貴重な情事後の甘い時間なのに―次は交代、とかあっさり言って恋次はするりと一護の腕を抜け出すと恥ずかしげもなく上に跨がった。
「なにおまえ…その変わり身の早さ…」
呆れて言ったけれど恋次はついさっきまで一護の下にいた時とは別人みたいに勝ち誇った顔をして、自分の上で笑っている。
確かに最初に抱いた時に、抱かせて欲しい、その後は交代してもいいからと泣いて頼んだ(泣いてないけど)のは自分だけど。
まぁ恋次は大人しく抱かれていることも多いので今のところ6:4くらいだと思う。どっちかと言うと思い出したように上になりたがるようだけれど、それはやっぱり暫く会えなかった時が多い気がする。
「俺、俺の下で喘いでる恋次の方が好きだな〜」
「一護、俺に抱かれるの嫌い?」
ダルそうに反論してみたけど、恋次は楽しそうに笑って言い返した。
組み敷かれている時はオンナノコみたいによがってるくせに良く言うよと思う。
「…嫌いじゃねーけど。どーせ跨がるんならさ、このまま騎乗位とか」
一護は軽く不満を漏らして、恋次の細い腰のラインを撫でた。
「それはまた今度な」
恋次は軽く流して一護の口唇を塞いだ。水を得た魚のようだと思う。
もっともそれは一護だって同じで、やはり自分たちはどうあがいても男なのだから、多少なりとも要領を得ているこちらの方が本領発揮なのは当然なのだ。
そのかわりと言っては何だが処女だったのは有り難い。―まぁ、男なんだし処女でなければ困るが。たぶん恋次も自分に対してそう思っていることだろう。
つまり、受け入れることはまったく未経験であるという―何もかも自分の好み通りに仕込むロマンがあった。
恋次も最初なんか愛撫さえ嫌がって泣いてやめてくれと頼まれたが、今時女子高生でもこんな女はいない、と逆に燃え上がったりもした。
長い指が自分の背中に爪を立てるのも、いちいち過剰なくらい声をあげるのも、強引にこじ開けないと決して足を開かないのも―全部全部自分の思い通り。
真っ赤な長い髪がシーツに散らばる―ぞっとするほど美しいその光景を。今まで見た者は自分しかいないのだというその至福を。
「―いちご」
ぼんやりとそんなことを考えていると恋次は甘い声で名前を呼んで、頬にキスをした。
下から見る恋次の顔は上から見るのとはまたちょっと違う。
「俺がやんのは久しぶりだからな。どういう風にして欲しい?」
上になった途端いきなり大人の余裕、みたいなことを言い出すのはいつものことだ。
普通にいい男というか―カッコイイのも事実だけど、女相手だとこうなのかとか―妙な嫉妬心が沸いてくるのもまた事実だ。
そういえば恋次もそんなことを言っていたっけ。やはり受ける側に立つと感覚が変わるものなのだろう。
「―んじゃあ」
一護は宙を泳ぐ恋次の髪を捕まえて、わざと不機嫌そうに言った。
「おまえが今まで一度も女にしたことないよーな抱き方で。」
恋次は一瞬だけきょとんとして―でもすぐに嬉しそうに笑った。
「なんだよ、おまえ嫉妬してんの??」
「おまえだってたまに似たようなこと言うだろーが!!!」
「いや俺は言うけどよ…まさかおまえが言うとは」
「…(つーか俺は言うけどって…)」
スカしてるけど意外と年相応なとこもあるんだな〜とか嬉しそうに言って、恋次は一護の耳から首筋に沿ってキスを散らしていく。
「つまり―‥壊してもいいってことだな?」
「壊せるもんならどーぞ?」
余裕の気持ちを伝えると、恋次はりょーかい、とか言って笑った。
「―ッあ」
自分は受ける時でも恋次ほど他愛なくはないつもりだが―やはり侵入される段階となると話は別だ。体内に埋め込まれたそれも勿論そうだが―‥何よりも舐めるように自分を見ている恋次の視線に感じて、思いっきり締め付けてしまう。
恋次は目を細めて満足そうに一護を見た。
「どぅ?一護、イイ??」
「イイってお、ま……あぁっ」
一護の反応を見て恋次はちっ、と残念そうに舌打ちをした。
「まだ全然喋れるってかんじ?しょーがねーな」
力の入らない脚を更に高々と抱え上げられて、刳られるみたいに奥まで突き上げられる。
「―!れんっ―‥やめっ」
「やめねーよ。壊してもイイんだろ?」
だらしなく開いていた口唇まで容赦なく貪られて、一護は思わず先程の言葉を後悔した。
だが頭の片隅でこの仕返しは必ず!!と誓うことも忘れてはいない。この辺が恋次との違いだと勝手に思っている。
「やぁぁっ…もぅっ…!!」
思わず伸ばした手を相手の背中に回して、思い切りしがみつく。こういうのは恋次を喜ばせるだけだと判ってはいるが―こういう場合のことは彼しか知らないこのカラダは、もうそういう風に作り上げられてしまっているのだ。
この伸ばした手も、今上げている自分のものではないような甘い声も―みんなみんな恋次の思い通りなのだろう。
自分たちはお互いに己の好みを植え付け合っているようなものだ。
「あー‥たまに抱くと最高に可愛いぜ、おまえ。俺がいつも甘んじて受けてやってんのはその為なんだぜ〜??」
―嘘つけ、だいたい今の俺より俺に抱かれてる時のおまえの方が万倍可愛い、と一護は言いたかったがとてもじゃないがマトモに喋れる状態では無かった。
「…るせぇよ、ば、か…」
「―まだそんなこと言う力が残ってんのか?さすがにしぶといな…」
ほんと俺の比じゃねーぜ、とか恋次は感心したように言って、判ってんじゃねーかと一護はぼんやりと思った。
「まぁそんなに丈夫なら、まだイけるよな…?」
恋次がニヤリと笑う。
―‥夜はまだまだ続きそうな気配だ。
そういえば翌日はふたりとも休みという珍しいパターンで、散々交わった揚句に昼まで眠った後は―時計の針が午後3時を回っても狭いベッドの中でイチャイチャしていた。
「あー‥、久々に受けたらダリィ…」
「はは、ざまーみろ。もぅてめーは文字通り身も心も俺のもんだ」
恋次はすっかり満足したようで一護に抱き着いてケラケラ笑っている。
この調子なら次から連続3回は主導権を握れそうだとこっそり思った。
「馬鹿。てめーのが先に俺のもんになったんだから、おまえが俺のもんなんだよ」
そう言うとまぁどっちでもいいけど、と恋次は笑った。
好き放題にやられて腰はガタガタだけど、そんな顔をされたら負けずにまた抱き返したくなるから困る。
「一護、俺に抱かれるの嫌い?」
(―しつこいやつ…)
「だから嫌いじゃねーよ!!抱く方が好きだってだけの話だ!!」
「ははっ俺もっ」
―甘い甘い甘い―俺のためだけのおまえのカラダ。
だから俺のカラダもおまえのためだけにあると―不本意だけど解釈しておいてやるよ。
***