act09


「あー、疲れた…」


 お風呂から上がると、白い虚はベッドに寝転がって背伸びをした。そりゃあ結構な時間交わっていたので疲れるのもムリはないけれど、女の子の姿のせいかその仕草はいつもより非常に子供っぽく見えて(いやいつも子供っぽいけれど…)―とても子供がいるようには見えない。
 まぁママになるのはもう少し先の話だが―この子のこういう子供っぽいところも好きなので、こういうママというのもいいかもしれないなぁとぼんやり思った。もちろん怒るから思うだけだが。
 広いベッドでばたばたと足をばたつかせるのが可愛くて半渇きの髪の毛を撫でた。


「意外と元気だな。どこも痛くない?」
「いちご、いつもいつも俺をなんだと思ってんだよ」
「だって今回の場合はしょじy」

 顔面に思いっきりバスタオルを投げつけられたのでそれ以上は喋れなかった。まぁ過剰なくらい気をつけたのでこの子の負担はあまりなかったのだろう。

「まぁそれを抜きにしたって、こんなちっちゃくなっちゃったしさ…」
「んー‥でも霊力自体は変わってないから、むしろ凝縮したかんじがするんだよな〜」

 楽しそうに…というよりはむしろ嬉しそうに右手の手首を振っているので慌ててその腕を掴む。いかにも試してみたい―とでも思っているのだろう、女の子になって余計に大きくなった金色の瞳が爛々としている。
 これではそのうち打ち合いにでも付き合わされかねない。そりゃあ、いつもだったら付き合ってやるけれど、今はさすがに…


「…おまえの中、子供がいるんだから暴れたり、戦ったり、霊力使ったりすんなよ?」
「えぇ〜??」
「当たり前だろ。どこに刀振り回す妊婦さんがいるんだよ!ただでさえおまえ戦う時常人の3倍は動くんだから…明らかに良くないだろ」
「に、んっ―‥!?そ、その言い方やめろよな!!!」
「現に妊婦さんじゃねーか。よーく考えてもみろよ、うっかり一発食らっただけでもどーなるかわかんねーだろ?」
「ちょっと、俺が食らうと思ってんの?」

 この子はとにかく戦うことに関しては絶対の自信を持っていて―たぶんどんな相手にだって負ける気がしないのだろう、それは本気で言っているのかとでも言いたげに大きな瞳を吊り上げて睨みつけた。
 負ける気がしないもなにも、現にこの自分にだって負けてるくせに…まぁきっと自分相手に本気など出していないつもりなのだ。
 確かにそれは半分くらい事実ではあるし、この子が本気を出した時に勝てるかどうかも判らないけれど―とにかく仮にこの子がこの世界の中で最強だったとしても…それでも妊娠中に戦闘はないだろう。


「…そんなこと言うけどおまえさぁ、前に触手に掴まったこととかあるじゃん。(@アニブリ)」
「ちょ…!それは今関係ないだろ!!!」
「なくないよ、あっさり掴まったくせに」
「(ムカ〜)だってアレ透明で見えなかったんだからしょーがねぇだろ」
「言い訳はいいから。とにかく、おまえがどんだけ強かったとしても、決して無敵ってわけじゃあないってことだろ?」
「…。」
「とにかく、可能性がゼロじゃない以上は絶対ダメ。たった3ヶ月なんだから我慢出来るだろ?」
「3ヶ月って…ケガしてた時ですら1ヵ月だったのに、いちごは俺が退屈で死んでもいいの?」
「向こうでルキアたちと、買い物とか、お茶とか、すればいいだろ?」
「…」

 虚はまさにポカーンといった顔をした。女の子が好きそうなことを提案したつもりなのだが、当然ながらまるで興味はないらしい。

「おまえさ、戦闘以外に好きなこととかないの?」
「…えー?いちごとか?」
「ちょ…なに言ってんだよ!もう!」

 思わずベッドに座ると、子供のようにごろごろしているカラダを抱き上げてぎゅうと抱き締めてしまって―‥違う違うと首を振った。

「えぇと…じゃあさ、遊●王カードとかは?」
「…ハァ?」

 聞き慣れない言葉に虚は思いっきり眉を顰めた。カードゲームでお茶を濁そうと思ったが、得物を使わない戦いには興味がないようだ。(それ以前に知らないようだが)

「やっぱカードじゃダメか…まぁとにかく、生まれるまでは大人しくしてろよ」
「んー‥まぁ確かに、浦原にも暴れてもいいかどうかは聞かなかったけど…」
「そうだな、戦闘に関係ない場合とかもあるだろーからそこは聞いとかないとな。まぁそのうち石田の父ちゃんとかにも診てもらうし…」
「えぇ〜‥あれ本気だったの?」
「えーじゃねぇよ。浦原さんとか涅よりは石田の父ちゃんの方が信用出来るだろ(失礼)」
「そーかもしんないけど…もう今日みたいな話は聞きたくなーい」

 心の底から投げやりな声を出して、虚は自分の胸に顔を埋めた。


「…そんなにイヤなの?俺(か恋次)の子が…」
「子供っていうか…このカラダが…?いちごだって女になってみたらわかるよ。…つかいちごが聞いてくればいいじゃん。わざわざ俺が行かなくても。」
「だって診てもらうのはおまえだろ」
「そーだけど。でも俺はいちごなのにさぁ…いちごも案外妊娠してんじゃないの?」

 ニヤニヤしながら虚は自分の顔を見ている。

「それはないから!!するとしたらおまえだって!!」
「あーもう、わかりましたよー。まぁ良く考えたらホントに子供ができたのかもアヤシイしね!浦原の話だけじゃ…」

 なんだか急に前向き(?)になってニコニコしているので―困らせてやろうと薄いカラダをひっくり返して、くるりとこちらを向かせた。


「じゃあさぁ、男のまんまで俺の子妊娠すんのは別に構わないってこと?」
「エッ……」
「ほらみろ。わかったら大人しく諦めて俺の子産めよな」

 虚は軽く溜息をついて、部屋の壁にある時計をチラッと見た。この家の中の時計はいちおう現実世界に合わせてあるので正確だ。
 今日は朝から浦原のところに行ってすぐに戻って来たから、珍しくまだ昼間で―もっとも現実ではベッドで爆睡しているわけだが。


「あーあ、こんな真っ昼間からヤるとか…」
「いいじゃん、いつヤったって。昔は四六時中ヤってただろ」
「それはケガしてた時の話だろ…エッチしかやることなかったから。」
「ひでー言い草だな。まーそれ以前にあの頃はどんだけ抱いても足りなかったけど…」
「なんで?」
「なんでって…。そりゃおまえがかわいいから…」


 自分の顔をじぃっと見ている虚の頬を引き寄せて口唇を塞いだ。
 抱いても抱いても足りないのは―本当は今だって同じだった。あの頃から少しも変わらない―そんな真っ直ぐな目で見つめられたら―簡単に欲しくなってしまう。
 まぁ、勿論ガマンすることも覚えたし―今は抱き締めてこうして深く口付けるだけでも十分すぎるくらい幸せだった。




091028UP


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