05:ふたしかな真実




 ―夢の話だけれど。
 抱いて欲しいとさんざ強請られて、何度か関係を持ったことがある。
 夢なのだから持ったうちには入らない気もするが―まぁそんなことはどっちでもいい。
 彼と会う時はいつも―夢か現かも判らないような自我の世界で、そんなことは気にならなかった。



「…いちご」

 自分とは思えない甘ったるい声で名前を呼んで、白黒反転した大きな瞳をぱちぱちと瞬かせた。
 俺はこんな顔をしているのかと―呑気に思った。



「いちごの女さぁ…カワイイ?」

 浮気相手が嫁のことでも聞くみたいに楽しそうに笑って―自分の影が言う。
 自分はこんな娼婦みたいな真似は出来ないし、もちろんしたくもない。


「…恋次のことか?」

「―ほかにいねぇだろ」

「…ミョーな言い方すんなよ」


 思いっきり嫌そうに言ってやると、だって事実じゃん、と相手はクスクス笑って―細い指を伸ばすと一護の頬に触れた。悪趣味な黒い爪がチラチラと視界に入る。―同級生の女の子なんかよりずっと丁寧に手入れしてあるみたいにツヤツヤしていて綺麗だ。
 いつもいつも―自分よりデカイ男を抱いているから余計思うのだが。
 自分はこんなにも小柄で華奢で、―オンナノコみたいに頼りなげで…こんな風に愛を請う生き物だっただろうか?



「表現にも向き不向きってのがあんだろーが。だいたい女みてーな男ならともかく、恋次はどっからどー見ても女には見えねーし」

「…ダレよりもカワイイと思ってるくせに―?」

 自分じゃない自分は意地が悪そうに(いや、実際悪いけど)笑った。


「…そうだな。まぁ、かわいいな。」

 別の意味で、と心の中だけで付け足して一護は言った。こういうやつにはいっそ正直でいた方が効果的だったりもする。


「ふーん…」

 案の定ちょっと面白くなさそうに肘をついて、己の影は呟くように言った。


「俺もカワイイ―?」

「…アホか。おまえは、俺だろーが。ツメに色塗ったり無駄に色気づいたところで気持ち悪いだけでちっとも可愛くねーんだよ。自惚れんな」

「ひっでー‥いちごに愛されたくてこんなにカワイクしてんのに」

「…おまえ、何かいろいろハゲシク勘違いしてねーか?」

 呆れて抱き寄せると分身はくすぐったそうに身をよじった。
 自分はこんなにも馬鹿だっただろうかと―しみじみ呆れ果てながら抱き締める。


「―なにを?俺まちがってる?いちごこーゆうのきらい?」

「嫌いも何も全てが間違ってんだよ」

「―ツメ、赤い方がイイ?」

「…。もーなんも喋んな、おまえ。俺の頭がすげー悪いみたいだろーが」

「は?もともと馬鹿じゃん、いちご」

「王に向かって馬鹿とは何だよ。お仕置きしてやろーか??」

「まじで!?是非お仕置きしてください御主人様〜(棒読み)」

「…」

 やっぱり馬鹿だ、とか思いながら一護は白い自分の口唇を塞いだ。何しろ恋人が同性であるから十分すぎるくらいコツは判っている。
 確かに己の一部であるはずのそれは―真っ白い眼球で、彼にしてみても自分自身であるはずの自分を熱っぽく見つめて―いかにも嬉しそうに背中に手を回した。


(ちくしょー、俺のくせに…なんなんだこいつ…)

 細い腕を折れるくらい押さえ付けて―悲鳴みたいな喘ぎ声が心地良いと錯覚するまで犯してやる。
 その黒い爪が背中に刺さる痛みが妙にリアルで―その腕を剥ぎ取って指先を舐めてやったら、相手はぞっとするくらい嬉しそうに笑った。
 夢だしどうせ自分だし―こんな行為がそんなにも嬉しいというのなら、もう何をしてもいいや―‥頭のどこかでそんなことすら考える。



「おまえさー‥もっとかわいい声出せよ」

「ぃ…ちご―おまえがヘタクソなんだよ」

 ―わざといつかと同じことを言っているのが判った。


「ダマレ。卍解はともかく俺がセックス下手なわけねーだろーが。卍解より先にセックス覚えた男だぞ、俺は」

「…え、ナニその意外な自信」

「そーゆうナマイキな口じゃなくて声出せってんだよ、ホラ!!」

「ッ―‥おまえの女はどんな声で啼くんだ??」

「ばーか、教えるか」

「っあ…いちご、もっと…もっと奥にホシイ…」

「…AVみたいなことは言えるのかよ」

「―当たり!おまえの部屋にあった『THE15歳』の台詞だけど。」

「ハ??ナニソレ???」

「…おまえが啓吾から借りパクしたAV」

「存在すら忘れてたAVの台詞とか覚えてるわけねーだろ!!いやおまえが覚えてるってことは実は覚えてんのか…。あーもー、捨てとくわアレ…じゃなかった啓吾に返す…」


 馬鹿な自分を満足させてやる為だけに何をしているのだろう―殆ど自慰みたいなものじゃねぇかとか思うけれど。
 己の中にこんなに頭が悪くて愛を請うサビシクてカワイソウな自分がいるのかと思うと少しくらいは愛してやりたくもなる。


「―なぁ、もう満足したか??もう出てこねぇ??正直浮気してるみたいでチョット…」

「ばぁーか。浮気だろ」

「…え、浮気なの!??(ガーン)」

「しかも自分に欲情してる、いちごヘンタイ」

「ッ―抱いてくれって嘘泣きして迫ったのはてめーだろーがァァァァ!!!!!!」

「だからって流されちゃ立派な浮気じゃね??」

「…。あそ、じゃあもう二度と抱かね。どーせおまえを抱いてんのなんかただの自分への同情なんだよ」

「…傷つくこと言うのな。」

「しおらしい演技とかヤメロ。」


 そろそろ時間だ、と虚はちょっと淋しそうに言った。一護のカラダが目覚めようとしているから、と。


「…もー来んなよ」

「ヤダ。いちごが俺に溺れて依存するまで来る」

「俺に依存してんのはおまえの方だろうが!!!だいたい、どーせ見せんなら恋次の夢にしてくれ。俺ら遠距離なんだよ」

「ハ?週1で会ってるくせに?遠距離が聞いて呆れるぜ」

 駄目モトで言ってみたその提案は案の定ハナで笑われる結果に終わった。
 内なる虚はケタケタと笑いながら―おまえの女の夢なんか死ぬまでぜってー見せてやんねーよ、とか呪いの言葉を吐いた。


「…いちごがココでくらい俺だけをアイシテくれないとなんのイミもねーもん」

「要は手ェ出されなきゃ意味ないってことか?それを早く言えよ。おまえ、もう次来ても放置プレイ決定な。じゃあとっと消えろ」

「…いちごが我慢できんなら、俺はそれでもいいけど。」

「おい、てめーのそーゆうモテる女みたいな自信とかどっから来…」

「―またな、俺の愛しい王サマ」


 わざと天使みたいにふわりと微笑んで一護に軽くキスすると、分身はふわふわと腕の中から消えた。―と言っても彼の還る場所は自分の中だけれど。つくづく不毛だ。




 ―今日、も。
 その薄い口唇から絡めた細い指の先の先の先に至るまで―ぞっとするくらい自分そのものだった。













「…」

 目が覚めたら昼だった。眠った時のまま―ガッチリTシャツなど着込んでいる。一糸乱れぬ姿で、乱れているのは髪の毛くらいのものだ。
 一応脱いで鏡で見てみたが、背中にも傷はない。(あ、3日前に恋次がつけたものならあった)


「…まぁ、そりゃあそうだよな。夢なんだから」

 だいたい夢でなくては困る。
 ―困る、けど。


「でもなんかこれが余計嫌なんだよな…全部俺ひとりのモーソーみたいで…。全部俺のせいにすんのかよ!!みたいな。―いや俺のせいなのか!?」

 勿論これも相手の作戦のうちだということは判っている。そうやって内側から少しずつ支配するみたいに。
 彼のいつもの手だけれど―悪いが同じ手は二度も食わない。


 とりあえず顔を洗って気分を入れかえてから―今日の休みはどう過ごそうかなんて考えた瞬間、部屋の窓をコンコンと叩く音がした。
 こんな風に訪れる客は一人しか知らない。(―と思っていたら別の死神でがっかり…ということも稀にあるが)

 開けてやると恋次が大型犬みたいに飛び付いて来た。


「今日の任務が明日になってさ。隊長がおまえに会いに行って来いって」

「白哉が!?どういう風の吹き回しだよ、こっわー。明日の任務ってのはどんだけ危険なんだよ!おまえ明日死ぬんじゃね?」

「まぁ、それでも隊長にしては優しいじゃんか♪」

「…(白哉って一体…)」


 一護は恋次の入って来た窓を閉めて―更に分厚いカーテンまで締めた。明るかった室内が一瞬のうちに薄暗くなる。


「…こんな真っ昼間っからナニ考えてんだよ、一護のえっち」

「恋次と同じことだけど?」

 どこか嬉しそうにすら見える恋次を捕まえてベッドに沈めた。


「―ちゃんと最期までそばにいろよ?俺もう死ぬまでおまえの夢は見れねーらしいから…悪ぃケド逃がしてやれなくなっちまった」

「…逃げねーよ」

 恋次は深く聞くことはしないで少し笑った。


「俺…あの時おまえに羽切られた鳥みたいなもんだから。おまえが死ぬまでそばにいるし―死んでも…」

「…」

「―死んでも、待ってる」

 それだけ言うとゆでだこみたいに赤くなった。


「そか…サンキュ。―まぁ、あんまり長くは待たせないようにすっから」

 抱き締めて耳の後ろの刺青をなぞるように舐めてやると恋次は大袈裟に反応した。
 あれだけ真面目な白哉のもと、恋次も割と瀞霊廷に忠実な死神だったというのに(まぁ向こうの死神は皆そうだけれど)手酷く傷つけた揚句に心も身体も奪い尽くして―仕舞いにはこんな悲痛な覚悟までさせている自分に罪悪感を感じないわけはないけれど。
 それすら甘い刺激となって自分の心に拍車をかけるのを止める術など有りはしない。
 ―愛というのは、こんなにも凶暴な感情だっただろうか?


「…俺が斬ったの、この辺だったっけ?」

 着ているものをちょっとずらして、左肩の辺りにも口唇を這わせる。


「いや…」

 恋次は小さな声で否定すると、一護の手を掴んで自分の左胸のあたりに持って来た。


「おまえが斬ったのは…ここ…」

「…恥ずかしいやつ」

「誰のせーだよ。みんなおまえが悪ぃんだよ」

「そーだな…俺のせいだ。俺が強くてかっこよくて、あーっという間におまえを奪ったから」

「…悔しいがほぼ正解」


 恋次はちょっと眉を顰めて、一護の背中に腕を回した。



















「…いちごのばーか」


 本当は『ここ』から全部見えている。おまえのオンナのカオもコエもカラダも―本当はみんな知っている。


「俺の好みじゃ(ぜんぜん)ねーけど…」

「―だって俺がアイシテルのは一護だけだから」


 一護の霊力から生まれた時点で―自分には一護以外の選択肢は何も無かった。
 一護だけが世界そのもので―その存在すら希薄でいつ消えてもおかしくない自分の、たったひとつの真実だった。
 どんなに一護自身に否定されても、自分はそれしか知らない。他に何も有りはしない。


「…俺が外に出たらおまえの女なんか殺してやるのに」


 自分が棲んでいるのは一護のナカだから。一護の瞳に映るものは全部見える。街も花も人も―全て。

 ただひとつ―自分だけが一護の目には映らない。それは絶望的に淋しいことだった。
 その淋しさすら、一護の感情の中のひとつでしかないことも判っているのに。


 一護は他人には優しいけれど、自分自身には厳しいばっかりで―全然優しくない。
 どんなに愛して欲しいと訴えても―彼が『自分』を愛することは多分ない。一生ない。



「そーだよ一護…みんなおまえが悪い…」


「アイシテくれないくせに―どうして俺を創ったの?」













***


 ―ちなみに、思った通り恋次は翌日の任務で死にかけたらしいが、「とりあえず生きてるから大丈夫」と連絡が入った、とか。






こ…これはヒドイ…!!!
他の人はどうか知らないけど、今までの私の基準では「無し」に分類される話だぜ\(^o^)/
ツッコミどころがありすぎですが深く考えない方向で宜しくお願い致します(土下座)(毎回言ってる)
そろそろ自分オワタ\(^o^)/
でもそれ以上に一恋のふたりは終わってるwww
待ってるとか言っちゃうあばらいさんてwwww(貴様が書いたんだよ)
ほんと殺しちゃえよ内なる虚\(^o^)/(おいおい)
しかもこんな話までお題にかこつけるとかwww
さすがに良心が咎めたんですが、思ったよりうまく書けたんで、もういいや、って。(よくねー)
だいたい黒白書くなら書くで一恋と絡めるなよっていうかww
うんそのうち絡めない話も書きたいよね(何故他人事)
つか私は黒崎さんに己の主人は誰かカラダに刻まれた挙句に王と崇め奉ってる内なる虚(どんなだよ)
とか書きたかったのになぜか出来上がったのはこれというね。
ちなみに『THE15歳』は私が中学の時に描いたまんがのタイトルですが、
百合モノだということ以外何も覚えていません。\(^o^)/
というか中学の時点でなぜそんなものを描いたのかとか謎は多い…
とりあえず私は黒崎さんに夢☆見☆す☆ぎ☆(…)
まぁ頭の悪い内なる虚が書けてたのしかったです\(^o^)/(…)
ほんと年々アホ受に走ってるな…(虚ろ)
アホで済めばまだいいけど、近年益々ダメ男に…いやもう何も言うまい。
しかも最後だけギャグとか_| ̄|○
明らかにいらねーよ!!って思ったけど、入れずには…いられなかった…(がくり)
080315


ブラウザバックプリーズ