「―ぁ、」
もぅずっとずっと―戦い続けて生きて来たのだから、あらゆる痛みには慣れているつもりだった。
けれど彼から与えられる今まで自分が認識していたものとはまったく違う甘い痛みは―まるで麻薬みたいに脳に作用してもうぜんぶどうでも良くなる。
挿入したばかりで息も絶え絶えだというのに、一護は濡れた口唇を舐め上げてゆっくりと塞いだ。
口唇の隙間から声が洩れようが端から流れるお互いの唾液にもお構いなしに、何度も何度も深く口付ける。貪り尽くされて自分の神経が麻痺するまで。
「―恋次…ホラ、もっと見せて…」
何を、とかぼんやり思う。もぅ自分のカラダで彼が見たことのない場所はない気すらするのに。
いったいこれ以上何を見せたら満足するというのか。
「もぅ…ぜんぶ…見せただろ…これ以上…」
「―そうでもねぇよ、ほら…」
そう言って一護は痛いくらい感じて勃ち上がっている胸の突起に舌を這わせた。
「や、ぁっ―‥」
「恋次…カワイイ…」
(かわ、いい…!?)
こちらは男としてのプライドを全部投げうって彼にカラダを開いているのに、一護ときたらそれを余計打ち砕くようなことを平気で言うのだ。
こちらだって馬鹿ではない(つもり)から、自分が乱れれば乱れるほど相手が妙に嬉しそうに微笑うことくらい知っている。
恥ずかしい声を上げて彼に縋り付くのを両手を広げて待っているのだ。
(ムカ、つく…)
―まぁ別に、今更気にしないけど。
可愛いでも何でも―それで彼の心を自分が捕えているというのなら、それに甘んじるくらい何でもない。
「―イシテル」
そして彼の口唇は今日も、未だに聞き慣れないその言葉を何回でも繰り返す。呪いでもかけるみたいに、絡めた指先にキスをして。
「…愛してる」
もっとも、呪いならもとよりこちらもかかっているのだ。たぶん彼に初めて会ったその瞬間から―
出会いもその後も最悪だったけれど、今まで見たことないくらい真っ直ぐで無鉄砲ででも太陽みたいに眩しくて―自分たちが忘れていた勇気という武器を持っていたその男に、たちまち心奪われてしまったのだから。
長いこと生きてきたけれど、さすがに同性のしかも人間を好きになったのは初めての経験だったしまさか想いを遂げられるなんて思いもしなかったから。
欲しいと言われたことすら夢のように嬉しくて―男の自分が組み敷かれて女のように抱かれることすらも怖くなかった。
一護の周りに何人もいる女子たちの誰でもなくて―あんなに彼のそばにいたルキアや幼なじみの少女ですらなくて―この自分が一護に選ばれたのだという目が眩むような至福。
―だから、なんにもこわくない。
地獄に堕ちる覚悟はある。
「‥一、護」
俺も愛してる、と言おうとして手を伸ばすと一護はぞっとするくらい優しく微笑ってその手を取った。
「…ばぁか。―それ以上言ったらルキアみたいに磔になっちまうぜ」
「もう遅せーよ。…そん時はさ、ルキアの時みたいに助けに来てくれんの?」
「あぁ。むしろ死刑台から攫ってやるよ。言っとくけど本気だからな」
一護はそう言って―向日葵みたいに笑った。
―そう、いつか。
あの死刑台に磔になる日が来たとしても、きっと後悔すらしない。
***