「あー、ストップストップ!!」
ふたり分のコーヒーを沸かして、カップに砂糖とミルクを入れようとしたら向かいに座って待っていた白い虚が抗議の声を上げた。
「そんなもんいらねーよ、勝手に入れんな」
「…そう?」
「ガキのてめーと一緒にすんな、甘くなるだろ!」
虚はコーヒーだけが注がれた湯気を立てるカップを強引に奪い取るとふー、とちょっとだけ冷まして口唇をつけた。
そりゃあ自分だっていつもは他人のカップに勝手に入れたりはしないけど、こいつは自分と同じだから―なんとなく味覚も同じかなぁ、と思ったのだ。…違ったようだが。
「コーヒーはブラックに決まってんだろ。」
「ミルクはともかく、砂糖くらいはちょっと入れた方がよくね?ちょっとだけ甘くてさ」
「だから、てめーはガキだっつってんだろ、ばーか」
「おまえなぁ…ガキガキって言うんじゃねーよ!」
こちらばかり子供扱いして、自分だって子供のようにそんな暴言を叩くくせに。いったい何歳のつもりなのか知らないけれど、あの時からずっとガキガキと子供扱いされて気に入らない。
…と思いつつ、黒い爪に彩られた白くて長い指がコーヒーの取っ手に絡んで―ゆっくりと口元に運ばれる仕草に思わず見とれてしまった。
―長い指だと思う。
それは確かに自分をモデルにしてつくられたものであるはずだ。推測だけど、ほぼ間違いないと思う。
なのにどうして長さが違うように見えるのか不思議だった。
「…なに見てんだよ」
「指。長いなぁと思って」
「てめーのと一緒だろーが」
「そのはずなんだけど。…なんでだろう、爪が黒いからかな…?」
カップを持っている方とは逆の腕をグイと引き寄せて、目の前でじっくりと指を広げてみた。
虚はそこは大人の対応のつもりなのか自分の好きにさせてくれたけれど、あまりに長い時間見ていたせいか退屈したようでカップをソーサーの上に戻した。
自分より少し体温の低い指先は気持ちが良くて―このまま握っていたい気持ちもあったけれどさすがにいい加減離そうか、と思った瞬間―空いた方の手で思いっきり肩を引き寄せられた。
「―!」
虚の動きがあまりに早かったので、キスされていると気付いたのは数秒後だった。
ゆっくりと舌を絡め取られて―口の中を蹂躙される。こういう風にするのが好きなのだ―コイツは。乱暴というほどではないが、とにかく奪うように口付けるのが好きだった。そのせいか、最初にする時は絶対にキスしてもいいかとかそういう殊勝なことは聞かない。いつでも不意打ちするみたいに突然してくる。
まぁここだけの話、自分も奪われるのは嫌いじゃない。むしろいつもどんな風にされたって彼とのキスは甘く感じるのだが―今日は少し事情が違った。…というか、味が。
「にっ…苦ッッ!!!」
口唇を離してからゲホゲホと咳き込んだら虚は呆れて眉を顰めた。
「やっぱりガキじゃねーか。」
「うるせっ…」
自分もブラックで飲んだことがないわけではない―が、砂糖を入れないコーヒーがこんなにも苦かっただろうかと思うくらい苦かった。―念入りに舌を絡められたせいかも知れないが。
「しょうがねぇなぁ」
「…?」
虚は溜め息をついて椅子から立ち上がると、冷蔵庫を開けて自分が冷やしていたチョコレートを持ち出して来た。
「甘いもんはあんま好きじゃねーんだけどな」
「ちょ…俺のだぞそれ!好きなヤツだから残しといたのに!!」
「るせーな。これ食ってやるから、もっかいさせろ」
「…!!」
あ、それならどんどん食べてください―とか言いそうになったので慌てて口唇をぎゅっと引き締めたのも、ここだけの話。
ふたり分のコーヒーを沸かして、カップに砂糖とミルクを入れようとしたら向かいに座って待っていた白い虚が抗議の声を上げた。
「そんなもんいらねーよ、勝手に入れんな」
「…そう?」
「ガキのてめーと一緒にすんな、甘くなるだろ!」
虚はコーヒーだけが注がれた湯気を立てるカップを強引に奪い取るとふー、とちょっとだけ冷まして口唇をつけた。
そりゃあ自分だっていつもは他人のカップに勝手に入れたりはしないけど、こいつは自分と同じだから―なんとなく味覚も同じかなぁ、と思ったのだ。…違ったようだが。
「コーヒーはブラックに決まってんだろ。」
「ミルクはともかく、砂糖くらいはちょっと入れた方がよくね?ちょっとだけ甘くてさ」
「だから、てめーはガキだっつってんだろ、ばーか」
「おまえなぁ…ガキガキって言うんじゃねーよ!」
こちらばかり子供扱いして、自分だって子供のようにそんな暴言を叩くくせに。いったい何歳のつもりなのか知らないけれど、あの時からずっとガキガキと子供扱いされて気に入らない。
…と思いつつ、黒い爪に彩られた白くて長い指がコーヒーの取っ手に絡んで―ゆっくりと口元に運ばれる仕草に思わず見とれてしまった。
―長い指だと思う。
それは確かに自分をモデルにしてつくられたものであるはずだ。推測だけど、ほぼ間違いないと思う。
なのにどうして長さが違うように見えるのか不思議だった。
「…なに見てんだよ」
「指。長いなぁと思って」
「てめーのと一緒だろーが」
「そのはずなんだけど。…なんでだろう、爪が黒いからかな…?」
カップを持っている方とは逆の腕をグイと引き寄せて、目の前でじっくりと指を広げてみた。
虚はそこは大人の対応のつもりなのか自分の好きにさせてくれたけれど、あまりに長い時間見ていたせいか退屈したようでカップをソーサーの上に戻した。
自分より少し体温の低い指先は気持ちが良くて―このまま握っていたい気持ちもあったけれどさすがにいい加減離そうか、と思った瞬間―空いた方の手で思いっきり肩を引き寄せられた。
「―!」
虚の動きがあまりに早かったので、キスされていると気付いたのは数秒後だった。
ゆっくりと舌を絡め取られて―口の中を蹂躙される。こういう風にするのが好きなのだ―コイツは。乱暴というほどではないが、とにかく奪うように口付けるのが好きだった。そのせいか、最初にする時は絶対にキスしてもいいかとかそういう殊勝なことは聞かない。いつでも不意打ちするみたいに突然してくる。
まぁここだけの話、自分も奪われるのは嫌いじゃない。むしろいつもどんな風にされたって彼とのキスは甘く感じるのだが―今日は少し事情が違った。…というか、味が。
「にっ…苦ッッ!!!」
口唇を離してからゲホゲホと咳き込んだら虚は呆れて眉を顰めた。
「やっぱりガキじゃねーか。」
「うるせっ…」
自分もブラックで飲んだことがないわけではない―が、砂糖を入れないコーヒーがこんなにも苦かっただろうかと思うくらい苦かった。―念入りに舌を絡められたせいかも知れないが。
「しょうがねぇなぁ」
「…?」
虚は溜め息をついて椅子から立ち上がると、冷蔵庫を開けて自分が冷やしていたチョコレートを持ち出して来た。
「甘いもんはあんま好きじゃねーんだけどな」
「ちょ…俺のだぞそれ!好きなヤツだから残しといたのに!!」
「るせーな。これ食ってやるから、もっかいさせろ」
「…!!」
あ、それならどんどん食べてください―とか言いそうになったので慌てて口唇をぎゅっと引き締めたのも、ここだけの話。