セックスは一護に教わった…と言ったら語弊がある。
一護とする前に何人とも寝たからだ。
ただ、セックスが気持ちいいものだと教えてくれたのは間違いなく一護で、一護に抱かれるまではそれはただの時間潰しか気晴らしでしかなかった。ひとりでするのと何ら変わりはしない。
一護は自分が初めてじゃないことに実はものすごーく怒っていたようで、最初の頃はほとんど狂人みたいにおまえが俺だけのものになるまで―とか言って本気で気絶するまで抱かれたり、過去に寝た男をリストアップさせられたりもしたけれど、別にそんなに気にしなくても自分は一護じゃなければ感じたりしないし、一護じゃなかったらもうイけるかどうかもわからないのに。
『ぁんッ―』
…だからって、もう少しくらい我慢すればいいのに、と画面を見ながらそんなことを思う。
惜しげもなくハズカシイ声なんか上げて―そりゃあ一護は上手いから気持ちいいのは判るけど…それにしたってこれはひどい。
―そもそもこれは何かというと、最近見つけた昔の記録だ。
この家はもともとラブホテルがモデルなわけだが…たくさんある部屋の中のひとつに全ての部屋を見れるモニタールームが存在することを…最近、知った。広い家の部屋を全部把握なんてしてなかったのだ。
もっとも本物のラブホテルにそんな設備がついているわけはないから、この家を造った自分の頭のどこかにそういうイメージがあったんだろうけれど…。
最初は一護が仕掛けたんだと思って物凄く怒って問い詰めたけど、さすがに全力で否定された。どうにも最初っからあったものらしい。
そして記録もちゃんと残っていた。庭のベッドですることが多いからあまり量はないけれど、数少ない部屋でした分はきっちり。
扱いが判らないからふたりで適当に触っていたらコレが流れ始めた。さすがに度肝を抜かれて止めようとしたけど止め方が判らないし、一護がちょっと見てみようぜ…なんて言うからとりあえず流れたままだ。
もちろんAVみたいに女の方(つまり自分)をメインに撮っているわけではなくてどちらかと言えば隠し撮りに近いし局部なんかさっぱり見えないけれど、だいたいなにをしているのかくらいは判るし、声も聞こえる。
そりゃあ一護にとっては少しは面白いかも知れないけれど、自分は抱かれている己の姿なんか見たっていっそ萎えるくらいでちっとも楽しくない。
まぁ、姿というかカラダは前述したように隠し撮りであんまり見えないから百歩譲って目を瞑るとして、問題はこの…
『やッ…だっ―っぁぁん』
―ぐちゅ、と指を入口に埋められる卑猥な音がして、画面の向こうの自分は思った通りの声を上げた。
一護と結ばれるまでは出したこともないような、オンナノコみたいな甘い声。
確かに昔は色んな男と寝たことは寝たけれど、男といっても相手は破面や虚ばっかりで正直獣の交尾みたいなものだったし(こんなことを一護に言ったら発狂すると思って未だに言っていないのだけれど)、自分が最中にどんな声を上げていたのかとかあまり覚えていない。
それに昔はセックスというものを知った気になっていただけの知ったかぶりだったし、相手も虚だけあって自分がイけたらいい…みたいなことが多かったから、多分喘ぐほど気持ち良くなかったのだろう。アーロニーロやグリムジョーなんかとはそこそこマトモなやり方をした記憶もあるけれど、どちらにしてもそんなに大きくは変わらなかった。
―むしろ愛してないから特に気持ち良くなかっただけなのかも知れないけど、そんなことは今更どうでもいいしわざわざ一護に言うつもりも無い。
もっとも一護と結ばれて、声を上げざるおえないような―今まで経験したことのない刺激を与えられても、こんな甘い声を出して喘ぐというのは自分にとって恥ずかしいというよりはとてもみっともないことで、絶対にしたくなんかなかったのだ。
でも一護はもっと聞きたいとかもっと啼いてとか―‥そんな恥ずかしいことばかり要求して、我慢なんか絶対にさせてくれなかった。
いつだってココロもカラダもとろとろに濡れるまで触りたくって―結果的に一護が欲しくておかしくなりそうになるまで甘ったるい愛撫ばかりを続けるから、こちらから欲しいと訴えるにはハッキリ口に出す勇気がなければあとは…声を上げるか最悪泣くしかないのだ。
まぁ最初にした時はあいにくのケガ人で、逆らうほどの体力がなかったというのも大きい。あの時はケガ人だというのに必要以上に泣いて疲れて、もう何も考えたくなかったし楽になりたかった。そんな時期に毎日毎日気が触れるんじゃないかと思うくらい抱かれたら、結果的に声を押し殺すことなんか出来なくなるのも納得する…(ということにする)。
行為の時にこんなに触られたり舐められたりするのも本当に勘弁してくださいというくらいイヤだったけれど(だって、男同士なのに)、一護はごめんな、ちょっとだけ我慢して…とか優しくキスをするだけで絶対にやめてくれなかったから結局イヤでも慣れてしまった。
せめて後ろからとかだったらそんなに恥ずかしくもならないのに、一護はどんなに嫌がっても正面から脚を割って―とにかくすべてを見たがった。あの大きな瞳で真上から見下ろされるととても耐えられなくて、目を逸らすか瞼をギュッと閉じてしまう。―そんな反応は一護を喜ばせるだけだとわかっていても。
かわいいだとかきれいだとか―そんな他の男に言われても一護の分身なんだからむしろ当然だと軽く聞き流していた戯言も、一護に言われるとまったく違った意味を持って、耳を塞ぎたいくらいに恥ずかしかった。…今だにそうだ。
『―いつ見てもすげぇ綺麗』
『や、めっ―』
『だって、ほんとだよ。おまえはいっつも雪みたいにキレーだ…』
服を全部剥ぎ取られて、思いっきり脚を開かれて―いくら見ているのが一護だけとはいえ、そんな風に見られたら羞恥でどうにかなりそうになる。
というか自分と同じカオやカラダを目の前にして正気でこんなことが言えるんだとしたら、一護の方が余程狂っていると思うくらいだ。
『…あいしてるよ』
『うるさっ―やぁッ…』
―ずいぶん逆らっているから、たぶん結ばれてから日が短いころのものだろう。昔は好きだとか言われるとどうしたらいいのか判らなくて、とりあえず反抗していた。(今ではそんな体力のムダなことはしない)
まぁ、どんなに逆らったところで語尾でそんな声を出したら無駄もいいところだった。
『…気持ちイイ?』
一護は顔を仰がせてわざと目を合わせて聞いた。―羞恥心を煽るいつもの一護のやり方だ。
『ッ…』
画面の中の自分は金色の瞳を涙でいっぱいにして思いっきり目を逸らした。あくまでNOと言いたい当時の自分の気持ちはわかるけれど、残念ながら説得力がまるでない。
『…でも、ホシクてたまんない、って顔してるよ。ココも…指だけじゃ足りないって…』
『や、だ、そん―言わ、な、―ぁっ』
『…ヤサシクするから泣かないで?ちゃんとおまえがキモチイイようにするから…』
―こういうのは、昔よく言われたことだ。
俺を拒まないでとかぜんぶ見せてとか―‥いちども拒んだことなんかないし、カラダの奥深くまで見られてもうなにも見せるものなどないというのに。
『チカラ抜いて、そう…ぜんぶ頂戴?』
『ンッ―』
『そう、いいこ…』
やはり王と言うべきなのかそれとも心底惚れてしまっているせいなのか、一護に逆らえたことなんかなくて―‥結局一護の思うままに反応するカラダになってしまった。
―まぁそういう抱き方をする一護だって悪い。何度も指や舌の愛撫だけで達してからようやく与えられて―‥さんざん焦らされて頭なんか完全に働かなくなっているのに、更にわけがわからなくなるくらい深く繋がると本当に感じすぎてしまって、夢中で一護にしがみつく以外に出来ることはなんにもなかった。
『ひゃっ―あァァん―』
―ブチッ
挿入された(…と思われる)瞬間、思わず冷や汗をかきそうな己の甲高い声に襲われて、反射的にスイッチ(らしきもの)を切ってしまった。あれではAVだ。
とりあえず停止スイッチの場所が合っていて良かった…、と思わず手元の装置を二度見した。
自分の横で見ていた一護がいかにもいいところだったのに…とか言いたげな目でチラリとこちらを見た。
「…こんなデキの悪いAV見なくていいだろ。だいたいいちごは毎日実物見てんだから」
そうだけどあれはあれで…と一護が言いかけたので思いっきり睨んだらさすがに口を閉じた。
「けっこう昔のだったな。でもほんとにおまえは俺に抱かれてる時がいちばんカワイイなぁ」
「何回も言うけど、かわいいもなにもいちごとおんなじだよ。」
「わかってねぇな、おんなじでも全然違うのに。…ちょっとくらい興奮しなかった?」
「しない。俺があんあん言ってただけじゃん」
「まぁおまえはそうかもな…でも俺はあいにく興奮したよ」
そりゃあ一護はいつもあんな声を聞きたい聞きたいと言っているくらいだからそうかも知れないが。
ホラ―と言って腰を押し付けられて思わず眉を顰めた。
「あのなぁ、王のくせにセクハラみたいな真似すんなよ」
「あの頃はこれだけで泣きそうになって可愛かったのにな〜」
「…怒るよ」
「おまえさぁ、なんで俺が触ったら嫌がるの?」
「…自分から触るのはいいけど、触られるのは苦手かも。今でも上に乗る方が好きだし」
「じゃあ今日はそぉして貰おうかな」
一護は自分をひょいと膝に乗せて腰に手を回した。
「ほんとえろい腰してんなぁ…」
「…だから、いちごの腰とおんなじなんだけど」
「それはもういいから。おまえってホント自分のことわかってねぇよな〜」
「いちごの方がわかってないよ。いつもいつも正気で言ってるんだとしたらあたまおかしいよ」
「そこまで言うか?可愛いカオしてひでぇやつだな」
酷いどころか自分は絶対に間違っていない、と思っていると、一護の手がヨシヨシと自分の頭を撫でた。
「いくらでもえっちな子になっていいからな♪」
「…本気で怒るよ」
「怒るなよ、あいしてるよ」
「俺も愛してるよ。―でもその前にコレは処分して」
「もったいねーな。つか消し方わかんねーんだけど」
「そんなの壊せばいいだろ。どいて、いちご」
背中の斬月を引き抜いて構えたら、一護は言われるがままに後ろに下がった。
「…あれ、止めないの?」
「そりゃあおまえがそうしたいなら。」
「…。どーせコッチのものは一護と恋次しか見れないって判ってるけど…。あんまり自分が女の子みたいな声出してるからいやになって」
思わず正直に言ったら、そっと寄って来た一護に抱き締められた。
「おまえをえっちな子にしたのは俺だから、そんなこと気にしなくていいのに」
「するよ、男だもん。…いちごは、あんな俺で感じるの?」
一護の胸で思わず聞いてみる。
「感じなきゃ抱かないよ。おまえの声がイチバン感じる…」
「…おんなじカオなのに?」
「だからそれはさぁ…そういう問題じゃないだろ?元々、カオで好きになるわけじゃないんだし…」
「…俺だってそうだけど」
「俺とセックスしたくない?」
「…そんなことない。」
一護は目を伏せた自分の手を引いて部屋を出ると、とりあえず適当にあしらえた鍵で扉を閉めた。
「とりあえずココは封印(?)しとこうぜ。よっぽどマンネリになったら使ってもいいけど…」
なんとなく八つ当たりしてしまって悪かったなぁ、と思ったけれど悔しいので黙っていた。
交わっている時は夢中だから、自分の淫乱な姿なんか知る由もない。だから今日、目の当たりにしてちょっとショックだったというか、なんというか…。
「…でも、いちごだけだから」
「ん?」
「いちごじゃないと…あんなに感じたりしないから。だからただの淫乱ってわけじゃ…」
一護は嬉しそうに自分を抱き上げて、よく判ってるよ―、と耳元で囁いてキスをした。
「…なんで笑うの」
「いや、ホントにかわいいなぁと思って」
「真面目にゆってんだよ」
「判ってるって。俺こそいつも好きなように抱いてごめんな?」
「そんなことないよ、いちごやさしーし…。…優しすぎてちょっとアレだけど」
「優しくない方がいーの?」
「そーじゃなくて」
「まぁ、どっちにしても今日は上に乗ってくれるんだったよな?俺興奮してるから、覚悟しとけよ?」
一護は楽しそうに言ってちゅ、ともう一度口唇を塞いだ。
本当はあの日結ばれた時からずっと―こんな風に一護に欲しがって貰えることはすごくうれしくてしあわせだった。
色々文句を言ったけれど、本当は一護にならどんな風に抱かれたって構わないし殺されてもいいとすら思っている。
あんなに女の子みたいに組み敷かれている最中だって―どこか頭の片隅でそう思ってる。
ぎゅっと絡めた指の先から、自分の本体である彼にこのキモチが伝わるんじゃないかって不安に思うくらいに。
*
―だって、こんな風に繋いでいないと不安になるから。
キミは昔ちっとも俺のことを信じてくれなくて、交わっている時しかその細い腕を自分から俺に伸ばしてはくれなかったから。
だから愛しいこの子が、このキレイなカラダが俺なしでは生きられなくなるように―‥セックスの味を教えて、そう仕向けたのは自分だ。
だから、恥じることなんてないんだよ。
―安心して俺に堕ちておいで。
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