生まれて初めてした恋は、ただ全てが真っ赤だった。




恋人を家に送り届けてから数時間後―恐らく深夜3時頃、鈍い痛みで目を覚ます。
べとべとした慣れた感触でそれが血であることはすぐに判った。
慌てて電気をつけてみると、血はどうやら左手の甲から流れているらしい。
洗面所で血を洗い流すと傷痕が見えた。
鋭利な刃物で何往復かしたような、そんな傷。
一度にすぱっとやったのではない不自然な傷からは血が溢れ出て、命が流れ出るようで怖くなった。
こんなことになるから、刃物の類は全て自分の手が届かないところに隔離していたのに。

辺りを見回すと、ベッドの側に真っ赤なシャープペンシルが落ちていた。
どうやらこれが凶器らしかった。



不自然に赤く染まったシャープペンシルをゴミ箱に放り投げる。
もうこれから字は全部クレヨンか石炭で書くしかない。


洗面所の血を洗い流そうとして蛇口をひねる。
勢い良く水が出て来て、自分の目からも勢い良く涙が零れた。

真冬の水道水は余りにも冷たくて傷口は痛いというより麻痺して感覚が無い。
傷口よりも、真っ赤に染まった洗面所のタイルが胸に刺さった。
まだ血が流れ出る傷口にタオルだけを巻きつけて家を飛び出す。
そうせずにはいられなかった。


寒い夜だった。
雨まで降っていたようだけれどそんなことはどうでも良かった。


実に悲しむべきことに、どうやら自分は変態だったようだっだ。






赫の神話






ピンポーン。
チャイムを押すと、20秒もしないうちに榊が出て来た。


「…榊さん 起きてたんですか…」
「…鳳」
彼はとても困った顔で自分を見た。
何も言わなくても、何が起きたのかだいたい判っているようで、随分強引に腕を掴まれて玄関に入れられた。


そのまま洗面所に直行、左手を水にさらされる。
適当に洗っただけの傷を、随分念入りに洗われた。

「…当分練習には来るな。傷に障る」
「…駄目ですよ」

「…何かしてないとまたやっちゃう」


榊はため息をついて、そのまま少年の手を引いて寝室のベッドに座らせ、タオルを頭に放り投げた。
「頭もちゃんと拭け。風邪引くぞ」

それだけ言って傷の消毒を始めた。


「…大丈夫ですよ、利き手じゃないし。」
「問題はそこじゃないだろう」

彼は黙々と治療を続けた。
そういう彼の指も絆創膏だらけで痛々しい。
軽い切り傷ばかりとはいえ、記憶が確かなら他でもない自分がつけた傷ばかりだった。


「…どうしてこんなことをするんだ」

自分がやられた時は何も言わないくせに、酷く悲しそうな顔をして彼が呟いた。
それは酷く不毛な質問だった。

「…判りません」
「…これ以上のことになったらどうするんだ」
「…なるかも知れませんね」


ほんの少し微笑んでみせる。
先刻はぼろぼろ泣いたくせに、アナタの前だと強がるしかない。
そうするとアナタは益々悲しそうな―泣きそうな顔をするから。
アナタが自分のことで悲しんでいると思うと…優越感にも似た幸福を覚える。
例えば自分が死んだら―アナタはどんなにか狂ってくれるだろうと…ただそんなことを考える。


「これから先、眠る時は手を手錠でベッドに固定して寝ることにします」
苦笑いして告げると、彼は眉毛をきゅっと顰めてこちらを見た。
言いたいことが山ほどあるのに何と言ったらいいのか判らない―‥そんな表情だった。

アナタが酷くヘタクソに巻いた包帯の下が気持ちいいくらいずきずきと疼くのが判った。



嗚呼…
もっともっともっと俺を見てください、榊さん
アナタがそんな表情をしてくれるのなら、この腕を切り落としても構わない―‥



「鳳…」
アナタの指が頬に触れた。

「…やめて下さい、今俺マジで何するか判りませんよ」
それでもアナタが首を振るので、遂にその手を取り口唇を塞いだ。

本当かは知らないが、口唇は内臓の一部だといつか読んだ本に書いてあったことを思い出す。
その透き通った赤は他ならぬ血の色で…
アナタの真っ赤な口唇は他ならぬアナタの身体を流れる血の色。
そう考えると頭が真っ白になる。


「ッ―‥」

ほら、いつもの病気でアナタの口唇に噛み付いてしまった。
彼の形のいい口唇から真っ赤な血が一筋流れる。

…やっぱりアナタには赤が良く似合いますね



「だから言ったじゃないですか…もう勘弁して下さい…俺帰りますし」

立ち上がろうとしたけど彼に腕を掴まれてそれは叶わなかった。
本当に何をするか判らなかったので必死で振りほどこうとするけど、向こうも必死なのは同じようだった。


「榊さん!!」
「駄目だ…!」

彼らしくもない大きな声。
ちょっと驚いて放心していると、その隙に彼はキッチンからとても切れ味の良さそうな包丁を持って来た。
最も彼が料理をするとは思えないから、多分買うだけ買って一度も使ったことのない品なのだろう。


彼にその包丁を握らされたと気付いたのはすぐだった。

「バカな真似はよして下さい!!」

いつものカッターナイフなんかじゃない、こんな切れ味の良さそうな凶器を持たされたら万が一ということも十分有り得る。

「殺されたいんですか!?」
「…ああ。」

彼はゆっくりと頷いた。


「好きなだけ切り刻めばいい」




手が震える。
頭が真っ白になって目の前の愛しい人を滅茶苦茶にしてやりたいのを必死に堪えた。


駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ


鈍い銀色をしたその刃物はまるで誘惑でもしているかのようだった。
酷い眩暈で視界がぐらぐらする。
これで刺したらいったいどんな感触がするのかとか―そんなことを考えてはすぐに止めた。



―それ以上に失いたくなかったから





ボスッ―


鈍い音がしてその包丁はアナタの高級ソファーに突き刺さった。
一流品ばかりの電化製品―ましてやあの高級ピアノに当たらなかったのは不幸中の幸いと言っていいだろう。

―否、自分にとっては何に当たろうと構いやしなかった。
(何度も一緒に弾いたピアノに当たるのは少し嫌だったけれど)

ただ、確実にアナタがいない方に投げた、それだけだから。
アナタにさえ当たらなければ…他はどうだって良かったのだ。



余程強く投げたのだろう、ソファーの切れ目から出た羽毛が部屋中を舞った。
白い天使の羽根のようなそれは―益々自分を現実から引き離すようで、ただ怖くて震えながら折れるくらい強く彼を抱きしめた。


「…きません」

「…出来ません」



泣きながら小さな声で呟くと、ぞっとするくらい優しく頭を撫でられた。
びっくりして顔を上げる。


「…お前が」


「…お前が刃物を持って俺を傷つけなかったのは初めてだ」








そんなことは知らない。
例えそうだったとして、それが一体何になるというのか。


でもアナタがほんの少し微笑んだのでそんなことはすぐにどうでも良くなった。
スローモーションのようにゆっくりと舞い落ちる白い羽根。
それはアナタの翼にも見えたけれどそれももうどうでもいいことだった。




赤い赤い赤い―‥ただそれしか無かった自分の恋に白い色が入ったのはそれが初めてだった。









激・眠い@彩霖です…とりあえず続きものっぽいけど続きものじゃないよ!(汗)
あんまりこういうテーマは書いたことがないので結構難しかった…(つД`)
というか自分がリスカなんかしたことないし(当たり前)したいとも思わないので、
何を求めて自分の腕を切ったり刺したりするのかとかそれによって何かいいことがあるのかとか
むしろそれは腕を切ってるアタシカコイイ!!なのかとか色々考えてました(間違い)
まぁチョタが刺したのは手の甲だから正確にはリスカじゃないけど似たようなものだろう(おい)
とにかくどういう気持ちで腕だの手首だの刺したり切ったりしてるのかが判らなかったんですよ!(理屈では判るけどね)
…いや別に判りたくもないが。(リスカ厨は嫌いだよ!←貴様が厨だっちゅーの)
でもどうせ書く以上は
リアリティを追求したいのですが、もう最近はイッパイイッパイです(つД`)
恋する気持ちなんかもう忘れちゃったよ(つД`) 独占欲とかもう思い出せない。ああ…もうダメぽ(ノД`)
つかここまで書いたのに何か必要以上にラヴい気がするな…私の努力っていったい…( ゚д゚)
今度こそシリアス(?)を貫くつもりだったんですが…相変わらず無駄な努力ぽ(つД`)
何かオカシイ雰囲気にしないと書けそうにもなかったので、部屋の電気消して真っ暗な中で書いてました…(阿呆)
つか
チョタサカというかむしろ逆に見えるのが嫌なかんじ…(鬱)
↑つか既に何の躊躇いも無くチョタサカ小説を書いてる時点で問題
つか
榊太郎が43歳だということをたまに忘れそうになるあたりも大問題
リアル長太郎とリアル太郎(43)を想像すると気持ちが悪いのでやめようね!(なんて言い草)
テニスのコミックスは手の届かないところに保管しましょう(黙れ)

つかこんな頑張って書いたのはいいけど、むしろ
このサイトにチョタサカ好きな人は来てるのかとか、
それ以前にテニス好きな人が来てるのかとか、更にそれ以前に読んでる人はいるのかとかいう疑問が残る。(真顔)