「恋次はさ、いつまで一護と付き合うの?」
いつも通りロビーのソファーでイチャイチャしていたら、不意に顔を上げて一護の虚がそんなことを聞いた。
油断するとすぐにここでしようよ〜なんてどこででも行為に持っていこうとするので、今日は意地でも抱えて部屋に引きずり込んでやる!と決心していたところだったため、いきなり自分と一護のことを聞かれてちょっと拍子抜けした。
「そうだなぁ…」
ほんとに軽いカラダだなぁ〜なんて抱き上げてやりながら、丸い金の目を覗き込む。
「そりゃあ俺だって一生一護のそばにいる!…とか言いたいけど。まぁ…現実的なことを言うなら限界まで、とかじゃねぇ?」
「げんかい?」
「どういう意味の限界かは判んねーけどさ。まぁ年月的なものかも知んねーし、一護は怒るからあんまりこういうこと言わねーけど…もしかしたらどっちかが死ぬことがあるかも知んねーし…。あとうっかり尸魂界にバレる可能性も無きにしもあらずだしなァ」
「…でも恋次さぁ、一護の腕の中でしにたい…とか良く言ってるよね?」
「ば、ばかっ」
自分の頬が熱くなるのを感じて恋次は虚の肩をぐわしっと掴んだ。
「それはあくまで理想の話だよ!!現実的に考えてそんな風に死ねる状況とかまずねぇだろ!!」
「…かわいい理想」
「―!」
「そんなに照れんなよ。恋次、カワイー」
一護の虚はニヤニヤして言ったけれど、むしろカワイイのはどっちだよ、と思ってしまった。
「まぁ俺のことはともかく。おまえの場合は絶対一護と死ぬ時は一緒だもんな。正直羨ましー」
「そーでもねぇよ」
「?」
「だって俺は一護の一部だもん。そりゃあ死ぬ時は同じ可能性だってあるけど…、そのまえに遅かれ早かれ本当の意味で一護に溶けちゃうと思うんだよな。あ、エッチな意味じゃなくて!」
「判ってるって」
「…俺はさ、とっくに覚悟してるつもりなんだ。自分は一護のためだけに生まれたから。いつかは一護のために死ぬって…」
いじらしいな―なんて思って、恋次は虚を抱き締めてキスをした。
一護の恋人である自分が言うのも変だが、この一護の虚が一護のことをこうして苦しいくらいに愛しているところもすごく愛しいと思う。最初からそうだった。
やっぱり自分にとっては彼等はふたりとも一護であるという証拠かも知れない。
「―でもさ」
「でも?」
「なんか最近心配になってきて。俺が一護の前から消えちゃったら一護はどーなっちゃうのかって…。なんか俺…病的に大事にされてるみたいだから…」
「…たしかになー。」
その通りだなと恋次は思った。自分も大切にはされているが―それはあくまで恋人としての常識の範囲内だ。嫉妬もするし束縛もされるけれど、ベッドの中で冗談めかして口にする言葉遊びなんかを除いて実際に非人道的行為に走られたりとかそういうことは一切ない。一護のそういう健康的なところも恋次はとても好きだった。
けれどその一護でもこの虚に対してはその限りではないことは恋次にだって判る。
詳しくは知らないけれど、結ばれるまでに色々あったのも理由のうちだとは思うが、それよりはむしろ純粋に執着して偏愛している―‥ように見えた。
一護の一部…つまり本人―自分自身であるせいなのか―愛も抱き方もすべてが「他者」より過剰で、確かに見ようによっては病的だと言わざるおえない。
「まぁ…もしそうだとしても一護がさせないだろうな」
「え?」
「何となくだけど…。一護はおまえを手元に置いとくためならなんでもすると思う」
「なんでもって…」
「そうなる前に自力でなんとかしちゃうってゆうか…。一護ってそういうやつだろ?そのためなら藍染くらいは何でもするってゆうかさ」
「ええっ!?一護が俺のせいであんなヘンタイみたいになるとか絶対イヤだよ!!万が一そうなったらさ、恋次が恋人の責任として一護を止めろよな」
「う〜ん…そう言われても自信ねぇな…」
恋次は困って、涙目になっている金色の瞳を見た。こんなの人外の―なにか凶悪なものである証拠だと虚は言うけれど、すごくきれいな目だと思う。
正直どんなことをしてでも片時も離したくないという一護の気持ちは判る。―かわいすぎるのだ、この一護の姿をした虚は。
顎を捕えてキスをすると、金の瞳はゆらゆらと揺れた。
「…かわいい」
「は?」
「一護の気持ち、判るな。だって俺でさえこんなにかわいいんだから、一護はどんなにかわいいんだろうって思うもん。なんかさ、おまえは余計な心配しないで一護のこと信じてればいんじゃね?」
「ばか!!!恋次はまじめに聞いてくれると思ったのに!」
「まじめに言ってるって」
恋次は虚の帯を引っ張って、着物の前を解いた。
淡い桜色の斑点が散らばる―虚の白い肌が恋次の眼前に晒される。
「言ってるそばから何すんだよ!そうゆうエッチしてごまかすみたいなとこ、ほんと一護とそっくり!」
「…いやそうじゃなくて。おまえを抱くようになって随分経つけどさ、一護の痕が残ってないことって今まで一度もないんだよな。初めて逢った時から。」
「はぁ?」
「たぶん一護は意識してやってないとは思うんだけど。俺のこと牽制してんのかなー‥って。」
「…」
「むしろ興奮するんだよな…。一護がこのカラダを抱いたんだって…。逆効果っていうか。」
「そんな話、今はまったく関係ねぇじゃん!!」
「最後まで聞けよ。…けどさ、本気で俺に見せるつもりなら―おまえを縛って痕つけたりとか…最悪おまえのナカに出したまんまにしたりすると思うんだよ。まぁ他にも…イロイロあるだろうし。」
「…」
「やっぱりさ、一護はそんなこと…もし仮に思ったとしても、絶対出来るようなやつじゃねぇんだよ。だからやっぱり信じていいと思う」
「なにその理論…」
「…正しいと思うけど?」
真顔で言ってやると虚はじっと自分を見たので―大丈夫だよ、と大きな瞳にキスをしてやる。一護の恋人である自分が言うのだから間違いない(…はず)。
「…うん。そうかも。ごめんな、いっつも一護に言えないことばっか相談して…。感謝してんだ、ほんとは」
虚はふわりと笑って、恋次の頬に掠めるようなキスをした。
―ブッ、と古典的に鼻血を噴きそうなくらい効いた。特に『一護に言えない』―のあたりが。
「―どーかした?」
「い、いや。なんでも…」
「―俺さ、恋次のこと大好きだから。ゲンカイまでとか言わないで、ずっと別れないで一護のそばにいてね。」
きゅっと抱き着かれて、今度こそえええぇぇー!!と鼻血を噴きそうになった。
これは本気でやばい。小悪魔とかいうレベルは通り越して殆ど聖女か魔女だ。(両極だが)
一護の独占欲が病的というよりは、単にこの虚の魅力ではないのだろうか。うん、そんな気がしてきた。
「おまえ…まじかわいすぎ。一護じゃなくても束縛してやりてーよ。アブない考えにも走るわな、そりゃあ」
「恋次までそんなこと言うなよ。どーせ俺は一護と恋次だけのものなんだから束縛する必要とかねぇじゃん」
「いやある!!!おまえそーゆートコあんだよ、なんかわかんねーけど。でも一護の気持ちはわかる!」
「…何わけわかんないこと言ってんの?」
「とりあえずもー我慢出来ねぇ」
カバッとソファーに押し倒して白い死覇装を全部剥いてしまったあたりで、そーいや部屋でするんだった…と思い出して恋次は虚を抱え上げた。
「ギャー!!ハダカなのにー!!」
「悪ぃ悪ぃ。そろそろ一護に殺されるから部屋でしよーな?」
「…なんでソファーでやったら一護が怒るの?ソファーカバーは洗濯が簡単なやつに替えといたよ」
「そんなことだけ周到だな!!怒るってゆーか…ああゆうみんなの場所でそーゆーことすんのよくねーだろ?俺とおまえだけの部屋じゃねーんだから。いーか、一護は言わないだけで、あんなとこでおまえを抱いたら絶対気付いてんだよ。言わねぇだけなんだよ」
「…よくわかんない」
「わかんなくてもそーなの。一護なんかあのベッドか部屋でしかやんねーだろ?」
「お風呂でもやるよ。でもまぁ一護は基本的に、誰もいなくても絶対に広いとこではやんないから。どっかから俺を見られてる気がするんだって。…やっぱりちょっと病的だよなぁ」
虚は心配そうに言うと恋次の背中に腕を回した。
「だからそれはおまえが…」
「俺がいったいナニしたのさ!!!」
虚はプリプリ怒っていたけれどまぁ、話の隙に適当な部屋に連れ込むことにはいちおう成功した。
「だから何度も言うようにおまえがかわいいから…」
「それはもう聞き飽きました。つーか俺は一護だからおんなしカオしてるだけで…」
「それこそ前聞いたよ。顔の問題じゃねーって何度も言っただろ。…とにかくもう、一護の話はいいから。」
「…!」
うるさい口唇をキスして塞いだら、虚は超意外、という顔をしてクスクスと笑った。
「ヘェ、恋次でも嫉妬することあるんだ」
「るせーな、もう抱くぞ」
「はーい」
…病的だとか言って不安そうにしていたくせに、嫉妬されて機嫌が良くなるなんて本当に罪な虚だと思う。
「でもさぁ、恋次はしょーらい一護がそっちに行くの百年でも千年でもずっと待ってるんだろ?」
事後、腕の中の虚は事もあろうか惜しげもなくこちらの切り札(?)を持ち出してきた。
「!?」
「―待ってるんだろ?」
こんな時だけ―金色の瞳は心底楽しそうに爛々と輝いている。
「ッ…。てめえマジでそんなことばっかしっかり覚えてやがるな」
「俺も嫉妬深いもの。言っとくけど恋次だって、一護のアトが残ってなかったことなんかいちども無いよ。…初めて逢ったときから。」
虚はさらりと言って、恋次の鎖骨のあたりの刻印を黒いツメでツウと撫でた。
「…やっぱり間違いなく一護だよ、おまえ。」
「はァ?」
名前を読んだらまた機嫌を損ねてしまったけれど気にせず抱き締めた。
「おまえも一護と一緒に来いよな?」
「…そーうまくいくとは思えないけど。」
「俺だってそんなにうまくいくなんて思っちゃいねーよ。…でも待ってるから。」
「…。そーゆートコ、やっぱり恋次は受だよなァ〜」
カワイイ虚はケラケラ笑って―恋次の胸に頬を擦り寄せた。
…受はどっちだよ、と俺は思いました。(by恋次)
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