―そう言えば、言うのずっと忘れてたんだがな。


満面の笑みでそう切り出されて、バクラはちょっと顔を上げてなに、と言った。
こっちで目を覚ましてから、3ヶ月くらい経ったのだろうか。
夢というわけでもないようなので、バクラはいっそこれは天国だと思うことにした。
それがいちばん都合が良かった。





「お前、俺と結婚してるんだよ」

「…はぁ???」









expiation.





―約束なんて知らない。
あの借り物のカラダで生きていた頃、そんなものをしたことは一度も無かった。
周りにいた友人たちが繋ぐ他愛のない口約束すらも、自分と彼にはまるで無縁だった。
たぶん考えたことすら無い。
必要が無かったからだ。
だってまるでこの世にふたりっきりみたいに、何か大きなものに引き合わされたみたいに、
そんなものが無くても自分たちは、今考えるととても長い時間を共に過ごしていた。
だから逢いたいなんて思ったこともなかったし、
それどころか、最後の最後になるまで愛していることにすら気付かなかった。
―もっとも、それは幸運だったと思う。
もしも気付いてしまっていたら、自分が最期まで闘い抜けたかすらも判らない。
この腕は彼を傷つけることを拒んで、かすり傷ひとつつけることすら叶わなかったかも知れない。
まぁ心の奥底では無意識に気付いていたから、彼の首を落とすことが出来なかったのかも知れないけれど。
―今では、そんな風に思う。









『…気は済んだか?』


あの日、彼の腕の中でぼろぼろ泣いていると、穏やかに聞かれた。
―何が?そう聞く間もなく、王は更に言葉を紡いだ。



『…オレのことゆるしてくれる?』
『…!』

バクラは激しく首を振った。
何で彼がわざわざそんなことを言うのか判らなくて、止まりかけた涙がまた大量に零れ落ちた。
こんなにいちどに大量の涙を流したことなんかバクラの人生ではまだ一度もなくて、
涙に引き摺られるように横隔膜が派手に痙攣を始めた。



『…っく』

(な…なにコレ…!?)


バクラが目を白黒させていると王は呆れたように少し笑った。


『…お前、泣き方も知らねえんだな』


あの頃良く知っていたそれよりも少し長くて逞しい指が自分の目の淵を辿る。
ぞっとするくらい優しい仕草で、バクラは泣きながら背中に鳥肌が立ちそうになった。



『じゃあオレが涙を止めてやるぜ』

良くぞまぁそんなセリフが出てくる、と頭の隅で冷静に思った瞬間、
目の前の景色がぐるぐると早送り再生のように流れて最終的には天井の象形文字で止まった。
つまりは押し倒されたわけだが、自分の真上に王サマの顔がある、この体勢が酷く久しぶりに思えてちょっと笑い出しそうになった。
柄にもなく切羽詰っているのだろうか、彼は相変わらずの強い力でバクラの両腕を押さえつけると首筋に口付けて、そのまま軽く吸った。



『…王サマ、ま、って、』

妙な恐怖を感じて、思わずそんなことを言った。
きっとたぶん百回くらいはカラダを重ねただろうに、自分の口からいまさらこんな小娘のような台詞が出てくるとは。
―待てない、と王は言った。当然だけれど。


『…1年も待ったんだぜ?これ以上待てない』


それはそうだと思う。自分だったら1年もお預けを食らっていたら我慢しすぎで死ぬかも知れない。
それにしても王サマがこんなにも切羽詰っているなんて珍しい、とバクラは思った。
長い指がするりと自分のスカートのような服の下から侵入して、明らかに性的な意味合いでそこに触れるのが判った。
―びくん。
少し触られただけで頭の神経がトんでしまいそうな感じを覚える。


(な、に、これ…)



王は自分の反応に気を良くしたようで、上着を捲り上げて現れた胸の突起を口に含んだ。


『ッや―』


自分のものとは思えない妙な声が漏れた。
丹念に舐められたあと軽く歯を立てられると、彼を突き飛ばして逃げたくなるほどの快感が全身に伝わって、もうそれだけで息が上がってきた。



(へ、変になりそう…)


いつも彼はどんな風に自分に触れていた…?
いつもこうだったっけ…?
そんなことを必死で考えていると、ふと大きな鏡に映る自分と彼の姿。
なんて絶妙な位置に。
―ああ、あんなに泣いてみっともないったらありゃしない。
人ごとのようにそんなことを思う。
取っ払ってもらわないと落ち着いてエッチも出来ない、と思ったけれど、むしろそれはその為に設置されている鏡であるような気もした。
でも、その鏡をぼんやりと見ているうちにようやく気付いた。



(そうか、これ、いつものカラダじゃないから…)


いつものカラダも何もあれは宿主サマのカラダだったのに、とか思うけれど、今のこのカラダよりはずっとあちらに慣れていたのだから仕方がない。
何しろ3000年ぶりなのだ。
いまさらこんなカラダに帰って来たところで、もう自分でも自分がどこの誰でいったい何者なのか、それすらさっぱり判らなかった。



『余所見すんな』


そんなことを考えていると王は乱暴にバクラの口唇を塞いだ。
こんな状態の自分の口内に侵入するのは余程容易かっただろう、息が止まる寸前まで掻き回されて脳が溶けそうだ。



『まさか忘れてねえよな?お前はオレのものなんだよ。
 …他のこと考えんな。オレだけ見てればいい』


口唇を離すと、王はそんなバカな男のような台詞をのたまった。
そっちこそ、よもやそんな風にしか言えないとは呆れ果てる。
―そんな風にみっともなく自分になんか執着して。王サマともあろう人が。




『…オレ様、あんた以外を見たことなんて一度もないぜ?』


バクラはぼそりと言った。




『…王サマが好き』


王は目を丸くした。
とても意外といった感じだった。
こんなこと言わなくても彼はきっと知っていたのだろうけれど、たぶん口に出して言われるとは思っていなかったのだろう。
バクラは腕を伸ばして彼に抱きついた。
簡単には振り解けないように、力いっぱい抱きついた。
単に泣きながら好きだと言っているその顔を絶対に見られたくなかったからだけれど。




『…王サマが好き』


『アンタのことやっぱりゆるせないけど』


『でももうどうでもいいや…』



3000年も続いた闇の中で、焦がれて、求めていたものは彼だけなのだ。
これは夢かも知れないけれど―折角だから言っておくことにする。
自分は間違いなく不幸というやつなんだろうけれど、
たとえ夢だとしてもこれが手に入るんだとすれば3000年+αも待った甲斐があるというものだ。



『バクラ…』


王は溜息をついて優しくバクラの髪を撫でた。
少なくとも自分は今までこんな風にされたことなんか無いし、彼もしたこともないのだろう、その華奢な腕が明らかに戸惑っているのが判った。


『そうだな…、ごめん』

『聞きたくねぇ』


泣きながら首を振ると王は少し哀しそうに笑った。



『ごめんな、バクラ…』


優しい言葉と共に、額に優しくキスされる。
こんな優しい王サマなんてたまらなく気持ち悪い上、心臓が何かで鋭利なもので突かれたみたいに痛くて涙が止まらなかった。
村が焼かれてひとりぼっちになった時よりも、ひとりで過ごした幾千ものそれの中のどの夜よりも、
盗賊王として死んだ時よりも、―最期の闇のゲームで敗けた時よりも。
痛みというものはこんなに痛いものだったのかと思うほどに―
否、今まで単に痛みを痛いと認識していなかっただけなのだろうけれど。
そうでなければ、あんなに復讐だけに命をかけて生きていくことなんか出来やしなかっただろう。
でもそのことを含めてもうどうでも良かった。
―この腕さえあれば何もかも許せる気がした。





結局、そのまま彼の腕で泣きながら眠ってしまった。
次の日は余りにも恥ずかしくてずっとシーツに包まっていたので、結局ふたりがちゃんと心も身体も繋がったのは更にその次の日のことであった。







―そして話は冒頭に戻る。




「…何それ」


オイオイ、喜べよ、と王は小首を傾げた。


「そうでもしなきゃお前1年も王宮で寝てらんなかっただろ。まぁ安心しな、寝てる間に(式とか)色々済ませておいてやったんだぜ」

色々って何だよ、とバクラは思ったが嫌な予感がしたのでとりあえず黙っていた。
道理で普通に王宮に滞在していられるわけだ。
アイシスなど自分とすれ違うと、カラダはもういいの?などと近所のおばさんのように話しかけてくるし。
―今思えば違う意味だったような気もするけれど。



「それで、町に行った時に買って来たやつがどっかこの辺に…」
「?」

王は机の引き出しを何やらごそこそとあさくっている。



「ほら、あったぜ指輪」


満面の笑みで振り返ると、バクラは物凄い嫌そうな顔をしてベッドのかなり隅の方に避難していた。


「なんだよ、要らねえのか?」
「要らねーよ!!!!」


王は溜息をついた。


「そうか、なら仕方ねぇな。いや、千年アイテムが無いせいか知らないが、結構国の資金が厳しくてな。
 お前がつけてた装飾品とか全部売っ払っちまったからせめてこれくらいやろうかと思ったんだが、まぁ要らねーならしょうがねえよなー」

「!?」


そういえば、盗賊王は全身にきらきら光る様々な装飾品をつけていたが、今改めて見てみるとそれらは全て無くなっている。


「王サマッ…何勝手に!オレ様の汗と涙の戦利品を!!!」
「(今気付いたくせに…)いいじゃねえか、元々王家の墓のモンだぜ?それにお前もう要らないだろ?」


―あんなもの。

そう続けると、王はバクラに軽くキスをした。
何だか騙されている気もするが、いっそそれでもいいと思う自分は頭でも打ったのだろうか?



「…そ、そういうことなら貰っておいてやろうじゃねぇか」
「じゃ、手ェ出せよ」
「王サマ…まさかはめてやろうとか思ってる?」
「悪いのか?」


バクラは首の骨が折れそうな勢いで激しく縦に頷いた。


「女じゃあるまいし気色悪いだろ。自分ではめるから、ちょうだい」



王はそんなバクラをちらりと横目で見ると、また溜息をついた。


「しょうがないやつだな…。じゃあお前が寝てる間にはめとくことにするぜ!」
「えー‥」


バクラはまだ不満だったが、まぁそれならと妥協することにした。



「つかさ、王サマなのに世継ぎとか要らねぇの?オレと結婚したってガキはデキねぇし…」
「そうだな。(あっさり)まぁ、暫くしたら王位はセトにでも譲ってオレらはのんびり隠居しようぜ」
「じゃあ余計結婚した意味ねぇじゃん」
「うるせぇやつだな…」


そんなことは王だって良く判っている。
それでも、眠っているバクラを見ながら、彼がいちばん欲しかったものは何だろうとずっと考えていて。
自惚れんなって言われるだろうけれど、それは自分だと思ったから。
例えば永遠の約束なんてものだったら、少しは喜んでくれるかと思ったから。
指輪なんて単に所有物の証かも知れないけれど、それでもキスマークなんかよりはセンスのいい証だろう?











(オレが敗けたら首をやるって、そう言ってたよな…)


(確かに頂いたぜ…お前自身を…)







―翌日、バクラの左手の薬指には確かに指輪が光っていたという。




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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(永遠に続くかのような沈黙)
気色わる━━━━━━━!!!!!(((((゚∀゚)ノc□(だいなしだ!Σ(´∀` ))
自分で書いておいてドン引きなんですか、書きながらちょっと笑ってしまったよ…w 終わり方とかもう
ギャグとしか…(真顔)
わ、わたしのことはどおかほおっておいてください…・゜・(ノД`)・゜・(言いたいことはそれだけか)
まぁ処女のように恥らうバの人が書けたので満足です(´∀`)(お前は本当に処女が好きなやつだな!)
つか前から思ってたんですがわたし、あとがきを別に分けるべきですよねw いや分けませんが。(オィ)
あ、考えてみたら
オール反転にすりゃいいのか。
つか今気付いたんだけどバの人1年も寝てたんだとしたら下の世話は一体えいwp0いjdふぉ;sj;oeiruw(マジでオール反転にしろ!!)

つうか鬼束とこっことあゆ(増えた)の曲を聞き過ぎてなんかあたまおかしくなってきたよ…>私
マジラブソングは全部王バクでいけるんでずっと色々聞いてたんですがあんまり聞いてるとナチュラルにあたまおかしくなってくるねw(笑い事じゃあ…)
わたしの放った矢は貴方には当たらなかったのにどうして私の方が痛くて泣いてしまったのだろう〜@鬼束
ほんと鬼束の曲はぜんぶ王バクだな〜(´∀`)(いい笑顔)(…)
貴方には当たらなかった、ってところがポイントです。そう、当たらなかったんですよ!!!!(はぁ…)
つまり復讐は果たせな以下略(その話は聞き飽きたから!!)
つかさ、これはわたし、完全に城海の時を超えたよね。(満足げ!?Σ(´∀` ))つか城海の時どんなの書いてたか忘れた(…)
この話では王サマもバの人も結局最期まで何も言わなかったってことになってるので、
3回目ならばこのくらいの修羅場(@東京事変)は繰り広げられるとオモ(ある意味王バクは常に修羅場ですがw)
王サマのごめんはつまり好きって意味です。(こんなところで言っても…)
告白シーンは
No way to say(@あゆ)を流しながらでお願いします。(!?Σ(´∀` ))(ドン引き…!!)

つか、こないだから進展してない気すらするよ…w(肩を落とす)
王バクのくせに寸止めw なんだこの(バ)カップル…(知らん)
どうでもいいけど、バカップルと同意語でバ会社(=ばかな会社)ってのも作るべきだとオモ…(そんな話は心底どうでもいいよ!)
それにしてもやさしいファラオが死ぬほど気色わるいですね!!(…)
最初ファラオ視点で書いてたらあまりのキモさに私の両手が打つのを拒んだためバの人視点にw
これでももうどんだけ苦労したか!!!!
頭の中では話できてるのにあまりのキモさに両手が活字になることを拒んで打ってくれなくてw(咳き込むほど笑いながら)(お前、少し落ち着けよ)
でもこの再会マジラブ部分以外は基本的にこのシリーズは
新婚ギャグなのです、よ…
つーかその新婚ギャグ部分をかきたくて捏造作った話だし!(もう言い訳はいいから)
まぁでも、私が書く以上こういうのも書かないとね!Σd(゚∀` )(いつも書いてるじゃねえか!)
つかこれ王バクなのか王盗なのかすら謎ですが…とりあえず
中の人は闇遊戯と闇バクラなんでそういうことでひとつ。
私の目標だったカオスは(余裕で)突破してると思うのでもうどうでもいい…(渇笑)つかバの人がどんどん
神格化以下略_| ̄|○
タイトルは贖罪というそのまんまな英語w
ようやく結婚したので(…)これから先は思う存分新婚ギャグを書きたいんですが、
恐ろしいことにあとひとつマジラブがある予定ですw(マジラブはもうおなかいっぱいだよ!(⊃Д`))
予定は未定だし更新遅いので詳しくは語りませんがw
壁紙合ってない(つかエジプトに桜はない)とか色々ツッコミどころは満載ですが例の如く生暖かくスルーの方向でお願いしますw
でもこの壁紙はなんか現実感のないかんじがこの話に合ってていいのではないかとw
とりあえず「オレが敗けたら首をやる」のコマは何度見ても萌えすぎて呼吸が止まりそうだ…(真顔)カズキ左向きの顔がうますぎ(;´Д`)ハァハァ
そしてわたしはどのジャンルでも指輪をあげる話を書きすぎ_| ̄|○(わかりやすいやつ…)

051114


ブラウザバックプリーズ