「一護、一護!!!」
真上から降ってくる聞き覚えのある声に呼ばれて、一護はぼんやりと目を覚ました。―だけど誰に呼ばれているのか、良く判らない。
薄目を開けた目蓋に映る和室と、シングルベッドよりは随分広い布団―‥感じる体温はいつもと同一人物のものだけど、ここは自分の部屋じゃない―恋次の部屋だ。
そういえば…と前日の(悪夢のような)出来事が走馬灯のように一護の頭を過ぎった。
「一護。テメ…何やってんの???」
上を見上げると、見覚えのある坊主頭が一護の視界に映った。
「何だよ…一角じゃねーか。朝っぱらから恋次ちに上がり込んで何の用だよ?」
「おぅ、てめーのツレにこないだ借りた小銭返しに来たんだけどよ〜」
呼び鈴鳴らしても返事がないのに鍵は空いてるから殺されてるかと思ってな、とかわけの判らないことを言って一角は笑った。
そういえば疲れて帰って帰るなり布団に飛び込んだから確かに鍵を閉めていないような気もする。―まぁその割にやることはちゃんとやったけれど。
「…で、わざわざこっち来てまでなにやってんの、おまえ」
一角はこちらをまじまじと見ながら、またさっきの質問を繰り返した。
ちょうど真上にある一角の視線は、自分と―その腕の中で眠っている恋次に注がれている。
好きで来たんじゃねぇんだよ、と主張したかったけれど説明する気力はさすがに無かった。
「…見て判んねぇ??つかこの状況で良く声かけようって気になるな、お前。言っとくけどマッパだぜ?」
一角はそんなこと聞いてねーよ!!!と大声で返事をしてから、ゴホン、とか咳をした。
「…いやスマン、正直あまりに凄い絵ズラだったから声をかけずにはいられなかったんだよ。噂には聞いてたがこの目で見たのは初めてだったもんでな…。あれだ、てめーらほんとにホモだったんだな…」
「はぁっ!??誰がホモだよ!!!」
「おまえらに決まってんだろ!!!」
「てめーと弓親もホモじゃねぇか!!!!」
一護が思わず反論すると一角はみるみるうちに血相を変えた。
「バカヤロー!!!ホモもクソもあるか!!!!!!!言っとくが俺と弓親はてめーらなんかよりずーーーー(略)ーーーーっと前から恋人同士なんだよ!!もう殆ど嫁みたいなもんだ!!!!結婚してもおかしくねえぜ!!!!だいたいあの美人が男に見えるか!!!???俺は見えないね!!!!そこで爆睡こいてるてめーの女の10000億万倍は美人だぜ!!!!」
わけのわからない理屈を一気にまくしたてられた一護がぽかぁんとしていると、後ろから更に誰かの(怖い)声が聞こえた。
「…誰が男には見えないって?一角」
「―おまえだけど?」
明らかに青筋を立てている弓親に対し平気で即答した一角は、耳を引っ張られて恋次の家から退場する羽目になった。
「何だったんだ…まったく人騒がせな夫婦だぜ…。疲れてんだからもぅちょっと寝かせろよ…」
一護が一連の出来事に顔を顰めつつ、もう少しだけ惰眠を貪ろうと瞳を閉じかけた瞬間―いまさら気配に気付いたらしい恋次が微かに目を開けて、小さな声で問いかけた。
「―‥ちご…?今…誰か来てた??」
「いーや誰も。まだ早いからもー少し寝ようぜ?」
返事をして軽くキスしてやると、魔法みたいに恋次は瞳を閉じる。―子供みたいだと思った。
(…そりゃあ、どう見ても女には見えねーし美人とかいうタイプでもねーけど)
(いーじゃねーか、女よりカワイイんだから)
もう一度恋次の額に軽くキスをして。一護も今度こそ瞳を閉じた。
***