野球をしている山本が見えた。
出逢った時と少しも変わらない花のような笑顔。
どんなにか神に愛されたのだろう、長い長い手足。
それは野球をやるために彼に与えられたものだっただろうに、今では彼はその身体能力をファミリーを―‥この自分を守る為に使っている。

するりとバットを投げ捨てて、彼は笑顔のまま簡易なベースを踏んで回る。
そんな彼をギャラリーがギャーギャーと囃し立てるその光景はまさに、中学生の頃のままだった。
何も変わっていない。―ここが戦場という場所であること以外は。



無理矢理連れて来たわけじゃない。
彼が例えうんと言っても、少しでもその笑顔に影が差すのが見えたら、無理矢理にでも置いて行こうと思っていた。
どんなに彼がいつも笑っているとはいえ、そのくらいの表情の変化は判るつもりだった。
―けれど。
彼があんまり上手く笑うから。
―それが嘘だったかなんて知らない。
最大限に繕った笑顔だったのかも知れない、それでも。
それに縋りたかった。―離れたくなかった。





「ツナ」

寝室に影が落ちる。


「どうしたんだ?元気ないな」


細い指がツナの頬の輪郭をなぞる。
真昼の太陽の光に当たらない世界に棲むようになったから。
昼よりもずっと夜に活動するようになったから。
その指は白くて細くて、あの頃よりもずっと長くなった筈なのにどこか頼りなげにすら見えた。


「…久しぶりに見たよ、山本が野球してるとこ」

山本はちょっと首を傾げてそお?と言った。
ちらりとそんな彼を見て、ツナは静かに言う。


「…山本は、なんで俺と来てくれたの?」

「ツナのことが好きだから。」

「…いつもそう言うね」

「信じてない?」

「違う、怖いだけだよ…。」



頬に伸ばされた冷たい指にそっと触れる。



「…俺のことが本当に好き?」

「…うん。」

「俺が山本の大切なものを全部奪っても?」

「…うん。」



山本は頷いて、それにもう何にも残ってねぇよ、と少し笑った。



「…それに奪われたとも思ってない」

「…」

「ツナが奪ったんじゃない、俺が望んでツナについてきたんだぜ?」

「そうだったっけ…」

「…そうだよ。」



この部屋でこんな風に罪悪感に駆られて身体を繋ぐ度に、彼との距離が少しずつ遠くなるような気すらする。
昔はただ好きで好きでしょうがなくて、恋人になれたことが嬉しくて仕方なかったのに。
一緒にいたかった、ただそれだけだったのに。



「…まだ残ってるよ、山本の大切なもの」


ツナがぽそりと言うと、山本はえ、と顔を上げた。



「キミはいつか俺のために死ぬかもしれないよ…?」


―今からそう遠くない近い未来に。
その命というかけがえのないものを失うかも知れない。
ここはそういう世界だ。


山本は一瞬ぽかんとして、でもすぐにふわりと笑った。
こんなことをするようになったせいなのか、いつもの爽やかな笑顔とは違った艶めいた笑顔を時々見せる。



「―いいよ。」



「その為について来たんだから」




―本当に上手く笑う、とツナは思った。
今度も、その笑顔が真実かそれとも偽りのものなのか、自分にはそれすらも判らない。



「もう!山本はいつもそんなことばっかり言って!!」

細い身体をぎゅうと抱きしめる。


「ツナの方から聞いて来たんだろ!!」
「俺が山本を死なせるわけないでしょ!目の前にいたら俺の方が庇うよ」
「ボス失格」
「何とでも」



―でも、それは無理だよ、と山本は笑った。


「…俺の腕は知ってるだろ?」


神に愛された長い長い手足は、彼にツナのファミリーの誰よりも強くなる権利をもたらした。
銃器よりも早い彼の刀が返り血を浴びて輝くその様を何度となく見たけれど。
―悪いけど野球をしている時の彼よりも綺麗だと思った。



「ツナに俺を庇う隙なんか与えない」


まぁその分当分死ぬ気もないけどな、と山本は笑った。



「…山本はなんでそんなに優しいの」

「優しいんじゃないよ」

「…?」

「ツナが好きなだけ」



血液のように赤いその口唇をそっと塞ぐ。
嘘でもいい、と心の底からそう思った。
―ああ神様、裁くなら俺を裁いて下さい。
山本は何も悪くない、彼の白い指を血で染めたのは他でもない自分なのだから。





***



恋人が眠りについたことを確認してふっと笑う。
自分に回されたあの頃と同じか細い腕をそっと解いて起き上がるとカーテンを開く。
意外なほど明るい月の光が寝室に差し込んだ。
窓を開いて、大きな丸い満月を眺める。
どこから銃弾が飛んでくるか判らないので普段は滅多に窓を開けたりしない。


―そんな風に罪悪感に駆られる必要なんかないの、悪いのは私なのだから。


本当はあの光に満ちた日々に未練なんかこれっぽっちだってない。
野球を捨ててついて行けば、彼は絶対に自分を捨てられないと思ったから。
他にどんな女が現れても。どんなに時が経っても。
優しいだなんて冗談じゃない、ただの浅ましい独占欲だ。


―そう、その為について来たの。


彼の為に死ぬために。
彼が自分を忘れないように。
一生、自分の影に縛られるように―‥



「だから、絶対に俺の方が先に死ぬんだよ、ツナ」



愛用の日本刀を枕元に忍ばせて、そっと恋人に口付ける。
どれだけの人間を手にかけて、神に裁かれたとしても怖くない。


―怖いのはアナタを失うことただそれだけ。



「おやすみ、ツナ」



再びベッドに潜り込む。
少し冷えた身体に恋人の体温がとても心地良かった。







多分5月くらいに書いたやつを無理矢理終わらせたのでヘタレw(前から)
つか山本に夢みててすいません。つか山本が黒いw(ツナも黒いw)
でもきっと山本はツナのためなら笑顔で人が殺せる子!(ありえねえ)
だって皆忘れてるかも知れないけどあの子野球のために屋上から飛び降りようとした子だよ!!(落ち着け)
そんで山本は神に愛された子なんだよ‥(;´Д`)ハァハァ(もう言ってることが支離滅裂)

つか

>真昼の太陽の光に当たらない世界に棲むようになったから。
>昼よりもずっと夜に活動するようになったから。
>その指は白くて細くて、あの頃よりもずっと長くなった筈なのにどこか頼りなげにすら見えた。


の辺りで我ながら笑ってしまったよ…w
つーか置くところがないからってこんなところに置いてスマソw(スマソじゃねえよ)
でもバの人へ見てる夢はこんなものじゃないです。(自慢にもならん)

□追記
なんか2005年の8月くらいに日記に載せたツナ山小説w
本当はちょっと気に入ってるんですw
なんか私がいちばん得意とする書き方とゆーかネタというかwww
つかずっと前に書いたチョタサカ小説とタイトルビミョーにかぶってるなw
審判って意味ですよ、え、みんな知ってる?それはすまんかった。
ちなみに私は未だに山本受ですYO!(…)
山本の手足はきっととてもきれいに違いないよ!!(*´Д`)'`ァ'`ァ
061008


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