―カタン。
真夜中努めて小さな音でドアを叩く。
小さな小さな、普通なら聞き逃してしまいそうな音だ。
でも部屋の中の人物は必ず、自分に気付いてドアを開ける。
その絶対の自信があった。



―ガチャ。
重いドアの音が深夜の静寂の中に響く。


「…オレが気付かなかったらどうするつもりだ?」

―ほら、やっぱり。
にっこり笑うとドアを開けた部屋の主はあからさまに嫌そうな顔をした。



「…でも気付いただろ?」


―そう、こういうバクチのようなゲームが自分のいつものやり方。
そして自分はそういうゲームに於いて負けたことはないのだ。
―今の今までは。







finally




何しに来た、と聞かれないのは流石に判っているからだろう。


「こんな最期の夜に他の誰でもなくてオレを選ぶとは光栄なことだな」


海馬はちっとも光栄とは思っていなさそうに薄ら笑った。
むしろ明らかに嫌そうだった。きっと他に約束があったのだろう。
そんなことは関係ないとばかりに躊躇いもせず腕を回すと、彼はもっと嫌そうな顔をした。



「…お前としたことあったっけ」

ポソリと尋ねてみる。
選り好みなどあまりしない方なので、だいぶ多くの人間に手を出したような気がする。
海馬もたぶんその1人だった。



「…もう忘れたのか。薄情なことだ。」


海馬は苦虫を噛み潰したような顔をした。
別に忘れたわけじゃないけど、と遊戯は思った。
でもあまりにも遠い昔のことのような気がして聞かずにはいられなかったのだ。


「まぁ、貴様はあのオカルトマニアにご執心だったからな」


知ってたのか、とぼんやり思った。
誰にも知られていないつもりだったのに。
いつも夜の闇に紛れてカラダを繋いで、朝になる前には別れたのに。




「…オレそんな風に見えた?」


―まるで、彼を愛しているように?
独り言のように聞くと腕の中の海馬は溜息をついた。
執着してるのは自分じゃなくて、相手だと思ってた。―ずっとずっと。
鬱陶しい憎悪のような愛情も(あるいは逆かも知れないけれど)、薄い口唇から紡がれる呪いのような愛の言葉も(これもあるいは逆か)、慣れれば意外と心地よくすらあった、それは認めるけれど。



「無自覚とは呆れ果てるな」


お前に言われたくない、とぼんやり遊戯は思った。



「判っているくせに確かめたいのなら教えてやるが―貴様はあの亡霊の家に週に3回は通っていただろう。オレとはここ1年でたった3回、それも全て場の流れか偶然の産物だ。その他の人間も似たようなものだ。回数で言えばヤツがずば抜けている。これは単純に本命とその他の違いだろう?」


海馬は一気にまくしたてた。
なんでそんなに詳しいんだろう、と思ったけれど海馬なら普通に調べそうなので考えることはやめた。
それよりもむしろ、あの盗賊を本命呼ばわりされたことが衝撃だった。(ましてや週3回も通っていたとは)


「相性が良かっただけとは思わないか?ホラ、亡霊同士だし」

「黙れ」

海馬は自分の説を否定されかかって怖い顔をした。
本命―つまりは恋人ということだろうか?
そういう言い方は酷く自分たちに似合っていないような気がした。
そんなことを考えたこともなければ口に出したこともないし、何よりあの盗賊はいつも、遊戯が暇潰しか身体の都合で自分を抱いているんだと思い込んでいるフシがあった。
面倒くさいので否定はしなかったけれど、今思うと彼は単に傷つくのが怖かったのかも知れないと思う。
彼は考え方も付き合い方も、年若い少女みたいに酷く単純で幼なかった。(バカとも言う)



「…どこがそんなに良かったんだ?」

「…さぁ。顔かな」


遊戯は夢でも見ているように笑った。
本当はそんなの自分が聞きたい。


「お前も大概美人だがな、好みっていう意味ではバクラの方が上だぜ」

「…ほお。」


あの盗賊のカオも髪もカラダもその細い指先に至るまで、自分はとても気に入っていて、そういうところだけはいつも褒めていた記憶がある。
そうすると彼はいつも、『これは全部宿主のモノなんだぜ』って言って嘲笑っていたけれど。
向こうで見た昔の彼は(同一人物というわけではないようだが)、絵に描いたようにそのままだった。
吊り上った大きな瞳も、流れる銀色の髪の毛も、伏せた瞳の長い睫毛も、耳に障るその声も。
―自分を見上げる溢れんばかりの憎しみを纏った眼差し以外は、全て。(あんな目で見られて少しだけ傷ついたことは伏せておく)
触れられなかったのが残念だと心底思う。
あの盗賊王はどんな顔で微笑うのか、抱いてやるとどんな声で鳴くのか、一度でいいから確かめたかった。



「…」



海馬は特に美人と言われて喜ぶタイプではないが、あの得体の知れないオカルトマニア以下だと言われてさすがにむっとなった。



「…それで何だ、引き止めて欲しいのか?」
「冷たいやつだな、オレたちは永遠のライバルと言われた仲だろ?」
「そうだったか?オレは生憎、前しか見ない主義なもんでな」
「…悪かったな、3千年前の亡霊で」
「…ハッキリ言え、このオレに慰めて欲しいのか。」



海馬は強い力で遊戯を引き剥がしてその瞳を覗き込んだ。
いつもの自信に満ちたその光は既にそこにはなくて、ただ頼りなさげに揺れるそれを自分は知らない。
―少なくとも、今まで見たことはなかった。勿論見たくもない。
恐ろしいことだと海馬は思った。
誰にも―もちろん自分を含めて―負けたことのないこの男が、この世界の中で自分がたったひとりだけ目をかけていたこの男が、あんな薄気味悪い男ひとり失っただけでこんな風になるとは。

遊戯は一瞬はっとしたように真面目な顔をして、でもすぐ笑った。


「…バカ言えよ。そういうわけじゃない」
「お前ほどの決闘者が、あんな得体の知れない男ひとり失っただけで後を追うと言うのか?」
「…後を追うって…そういうわけじゃないぜ、オレは本来自分が在るべき場所に戻ろうっていうだけだ」


でも、と遊戯は遠い目で続けた。



「…あれじゃあんまり可哀相だろ。」

「…」



可哀相だなんて良く言う。
今まで闇の番人よろしく、自分を含む誰でもかれでも、容赦なく闇のゲームで地獄の底に突き落として来たくせに。
罪悪感ひとつ感じなかったくせに。


「…マインドクラッシュをかける者の台詞じゃないな」

「…それについては謝るぜ。悪かったな」


遊戯は初めて謝罪した。
全然嬉しくない、と海馬は思った。


「謝罪など結構だ。あれでオレも目が覚めたからな」

「…それは良かった」

「「…」」


もともとふたりともそんなに口数の多い方じゃない。
ここまで来るともう流石に会話も途切れて微妙な沈黙が訪れた。
そう言えば、バクラと一緒にいる時にはいつも彼ばかり喋っていて、自分はぼんやり聞いていたなぁと今更のように思い出す。



海馬はチラリと腕時計を見ると、もう帰れと冷たく言った。
いよいよ客が来る頃らしい。
誰が来るのか、大体見当はついているけど知らないフリをしておく。


「今生の別れになるってのに本当に冷たいな…」

「明日消える貴様に優しくして、今更オレにどんなメリットが?」

「いい加減そういう考え方はやめろよな…」



(優しく、か…)


(そう言えば優しくした記憶なんてないな…)


別に冷たくした記憶もないが。
最も彼はそんなこと、望んでもいなかったんだろうけれど。







プルルルル…


急かすように、海馬の携帯電話が鳴り出した。
フウ、と溜息をついて海馬はそれに手を伸ばす。
―が、それは何か素早いものに遮られて、海馬の細い手は空を切った。





プルル‥
―プチ。




「…何の真似だ?」


少し薄ら笑ったように聞く海馬は確信犯だと思う。
―そっちこそ、良くぞまぁ馬鹿馬鹿しい恋愛ごっこなんかしている。
人のことは言えないけれど。




「…やっぱり気が変わった。相手してくれよ」



小首を傾げて聞いてみる。
海馬の携帯を取り上げて電源ボタンを押したのは勿論自分だ。
電話の向こうの相手がどんなにか怒るだろうとは思ったが、明日には消えるのだから殴られる心配などする必要もない。
それにまぁ今日くらい(もしかしたら)許してくれるんじゃないかと思う。
まぁどうせ海馬は相手にうまいこと嘘をついてこんなことくらい簡単に揉み消すのだろう。
そういうのは天性の才能だ。あの盗賊には無理な芸当だな、とぼんやり思った。



「…図々しいやつだ」

「いいじゃん、久しぶりだろ」


携帯電話をベッドに放り投げると、薄く笑うその口唇に噛み付くように口付ける。
その感触は本当に、酷く久しぶりだった。







(…悪いな、バクラ)



頭の隅で、むしろあの盗賊が泣きながら怒ったり拗ねたりする様が思い浮かんだ。
彼と一緒にいたこの数ヶ月誰にも手を出さなかったのは、そうなることが容易に想像ついたからだ。
昔の負い目があるせいか知らないが、彼に泣かれるとどうしようもなくて、その細い首を絞めてやりたいと何度か本気で思った。
まぁでも最終的に自分が選ぶのは彼なのだから、このくらい許して欲しいと思う。




日記に載せた王バク前提の闇海。
闇海前提の王バクって良くあるけど、じゃあ王バク前提の闇海ってどんなの?』(そんなものはない)という疑問に取り憑かれ、
知的好奇心に勝てず一週間くらい朝から晩まで考えて出来たのがこれなんですが、私的にはとても不満の残る一作。だってうけなry
私はねー、「今海馬受書いたらこんなになったよアハ!w」…みたいなのが書きたかったんですよ。
なんかこれ普通っていうか…(; '_ゝ`)フーン程度のものじゃないですか。
つかこれ闇海ですらない気が…むしろ海闇のような気もw(確かに闇海より海闇が好きだけど)闇海の部分より王バクに力を入れすぎたからだと思うけどw
タイトルは最終的に、というそのまんまな英語です。(見れば判る)
仕舞いには印刷してファミレス持ってってまで推敲してたんですがあんまり変わらず。(そこまでして何が書きたかったのか…)
海馬とか久しぶりすぎてキャラが良く判らないし(オイオイ)
まぁでも確かアニメでは海馬も最後までいたので(※うろ覚え)こんな話になったんですが。
別にまだバの人がご健在の時で、王サマが海馬に手を出してあの子がわんわん泣き喚く話でも良かったんだけどねー(そんな話はごめんだよ!)
…それ、いいかもな。(ボソ)(ぜんぜん良くない)
つか私城海の頃は海馬は処女でマグロなの(はぁと)とかほざいてた記憶があるけど、(絶対あたまおかしい)
今となってはやつは不感症だとオモ。
(もっととんでもないことを言い出した!Σ(´∀` ))
つか海馬の恋人って誰という疑問が残りますがこっちもそこまで考えてないので好きに想像してください(お前)もしかしたら本田とかかも知れないし(…)
まーでも王サマは盗賊王を見てあんまりあのままなんでDOKKIN☆とかしたと思うのですよ。そしたら結構憎まれててZUKKIN☆とかしたと(以下略)
何か考えてみたら遊戯王って結局
王サマと盗賊の壮大な愛の軌跡で終わったなぁとか、次第に考えがどんどん前向きになって怖いです。
王サマはあの子の復讐に最期まで付き合ってあげたよ!(ノД`)(大丈夫かアンタ…)
まぁあの子の復讐が果たせなかったのはKOIを(ry(それはもういい)
異端慣れしてる人は前向きでだめですね!!orz(可哀相)脳内ハッピーエンドはもうおなかいっぱいだよ!(…)
つか海馬のこの黒さに対して盗賊の白さっていったい…(怖ッ!)なんかわたしも判りやすい好みですよね…(虚ろ)
つか結局ゾークがバの人の何パーセントなんだか不明だし(最終的には100%??)盗賊って表記していいのか迷ったけどまぁいいだろ…(疲労)
ついでに海馬は一度だけ塔から飛び降りる発言のおかげで遊戯に勝ったことがあるけどあれはカウントされてませんw
つーか今度は王バク前提のバク海ってどんなんだろうという疑問に知的好奇心が動かされていますが書くかは不明(書かなくていい)
ちなみに一応言っておきますが、私はバク海も闇海もむしろ海馬受もぜんぜん好きじゃありません。(それってネタって言うんじゃあ…)
050919


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