act11


「―それで?」
「で、一護…知らないうちにいろんな服とかパジャマとか下着とか用意してて、それで…」


 一護の部屋のベッドの上で、白い虚は飽きもせずに文句を言っている。
 もっともそれは恋次には惚気にしか聞こえなくて―なにしろこちらの会話は全てこの子の中の一護に筒抜けなのだから、この子だって本気で怒っているわけではないだろうが。
 虚がいきなり女の子のカラダになってもう十日ほどが過ぎたけれど―この子が初めてこの姿になってから数日間は、一護は眠ったっきりまったく戻ってこなかったので―たぶんずっとイチャイチャしていたのだろう。
 その数日の間に、こちらはそれなりに準備をして―専門家や仲間に話を通したり、義骸を作ったりしておいた。(もちろんこの女の子の姿の)
 こうなる前は一護とこの子の違いは色のみだったので―普段この子がこちらに出る時も一護の抜け殻に入るか、もしくは特に困ることも無かったので霊体のままだった。
 けれど今回の場合は女の子を男のカラダに入らせるのは何だし(幾ら元は男とはいえ)、何よりも今は街を歩いたり学校へ行ったり(勿論お得意の記憶置換で)することが気分転換になるだろう―という浦原たちの配慮から作られたのだが、この虚的には大きななお世話だったようで(それはそうだろうが)―ますますご機嫌を損ねてしまった。


 今日も、気分転換にとか退屈だろうからとかいって外に出されたようだが―別にこちらの世界が好きというわけでもなければさして現世に執着もないこの子はさっきからベッドをゴロゴロして、この調子で文句だか惚気だかわからないことばかりをぼやいている。
 まぁ内容の大半は子供が出来てから一護がますます過保護だとかますます細かいとかそういうことである。一護は心配性だしこの子を大切にしているから、そうなるのはムリもないと思うが―当の本人は腫れ物のように扱われるのが何よりも嫌いなのだ。


「そんな怒んなよ。買い物でも行こうぜ?」
「恋次までそんなことを…買い物なんかするくらいならゲームのがマシ」

 この子は真剣勝負―と言えば聞こえはいいがつまりは殺し合いだけが好きで、ゲームなんかは勿論のことそれ以外の生死に関わらないテーブルゲームやスポーツ、勝負事はなんかは―ジャンルを問わず手もつけない。―それでもまぁ、ショッピングよりは好感を持っていることがわかった。(当然か)
 しかも興味があるのは、ハッキリ言うと一護と戦闘のみで―学校もお金も洋服も、この子にとっては何の価値もないものだった。(ちなみに自分がこの子にとって価値のある存在なのかは不明である。とりあえず好かれてはいるようだが…)
 せめてRPGの世界のようにその辺の店に武器でも置いてあれば少しは喜ぶのかも知れないが、この現世でその辺に売っている得物はせいぜい出刃包丁くらいのものだろう。
 まぁ尸魂界には武器なんかを扱っている店もあるし、次は尸魂界に連れて行ってやろう…と恋次はこっそり思った。


「そう言っても、ずっとルキアの服借りるのもなんだろ?好きなの買ってやるから。」
「ルキアのじゃなくても、別に一護のでもいいじゃん〜」
「今のおまえが一護の服着たらブカブカだろ」
「そーだけど…。恋次、安月給なのにムリすんなよ」
「でももう円に両替して来ちゃったしな」
「あ、そ…それなら行くけど。」

 好意を無碍にしては申し訳ないと(この子にしては殊勝なことを)思ったようで、虚はしぶしぶベッドから起き上がるとおニューの義骸に入った。

「でもさぁ…霊体で行けば服なんかタダでパクれるんじゃねーの?」
「そんな小学生みたいな発想すんな!副隊長がそんなことしたら捕まるだろ!」
「あーそか、恋次一応ふくたいちょーだもんね(ニヤニヤ)」
「なんでそこで笑うんだよ!」


 この子と一護はどちらか片方しか表には出れないので、現世でふたり一緒にいることは不可能だ。
 本人も言っているとおりとにかく一護は過保護で、こんなことを言うのもなんだが独占欲が強くて―昔はこの子を誰の目に晒すことも嫌がった。一護(の霊力)から生まれた一護だけの世界にいた子だから、広い外の世界に出すことは不安で仕方なかったのだろう。
 まさにこの子は一護の箱入り娘のようなもので―自分が紹介(?)してもらったのだってふたりが恋人同士になってから約ニ年後のことだった。
 それでもまぁ、一護が勇気を振り絞って外に出すようになってからは―ずっと自分がこの子を守る(守られていることもあるが)役目をしている。…というか、一護は自分以外がこの子に触れることを基本的に許さない。浦原の言った通りああ見えて恐ろしい彼氏なのだ。
 そういうわけで、この状況もそんなに珍しいことではないのだが―いつもと違うのは勿論、この子が女の子だということだ。女の子じゃない時も街を歩いたり、あちらの家のモデルハウスならぬラブホテルを見学に行ったり、虚を退治して退屈を紛らわせたり―そういうあらゆるデート(?)を重ねたものだが今回はなんと女の子である。
 虚はさも面倒くさそうな顔をしているし、この子の奥にいる一護には悪いが―こんなかわいい彼女(?)と堂々と手を繋いで街を歩けるので正直ウハウハだ。両替まで済ませて来てしまうのも当然といえるだろう。
 これは昔からふたりに自慢していることだが―この「ふたりの一護」を恋人に持っていることでいちばんお得なポジションにいるのは間違いなく自分だ。役得というやつである。


「…で?どんな服が欲しいんだ?」
「服なんか欲しくないってば〜」

 街を歩きながら傍らの虚に聞いてみる。 
 一応聞いてはみたものの、服に興味がないことはわかっていたのでルキアに雑誌を借りてきた。歩きながら見るのも何なので―繋いだ細い手を引いてベンチに座らせて、雑誌を広げる。

「ホラ、色々あるぜ。これが今流行ってるギャルの服だな」
「…スカート短すぎない?」
「―!おまえにもそんな恥じらいがあるんだなv」
「だって俺(元は)男だよ?スカートとか未だに慣れないし…」
「確かに、露出が多いやつは一護が激怒するから論外として…じゃあこういうのは?」
「こーゆーの、ごすろりとかめいどふくとかいう類いのやつだろ?目立ちすぎるし動きにくそう…」
「それもそうだな。普通にかわいくて、普通に動きやすくて…そういう普通の服がいちばんだな。俺の好みで選んでもいい?」
「いいけど…恋次はどういうのが好きなの?」
「そりゃ俺は多少露出もありつつ女の子らしさも併せ持つ―みたい格好が好きだけど…」
「さっすが恋次!ずいぶん具体的だな!」
「…。(なにがさすがなんだ?)」

 まぁ、考えてみればルキアや織姫は割とそういう格好をしている。そういう意味ではこの子もルキアも気にしていないのだから、彼女の服をずっと借りていても良かったのだが―女の子だし、ちゃんとした自分の服があった方がいいだろうと思ったのだ。
 この子は喜ぶどころかイヤがるし完全に自己満足なのだが―やっぱり、普通の女の子と同じことをさせてあげたいししてやりたい―というこの子にしてみればなんとも迷惑な気持ちが存在した。
 ―でも多分、それは一護も同じなんじゃないかと思う。








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