act02


「…あらら…」

 主人の浦原は朝っぱらから叩き起こされて実に不満そうではあったけれど、明らかに等身のおかしい自分を見て目も覚めたようだった。


「どーしたんですかぁ?そんなにかわいくなっちゃって…いやアナタはもともとかわいかったですけどねぇ」

 言い返すのも面倒だったので黙っていると、まぁとりあえず中に…と通されたので後に続いた。
 まぁ座って、と言われたので座布団の上にぺたんと座る。恋次も隣によいしょと座った。


(―悪い、ちょっとだけ代わってくれるか?)


 座って目の前の浦原と目が合った途端、一護に話しかけられた。


「うわっ黒崎サン!!いきなり出て来ないでくださいよ!!」
「悪かったな、いきなり俺が出てきて。―まぁとにかく見たまんまだよ。あんたなら原因判んだろ?」
「どうですかねぇ…アタシは医者じゃないし…まぁちゃんと診てみないと…」
「…触るなよ」
「…はぁ?」
「だから、アイツに触れるな」
「触んないで診ろって言うんですか?」
「そうだよ。指一本でも触れたら覚悟しとけよ」
「生意気な子ですねぇ…それが人にものを頼む態度ですか?」
「るせーな…とにかく、忠告したからな。」

 一護はそう言うと奥に引っ込んでしまったので、気がつくとまた浦原の目の前に座っていて―彼は自分と目が合うとニヤニヤと笑った。

「…とんでもない彼氏ですねぇ」
「…もう慣れたよ。恋次はあそこまでじゃないよな?」
「え??あ、あぁ、うん、まぁ…(一護におまえを絶対誰にも触らせるなって言われてるんだけど…)」

 いきなり話を振られた恋次はあたふたと返事をした。


「まぁ、じゃあちょっと診てみましょうか。―えぇ、指一本触れないでね。」

 浦原は倒置法まで使ってその部分を強調をすると、自分を真顔でじっと見た。


「…」
「…」
「…」

 しばらく無言が続いてさすがに気まずいなぁと思い始めた頃、浦原はフウと溜息をつくと恋次の方に向き直った。


「阿散井サン。」
「何だよ」
「悪いけどちょっと席外してもらえます?」
「は?なんでだよ!冗談じゃな…テメェ一護になんかしたらぶっ殺…」

 とか何とか言ってる間に、恋次は雨とジン太に部屋の外に担ぎ出されてしまった。
 続けて浦原が声を張り上げる。

「テッサイさーん。悪いけどこの部屋結界おねがいしまーす」
「ちょ…何事だよ!!」

 さすがに驚いて浦原の胸倉に掴みかかった。―あ、自分から触ってしまった、と思ったけれどまぁ服だからいいか―と自己完結した。


「いえ、ウチ壁薄いんで…他人に聞かれたらアナタが恥ずかしい思いをしますし」
「恥ずかしい!?恥ずかしいってなんだよ!!!」
「じゃあ聞きますけど…アナタ最後にセックスしたのいつです?」
「…!?」

 びっくりして思わず部屋をキョロキョロ見回すと、とりあえず既に結界は張られているようなのでホッとした。―だから言ったでしょ?と浦原は笑った。


「で、いつですか?」
「…答えなきゃダメなのか?」
「なにもセクハラで聞いてるんじゃなくて、大事なことなんですよ」
「きのう…」
「避妊しました?」
「はぁ!??」
「だから、ゴムつけましたか?」

 さすがに恥ずかしくなったので返事の代わりにふるふると首を振った。

「い、いつもはしてるからな!!一護がウルサイから…。でも昨日は久しぶりに3人だったから…」
「ほほー。楽しそうですねぇ」
「うるせーな!!で、結局なんなんだよ!!」
「それで、起きたら女の子になってたんですよね?」
「そうだよ。それと何の関係が…」
「…妊娠したんですねぇ」
「は、ぁ??????????????????????」
「だから、子供ができちゃったんですよ」
「!???????」

 あまりに衝撃的な浦原の言葉に目を白黒させた。


「ちょ…!!ちょっと待て!!女になってからはまだ一度もしてねぇぞ!!おかしいだろ!!」
「まぁまぁ白さん、落ちついて。取り乱すとお腹の子に悪いですよ」
「これが落ち着けるか!!!」
「気持ちは判りますけど…とにかく落ち着いて下さいね」

 でないと結界解いて、部屋の窓全開にしてお話しましょーか…と言われてしぶしぶ黙る気になった。

「あのね白さん。アナタもしかして自分のこと男だと思ってました?」
「当たり前だろ!!一護が男なんだから…。だいたい、昨日まで男だったちゅーの!!」
「まぁ、見た目はそうだったかも知れませんが…」
「どういう意味だよ!気色悪いこと言うなよ!!」
「少しは黙って聞いてくださいね。でないと部屋の窓を…」
「あーもうわかった!わかったから!!」

 浦原はコホン、と咳払いをした。


「アナタ、自分が虚だってこと忘れてたでしょ?」
「失礼だな、忘れてねーよ。虚だって性別あるだろ」
「正確に言えばアナタは虚ともちょっと違いますから…。黒崎さんの中の精神体で―つまり黒崎さんの一部ですから。つまりなんていうか…元々はカタチのないものなんですよ」
「…それで?」
「だからその…なんていうか…性別はあってないようなものと言いますか…。まぁ子宮なんかなくても心で受精するっていうか…そういう生き物なんですよ、アナタは。」
「!??…そ、それじゃ想像妊娠と変わらなくね!??」
「変わりますよ。ひとりだけじゃ子供はできませんから。父親の精子がないと…。まぁ昨日はたまたま、両方の波長が合ったんでしょうねぇ」
「…ど、どういう仕組みだよ」
「仕組みの方はややこしいので省略しますが…まぁとにかく間違いないですよ。アナタの中に別の霊圧が見えますから」
「…俺はぜんぜんわかんねーんだけど」
「もうちょっと子供が大きくなったら自分でもわかりますよ。とにかく、カラダがおかぁさんになる準備をはじめたんですねぇ。それで女の子に…」
「…ちょ、ちょ、ちょっと待て。まだある」
「なんですか?」
「別に避妊しなかったのは昨日がはじめてじゃねーよ。そりゃそんなに沢山はないけど…なんで今更ガキが出来るんだよ」


 ―あぁ、それは…と浦原は自分の頭を撫でた。

「あ、触っちゃった。まぁいいか…。ホラ、昔のアナタは自分の方が生まれたての赤ちゃんみたいなもんだったでしょ?ようやく子供が産めるくらい大きくなったんですねぇ…。たとえるなら生理が来たってゆうか…いやぁめでたいですねぇ。早く子供の顔が見たいもんです…」
「!!????」

 しみじみと感動している浦原とは対照的に目の前が真っ暗になった。コイツは嬉しそうに悠長なことを言っているが、自分はこの先いったいどうなるのだろう。少しもめでたくないことだけは間違いない。

「…ッ…で、」
「なんですか?」
「それで…俺は…どうすれば…(蒼白)」

 心配しなくても大丈夫ですよ、と浦原は笑った。


「虚の子はちいさいですから。3ヶ月くらいで生まれて来ますし」
「生まれッ…ど、どこから…(小声)」
「そりゃあ勿論…と言いたいところですけど。大丈夫ですよ、言ったでしょ…アナタは精神体だって。その時が来たら勝手に生まれますから。そうですねぇ、細胞分裂みたいなものだと思ってもらえれば」
「さ、さいぼうぶんれつ………」
「そんな嫌そうな顔しないで。おかぁさんなんですから。生まれたらとりあえずカラダも元に戻ると思いますよ、多分」
「…で、お子サマは俺のどこにいるんだよ?まさかココロとかいうオチか???」
「そりゃ、今は立派な子宮があるんですから出てくるまではそこにいますよ。心配しなくても大きさが違いますから、人間みたいにおっきくなったりはしませんし。そりゃちょっとお腹ぽっこりくらいにはなるかも知れませんが」
「…。(虚ろな目)」
「ほら、そんな肩を落とさないで。黒崎サンや阿散井サンはきっと喜んでくれますよ」
「…で、でも」
「?」
「…どっちの子かわからない…」
「…あぁ」

 そりゃあ生まれて来るまでわかんないですねぇ、と浦原は満面の笑顔で言った。







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