軽く触れただけの口唇は少し熱くて、ついさっきふたりで食べたラムネの味がした。
真っ暗で相手の表情は見えないけれど、多分頬が朱く染まっているんだと思う。自分の視線に耐えられないようで、見つめているとルキアは少し目を反らした。
「…くちき、さん」
口唇から勝手に声が漏れて、それでようやく―自分が続きを望んでいることに気付いた。
浅ましい女の勘というやつがサイレンのように大きな音を立てて―とにかくその時織姫はありえないくらいに冴えていて、―今のルキアは絶対に自分を拒まないことが手に取るように判った。
「くちき、さん…」
「そんなに…何度も…呼ぶな…」
ルキアは蚊の泣くような声で言うと、少女のようなか細い手で織姫の服をぎゅっと握った。―早くしろということだろうか。
織姫がごくりと唾を飲んで覚悟を決めたまさにその瞬間。
―バタンッ
乱暴にドアが開く音がして、織姫はここがそういえば一護の部屋の押し入れであるということを思い出した。
「ちょ…黒崎くんが帰って来ちゃったよ!??(小声)」
「落ち着け!!動じるな!!霊圧でバレるぞ!!!(小声)」
ふたりして気配を殺すのに必死になっていると、織姫があれ??と言った。
「黒崎くん…ひとりじゃないね??(小声)」
「そうだな…恋次の霊圧だ(小声)」
「恋次くん?なんで恋次くんがここに??(小声)」
「私が知るか。それにしても…ケンカでもしているのか…??ふたりとも妙に神妙な気配だな…(小声)」
「うん…でもそのおかげでこっちには全然気付いてないみたい(小声)」
ふたりが興味津々に外(この場合は部屋だが)の気配を探っていると、暫く黙りこくっていたそちら側からようやく一護の声が聞こえてきた。
「―恋次」
さすがにすぐそこにいるだけあってハッキリ聞こえる。
しかし、それにしても―‥
「―なんか…自殺でもしそうな声だな?(小声)」
「うん…悩み相談かなぁ??(小声)」
ぎし、という軋んだ音がした。どうやらどちらかがベッドに座ったようだ。
「おまえ…俺が鬼か悪魔でも―イイ…?」
いつもより低い一護の声は―そんなことを確かに言った。
「「???」」
「…な、何の話だろ???(小声)」
「さぁ…??あぁそういえば一護のやつ、内なる虚のことで悩んでたからたぶん…そのことじゃあ…(小声)」
「あ、そか。なる♪(小声)」
「―あぁ。」
答えたのは確かに恋次の声だった。
「おまえなら鬼でも悪魔でも―他の何だったとしても―構わねぇよ。」
「「????????」」
「―本当に?」
「―あぁ」
「俺がいつかオカしくなって、お前を殺しても?」
「―あぁ」
「な、なんか雲行きが怪しくなってき、た…ね…???(小声)」
「あ、ああ…なんなんだこいつら…。まさかもしかしなくても…もしかするんじゃあ…(小声)」
「おまえになら殺されてもいい」
「「( д)゜ ゜」」
「け、決定打…(小声)」
「…ま、まぁ我々がこうなるくらいだ…有り得ぬことではないのかも…いやだがしかし…(小声)」
「やだなぁ朽木さん、こうなるも何も、私達まだAしかしてないじゃない♪(小声)」
「井上…Aとはまた…古い…(小声)」
それっきり襖の向こうはシンと静まり返った―と思いきや、いきなりドサリと音がした。
「えっちょ…これはまさか…(小声)」
「朽木さん…もしかして私達出てくなら今しかないんじゃない??でないと…もしかしなくても…黒崎くんたち…その…つまり…これから……(小声)」
「ちょ…ちょっと覗いてみろ、井上!!!(小声)」
「いっ嫌だよぉ!!!(小声)」
押し問答の末、ほんの少しだけ襖を開けてひょいとふたりで覗いてみると、眼前のベッドではまさにふたりが脳内で想像していた通りの光景が繰り広げられていた。
一護のシングルベッドに男ふたりなんて明らかに狭いだろうに、慣れているのか気にする様子もなく一護は恋次の上に両手をついて―‥おかしいくらい真剣な顔をして見つめ合っている。
「す、凄い…。真顔で見つめ合ってる…なんて恥ずかしいやつらだ…。我々のいる場所がここじゃなかったら大爆笑しているところだ…(小声)」
「ど、ドッキリじゃないよね??私達がここにいること判っててやってるとか…(小声)」
「どっきり?どっきりとは何だ??(小声)」
「あ、明日ゆっくり教える…。そ…それよりあの様子だと恋次くんが女の子役なのか、な…?(小声)」
「‥‥‥。そ、想像してしまった…(小声)」
「想像するまでもなくはじまりそうだよ、朽木さん…(小声)」
暫く見つめ合ったままだったふたりは結局どちらからともなく口唇を重ねて―‥ある程度覚悟していたとはいえその目で見るとその衝撃は耐え難く、ルキアも織姫もギャッとか叫びそうになった。
「@jmpntp☆tdp!!!!!!!!!!(声にならない声)」
「くっ朽木さんバレる!!霊圧でバレる!!!(小声)」
「(ぜーぜーぜー)す、すごいものを見た…!!!(小声)」
しばらくキスをしては離して―‥角度を変えてまた口付ける。永遠とも思えるような長い間それを繰り返して―それでもその口付けがだんだん深いものに変わっていることはここから見ていても判った。
どれくらい続けていたのだろうか、やっと口唇を離した一護はちょっとホッとしたように笑って―自分の着物の袖を掴んでいた恋次の指を優しく解いて、自分の指を絡めた。
「…まぁ、もし俺が虚に堕ちて誰を殺ったとしても、たぶんお前だけは手にかけたりしないと思うんだけどな」
「どーだか…まぁ俺も、おまえの手にかかるならいっそ喜びそうな気もする」
「…おまえ、ほんとそーゆうとこアレだよな」
「…ほっとけよ」
ほっとけねーよとぼそりと言って、一護は行為を再開した。はら、と恋次の赤い髪が下りて、一護は慣れた様子でそれを弄ぶともう一度口付けた。
短い口付けの後、今度は首筋にキスを落としながら―‥恋次の着物の隙間に指を差し入れて着ているものを脱がしにかかった。
着物の下から現れた恋次の見事なタトゥをなぞるように触れながら―ひとつひとつ、己の所有物だとでも言うように痕を散らした。
「…なんか…さ、恋次くん、さすがにエロいカラダだ、ね…?それとも黒崎くんの手にかかった成果かな…?(小声)」
「別にどっちでもいいが…見なかったことにしたいくらい、確かにエロいな…(小声)」
「…朽木さん…(つ∀`)(小声)」
「それより…もうそろそろやばいのではないか?(小声)」
「?」
「だから…もうそろそろ…(小声)」
「―あッ…!」
ルキアが続きを口にするよりも早く、突然耳に突き刺さったトーンの違う声にふたりは予想以上にダメージを受ける羽目になった。
「だからッ…そろそろあいつが…あぁゆう声を…出すんじゃないかって…言おうと…!!!!!!(小声)」
「くっちっきっさん落ち着いて!!(しっかり動揺中)霊圧でバレ…!!!(それでも小声)」
ルキアは溜息をついて大丈夫だ、と言った。
「あの様子じゃあもはやお互いのことしか見えていまい。…まったく死神が聞いて呆れるな。(小声)」
「…ほんと、今アランカルにでも襲われてふたりして腹上死とかしたら幸せかもね♪(小声)」
「井上ッΣ(´∀`)(小声)」
「ほんとはこうしておまえを抱いてるとさ、たまに独占欲にかられていっそ殺してやりたいとか―‥思わなくもないんだよな」
恋次の長い髪を弄びながら、一護はひとりごとみたいに言った。
「―むしろ俺はいつも、今お前の腕の中で死んだら幸せだろーなとか思ってるけど」
「冗談でもやめろよ、本気にするぞ」
「…だから、本気だっての」
恋次は両手を一護の背中に回しながら言った。
「恋次…今日はただでは済ませないぜ。覚悟しろよ!」
一護はシーツをばさりと被り直すと、さっきの絶望した声は何だったのかと問いかけたくなるくらい楽しそうに相手に覆いかぶさって―‥(以下省略)
「「(…おいおい…;)」」
「…なんか、ここからうわぁぁぁぁー!!!とか叫びながら出ていって雰囲気ぶち壊してやりたい気分だな…(小声)」
「うんほんと…でもそれより、朽木さん(小声)」
「何だ?(小声)」
「…なんか、興奮してきちゃった(小声)」
「―は!?ちょっと待て、今ここで我々まで…だいたい私は恋次ほど簡単ではないぞ(小声)」
「判ってる、あそこまでしたいなんて言わないよ…(小声)」
―だからちょっとだけ、と小さく言って織姫はルキアの細い身体を抱きしめた。
―ぼふっ
意外と強い力で抱かれたので、思わずバランスを崩して押し入れの布団の中に押し倒されたみたいな形になる。
「朽木さん、あったかい…(小声)」
「―お前もな…(小声)」
外から聞こえて来るアレな声がだんだん大きくなるけど、まるで別世界のことみたいに感じる。
ここが一護の家の押し入れだということも死神と人間というふたりを隔てるあまりに高い壁も―ぜんぶ他人事のようにどうでも良く思えて、織姫はルキアに2度目のキスをした。
さっきより長くその口唇を味わってから離す。―少し長めのキスにとりあえず織姫は満足した。
「…なんか、あの声も聞き慣れるとあんまり気になんないね…(小声)」
「全くだ…むしろどうでもいい(小声)」
「しかも眠くなってきちゃったよ…(小声)」
「私もだ…冷静になると何で我々がやつらに気を使ってやっているのだって感じで不本意だが、まぁ流石に朝になればアレも終わってるだろ…(小声)」
「おやすみ、朽木さん…(小声)」
「あぁ、おやすみ、井上…(小声)」
軽くキスを交わして、結局そのまま抱き合って眠ってしまった。
―翌朝。
「おはよう!良く寝たね朽木さん!!!(大声)」
「まったくだ!!―しかし何か忘れてる気がするが…まぁいいか!!(大声)」
すっさり忘れて大声で話しながら(多分ずっと小声で話していた昨夜の反動)勢い良く襖を開けたふたりの目の前には、当然昨夜の悪夢の根源約2名が―素っ裸で眠っていたわけで。
「「…」」
「「―うぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!(大声)」」
一瞬の沈黙の後、大声を出して思わず窓から逃げ出したふたりだったが―‥一護と恋次は余程激しく交わって疲れていたのか、まったく気付かずに爆睡していた、とか。
***