act13 「あー‥わかったよ。そんなに言うならこの件はちゃんとみんなと話し合うから。」 「みんなって誰だよ!!」 「そりゃあ浦原さんとか〜医者関係?あとはもちろん一護も。だからまぁとりあえず落ち着けって」 「…。」 一日中ヒステリックに叫んでいたことをさすがに悪いと思ったのか(?)、そこで虚は口を閉じた。 「そんなに聞き分けよくなくていいんだぜ?おまえは我侭な方が一護は喜ぶんだから。」 「…俺だって子供じゃないんだから、そんないつまでも変わんないまんまでいられないよ」 「…コドモだよ、おまえは」 虚が何か言い返そうとするその前に―抱き寄せて口唇を塞いだ。 「俺と一護にとっちゃいつまでも子供みたいなもんだから♪」 「妙なこと言うなよ!子供にキスする親がいるか!」 「確かに…キスだけならともかくそれ以上のこともしてるもんな」 「も…それはいいから!!」 手を繋いでてくてくと帰路を歩きながら、虚はポツリと言った。 「…なんで、俺がワガママだと一護が喜ぶの?」 「そりゃ、たいていの男は彼女に甘えられるのが好きだからな」 「だから女じゃな…まぁいいや。でもワガママと甘えるのはなんか違わない?」 「似たようなもんだよ。一護はおまえが言いたいこと言って、好きなように生きてるのが一番嬉しいの。だから一護だって好きでおまえに戦うなとか言ってるわけじゃねーよ。母子の健康と安全を第一に考えて…」 「あー、はいはい…」 細い指先がもういいですと訴えるようにきゅうと恋次の指を握った。昔ルキアの手を引いた時のように頼りない華奢さに思わずドキッとする。そりゃあ一護だって、こんな小さな女の子に戦わせる気にはならないだろう。…まぁ、このくらいの小さな女性死神は他にもいるしこの子の霊力は半端ないから―妊娠さえしていなかったらそんなに心配もしないのだが。 「ところで、帰ったら向こう戻るのか?」 「んー、柚子チャンのごはんだけ食べて戻る。」 「…。(食い意地は張ってるな)」 「どしたの?」 「いや、それはいいけど…戻る前にちゃんと俺にも食わせてくれよ?」 「またそんなオヤジみたいな言い方して…恋次とはこっち来るたびちゃーんとエッチしてるでしょ。…なんか恋次はウチに来る時より現世の方ががっついてるよな」 「犬みたいに言うなよ!」 「だって犬じゃん〜」 虚は楽しそうに笑って恋次の腕に絡みついた。 「…まぁそれは事実かもな。俺は一護の部屋でおまえとヤんのが好きなんだよ」 「なんで?」 「だって、一護の部屋の一護のベッドで…一護のいちばん大事なおまえに手をかけてるんだからな。なんつーか背徳的というか…興奮すんだよな」 「手をかけるとか人聞きの悪い…」 「意味としては似たようなもんだろ。俺がどんだけおまえを抱いても、おまえは一護のもんだって…一護がどれほどしつこく俺に言ったと思う?」 「…い、今だって一護が聞いてるよ」 「だろうな。まぁ一護はこうなることがわかってて俺を寄越したんだからいーんだよ。」 「れ、恋次は変なとこ大胆なんだから…」 「そういうとこにドキドキしてるくせに」 「う、うるさいなぁ!ホント俺が相手の時だけは妙に強気なんだから!」 ―それはおまえがかわいいからだよ―といつもの呪文を囁いて、もういちど虚の小さな口唇を塞いだ。 * 「ただーいま…」 別にやましいことをしたわけでもないのに、思わず小声で玄関を開ける。 いや普通に考えたらやましいことに入るのだろうが…少なくとも自分たちの間ではこれはやましいことではなくて―言い方はあまり良くないが、三人の間の平等な権利みたいなものだった。 この家の主人は一護よりもどちらかと言えば自分―つまりここを支配しているのは他の誰よりも自分で、なにも恋次のように玄関から入らなくたって直接一護の目の前に飛んでいくことも出来るのだが…なんとなくいきなり一護の前に出るよりも玄関から入りたかったのだ。 まぁ向こうで恋次とデートしたりエッチなことをするのはそんなに珍しいことではないし―恋次の言った通り一護の自業自得なので気を使うことはないのだけれど… 「おかえり。」 一護はいつの間にか自分の後ろにいて、いきなりガバッと抱き着いてきた。 「わぁっっ!びっくりした!」 「そんな朝帰りしてきた人妻みたいにコソコソしてるからビックリすんだよ。悪いが俺はおまえの気配くらいわかるんだから」 「つまりそんなにびんびんアンテナ立てるくらいヒマだったんだね…ごめんね、いちご」 「そうでもねーよ、おまえがいるとゆっくりインターネット見たりしないから…妊娠中のことを色々調べるのにはもってこい…いやなんでもない。つーか俺たちは二心同体だろ?おまえだってホントはもっと向こうで過ごすべきなの。」 「もう十分だよ〜。周りのやつらはうるさいし、恋次は…」 「まー恋次はいっつもやけに挑戦的だよなー特に今日はなー」 そう言うと一護は人差し指で着物の襟をちょっと引っ張ると覗き込んだ。 「あーあ…派手にやられたな」 「ちょ…!なにすんだよ!外で!!」 「おまえらだって、さんざん外でイチャイチャしてただろ。」 「いっ…いちご!妬いてんだね!!大人げなく!!」 「いっつも妬いてるよ。知らなかった?」 「そうだよね…知ってたけど…」 一護は玄関を開けると自分の手を引いて中に入れた。たしかに一護は恋次とした時はいつも嫉妬して普段は言わない嫌味なんかを言ったりするけれど怒っているわけではない。それは良くわかっているけれど… ロビーのソファーに座ると一護がお茶を入れてくれたので口をつける。 「俺コーラがいいな〜」 「…おまえなぁ。まぁ、産んだ後なら幾らでも好きなもの飲んでいいよ」 「…。いちごさぁ、あんなに簡単に嫉妬するくせにコドモの父親が恋次でもいいの?」 「うまいこと話逸らすなよ。…つかまだそれ気にしてたのか。それとこれは別だろ?」 「別じゃないと思う」 「別だよ。恋次も言ってただろ?おまえは俺たちの子供みたいなもんだって。おまえが産む子ならどんな子でもかわいいし、そうだな…もしかしたら誰の子でもかわいいかもしれない。たとえばだけど…アーロニーロの子とかでも」 「!?…ちょっと!妙なたとえしないでよ!!!」 「まぁ今のは極端な例だけどさ。そのくらい俺も恋次もおまえがかわいいってこと。特に俺たちはずっと三人で生きてきたんだから…どっちの子でも俺の子だよ。」 そこまで言ったあと、一護はちょっと頬を染めて瞳を逸らした。 「…まぁ、おまえを不安にさせて悪かったよ。あんまり妬かないようにする…」 「不安になったりしてないよ。嫉妬されるのは嫌いじゃないし」 「なってたじゃん」 「…なったのは子供の方じゃないの?生まれてきてもパパに愛されるかわかんないんじゃーね」 「―!」 ギュッと一護に抱き締められてからとても恥ずかしいことを言ってしまったことに気付いたけれど―言い訳をすると余計に恥ずかしくなることは目に見えていたのでとりあえず黙っていた。 |
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