海に行きたいとバクラが言うので、二つ返事で連れて来た。
 すぐ近くに港はあれども海岸のようなところは無かったので、少し離れたところまで電車やバスを使って。
 とてつもなく馬鹿馬鹿しかったけれど、そんなことはもう知らない。
 なんであんな馬鹿なことをしたんだろうとかそういうことは、彼がこの世界からいなくなってから後悔すればいいだろう。

 ようやく千年アイテムがすべて揃いあと一息という段階になって、回りの者達にもこの深刻な空気は伝わっているのだろうか、いちおうふたりで出かけることは伝えておいたけれど、誰も何も言わなかった。むしろ杏子など涙を浮かべて、うん、頑張ってね、などと言っていた。
 いったいいつの間にバレたんだろう、と遊戯はぼんやりと思った。








千年心中






「デートみたいだな」


 バクラは潮風に長い銀色の髪を靡かせて、そんなことを言った。



「…そう言うと思ったぜ」


 遊戯は力なく答えて、笑う盗賊の顔を凝視した。
 ふわりと笑うそのカラダの周りに、ゆらゆら揺れるものが見えた。羽根のような―亡霊のような―半透明の白い―‥確実にこの世のものではないもの。
 それは、彼がどんなに怒って笑って、ここに生きて動いていたとしても、もう彼はこの世界のどこにもいないのだと無言で証明していた。



 ―ああ、本当にもうすぐ終わるんだ。


 絶望にとても良く似た感情が心に渦巻くのを、自分はただ遠くから傍観することしか出来ない。
 そもそも彼を失う予感に絶望しているのだとしたら、あまりに滑稽すぎて声も出ないので、遊戯は考えることを放棄した。くどいようだが、後悔はあとですればいい。



 風の冷たくなったこの時期に、海に来ようなんてもの好きは自分たちだけのようで海岸はガラガラだった。
 近くのコンビニで買ったレジャーシートを敷いてそこにふたりで座った。―この時点でかなりキていると思われるが、この辺の後悔もあとでしよう、とか思いながら、遊戯は深夜にやっていた最近流行りらしい韓国ドラマを思い出していた。
 ―もうすぐ死ぬ恋人と、海で寄り添う主人公。ありきたりすぎて感動も出来ない、とか冷めた目で見ていたけれど、皮肉なことに自分たちもそう変わりないではないか。面白すぎて笑いも出てこない。


 バクラはあのドラマのヒロインみたいに遊戯の肩に頭をちょこんと乗せた。
 本来は色々と突っ込む場面なのだろうが、もはや身体の芯から湧き上がる衝動には逆らえず、遊戯は彼の肩を抱き寄せた。これでは本当にあのドラマばりだ、とどこかとても遠いところで自分の声がするけれどもうどうでもいい。




「…なんで海だったんだ?」



 何か喋らないと、という妙な焦りに駆られて遊戯は口を開いた。



「…砂漠には無かったからか?」



 そう尋ねるとバクラは笑って首を振った。



「海じゃなくても良かったんだけど。人がいなくて、遠いとこが良かった。そゆとこなら、どこでも。」


「…」


 この盗賊らしからぬ真っ直ぐな瞳から目を逸らせなくて、遊戯は心の中だけで更に焦った。そんな目で見ないで欲しいと、ただただそう強く思った。辛うじてせき止めている色々なことがまるでパンドラの箱のように飛び出してしまいそうだった。




「…砂漠とかって言うけど、本当は言うほど覚えてないんだ、前のこと」



 バクラは独り言のようにぽそりと言った。



「あんまりにも昔の話だし、その間ずっと寝てたみたいなもんだからさ。昔の自分なんて殆ど他人みたいなもんで、大事なとこだけポツポツと、ゲームのイベントシーンみたいに覚えてるだけ。ホントは何回も夢だったんじゃないかって思うこともある。…それでも」


 バクラは片手を伸ばして遊戯の首にかかった千年パズルに触れた。



「…これ見てると夢じゃなかったんだって判るから。これが無かったらっていつも思ってたけど…でも、これが無かったら王サマとは会えなかったんだよな」


 泣きそうなか細い声が耳に突き刺さる。銃か何かで頭を撃ち抜かれたような衝動に襲われて遊戯は眩暈がした。
 それは今すぐにでも犯したいとかいうよりは、その手足を引き千切ってでも永遠にそばに置いておきたいというような激しい感情だった。そして、もしかしたらバクラ本人もその方が嬉しいのかも知れないということが恐ろしかった。




(…そんなんじゃダメだ)


(…何の解決にもならない)




 自分のシャツを掴む震える指を解いて、その爪先に口付ける。指先を絡ませて軽く握ってやるとバクラはちょっと笑った。お互い気でも違ったのだろうかと冷静に思った。




「…迷ってるのか?それとも怖い?」


「…」


「…お前が決めたことだろ。3000年も待ったんだろ。やり遂げろよ」



 何を言っているのだろうと自分でも思った。自分を殺そうという相手を応援などしている場合じゃない。だいたい、彼にそれが出来ないのであらば自分が彼を殺すだけだ。
 どうせ最初から終わり方は決まっているのだ。判っていたはずだ。
 自分がしてやれることは、自らのこの手で彼に止めを刺してやることの他には何も無いというのに。




「…王サマ」


「…王サマが好き」


「…オレ様どうすればいい?」




 ―ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ
 心臓がありえない速さで鼓動を刻む。もうこの自分の口唇は何を口走るか判らなかった。それならばと相手の口唇で塞ぐ。いつものように彼の口唇を割り開いて対象物を捕らえると、盗賊は堪らず声を上げた。
 もう笑うしかないけれど、こういうところが可愛いと本気で思っていた。


「んっ―」

 このまま息が止まるまでキスして殺してしまいたい。本気でそんなことを思った。―どうかしている、そんなことを考える暇もないくらい、本気で。


 ここでオレも好きだ、愛してる、と告げるのは他のどんなことよりも簡単だった。
 でもその呪文を口にしてしまったら、彼は自分へ復讐する気などこの海よりももっと深いところに沈めてしまうだろう。―それでは意味が無い。何故ならどんなに自分たちが愛し合ったとしても、この借り物の身体にいる以上はどうにもならないのだから。




(…今はダメだ、今はまだ)(まだ)(今は)







「…そんなに怖いなら、この海にでも沈んでみるか?」



 口唇が滑るようにそんなことを言った。勝手に零れ落ちた言葉は彼の返事も待たずに次の言葉を繋ぐ。




「…何なら付き合ってやろうか?ひとりじゃ怖いんだろ?」



 ―彼のものはもとより、自分のこの身体だって借り物だというのに。情けないことにそんなこと、思い出しもしなかった。
 バクラはきょとんとして、大きな目をもっと大きくした。―それから、声を上げて笑った。




「…ありがと、王サマ。嘘でも嬉しい」



 細い腕を背中に回されて、遊戯はその身体を抱き締めた。白い首筋に口付けながら、あぁやっとセックスに持っていけると安堵する。してる時は単純に幸せだからいい。願わくば事が起きるまでもうずっとずっとやっていたいと思うくらい。―多分相手もそうなんだと思う。
 こんな気違いみたいなやりとりをしていたら、1ヶ月ともたずに狂ってしまうだろう。もう殺し合いでも何でもいいから、早く事が起こってくれと祈りたい。―あぁ、神様。




(早く)(早く)(早く―‥)












***




 3000年前の古代エジプトで、初めて昔の彼を見た時、耳に障るあの甲高い笑い声が涙が出るほど懐かしくて泣きたくなった。
 思えば3000年間も待ったのは全てこの為だったような気すらしてくる。ゾークの闇の力なんかに奪われるくらいなら。この自分の手でその心臓も脳も首の骨も、魂すら砕いて―‥




 ―あぁ、やっと終わらせることができる。




 余りにも嬉しくて微笑みすら漏れた。
 この時を、本当に、どんなに、指折り数えて待ったか知れない。本当に本当に。目的すら忘却するような、永遠にも似た長い長い道のりを。




 ―なぁバクラ、お前もそうだろう?




…わたしやりすぎですか?(冷静に)
バが何でカタコトなんだとか、もうツッコミどころは満載とかいう次元を軽く超越してますが、
私も王サマを見習って後悔は同人をやめた後にでもすることにしますw
どうでもいいけど、バが盗賊王の頃の自分を思い出すのって、私が城海の頃の自分を思い出すのと
似たようなもんだと思うw
(この女何かdでもないことを言い出した!Σ(´∀` ))
どんなに憎んでもどんなに恨んでもどんなに忘れないと心に刻んでも、何かもう時が経ちすぎると、
風化とかいう次元すら越えて夢か幻みたいになってるんだよねw(…)
私もちょっと前までは城海の頃って凄くリアルな過去の憎悪の源だったのに(ハゲワラ)、
もうさすがに5年以上?も経つと現実にあったことかすらも疑問に思えてくるからね!www
(現実にあったことだよ!お前海馬総受ヌッ殺すとか毎日言ってたから!!!)
…判って貰えますかね?(ぜんぜん判らないよ!)
単純に忘れちゃうんですよw悲しいことに。(それで済ます気か)日本人てそゆとこ甘いって坂口安吾が言ってた(どうでもいい)
何というか、転生への布石みたいな話でごめんなさい。転生おんなのこ本の描き過ぎだよ自分!(本当にね!)
こんな小説ですが、か…感想とか聞いてみたい気もします…(恐る恐る)
とりあえず転生なら魂砕いちゃだめじゃんw
…いや、その辺は気にしちゃだめだからね。言葉の語呂だからね、語呂。(最悪)

とりあえず王バクは別れる(…とかいうのとは微妙に違うが)寸前は気が違って韓国ドラマか純文学みたいになればいいと思う。つかなると思う。(…)
まだ韓国ドラマが流行る前に良く見てたdでもない内容の深夜韓国ドラマを思い出しながら書いてたw(タイトルすら知らんがw)
エジプトの何割が砂漠かとか全く知らないけどとりあえずエジプトには海あるよね?w…まぁ彼らは砂漠育ちぽいので。
とりあえずわたしはいつも同じことを(以下略)

060731

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