act17


 そうして結局恋次は診察室の外で待っていることになった。まぁこんな病院の中で乱闘騒ぎになるよりは良かったと自分ですら思う。恋次にしては大人の対応だ。


「とりあえずちょっとだけ音聴かせてくれるかい?あ、服はそのままでいいよ。本当に黒崎くんに殺されかねないからね」

 竜弦は聴診器をチラつかせながら―さすがに本気で怒ったあの子には勝てないかも知れないからね、と笑った。つまり多少キレた程度の恋次には勝てるということだろう…そりゃあそうだろうが、まぁそこには触れないでおく。


「まぁ普通は思春期の女の子相手にしかこれは言わないんだが…おっと、キミも十分思春期の女の子だね」
「…俺、ハタチ超えてますよ?」
「それは黒崎くんの年齢だろう?キミは人間で言うとまだまだ子供だよ」
「え゛っ…(ガーン)」
「あの浦原にも言われただろう?やっと生理が来たくらいの年なんだから…ホントは赤ちゃんなんてまだ早いかも知れないねぇ。まぁキミたちにとってはいい経験かな?」
「言っとくけど、それは俺たち悪くないですよ。そりゃあ最初から女だったら対策するけど…こないだまで俺は男だったんだから…」

 まぁまぁせっかくのおめでたなんだからこれはこれでいい機会だし家族が増えるのはいいことだよ、と竜弦はこちらに聴診器を伸ばした。―ぴと、とブラウス越しでも左胸に冷たい聴診器の感触が伝わる。

「そんなに緊張しちゃだめだよ、リラックスして」
「だって…お医者さんとか初めてで…」
「だろうね、かわいいなぁ」
「…」

 竜弦の言葉よりも、胸の中央あたりを行ったり来たりする聴診器にいちいちビクビクしてしまう。病院が初めてということもあるが―考えてみたらいつも一護があの調子なので、もう長いこと彼と恋次(…とあとは女性)以外に触られたことなんてないのだ。
 ここは病院なのだから当然のことだとわかっているし、しかもしっかり服を着ているにも関わらず―なんだかやらしい思考が頭をチラチラしてしまう。


「コラコラ、そんなに反応しちゃだめだよ。敏感すぎるのも考えものだね」
「そ、そんなんじゃな…」
「わかってる、キミは悪くないよ。まったく黒崎くんは…」
「い、一護も関係ないです」
「でも無関係じゃないよね?…いつもこんな見えるところに付けたがるの?」

 竜弦は視線を自分の首元に移した。―たぶん昨夜の痕が見えているのだ。昔はそんなに外に出なかったのでどこに痕を残されても気にしなかったのだけれど…

「見えるところっていうか…一護はどこにでも付けます。そういうのが好きだから…」
「まったく、悪い子だ」
「いえ、そうじゃなくて…いやまぁ、元々付けるのは好きだったんだけど…。その、子供が出来てからは…けっこう気を使って、その…入れたりするよりBばっかりしてるんです、それで…」

 焦って明らかに言わなくてもいいことまで口走ってしまったので、竜弦はケラケラ笑った。

「そんなことまで教えてくれちゃって、私が誘導尋問でもしたみたいだなぁ」
「…」
「でもキミはホントに黒崎くんが好きなんだね。ちゃんとしあわせになるんだよ?」

 そう言って、よしよし…と竜弦は自分の頭を撫でた。


「まぁ、健康状態には何も問題ないしこの分なら安心だね。心臓もいい音してたし」
「俺、心臓とかあるんですか?」
「それは私に聞かなくてもキミだって自分でわかるだろう?(笑)」
「ドキドキしたり、動いてるのはわかるけど…俺、どっちかって言えば虚だし、何より自分のカラダのことなにも知らないし…バケモノみたいなものじゃないですか?今回だってイキナリ女になっちゃうくらいだから…」
「キミみたいにカワイイ子がそんな風に卑下するのは悲しいことだねぇ」
「卑下っていうか…自分のカラダを信用してないんです。」
「ものは言いようだよ。確かにキミは生命体というよりは霊力そのものだけど、キミが思ってるような禍々しいものじゃあないからね。キミの本体は黒崎くんだろう?キミは大好きな人からできてるんだから、もっと自分を信じてあげてもいいんじゃないのかな?」
「…」
「なんていうか…キミのカラダは常にキミに合わせて変化していくようにできてるんだよ。だから今キミが女の子になったっていうことは、今のキミにとってそれがいちばんいいからっていう理由があるんだ」
「???」
「まぁそれは勿論、赤ちゃんが出来たからそれに合わせて変化したって話だけどね」
「はぁ…(あんまり意味わからない)」
「つまり、変化はするけどキミにとっていい方向にしか変わらないし、多少の違いはあっても基本は本体と同じ―つまり黒崎くんの人間としてのカラダと同じだよ。キミも食べたり眠ったり、人間と同じようにして生きてきただろう?」
「でもずっと前は食べたり寝たり…そういうコトは何もしてなかったような記憶があるんです。あんまり覚えてないけど…っていうかその頃の記憶自体があんまりなくって…もしかしてカタチにすらなってなかったのかも…(汗)」
「その時はつまり、キミにとってそれは必要なかったってことなんだ。―ヒトのカタチである必要すら、なかったっていうことだよ、わかるかい?」
「いえ、あんまり…」
「でも黒崎くんを知って、愛することを知ったら自然とキミっていうカタチになって、最終的にはセックスしちゃったわけだろう?それと同じで、自然と食べたり眠ったりするようになって…人間と同じ生活に落ち着いたっていうこと。」
「…(やっぱりわからない…つーかそんな段取りのいい流れでセックスしたわけじゃないんだけど…まぁそのへんはいいか…)」


 段々頭がこんがらがって来た頃、竜弦はニコリと笑って言った。

「まぁこういう話は難しいし、今は元気な赤ちゃんを産むために必要なことだけ知っておけば大丈夫。」
「でも恋次はともかく…本体との間に子供が出来るってやっぱりおかしくないですか?俺と一護は同一人物なのに…」
「何度も言うけどキミは霊力だから―そういうことはまったく関係ないよ。本体だろうが、男同士だろが、相手が人間だとか虚だとか死神だとか―そういう決定的な差ですらね。キミはそういうものは超越してる子なんだよ」
「う、うれしくないです!」
「まぁそうかもね。でも喜ぶべきだよ、そのおかげで好きな人の赤ちゃんが出来たんだからね」







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