01:それは小さな誤解




 何十年ぶりかに、ヒドイ風邪をひいた。3日寝ても熱が下がらないなんて経験は初めてでさすがの自分もしんどくなって来る。何でもこういうのは「いんふるえんざ」とか言うらしい。死神がかかるのは極めて珍しいとか卯ノ花隊長が言っていた。―もしかして現世に行き過ぎだろうか。
 ましてや雛森なんかが「阿散井くんが死んじゃう!!!!」…とか何とか言って周りをチョロチョロするので(本人は看病しているつもりらしいが)(ちなみに、白哉は放置)下がる熱も下がらない…気がした。


 ―いい加減に熱にも慣れたかと錯覚するような4日目の朝。ばたばたと盛大な足音が聞こえたと思ったら雛森が満面の笑みで飛び込んで来た。


「阿散井くん!!!黒崎くんが来てくれたよ!!!」


 ―は????


「ちょ…なんで…」

「私が電話(?)したの!!だって黒崎くん、阿散井くんの死に目に会えないのは可哀相じゃない?」


 きらきらと目を輝かせた笑顔で言われる。もはや自分は既に死ぬことになっているらしい。まぁ確かに今日でうっかり4日目だし、そりゃあもしかしたら死ぬかも知れないけど。



「―よう」

 ぼんやりとそんなことを考えていたら雛森の後ろから一護がひょいと顔を覗かせた。
 ―途端に、今まで経験したことのないような恥ずかしさが恋次の中に突き上げて来る。こいつに弱いところなんか見られたくないというプライドがまだ自分の中に残っていたことに自分で驚いた。
 負けてボロボロになっているところは今までに何度も見られてるし、ましてや抱かれている時のアレでソレだとかはまだ諦めもつくが―‥病気で弱っているところなんて最悪だ。


 ごゆっくり、とか言って雛森が去ると、一護は遠慮をする様子もなく恋次の部屋にずかずかと入って来た。


「恋次の部屋久しぶりだな。…いっつも俺の部屋だもんな」


 来るなり意味深なことを言って、恋次の布団の横に腰をおろすといきなり顔の横に肘をついて顔を近づけて来た。見舞いっていう雰囲気でもない…というか。


「…いちご、ほんとに、いちご??良く来れたな…」

 手を伸ばして一護の頬に触れると、一護は優しく笑ってその指にキスをした。何故だかぞっとするくらい優しく笑っている。


「ああ。おまえのためなら地獄にだって行くぜ」

「なに、いきなり。あたまでも打った??」

 熱のせいもあり思わずカタコトで喋ると、一護は微笑みながら言葉を紡いだ。


「…だから、おまえが心細いかと思って来てやったんだぜ?」

「いや、決して、そんなことは。確かにお前に会いたかったけど…。」

「心配しなくても、これからは永遠に一緒だ」

「―!?」

 いったい何事だろうかとか思う以前に、そんな口説き文句(?)に一瞬ときめいた自分に腹が立つ。
 次の瞬間にはこんなに性急なことがあっただろうかと思うくらいのスピードでキスされて、熱でフラフラした頭にますます血が上る。―やっぱり下がる熱も下がりそうにない。


「いちご…待って…なんかおまえ…ちょっとヘン…」


 流されないように何とか一護の身体を押しのけてそれだけ言うと、一護は恋次の長い髪を梳きながら、当たり前だろ、と言った。
 記憶が確かなら確か3日は風呂に入ってないんですけど…とか思ったけれど考えた末に言うのはやめておいた。



「いきなりおまえが死ぬとか言われちゃな。―でも心配すんな、俺も一緒に逝ってやるから」



 一護は悟ったような笑顔で胸から小さな瓶を取り出すと、恋次の目の前で振ってみせた。中の小さな白い錠剤がカラン、と澄んだ音を立てる。



「!???」

「浦原さんに5万で売って貰った、死神用のクスリ。眠るように逝けるらしいぜ?」

「…(いやいやいや!!!浦原さん…止めろよ!!!)」

「あっちの身体はコンにやってきた。まぁ、親父もいるし、何とかなるだろ」

「…(ええー!!!!???なんて勇気のあるやつだ…)」


 ベラベラ喋る一護の手が震えてることに気がついて、恋次はその手を掴んだ。熱が何度あるのか知らないが(2日目でちっとも下がらない熱を測る作業に飽きた)、あまり上手く喋れそうにない―が、とりあえず伝えなくては。


「い、一護」

「…何?」

「…すごく言いにくいけど、その、俺、いんふるえんざなんですけど」

「は?」

「だから、その、死ぬわけではないというか。―たぶん。」

 しどろもどろで何とかそう言うと、一護は胡散臭そうな瞳を恋次に向けた。


「えー??雛森は『阿散井くんが不治の病でもう今日か明日にでも…』って言って泣いてたぜ??お前あれだ、気の毒だから告知されてないだけなんじゃねーの??」

「え…(蒼白)」




「いや、本当にインフルエンザですよ、一護さん。命の心配はないです!!」


 一瞬白くなった頭に聞き慣れた声が飛び込んできた。いつの間にか花太郎が部屋の中にいて、ニコニコと満面の笑みで恋次の話に太鼓判を押している。



「―花太郎…てめ、いつからいた??」

「ハイ、おふたりがキスしてる時からです!!」



「「出てけーーーーーーーーー!!!!!!」」



 マッハの速さで花太郎を追い出すと、流石にほっとしたのか一護はへなへなと恋次の上に倒れこんだ。


「何だそれ…アホらし…しかもインフルって…」

「…とりあえず、それ、返品して5万円返してもらえよ…。おまえ…こーこーせいだから金要るだろ?」

「いや、もういーよ。一度買ったものだし。」

「…でも、そんな物騒なもん…」


 今後もし何かあった時に(それが何かとかそんなことは判らないけれど)使われでもしたら困る。一護に限ってそんなことはないと思うけど、何があるか判らないし。
 思いっきり眉を顰めた恋次の考えなどお見通し、というように一護は笑った。


「判ってるって。これは今すぐそこの便所に捨ててくるから!!」

 言うなり立ち上がってトイレにダッシュしようとする一護の着物の袖をガシッと掴む。


「いちご…待て…、俺もおぶってけ!!ちゃんと捨てるとこ見届ける!!」

「…ばかだなぁおまえ。まぁいいや。そんなに言うなら。」

 一護は笑って、恋次を抱き起こすとひょいとおぶってみせた。
 身長も体重も結構違うのに、強い一護は自分をおんぶするくらい何でもない。その気になれば剣八でもおんぶ出来るのではないかと思う。
 相手の首に回した腕に力を込めると、一護は子供を見るみたいな目で自分を見て微笑む。―ああ、自分の方がずっと年上のはずなのに。
 一護の背中の上で恋次は俺は何をやっているんだ…?と少し思ったが熱のせいにして気にしないことにした。



 ザー‥

 怪しげな白い錠剤が流れていくのをその目で見て、やっと安心して一護の首に回した腕の力を緩めた。


「ほら、間違いなく空だろ?」

 一護がさっきと同じように空の瓶を振ってみせる。


「…おまえ、隠し持ってねえよな??」

「アホか。人を死にたがりみたいに言うんじゃねーよ」

「だって…しょうがねえだろ、熱のせいで気弱になってるんだよ」

 一護はむしろおまえはいつもそんな感じじゃねーか、とか言って肩のところにある恋次の額にキスをした。


「…でも勿体ねえな…5万もしたのに」

「いいんだよ。もし次にアレが必要になったら、10万でも100万でも出してまた買うから」

「…必要な時って、どんな時だ?」

 恋次が小さく聞くと一護はそうだな…、と言った。


「…色々あるだろ。嫌でも別れないといけなくなった時とか、それこそどっちかが死にかけた時とか…」

「その時おまえは、俺と死ぬつもりなの?」

「…おまえが望むならな」


 一護はちょっと笑って、部屋に戻るぞ、とトイレを後にする。
 恋次は元のように部屋の布団に戻され、一護はその横に座ると溜息をついた。


「…それにしても、こっちに来るのけっこう大変だったのによ。なんか気ィ抜けたな」

「折角来たんだからそう言うなよ。病気なんだから優しくしてくれ」

 一護はきょとんとして、でもすぐに恋次の上に両手をついた。


「…病人を抱いても?」

「感染っても良ければ。…あと俺、実は3日ほど風呂に入ってねーけど」

「―いいよ。俺はいつでも恋次が欲しいから」


 一護はきっぱり言うと、貪るようなキスをする。
 どれくらいしていなかったのかは忘れたけど(まぁ前にしてから1ヵ月も経ってないのは間違いないけれど)、こうするのも何となく久々のような気がした。―そう、考えてみたらいつ何時こんなこと出来なくなるかも判らないというのに悠長なものだ。それでも頭はその事実を認めたくなくて、自然と一護のキスだけに集中しようとする。


「なんか…やべぇなぁ…熱のせいかおまえのキスだけで意識飛びそう…」

 夢でも見てるみたいにぼんやりと言うと一護はきらきらしたいつもの笑顔で、心中もいいけど俺の腕の中で殺すのもいいな、とかそんなことを言った。
 それは魅力的だと思う自分もかなりキている。
 目の前の一護の顔がぼやけるくらい頭はフワフワして―今抱かれたら本当に死ぬかも知れないという変な期待が恋次の胸に広がって、笑い出したいくらいおかしかった。


「どーせ100万払うならさ、浦原さんに頼んで錠剤より液体のやつにしてもらおーな。そっちのがエロいし。味も、おまえが好きそうなすっげー甘いやつ。やっぱエッチしてキスしながら死にたいじゃん?」


 一護はそう言って笑った。











 ―それはそうと、部屋の周りには鑑賞者が多くいた。
 こっそり見ていた雛森はもちろん、さっき追い出された花太郎だとか雛森の暴挙をなにげにずっと見ていた日番谷だとか。
 公認といえば公認なのだが―あまり良い傾向ではない。そのうち白哉あたりの耳に入ってふたりとも殺されるのがオチである。


「雛森…まさかあいつらをヤらせたいがためだけに黒崎一護に連絡したんじゃ…」

「うん!そう!!!」

「オイオイ…俺たちはともかく…他のやつらにあんまりバラしても良くないだろ…」

「いいんじゃない?もう心中する覚悟は出来てるみたいだし!」

 日番谷はツッコみたい気持ちでいっぱいだったが、あまりにも雛森が嬉しそうに言い切ったため何も言い返せなかった。


 ちなみに勿論浦原は面白がって薬を売ったのだった。一護なら使わなくても絶対に返品なんて真似はしないと判っていて―‥商売人はこれだから怖い。
 そして遂に己の身体を手に入れたと狂喜乱舞したコンはまさにぬか喜びだったと泣く羽目になった。














 ―いつか、一護と死ぬ。

 そんな日が本当に来るのかどうか、俺は知らないし知りたくもないけれど。
 一護にその覚悟があるというだけで背骨でも引き抜かれたような五感のすべてを失くすほどの幸福感に襲われて、本当にあのまま殺されてしまいたいと思った。
 もっともっと溺れて、狂って、おまえなしではもう立つことも出来なくなっても構わないと思う。―そうなりたいとすら思う。


 ―だから俺も覚悟する。
 いつか、おまえと死ぬ時に一瞬でも躊躇なんてしないように。





…サリンさん落ち着けよ。(_!!\(^o^)/)
なんかいつもの悪い癖で阿散井さんがおにゃのこ喋りになってるけど気にしないように。
私も気にしないから!!(いや、お前は気にしろよ)
つーか何故雛森が腐女子設定なのかと。。。まぁ阿散井さんとも親しい(…というか何というか)し、まぁいいか!\(^o^)/
これも脳内妄想だった時はもっともっとヒドイ話だったけどなんとかがんばった!(これで?)
俺頑張った!!!\(^o^)/(…)
ほんとはもっと体調悪くてヒスなあばらいさんとか書きたかったけど…がまんする!!(おいおい…)
あとさりげなく一心×コンを混ぜたんですけど…気付きませんよね、そうですよね…_| ̄|○
080224


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