act03 「あーそうそう…」 フラフラと部屋を出て行こうとしたら浦原に呼び止められて振り返る。 まぁ、もうなにを言われても驚かないと思った。 「別に妊娠してるからってエッチしちゃだめってことはないですからね。あんまり激しいのはアレですけど。」 「…」 「でもタバコとお酒はやめてください」 「…もともとやんねーよ」 「あと私なんかより専門家の方がいいでしょうから…。黒崎サンのお父さんとか、石田サンのお父さんにも話をしときますよ。落ち着いたら、行ってみてくださいね」 「え〜‥」 「えーじゃないですよ。もぅあなたひとりの身体じゃないんですから。」 「…」 「あと、人間とおんなじで妊娠中にセーエキはあんまり良くないみたいですから、ちゃんとゴムはつけてくださいね〜!!」 「わかったってば!もう!大声で言うんじゃねーよ!!」 逃げるように結界が解かれた部屋から出るとスタンバっていた恋次が心配そうに自分の瞳を覗き込んだ。 「そんな泣きそうな顔してなんかあったの?まさかホントに浦原さんになんかされたのか?」 「…。」 「ちょ…浦原さんほんとに何したんだよ!!!」 「その子の口から聞いてくださいねv」 「…。」 「え…ちょっと一護、ほんとになんかあ…(汗)」 「違うけど…ここでは言いたくない…」 「???」 「…帰りに話すから」 何よりも今は一刻も早くこの場を立ち去りたいと思い、グイグイと恋次の背中を押して浦原商店を後にした。 「…こどもができたって。」 「…!?」 なるべくシンプルに言い放つと当然ながら恋次はびっくりして―食い入るように自分の顔を見つめた。 「…だから、俺妊娠したんだって。…昨日のえっちで…、それで女に…」 失礼ながらコイツは理解していないのかもと思い、更にストレートに言ってみた。もっとも、一護が相手だったらこんな素直に言えはしないだろう。さっきの話、一護も聞いていたとは思うけど…一護がどう思ったのか考えたら、急に不安で胸が張り裂けそうになってきた。 恋次は泣きそうな自分をしばらく抱き締めて頭を撫でてくれたが、感慨深そうに言った。 「そぉかぁ…遂に俺もパパに…vvなんだよ、浦原さん仰々しくビビらせといてめでたいことじゃねえか」 「喜んでる場合か!どっちの子かもわかんないのに!!」 「別にいいじゃん、どっちの子でも。俺も一護も気にしねーよ。」 「どっちでもって…」 「一護は??」 「…たぶん中で浦原の話聞いてたと思うけど。…こわくてまだ話してない。」 ばかだなぁ、と恋次は自分の頬を撫でた。 「おまえの霊体はこのまま家まで連れて帰ってやるから、すぐ一護に話して来いよ。」 「…」 「なにビビってんだよ、一護も喜ぶに決まってんだろ?」 「うん…わかった、行ってくる。ありがと、恋次」 チュッと恋次の頬に軽くキスをして目蓋を閉じた。 ―目を開けると家のロビーに立っていた。精神世界なので服はいつもの死覇装に戻っている。あのワンピースのままじゃなくて良かったと思いつつ、サイズがぴったりなことに驚いた。まぁ、精神世界なんてそんなものだ。全ては自分と一護の都合にいいようになっている。 あたりを見回すと、広いロビーの隅っこにあるPCの前に座っている一護の背中が見えた。 彼の膝の上にいたペットの虚が―自分の姿を認めるなりそこから飛び降りて一目散に足元に寄って来たので―抱き上げて頭を撫でてやる。一護や恋次にもそれなりに懐いているけれど、やはりここにいる時間が長い自分にいちばん良く懐いているらしい。 子供なんて、もし本当に生まれてきたとしてもどう接したらいいんだろう。こうやってペットにするのと同じでいいんだろうか。 「…しろ。」 一護に近づく勇気がないのでその場に立ち尽くして己のペットを抱き締めていたら、痺れを切らしたのか一護が振り返って自分を呼んだ。 こう呼ばれるようになったのはいったいいつだったのか―たしかに自分の特徴は一護と全く同じということの他はこの色しかないから、現世や死神のやつなんかは白とか白ちゃんとか…初めて会った時からそうやって気安く呼んでいるけれど。つまりは徒名みたいなものだ。 一護はそんなになまえを呼んだりはしないけど(自分が呼ぶなって言い続けたせいもある)、たまにこうやってその色の名前で呼んだり分身の意味を込めて俺―、とか呼んだりする。 別に本当はもうどんな風に呼ばれたって構わないのだけれど、でも未だに慣れなくてドキッとする。一護以外にだったら誰になんて呼ばれても気にならないのに。(恋次の一護呼びだけはいただけないが…) 凍りついたみたいに動けない自分に一護はゆっくりと寄ってきて、少し腰を屈めて目を合わせた。―そうだ、女になって身長が縮んだから。 そのことに気付いてますます泣きたくなってきた。 「…なんてカオしてんだよ」 「だって…いちごも聞いてたでしょ?」 「―うん」 「…」 「こども出来て嬉しくない?」 「うれしいとかより…自分が産めるってことに衝撃を受けすぎてもうなにがなんだか…もうどうすればいいのか…」 「そう言うなよ。俺たちの子だろ?」 「…恋次の子かもよ?」 「恋次の子でも俺の子とおんなじだし、恋次だってそう思ってるよ。当たり前だろ?」 「本気でそう思ってる?一護はもし父親じゃなくても気になんないの?」 今まで見た、色々なドラマや本なんかの知識が頭を回る。 父親かどうかというのは実はものすごく重要な問題で―それが原因で殺人が起きたりするのだ。気にしないなんて口先だけかもしれない。 「…言っとくけど、おまえの昼ドラやら韓ドラやらサスペンスやらの知識はあてになんねーからな。」 自分はよほど渋い顔をしていたのか―‥一護は眉を顰めて見透かしたように言った。 「だって、普通は気になるでしょ?」 「あのなぁ、そのくらい覚悟してないと最初から3人でなんてやんねーよ。」 「ちょっと待って、知ってたの?」 「俺は…そんな気がしてただけ。おまえならそういうこともあるかもって。」 一護はちょっと笑った。 「昔から何回か、そういうこと言ったの覚えてない?」 「おぼえてるけど…まさかほんとに産めるとか誰も思わな(略)」 「だから…俺は最初におまえを抱いた時から、おまえの中でイった時はいつでも―子供できてもいいって思って出し―」 「ももももういい…」 慌てて両手で一護の口を抑えた。 「…じゃあ百歩譲って父親の件はいいとして、…」 まだあんのかよ、と一護は言って、続きを話そうとした自分の口唇をちゅ、と軽く塞いだ。 「その前にもっと良く見せて?今朝はドタバタして全然おまえに触れてない」 ふわり、と音がしそうなくらい優しく一護が自分を抱き締めた。女のカラダの上に子供までいるから気を使っているのだろうけれど、今までさんざん一護に抱かれた身としては物足りないとすら思った。 「…だったら、もっとちゃんと抱いて」 こういう欲望だけは、素直に口に出せるようになったのだから成長したと思う。あるいはそれは単に欲の成せる業で淫乱になっただけかも知れないけれど―そんなことはもうどちらでもいい。 「だってなんか、赤ん坊を潰しそうだなって…」 「まだタマゴだから大丈夫だよ。…たぶん。」 適当な推理だけど、昨日出来たんだったらそんなところだろう。 ぎゅうと抱かれると、慣れた感触なのにいつもと違う。―そういえば女だから、カラダの大きさが違うのだとふと気付いた。 「…やわらかいなぁ、おまえ」 「女だからね…いちごがおっきくかんじる…」 「おまえはカオも指も口唇もぜんぶちっちゃいね。前からおっきかったけどもっと目がでかくなったな。前からかわいかったけど本当に…死ぬほどかわいいよ」 「も…もうやめてよ」 恥ずかしくなって一護の腕の中で顔を伏せた。 「…なんかもう…ごめんねいちご、俺バケモノで…」 「いきなり何言ってんだ?」 「だって…まさか一晩で性別が変わるなんて…浦原は性別なんて元からおまえにはないよみたいなこと言うし…。自分でもまさかここまで化物だったなんて…いちごはもっと、恋次はともかくとして誰かかわいい人間の子をおよめさんにするべきだったのに…。俺みたいな化物じゃなくて…」 言ってるうちに泣けてきた。まぁ特に自分も一護のお嫁さんなわけではないが、もう言葉を選んでいる余裕がない。 「ばかなこと言うなよ。おまえよりかわいいお嫁さんなんて存在しねーよ」 「だって、もう昨日まで一護が抱いてたカラダとこのカラダがおんなじものかどうかもわからない…」 ぽろぽろと涙を零していると一護はゆっくりと舌で涙を舐め取るとグイと自分の左手を引き寄せて―なにやら手元を見ている。 「傷はあるし、おんなじだと思うぜ?」 「…あ、ほんとだ」 そういえばそんなものもあったなぁと思い出してしみじみと見てしまった。 「ホラ、こいつらもおまえが判るみたいだし」 「…そういえば。」 一護はまだぎぅと抱いていたペットを取り上げてそっと足元に下ろすと、真剣な顔で繰り返した。 「ともかく、何度も言っただろ?たとえおまえのこの身体が幻みたいなもので―なにに変わったとしても、俺は構わねぇんだよ。俺はおまえそのものが好きなんだから。入れ物はなんでもいいんだ」 「でも…」 「でもじゃねえよ。まだわかんねぇのか?そんなに生半可な付き合いはしてねぇだろ?」 「でも、だって…」 いくらそう言われても不安なものは不安なのだ。 「だって…こんな俺が子供なんか産んだら………ちゃんとした子が生まれてくるかどうかすら…ホラー映画みたいなのとか…ピッ●ロ大魔王みたいなのが生まれたらどーしよう………」 浦原は勝手に生まれてくるとか何とか考えようによっては怖いことを言っていたし、もしかしたらあんな風に口から出てくるかも知れない。まぁ自分の肉体を突き破って出てこられるよりは数倍マシだが…… そんな怖い想像をしたらさすがに糸が切れたように涙が出た。もう一護に拭ってもらう程度では追いつかない。 「ぅう…ひっく…」 「ばかだなぁおまえは」 一護は自分をぎゅうと抱きながら、ゆっくり、宥めるように頭を撫でた。合間に額や目蓋にキスをしたり、涙を拭ったりする。 女の子は撫でられるのが好きだというけれど―カラダが女になったせいなのか、確かにそれは驚くほど効果があって、胸の奥が暖まって―だんだん気持ちが落ち着いてくるのがわかった。 「こんなにかわいいおまえの子がかわいくないわけねぇだろ?」 一護は真っ直ぐ自分の目を見て、―さも自信ありげに言い切った。 |
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